ハイスクールD×D 荒ぶる神を宿す者   作:初代凡人

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結末は決まっているのに、そこまでの過程を書くのに苦労している初代凡人です。これだけのことで恐ろしいほど時間がかかり、投稿遅れるのがほとんどなんですよね……。どうにかしたいです。

相も変わらず長くなってますが、本編をどうぞ!


第三十三話 振り返る過去

竜真side

 

「………暇だ」

 

俺は家にいるわけだが、皆出かけてしまっているので一人だ。元々一人暮らしだったから平気だと思っていたが、最近はずっと誰かしら一緒にいたせいか心細い。

 

俺もどこかに行くかと考えたが、特に行きたい所なんてないし、せっかく麗華さんが(出かける用事がないから)今日は休みでいいと言ってくれたんだ。有効に使おう。

 

「…………………………よし、寝よう」

 

最近少し寝不足気味だったんだよ。そうだ。決してやることが思いつかなかったわけじゃない。

 

しかし、部屋の温度と湿度はちょうどよかったためか、イスに座ったまま目を閉じていたら意識はすぐに落ちていった。

 

 

 

――――――――――

 

「――竜真、起きなさい」

 

ん……? 体を揺すられ、俺は目を覚ました。

 

時計を見ると、時刻は一時だった。あぁ、結構寝てたみたいだな。

 

まだ重たい瞼を開けて体を起こす。

 

………起こす? 俺はイスで寝てたはずなのになんで横になっていたんだ?

 

「ようやく起きたわね。ほら、もうお昼ご飯できてるから、早く食べちゃって」

 

――っ!? この声は……!?

 

さっきは寝ていたからしっかり聞き取れなかったが、今のはちゃんと聞き取れた。聞き慣れた声だが、それ以上に懐かしい声だ。

 

俺は横に目を向けるそこにいた人物は…。

 

「……うん。わかったよ、母さん」

 

俺の実の母――鬼城緋音(あかね)だった。

 

 

 

――――――――――

 

「「ごちそうさまでした」」

 

母さんと一緒に昼食を食べ終える。母さんは俺の分の食器を台所に持って行く。

 

「あら? 竜真、こっちに来なさい」

 

「え? 何、母さん?」

 

しかし、母さんは手にした食器を一旦机に置いて俺を呼んだ。母さんの隣に行くと、俺の口元をティッシュで拭いてきた。

 

「ケチャップがついてるわよ。まだ小さいとはいえ、そんなんじゃモテないわよ?」

 

「ん……。いいよ、自分でやるから――」

 

「いいから、そのままジッとしてなさい」

 

結局、母さんにされるがままだった。

 

あのあと気づいたことだが、これは夢というよりは俺の記憶のリプレイのようなものみたいだ。そのため、思考はできても体を自分で動かすことはできないし、出る言葉もかつての自分が喋ってることのみ。

 

………正直、これならいくら母さんの顔をもう一度見れても悪夢と変わらない。

 

なぜなら、リプレイということは俺の記憶と何も変わらないものを見させられるということだぞ? つまり、この夢の果ては――

 

「竜真。どうしてそんなに泣くの?」

 

いつの間にか場面が飛んでおり、母さんの顔が目の前にあった。だが、目の前が濡れていて少し見辛い。

 

「だって……! 皆いつも僕をいっぱい苛めてくるのに、我慢したんだよ…! いっぱい我慢してきたんだよ……!? でも、なんで皆はなにも言われないの!? なんで僕は一回やり返しただけで怒られるの!? なんで……!! なんで皆………僕を嫌うの…?」

 

……ああ、思い出した。たしか、この時はいつも苛めてくる奴に我慢の限界がきて殴ったんだよな。テメェが殴ってくる時よりは弱い一発だっつーのに、バカみてぇに泣き喚いてたのを覚えてる。

 

しかも、奴はすぐに先生に泣きついて、俺だけが怒られた。今まで向こうもいっぱい苛めてきたと言ったが、聞き入れてくれなかった。まあ、当然だ。俺は家族以外の全員から化け物として嫌われていたからな。

 

母さんが迎えに来て家に帰ったけど、我慢できずに泣いちまった。あまりの理不尽に耐えきれなかったんだ。

 

「僕が……化け物だから…?」

 

俺は力なく呟く。すると、母さんの雰囲気が変わったのがわかる。正確には、今の俺ならわかるだが。当時の俺にそんなことわかるはずもない。

 

「………竜真」

 

母さんが声をかけてくる。俺は涙を流しながらも顔を上げる。

 

 

 

 

 

――パアァン!!

