第1話
俺の名は、ダルム・リング。
唐突だが、俺は自分の名前を捨てることにする。
今から俺は───一般兵さんだ。それで通そう。
登りゆく太陽を見ながら、そう思った。
俺は王国の一般人で、隙があれば畑を耕し、芋を育てていた。
だが戦争が始まるらしく、俺も兵士として徴兵されてしまった。
訓練する期間とかは2ヶ月で、多少スタミナがついたかな?ぐらいな感じだ。
そして、王国の砦に着任したが、そこが結構なピンチらしく…。
しばらくして結構な魔物が攻めてきたので、城にあった物資だけくすねて同期を見捨てて逃げてきた。なんとか生きててほしいワ…。
今は城にあった馬に乗って、南方へと急いでいる。
南国にはそれはそれは素晴らしい楽園のような場所があると、王国の教官が言ってたので、そこを目指すのだ。
───
「…ダルム・リング。」
リンドベル王国東方司令官、マスクド・リーは興味深そうに、報告書を見る。
「リンドベル練兵所を二ヶ月で"通過"した天才児か…。惜しいな、"戦死"とは…。」
報告書には、ヴァラ砦での撤退戦の際、ダルムは砦に籠り、魔物達の意識を引いて殿を勤め、同期4名と駐在兵15名を撤退させた後、行方不明となったと書いてあった。
リーは眉を落とす。
「…マクワイン魔帝国…。ここ三ヶ月でより動きが活発になっておる。魔術班の生物兵器を導入せねばならんか…。」
───
「ダルム!ダルムがまだ!砦の中に!」
「マディ!ダメだ!逃げるんだ!」
マクワイン魔帝国の兵器───魔物に囲まれたヴァラ砦。
そこへ、1人残った同期。
ひとりでに砦に火がつき、魔物達を焼き殺す。
「あ…ああ。ダルムさん。砦に火をつけてまで…!」
「…俺、油を用意しろって言われて…ダルムがいざというときのために…って…。」
「ライネ…。マルツド…。」
「あなたは何も思わないの!?マーロー!」
「何も思わないわけじゃない!でも、ダルムしかできなかった!ダルムの意思を無駄にはできない!」
「今なら助けられるかもしれないのに!?アンタ最低よ!」
「無駄死にするだけだ!俺たちには無理なんだよォ!!」
マーローは激しく慟哭する。
「アイツ以外に…誰が、出来たってんだ…!」
涙。
自身の無力を噛み締めるマーローの頬を伝う。
「おーい!」
その時だ。聞こえない筈の声が聞こえた。
皆が馬車の中から身を乗り出す。
炎に包まれるヴァラ砦の屋上から、見覚えのある顔が手を振っていた。
「無事に!生き残るんだぞ!!」
ダルム・リング。
馬車は森に入った。
木々が視界を遮る。
もう、ダルムの姿は見えない。