リンドベル練兵所では変な噂が流れていた。
それは、この練兵所で最も強い男に似た名前の者がいる…ということ。
「ダレム・リングぅ?」
ダルム・リングは怪訝な顔でマーローに尋ねる。
「ああ。誰かはわからないんだが…。昔、ヴァラ砦で焼け死んだ兵士の名前らしい。」
「俺と一文字違いか…変なこともあるモンだなぁ。」
練兵所の食堂は賑やかで、話が絶えない。
現に今も、また噂が舞い込んだ。
「おっ、ダルムとマーローじゃない。ここ、座るわね。」
「マディ。」
「さっきまでなんの話をしてたの?」
マディに事の顛末を話すマーロー。
「…ふーん?じゃ、私からも一つ…。」
「おっ。」
「マクワインには勇者伝説があるらしいの。全てを滅ぼす聖剣を持った勇者が、魔王を倒すために現れるって。」
「…はぁ?」
ダルムはこちらにも首を傾げた。
「20年前から、マクワインから来たって人は一人もいないんだぞ?なんでマクワインのことがわかるんだよ。」
それは、物理的な理由であった。
マクワイン魔帝国から外に出た人間は、ここ20年確認されていないのだ。
「私の親よ。22年前にマクワインからこっちに越して来たの。」
「…まじか。へー。納得。」
ずずーっと、スープを飲み干すダルム。
「マクワイン…か。」
「マルツド。」
「俺も座らせてもらうぜ。」
マルツドは今までの話を聞いていたようだった。
「おいおい、歴史マニアの俺を置いてそんな話するなんて、水臭いじゃないか。」
「お前が遅いからいけないんだろうが。」
マーローとマルツドがギャーギャー騒いでいると、ライネも席に座ってくる。
「あらあら、騒がしいですねぇ。いつものことですけど…。」
「ライネ、アンタはなんかないの?不思議な噂っていうか、都市伝説!」
「都市伝説?…んー。あ!そういえばぁ!西の国のソーサリーについて、皆さん知ってますかぁ?」
「ソーサリー?あの誰も入れない、誰も出さない偏屈国家か?」
ソーサリーは秘匿国とも呼ばれ、国に入ることも難しく、国に入った者も外に出れないと噂だ。腕を上げた冒険者たちが最後に挑む秘境であるとも呼ばれている。
だが、ソーサリーとリンドベルの間には巨大な壁が建っており、そこを抜けて中に入るのは相当難しいらしい。
「ソーサリーとリンドベルの国境にまたがる巨大な壁!あれはリンドベルからの人を入らせないためじゃなくて、獰猛で危険な獣が外に出ないためにあるって噂ですよぉ?」
「じゃ、俺からも!北国のラーブバーンを知ってるか?あそこは神の住まう大地って呼ばれていてな…。北に行って行き着いた先には、天界へ続く階段があるらしいぜ!」
「ライネの噂はともかく、マルツドの噂は…それは奥地に行き過ぎた人間は死ぬっていう例え話じゃないか?」
「俺もそう思うかなー。」
「ロマンがない話ね…。」
「…ムムム。だがな、この文はラーブバーンの歴史書にも書かれているんだ。信憑性はあるんだ!」
「わかったわかった…。」
他愛無い会話と共に…練兵は、続く。