 

 

 

 

 

だが、上げた視線はすぐに横を向くことになる。なぜなら、母さんが俺の頬を思い切りはたいてきたからだ。

 

俺は突然のことに呆気にとられている。それに構わず、母さんは顔を掴んで正面に向けさせる。

 

「あなた、自分が化け物だと思っているの? ――バカなこと言わないでちょうだい」

 

母さんはそう言いながら、こちらを睨みつけてくる。いつもは見せないその迫力に俺はビビってしまった。

 

だが、母さんはそのまま俺を抱き締め、優しく声をかけてきた。

 

「あなたは私の息子。それ以外の何者でもないのよ。私が人間なんだから、あなたもちゃんとした人間よ。――大丈夫。竜真、あなたは化け物なんかじゃない。私が保証するわ」

 

――化け物じゃない。

 

それは、母さんがいつも俺に言ってくれた言葉。決まり文句とも言えてしまうが、俺にとってはどんな言葉よりも強い勇気をくれる励ましだ。

 

「…………うん。ありがとう、母さん。それと、ごめんなさい……」

 

「謝らないの。人間なんだから、我慢をすれば感情が爆発する時があるわ。それに、それは人間である何よりの証よ。――というよりね、あなたはその歳で充分すぎるくらい我慢したわ。そこらの大人よりも立派よ。これからも、あなたらしく生きていきなさい」

 

「……うん、わかった」

 

「よろしい」

 

俺は涙を拭いて、母さんに笑顔を向ける。それを見て母さんも微笑みを返してくれた。

 

……本当、母さんはいつだって俺の味方だったな。どんなに辛くても、母さんが励ましてくれたから生きていけた。

 

そこで再び場面が飛ぶ。そこは俺の寝室だった。

 

ちょうど眠りから覚めたタイミングのようだが、部屋はまだ暗い。しかし、外から聞こえてくる音が気になり、目が覚めてしまったのだ。

 

「……?」

 

俺はそのまま部屋の扉を開ける。……この時点で、これがいつのものかすぐにわかった。

 

――これはあの日の、俺が一人になった日だ。

 

「――――!?」

 

「―――! ――――!!」

 

部屋から出たことによって、さっきよりも音が聞きやすくなった。言い争っている声のようだが、少し寝ぼけているせいか内容まではしっかり聞きとれない。

 

何もわからない俺は声を頼りにリビングへと向かう。すると、リビングへ続く扉から少し灯りが漏れていた。その扉を開けて、中にある光景を目の当たりにする。

 

「……父さん? 母さん?」

 

「っ!? 竜真!?」

 

そこにはクソ親父――天道(てんどう)秋矢(しゅうや)と母さんがいた。だが、二人はいつもとは違い、何かただならぬ雰囲気だった。

 

「……ちょうどいい。竜真、お前に話さなきゃいけないことがあるんだ」

 

クソ親父が俺を呼ぶ。当時は俺も嫌ってはいなかった。むしろ、母さん同様好きだったさ。――こいつの本性を知るまでは。

 

クソ親父に呼ばれた俺は何も知らないまま近寄っていく。

 

――やめろ。行くな。そう思っても、過去の俺は止まることはない。過去の映像は、ありのままの記録を俺に見せつけるだけだ。

 

目の前まで行くと、クソ親父は何かを振り上げてきた。俺はそれが何かもわからないまま見上げている。そして、振り下ろされてようやく自分が何かされるんじゃないかと思い至る。だが時既に遅く、その何かは深々と突き刺さった。

 

 

 

 

 

「――竜真!!」

 

――割って入ってきた母さんの背中に。

 

 

 

 

 

俺は何が起きたのかうまく理解できていない。クソ親父が何を振り下ろしたのかも、なぜ母さんがこっちにもたれかかっているのかも。

 

「…………え?」

 

――なぜ、母さんの背から赤い液体が出ているのかも。

 

「緋音。やはり、お前も邪魔をするのか。お前は私が唯一心許せる女だったのだが………。残念だ」

 

クソ親父がそう言ってたが、当時の俺の耳には一切入ってきてない。ただ、これだけはようやく理解できたのだ。――クソ親父が何かをして母さんが死にかけているのだと。

 

「母……さん…?」

 

それが信じられなくて、俺は震えながら母さんに声をかける。しかし、返事をしたのはクソ親父だった。

 

「竜真。すべてはお前のせいだぞ。このまま孤独に生きていけば、私たち以外に頼る者はいなくなり、ゆっくりと研究できるはずだったのに……。お前が()()()と親しくなりすぎた以上、摘出するしかあるまい」

 

今聞くと、色々と思わせ振りな発言だが、俺が一番気になったのはそこじゃなかった。

 

――あの娘? 誰のことだ?

