ダルム・リングを追ってタイガナーン霊峰へ行き着いたアストラ・ラハーラ。
だが───そこに待っていたのは、ここにいるはずのないマルドク・ラハーラであった。
「アストラ…。お前の行動は奇想天外であったが、結果的に最良の未来を引き当てた。」
「…お父様。ガブリエールを隠匿していたのは本当!?そして…なんでここに!?」
「…ガブリエールを隠匿したのは本当だ。そして、此処にいるのは…私が【軌跡魔術】を使ったからだ。」
「!!」
衝撃の真実に驚くアストラ。
マルドクは続ける。
「最良の結果とは何か、教えよう…。お前がダルム・リングに接触したのを原因として、ダルム・リングはガブリエールと交戦して死に、お前がダルム・リングを追ったおかげで、私は街にガブリエールを放つことができた…。」
街にガブリエールが放たれた事実に、アストラは驚愕する。
「…こ、この外道!皆!魔物を街に放ったマルドク・ラハーラは許せないわ!ここで拘束しなさい!」
同行してきた【天使の教団】の面々に正義を呼びかけるアストラ、だが…。
「何を言いますか。枢機卿の言うことに間違いなどありますまい。」
「アストラ様。マルドク枢機卿はあなたが死ぬのを嫌ってガブリエールを街に放つのを我慢していたのですよ?それが【天使計画】に必要不可欠なことであるのにも関わらず…ね。」
教団員はマルドクの肩を持った。
「…あ、アンタ達…!元から皆グルだったわけね!?マルドク!!」
「【天使の教団】の面々は、皆、私に忠誠を誓っているのだ…。行き着く先は天使降誕の未来。誰も異を唱える者はいない。」
「だからって虐殺!?なんて奴…。」
「…くく。虐殺などとんでもない。私がやるのは…天使降誕だ。今放たれているガブリエールは皆、失敗作…。黒き竜、赤き竜、そして、輝けし竜…!彼らを使い、最高のキメラ兵を作り、キメラ兵にガナ公国を救わせる。それが我らの天使計画だ!!」
「人工的な天使!?アンタら、それでいいってんの!?」
「枢機卿がいうことです。間違いはないのですよ。」
「…マルドクッ!!」
「私はいい部下を持てて幸せ者だ…。アストラ。お前も天使となるのだ。輝ける御使にな…。」
「!?やだっ!離して!私は、ガナ公国の人を救う為に───!」
「救わせてやるとも。蠱毒にて生まれたガブリエールのキメラとしてな。そこの彼共々。」
「そこの───彼?」
「なんだ、気づいてなかったのか。ダルム・リングの死体だよ。さっきダルムは死んだと言っただろう?」
「…ひっ!?」
「キメラは死体に命を与える。ガブリエールの強大な生命力を彼のRCCが食い尽くせれば、完全な復活も出来るだろう…。【軌跡魔術】。」
景色が切り替わる。
「ここは───降誕の間の地下!?タイガナーン霊峰からは10kmは離れていたはずよ!?」
「ああ。言い忘れていたな…。私は通常種のガブリエールのキメラだ。この程度の魔術行使など容易いものよ。」
「あ、アンタもキメラに!?」
「ダルム・リング…。イブヨ・トロンの置き土産よ。君のおかげで、ガブリエールとのキメラも安定して行えるようになった…。ああ、たしか、君はただの一般兵だったか。ハハ…。アストラ、見なさい。あの竜を。」
異様な光景を、アストラは見た。
巨大な水槽のような物の中で眠る…大いなる竜。
今まで見たガブリエールの4倍ほどの体躯だ。
「地底湖にて行われた、ガブリエール同士の共食いを制した個体だ。ガブリエールを殺して全てを救う天使には相応しいだろう。」
「…あ、アタシが、あれと一緒になれっていうの…!うっ!?」
首の後ろに、薬液を注射されるアストラ。
「な、なにを…。」
意識が朦朧とする。
「RCC増強ホルモンだ。通常の人が持つRCC数値を10倍に引き上げる…。ダルム君は常人の16倍だがね、まぁ、イブヨ・トロンは天才だったということだ。」