 

自慢じゃないが、この頃の俺は家族以外に仲のいい人間なんていなかった。そんな俺が女と親しくなるなんてありえないし、そもそもそんな記憶は……。

 

「喜べ、竜真。お前はこれから化け物じゃなくなる。普通の人間として死ねるんだ。心配せずとも、緋音と一緒の墓に入らせてやろう。……もっとも、参りに来る者は誰もいないだろうがな」

 

……ああ、そうだ。その言葉が、俺の心にヒビを入れたんだったな。

 

「化け物……? 僕は、化け物なんかじゃ――」

 

その時、俺にもたれかかる母さんが動いた。

 

――そうだ。母さんなら。いつも俺が化け物じゃないと言ってくれていたこの人なら――そう自分に言い聞かせ、俺は母さんに震える声で問う。

 

「…ねぇ、母さん。俺は化け物じゃないよね? 俺は、人間だよね……?」

 

……本当は、わかっていたんだ。自分が結局なんなのか。けれど、それでも、嘘でもいいから、母さんには化け物じゃないと、そう言ってほしかったんだ。

 

そして、母さんは苦しそうにしながらも、口を開いた。

 

 

 

 

 

「竜真……。――ごめんなさい…」

 

 

 

 

 

――その瞬間、俺の心は音を立てて壊れた。

 

そこから先の光景は一気に飛び、血に濡れたリビングで棒立ちしている俺が視界に入った。どうやら、一人だけの時は視界が離れるみたいだ。

 

やっぱり、母さんとクソ親父を食い殺した場面は、記憶そのものがないから見れないんだな。……まあ、見たくもないが。

 

「――あ……れ…? 母さん? 父さん?」

 

俺は何が起きたのかよくわかっておらず、虚ろな表情のままいなくなったと突然いなくなったと思っている両親を探している。

 

「……無駄だぞ。お前の両親は、もう此処にはいない。いるとしても、もうお前()の腹の中だ」

 

聞こえてるわけでもないのに、俺は過去の自分にそう言った。自分で皮肉を言ってしまうほど、過去の自分は無様で――哀れだった。

 

………そこからは、俺の記憶通りの胸くそ悪い時間が続いた。

 

血まみれの俺を見た近所の住人が、流石にただ事ではないと判断したのか警察に通報した。駆けつけた警察によって俺は病院に運ばれ、残りの警察は家に入って現場を調べていたらしい。らしいというのは、後で警察に聞かされたからだ。

 

――取り調べの最中に。

 

あれから病院で外傷も何もないと確認された俺は、重要参考人として刑務所に入れられた。……だが、重要参考人というのは表向きの話だ。向こうは、俺がやったと決めつけていた。

 

まあ、当然だ。周囲の人物は()()俺のことを化け物としてしか見ていないのだから。俺を病院につれて行った警官も、怪我がないか診た医者も、誰もかれも俺とは関わりたくないという顔をしていた。

 

そして、事態は最悪な方向へと進んでいった。

 

「本当に、君が殺したんじゃないんだな?」

 

「やってないよ! なんで僕がそんなことをしなきゃいけないんだ!?」

 

俺の目の前にいる警官が、俺にそう聞いてきた。当時の俺は自分が殺したとは夢にも思っておらず、真っ向から否定する。

 

そもそも、これは真っ当な取り調べではなかった。俺の服についていた血と、リビングについていた血。これらを調べて、一致したという証拠ならすぐにでも用意できるだろうに、こいつらはそれすらせずに俺を犯人にしようとしていた。マスコミにでも知られたら、とんでもないことになるのは必至だが、残念ながらそれは無理だ。

 

なぜなら、この町の連中は、俺という存在そのものを害だと考えている。加えて、この町はお世辞にも観光客が多いとは言えず、町おこしに必死になっていた。

 

そんな最中、化け物と呼ばれている子どもの両親が変死した、なんてことが外の連中に知られたら、どうなるかなんて目に見えてる。

 

「――いい加減認めろ!!」

 

何度も同じやり取りをしていたせいで我慢の限界がきたようで、警官は俺の頭を押さえつけてくる。固い机の上に顔を叩きつけられ、苦悶の声を上げる。

 

「あぐっ!?」

 

「こっちはお前なんかに構ってる暇はねぇんだよ…! 第一、テメェなんか取り調べだってする必要もなく檻の中に――」

 

そこまで言った警官は、突然黙った。

 

「……ああ、そうだな。お前なんか、取り調べする必要もないんだ。なんで早く気づかなかったのか…」

 

口を開いたと思うと、先程とは違いとても落ち着いた声でそんなことを言った。ようやく自分が無実だと認めてくれたのかと思った。

 

――だが、それは大間違いだった。

 

「おい、お前」

 

「はい」

 

警官は後ろに立っていた警官に声をかけ、こう言った。

 

 

 

 

 

「上にこう伝えろ。犯人は自分だ。すぐにでも牢屋に入れてほしいと、このガキが言っていたってな」

 

 

 

 

 

「はい。わかりました」

 

俺はあまりのことに声も出せないでいるが、もう一人の警官は至って冷静に返事をし、部屋から出ていく。

 

「………………っ!? 何を――」

 

「うるせぇ!!」

 

ようやく今何が起きたか把握した俺は怒鳴ろうとするが、言い終わる前に殴り飛ばされた。床に倒れる俺に警官は冷たく言い放ってくる。

 

「言っただろ? テメェは取り調べをすることもなく檻の中だって。まさか、化け物が人間と同じ権利を持ってると思ってたのか?」

 

――そう。俺は化け物。こいつらはそれをいいことに、俺には人権なんてないと言ってきやがった。普通なら文句を言ってるところだが……。

 

「化け物……」

 

小さい頃から言われてきた俺にとって、その言葉はどんな悪口よりもキツい呪いの言葉だった。特に、今回のはいつもより重くのしかかった。

 

クソ親父から言われ、母さんからは否定されず、人間とは違うと明言された状況は、当時の俺にはキツすぎた。

 

――そこからはあっという間だった。次の日には、俺は町にある一番大きな刑務所につれていかれ、特に凶悪だという囚人がいる牢屋に入れられた。

 

当然、裁判なんて行われなかった。しかし、誰もそれに異を唱える者はいない。そりゃそうだ。町の全員が、俺の存在をなかったことにしようとしてるのだから。

 

「おうおう。これは珍しすぎる客人だな」

 

「此処はガキが来るような場所じゃねぇぞ」

 

さっそく中にいた強面の囚人が絡んできた。大の大人でも見る人が見ればチビりそうな迫力だ。

 

「……………」

 

だが、当時の俺には関係なかった。もう味方はいないんだと、此処で一生を終えるんだという絶望から、俺は目の前をまともに見ていなかった。

 

「シカトしてんじゃねぇよ!!」

 

無視されたのだと思った囚人の一人が、その太い腕で殴りつけてくる。俺は抵抗することもなく吹っ飛び、檻に頭をぶつける。強く打ったせいか、少しすると血が流れ出た。

 

「……………」

 

それでも俺は無反応だった。今感じる痛みも、目の前の囚人もどうでもよかった。足掻こうが、泣こうが、この状況は変わらない。自分が死にゆく未来に、変化は起きない。そうわかっていたから、俺は何もしなかった。

 

「……なんだこのガキ。気味悪いぞ…」

 

囚人たちも、あまりに反応のない俺に異常なものを見る目を向けてくる。だが、そこで俺はあることに気づいた。

 

最初の絡み方に、最初は向けてこなかったこの視線。そこから、一つの仮説が生まれた。

 

(僕を、知らない……?)

 

よく見れば、囚人は全員自分よりかなり歳をとっている。50~60で、若くても30後半は越えてると思われた。俺は意を決して質問してみることにした。

 

「あの……」

 

「お、ようやく喋りやがった」

 

「僕のこと、知ってる?」

 

「……はぁ?」

 

俺の質問に、比較的若い囚人が首を傾げる。他の囚人も、何を言ってるんだという目で俺を見てきていた。そんな中、一番歳をとっていそうな囚人がこう口にした。

 

「坊主みたいなガキは見たこともねぇな」

 

その言葉を聞いた瞬間、俺は心の底で歓喜した。

 

(僕を知らないんだ。この人たちは僕を――人間として見てくれてるんだ)

 

確か、この時はそんな風に思ってたんだよな。

 