アストラに背を向けるマルドク。
「RCC数値が高ければ高いほど、人間の形を保ったままキメラと化すことができる。アストラ。無事に天使としてまた会えるのを楽しみにしているよ。」
マルドクの背から生える───天使の羽。
ガブリエールの羽であった。
───
マーロー達を襲った轟音の由来は、ガブリエールの吐いたブレスだった。
【海の教団】本部に備え付けの宿舎は炎に包まれる。
親愛なる者を失ったマディの慟哭が響いた。
力無く倒れるマーロー。マディをガブリエールのブレスから庇ったのだ、当然の帰結であった。
「マーロー!?マーローッ!」
「おいっ!?何があった!…うそ、だろ…。」
「な、なぜ…なぜマーローさんが…焼け焦げているんですか…!?」
「…私を、庇って…!」
悲しみに呻く中、燃え盛る宿舎。
マルツドは決断する。
「…俺がマーローを運ぶ!ライネ!マーローに治療魔術だ!ここは焼けちまってる!寝てるやつ起こしながら逃げるぞ!」
「は、はいっ!治療魔術!」
「マルツド…。」
「マディ、ぼけっとしてんな!ここにはカースさんっていう医者がいるんだろ!?診せればまだ助かるかもしれねぇ!」
「あ…!た、確かに!」
自分を取り戻したマディ。
一行は人を起こしながら、宿舎を脱出した。
「カースさん!マーローを!」
「はいな。診せなさい。…良かったわね。軽傷よ。全身の皮膚が焼けてるだけ…目も無事だし、呼吸器にも異常は無いわ。だけど、皮膚を傷つけない為にも安静にできる場所が必要…空を見て。」
燃える街の炎に照らされて、天使は空を踊るように飛ぶ。
「…なっ!?あ、あれは…ガブリエール!?最強最悪と揶揄される人類の天敵!それも…6体も!?」
「あいつらがいる限り、この街のどこも安静とは言い難いわ。…ちょっとやってきて欲しいことがあるの。」
「倒すのは流石に無理じゃない?」
「違うわ。大砲を打つだけ…。本部の地下に超高威力の弾頭と砲台がしまってあるの。それを使えばガブリエールを倒せるぐらいのね…。これが地下への鍵。あなた達には弾頭と砲台を此処に持ってきて欲しいの。」
「ガブリエールを倒せるほどの弾頭?それは…いえ、カースさん!その仕事、引き受けました!マディさん!マルツドさん!いいですよね!」
「ええ!そんな仕事ならすぐこなしてみせる!」
「ああ!今は人命優先だ!」
「助かるわ。それじゃ、私は負傷者の治療に戻るわね…。頑張って!」
───
ラインハルトの同僚、宣教師のミネルバは、ガブリエールのブレスを避けながらも選択を迫られていた。
「どうしよう…!」
空を飛んでいるミネルバは、今最もガブリエールの気を引いている。
だが───それ故に、【海の教団】本部へ向かったら…本部がガブリエールのブレスを集中して受けることになる。
故に本部へは向かえない。だが、そうすると増援も呼べない。
「ミネルバ殿!」
「ベクカ!」
後から追いついたベクカがミネルバに問う。
「今の状況は!?」
「私がガブリエールの気を引いています!」
「わかりました!私は徒歩で本部に向かいます!ミネルバ殿はそこで気を引いててください!」
「了解!ベクカ!頑張ってね!」
ベクカは降下する。
遮蔽物が多い住宅地を通ることで、ガブリエールに自分の姿を見せないようにする作戦だ。
「ランドマ殿…!後少しですよ!」
───
最強のキメラ───アシュラ。
今、目覚める…!
「うおおォォォォォォォォォ!!!」
燃え盛る街、空飛ぶ魔竜…人の悲鳴!
麻痺の後遺症で眠る彼を叩き起こすには十分すぎる事態だ。
「リンドベル王国"元"将軍、レンデネル・バルド───。今こそ!アシュラと化して、民草を救う!!」
6腕の巨人が───民衆の盾となる!