俺は思わず涙を流し、その場に崩れ落ちる。突然泣き出した俺に囚人たちは戸惑っていた。

 

「………訳ありみたいだな。――小僧。何をやらかしたか言ってみろ」

 

しばらくして落ち着いて泣き止んだ俺に、奥の方から一際強面の囚人が俺の目の前に来て声をかけてきた。他の囚人が道をあけたことから、此処でのリーダーなんだろうと理解した。

 

普段だったら言葉を交わすことすら躊躇っていたが、その時は誰かに自分の苦しみを理解してほしくて、ここまでの経緯と、自分がどんな扱いだったかを全て話した。

 

「なるほどなぁ。化け物と散々蔑まれたあげく、本当に人として扱われなくなって、ありもしない罪で此処に入れられたと」

 

俺は頷いて肯定する。この人たちなら、あるいは――。そう思っていた。

 

「――くだらねぇな」

 

だが、返ってきた言葉は辛辣だった。予想外の反応に俺は顔を上げると、囚人たちは俺を呆れた顔をして見ていた。

 

「ようするに、お前は悪口を言われてただ泣くだけのガキってことだろう? そんなことで泣きわめくようじゃ、人生やってられねぇぞ」

 

リーダーの囚人がそう言うと、他の囚人たちも賛同するように頷いた。その内の一人が更に言ってきた。

 

「第一、お前みたいなガキが化け物と言われてもなぁ。そんなこと言ったら、俺たちの方がよっぽど化け物だぞ」

 

「ああ。なんせ、此処にいる奴らは皆人殺しだからな。多い奴は20人以上殺してる」

 

それを聞いて、俺は驚愕した。此処の人は全員、一人以上は人間を殺したことがあるという事実に。

 

「俺は殺した奴こそ一人だけだが、その殺した相手は恋人なんだぜ。あいつが他の男とホテルに入っていったのを見た瞬間、もう我を忘れちまってな。………ああ、思い出してたら腹立ってきた!」

 

「いってぇ! テメェ、またやりやがったな!?」

 

「お、喧嘩か!?」

 

「いいぞ! やっちまえ!!」

 

一人の囚人のやつあたりにより、取っ組み合いの喧嘩が始まった。俺はその光景を唖然として見ていたが、リーダーの囚人こう言ってきた。

 

「まあ、俺たちが言いたいのはつまりこういうことだ。――俺たちにとってお前はただのガキってことさ。だから、その歳で人生諦めてるんじゃねぇよ。これからなんだぜ。生きていて楽しいと思えるのはな」

 

その言葉に俺は感動したが、そのあとすぐに此処から出れないことに気づいて暗くなる。

 

「……でも、僕はどうせ此処からは――」

 

「出れないってか? 違うな。それはお前が外の人間に頼ってるからだ。簡単な話だ。――自分(テメェ)で逃げ出せばいい。おい、お前ら!!」

 

そう言うと、リーダーの囚人は全員に声をかける。喧嘩をしていた二人も、それを煽っていた囚人たちも全員がこちらに目を向ける。

 

「今日からこの小僧は、俺たちの所有物だ。だが、こいつはまだ外の人生を諦め切れてないらしく、どうにかして外に出たいようだ。――どうする、お前ら?」

 

不敵に笑いながら囚人たちに問いを投げかけるリーダー。それに対し、囚人たちも笑って答えた。

 

「なら、俺らが脱獄方法を伝授してやらねぇとですね!」

 

「おいおい、それだけじゃねぇだろ? こいつはまだまだガキすぎる。此処から出ても、身寄りがない以上は生きていくのは難しい。一人でも生きていくための様々なことを教えてやらんと」

 

「お前のへっぽこ話術を教えてもなぁ……」

 

「んだと脳筋野郎!」

 

「今なんつったコラァ!!」

 

囚人たちは全員がやる気になったが、一部で再び喧嘩が始まる。

 

俺はそれを見ていて、思わず笑ってしまった。……家族以外に見せた笑顔は、これが始めてだったな。

 

それから、俺は囚人たちから色んなことを教わった。相手によって喋り方を変えること。バレないように物をうまく盗む方法。相手を威圧する方法。中には文字通り体に叩き込まれて教わったものもあったが、囚人たちは嫌な顔一つせずに今此処で教えれること全てを教えてくれた。

 

少しして、なぜ俺なんかにここまでのことをしてくれるのかを囚人たちに聞いてみた。すると、口を揃えてこう言ってきた。

 

――息子(孫)がいたらお前のような感じだったんだろう、と。

 

此処にいる囚人たちは歳こそ違えど、此処に入れられた時の歳は皆2、30代だったそうだ。つまり、表の世界で普通に生活していれば自分にも俺くらいの子どもがいて、一緒に過ごせてたのだ。

 

それを本人たちは後悔してる。そのため、俺を自分の息子のように思いながら教えているようだ。そうすることで、少しではあるが気分が晴れるらしい。

 

囚人たちは申し訳なく思ってたようだが、俺は全然気にしてなどいなかった。むしろ、今まで否定され続けた俺にとっては嬉しかったのだ。

 

互いの事情を知って、俺は囚人たちと更に親しくなり、時たま喧嘩に参加することもあった。もちろん負けてたのはいつも俺だが、そんなのとは関係なく楽しかった。

 

しかし、そんな日々は突然終わりを迎えた。見回りの時間でもないのに監守が檻の前に来た。誰か面会でもあったのかと互いの顔を見合うが、全員心当たりはなかった。

 

「………天道竜真。お前は今日限りで釈放だ」

 

その言葉を聞いて、俺は心底驚いた。釈放、つまりは出れるということだ。

 

しかし、それは外の誰かが自分の無実を証明してくれなければ不可能だ。そして、自分には両親以外に頼れる人間は外にはいない。一体誰が見ず知らずの自分を……。

 

「よかったな、竜真! 外に出られるぞ!」

 

俺が思考して反応しない中、話術を教えてくれた囚人の高岡(たかおか)さんが嬉しそうに背中を叩いてきた。

 

「高岡さん…」

 

「なんだ? もっと嬉しそうにしろよ。お前、外に出たかったんだろ? なら、細かいことはこの際いいじゃねぇか」

 

「そうだぜ。今さら出たくないなんて言ったら、また殴るぞ?」

 

高岡さんに続き、体に叩き込んで教えてきた虎山(とらやま)さんもそんなことを言ってきた。

 

「……………はい。そうですよね」

 

外に出たとしても、身寄りがあるとは限らない。だが、此処で教わったのは身寄りがなくても生きていく方法だ。それを最大限に活かして、どんなことをしても生き延びてやる。

 

そう決意して監守の前に行き、そこで一度囚人たちの方へ振り返る。そして、深々と頭を下げる。

 

「皆さん。長いようで短い期間でしたが、今まで本当にお世話になりました」

 

「やめろって! こんなダメ人間に下げていいほど、お前の頭は軽くないんだぜ。――俺たちが叩き込んだことがギッシリ入ってるんだからな」

 

「まあ、脱獄方法は結局教えれなかったがな」

 

永野(なかの)、貴様!」

 

監守が一番歳をとっている囚人――永野さんに怒鳴るが、本人は聞こえないと言わんばかりに耳をほじる。

 

「まあ、もしまた入ってきた時は面倒を見てやる。安心して行ってこい、小僧」

 

リーダーの囚人――霧島(きりしま)が冗談混じりにそう言った。そのあと、こうつけ加えた。

 

「それと、外に出たら生きる目的と目標を見つけろ。そうすりゃ、人生が格段に楽しくなるぜ」

 

「……何か違うんですか?」

 

「見つけてみりゃわかる。とにかく探せ。いいな?」

 

「…わかりました。――それじゃあ、お元気で」

 

檻の扉が開けられ、俺は外へ出る。監守はとても嫌そうな顔をしていたが、おとなしく案内して服を返した。

 

刑務所を出ると、今まで一度も見たことがない大きなリムジンが停まっていた。その前にはタキシードを着た男性が立っている。当然、そのリムジンと男性に関して俺は何も知らない。

 

俺が不思議に思いつつも目の前に行くと、男性は深々とお辞儀してきた。

 

「お待ちしておりました、天道竜真様。私は主の命により、あなた様をお迎えにあがりました」

 

「あ、どうも。……あの、その主って一体誰なんですか?」

 

「……申し訳ありませんが、私にはお答えできません。ですが、決して危害を加えることはありませんので、ご安心を。――では、お乗りください」

 

男性はリムジンのドアを開けて乗るように言ってくる。嘘を言っているようにも思えず、俺は素直にリムジンに乗った。

 

それから結構な時間を走った。ただ、リムジンの中には冷蔵庫がついていたので好きな物を食べたり、気温もちょうどよかったので苦に感じることはなかった。

 

そして、リムジンがようやく停まる。男性が降りて、こちらのドアを開ける。降りてみると、目の前には一軒家があった。

 

「天道竜真様。今日から此処があなた様の家となります。食糧や日用品は全て揃えてあります。資金に関してはリビングの金庫の中にありますので、こちらの数字をご入力ください」

 

男性から10桁の数字が書かれた一枚の紙が渡される。

 

「あの、本当にここまでしてもらってもいいんでしょうか?」

 

あまりにおいしい話すぎて、俺は半信半疑で質問する。しかし、男性は笑顔で答えてくる。

 

「疑うのも仕方ありません。ですが、これが主の望みなのです。ご理解ください」

 

「……わかりました。では、好意に甘えさせていただきます」

 

この時、囚人たちから学んだことの一部が腐ると思い、少しガッカリしていたのは内緒だ。

 

「ありがとうございます。――それでは、私はこれで失礼致します。定期的にこちらへお伺いしますが、何かありましたら電話の横にある番号へご連絡ください」

 

男性はそう言い残してリムジンに乗り、走り去っていった。俺はそれを見送ってから家の中に――入らず、来る途中で見た公園へ向かった。

 

公園へ着き、ベンチに座る。刑務所(どん底)に落ちてから外に出て、すぐにここまで持ち直せるとは思っていなかった。

 

――だが、一つだけ、減ってしまったものがあった。

 

「……また、一人か」

 

刑務所に入ってすぐに囚人と仲良くなれたからあまり気にならなかったが、俺はもう家族すら持たないんだと改めて理解した。それと同時に、今まで溜めていた(もの)が一気に溢れ出してきた。

 

「……ひぐっ…! 母さん……!!」

 

周りに人がいるかどうかなど確認せず、泣きたいだけ泣いた。

 

 

 

 

 

「どうしたんだ、お前?」

 

 

 

 

 

――だから、声をかけられた時は驚いた。

 

顔を上げると、目の前に茶髪の活発そうな男の子がいた。俺は慌てて涙を拭く。

 

「……なんでもない」

 

「そっか。じゃあ、遊ぼうぜ!」

 

男の子はこっちの気持ちを察することもなく、そんなことを言ってきた。正直、その幸せに満ち溢れているような笑顔は、その時の俺にとってはとても腹立たしかった。

 

「……やだよ。それに、俺にかまわないでくれ」

 

「えー!? なんでだよ!? 一人じゃ面白くないぜ!」

 

男の子は俺が嫌がってるにも関わらず、グイグイくる。いい加減鬱陶しかったので、俺は散々言われてきた暴言を利用することにした。

 

「俺は化け物だ。関わったら、お前も不幸になるぞ」

 

「化け物? どこが?」

 

「この目だよ! お前とは違う、赤くて鋭い目! 睨まれていて怖くなるだろ!?」

 

こいつと関わりたくはないという一心で、あえて嫌われるような言葉を口にする。あえて人を突き放すような言葉使いも時には必要だと、高岡さんから教わったのだ。

 

「おお、本当だ! ――かっけぇ!」

 

「え……?」

 

ようやく解放されると思ったら、男の子から返ってきた言葉に俺は唖然とする。

 

「凄いかっけぇよ! いいな! 女の子からモテるんだろうな!」

 

「……そんなわけないだろ。この目のせいで、友だちだって……」

 

「そうなのか? ――じゃあ、俺と友だちになろうぜ!」

 

その言葉に、俺は感動で打ち震えた。今まで、そんな言葉はかけられたこともなかった。俺が何よりも求めていた言葉を、目の前の見ず知らずの男の子はこの短時間で言ってのけた。

 

「…………わかった。けど、いいのか? 俺なんかで…」

 

「いいも何も、俺はお前の友だちだ! 友だちなら、一緒に遊ぶのが当たり前だろ?」

 

そんな当たり前の一言一言が、俺の心に染み渡る。思わず、目から涙が出てくる。

 

「………ああ、そうだな」

 

「ん? また泣いてるのか?」

 

「なんでもないって。気にしないで先に行け」

 

ああ、そうだ。この出会いがあったから、俺は生きる目的を早く決めれたんだ。

 

 

 

 

 

「……なあ。名前は、なんて言うんだ?」

 

「俺? ――俺は兵藤一誠だ!」

 

 

 

 

 

――イッセー。お前と出会えたのは、人生最大の幸運だったよ。

 

 

 

――――――――――

 

「…つ……ん! たつ……くん! ――竜真くん!」

 

「ん……?」

 

ああ、今度こそは現実のようだ。目線がちゃんと横だし、何より朱乃さんがいるんだから。

 

朱乃さんは心配そうな顔でこちらを覗いている。なんだ? ただ寝てただけなんだが……。

 

「ようやく起きましたわね。大丈夫ですか? 泣いていましたが……」

 

「泣いてた?」

 

頬を触ってみて初めて、涙を流していたことに気づいた。

 

「あ、本当だ」

 

「何か、悲しい夢を見たんですか?」

 

朱乃さんがハンカチを差し出してくれたので、それを受け取り涙を拭き取る。悲しい、か……。

 

「いえ。なんて言いますか、そうですね…………懐かしい夢でした」

 

「嬉しそうですわね。つまりは、嬉し泣きということですか」

 

「ですね。心配おかけしました」

 

「いいえ。大丈夫ならよかったですわ」

 

そういえば、なぜ朱乃さんが普通に兵藤家にいるのか説明してなかったな。

 

三勢力が和平を結んだ後日、サーゼクスさんが眷属のスキンシップ向上のためとか言って、朱乃さんとゼノヴィアも兵藤家に住むよう提案したんだ。朱乃さんはもちろん、ゼノヴィアもイッセーに完全に惚れたらしくこれを承諾し、おじさんとおばさんも当然承諾した。何かおかしいと思った俺は間違ってないはずだ。

 

まあ、そんなわけで、兵藤家は更に賑やかになった。それは別に悪くはないんだが……。

 

「ゼノヴィア! イッセーの隣は私の特権よ! 盗らないでちょうだい!」

 

「そんなに固いこと言わなくてもいいじゃないか、部長。私はイッセーの子どもを産むのが最終目標だが、その過程の愛も育みたいんだ」

 

「はうぅ! 部長さんもゼノヴィアさんもイッセーさんにくっつきすぎです! 私も入れてください!」

 

……俺の仕事(ツッコミ)が増える(確信)。

 

「あらあら。私も混ざろうかしら?」

 

「やめてください、マジで」

 

とにかく、今の内に止めよう。いつものように割って入り、イッセーを引き剥がしてアームロックをかける。……大変ではあるが、これだけ楽しい毎日を送れるのも、今の俺がいる理由の大半は、こいつのおかげなんだよな。

 

「(……ありがとな。イッセー)」

 

「ん? 竜真、今何か言って――」

 

「なんでもねぇよ!」

 

「ちょっ!? それ以上は――!」

 

――これからもよろしくな。親友。




鬼城 緋音 (きじょう あかね)

身長:167cm

体重:52kg

解説:竜真の実母。黒の長髪で、茶色の瞳を持つ和風美人。スタイルは全体的にスラッとしている。本来なら憧れの的になるような女性だが、化け物と呼ばれる竜真が息子だったために、周囲からは一定の距離をおかれていた。だが、そのことについて竜真にあたるようなことは絶対なく、恨みさえまったく抱いていなかった。それは、竜真に食われる瞬間も変わらなかった。


天道 秋矢 (てんどう しゅうや)

身長:180cm

体重:78kg

解説:竜真の実父。黒髪黒目の整った顔立ちの男性。表向きは優しい父親だが、その本性は自分の研究や目的のためならなんでも利用する外道な科学者。それは、唯一愛した緋音も例外ではなかった。竜真の中のハンニバルについて何か知っているようだったが、竜真に食われて死去したため、その目的などは不明のまま。


竜真が秋矢をクソ親父と呼ぶのは、竜真の唯一の安らぎをぶち壊したからです。長時間かけてクリアしたゲームのセーブデータを消されるのと同じです。例えがおかしい? 気のせいです。

竜真は喧嘩や戦いの基礎を囚人たちから、その極意を海斗さんから教わったという感じです。しかし、刑務所から竜真を出した人物は一体何ゼクスなんでしょうね?

それと、竜真は一誠と会ってすぐに一誠父と一誠母にも会い、事情を聞いた二人がある程度なら面倒を見ると言ってくれたため、タキシードの男性には定期的な訪問も必要ないと断りを入れました。

次回からは五巻の内容に入ります。正直、ここら辺の展開を一番どうしようかと悩んでいます。多大な原作改変などはないのですが、竜真に関わることで外せない内容がいくつかあるので、少し長くなる可能性もあります。まあ、まだまだ予定段階ですので、気長にお待ちいただけると幸いです。

それでは、この辺で。
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