どうも、一般兵です。
突然ですが大ピンチです。ピカがハルバードに飽きて、炎や鱗粉でこっちに攻撃してきました。
ピカが出す炎の火力も、鱗粉の数も、俺たちの能力を大きく超えていて、俺はピカの炎で気道をやられてしまいました。
『グオオオオオッ。』
!体の主導権がアカに変わります。
その瞬間、俺の身体が人間のものではなく、ガブリエールのものへと変貌していきました…!
これは、俺とアカの意識が分裂したことで得ることができた新形態です…名付けて、野生回帰モード!
人間の形態からガブリエールの形態に戻ることで、体躯が大きくなり筋力やスピードの上昇が見込める、肉弾戦向けの形態です。
アカが巨大な翼をもってして、ピカに接近…!
ですがピカも、ガブリエールの体躯へと変身します。
通常のガブリエールとは違い、輝いているその体は神々しさを感じさせます。
『ガァァァァ!!』
ピカとアカがお互いの手を掴み、空中での押し合いが始まりました。
初めは接近した時の勢いもあって、押し込めそうな雰囲気でしたが…。
『グ、ウ、ガ……ァァァァ!』
ピカは余裕の表情でこちらの腕を押し返します。
アカは苦し紛れにブレスをピカへと放ちますが、ピカはどこ吹く風と涼しそうです。
意趣返しと言わんばかりに、ブレスのチャージを始めるピカ。アカはなんとか逃げようとしますが、組み合った両手を解くことができません!
クロがピカへ突進してアカを救おうとします。
しかし、今までに見ないほどの凄まじい速さで動いたピカの尻尾によって吹き飛ばされてしまいます。
ピカの話を聞く限り、キメラ兵になる前から今になるまで、ピカは全てにおいて手加減をしていたようです…!
『ガァ!ガァァァァ!!』
アカもガチの命乞いをしてますが、ピカは全く聞きません。
チャンスを与えてなおも成長する気概を見せなかったアカに怒ってるようです。
俺はアカに一つ、提案を持ちかけました。
今のアカの身体は、何か知らないけど常に魔力が渦潮のように唸っています。
それをなんとかしてくれたら【軌跡魔術】を使ってなんとかここを切り抜けさせてやる、と。
『グオオオオオッ!』
なになに?首元になんか痺れる奴があって、そいつをなんとかするために魔力を動かしてる?
アカ…自分の炎で首輪ごと溶かせばいいんじゃないんですか?
『グオッ!』
あ、アカが自分の炎を使って、一瞬で首輪を破壊しました。
アカの炎は瞬発力があるから使いやすいですねぇ。
───【軌跡魔術】!尻尾よ動け!
アカの尻尾がとてつもない速さを伴い、ピカをはたきます。
それによって体勢を崩したピカは、ブレスを見当違いな方向へと飛ばしてしまいました。
『グオオオオオッオオオッ!』
アカは、なんか生き残れたしピカもびびってるのでご満悦です。
───【軌跡魔術】!
俺はアカの尻尾に軌跡魔術を適用し、鞭のように使ってピカを襲わせます。多分ですが、尻尾の先端速度はマッハ2を超えているでしょう。
硬い鱗を貫通してダメージを与えるため、ピカも相当痛がっています。あ、組み合った指を離して距離を離そうとしてますね!
アカ!捕まえろ!
『ガウ!』
アカはピカを離しません。そうこうしているうちに、吹き飛ばされたクロも復帰してきました。
クロの手刀が、ピカの首を狙って放たれます。
『グオオオオ!!…ガ?』
その時…光りました。視界が。
目を焼かれた感覚、そして、身体を吹き飛ばされた感覚が俺を襲います。
おそらく指も解かれたのかな?
…?いや、違う…。
腕が…ない…?
足も…?
───
「…フーッ。フーッ。」
「フーッ、ハーっ、ハーっ、ハーっ…。」
呼吸音のみが響く。
熱により、二足二腕がもぎ取られた赤のガブリエール。
右半身が焼失した黒のガブリエール。
その二体が、壁にめり込んで動かない。
「よくも…フーッ、やったわね…。」
生物には皮膚呼吸といった機能がある。
空気中に存在する酸素を、肺を介さずに細胞へ供給する手段だ。
輝けるガブリエールはそれを知覚していた。
「使わなきゃ…やられてた…!」
細胞の皮膚呼吸の機構を利用して、緊急時に全身の孔から炎を噴出するようにしていたのだ。
もちろん、ガブリエールの身体にはそのような…皮膚呼吸のための孔から炎を噴き出す機構などついていないので、体内を炎で焼かれ、かつ、全身の皮膚を針で刺されるほどの苦しみが伴うのだが。
輝けるガブリエールは躊躇しなかった。
「…クク、ハハ…楽しかったわ。アカ、クロ。ホント、びっくりした。アカがあそこまでできるようになってたなんて…。」
アストラは竜の体を解除し、アストラ本人の体へと変身する。
翼を発現させ、空に浮かぶアストラ…もとい、ピカの近くに埃が落ちる。
「…?」
ピカは上を見上げた。そこには───空が見えていた。
「ああ、全部溶かしちゃったのね。それにしても…綺麗な空。」
黄昏るピカの横を、ガブリエールの大群が通り過ぎる。
「あ、お父様…ごめんなさいね。ガブリエールの檻も壊しちゃったみたい。」
天へと昇るガブリエール達。
「…夕暮れまで暇ね。」
───
「枢機卿!失礼します!大変です!」
廊下を歩いている時に、マルドクは焦った様子の部下から報告を受ける。
「何があった。」
「アストラ様がガブリエールの力を行使し、爆炎を使いました!それによって…司令室が全焼してしまいました…!」
なんと、先ほどまでマルドクがいた部屋が全焼したという報告であった。だが、マルドクは動じない。
「…被害は。」
「枢機卿補佐、マラヤ・ラハーラ様と研究員6名が犠牲に…。」
「…マラヤ。」
マラヤはマルドクの二人目の妻として、赤子のアストラを育てていた大事な部下であった。
マルドクはマラヤを、アストラの目の前以外では妻として扱ったことはなかったが。
「司令機能の復旧は?」
眉ひとつ動かさず、平然を保つマルドク。
「できております!予備室の方にてモニタと司令用設備が!」
「案内しろ。」
「ハッ!」
───
噴火のような炎が、施設を散策しようとしているエリクソン達の目の前に現れた。
「…!な、なんだこれ…!?」
「わからない…。この規模の爆炎など…!」
施設の所々で上がった悲鳴が反響する。
【天使の教団】も焼かれているようだった。
…爆炎が治まる。
「て、天井が…空が見えるぞ!?」
「いや、それより…なんだ、あいつ…!」
爆炎が治ったので、施設が溶解して空いた穴を覗いて様子を見ようとするエリクソン一行。
そこには…翼で浮遊するアストラ・ラハーラと、地に伏せる赤と黒のガブリエールだった…!
だが、その光景を塗りつぶすのは…200体を越えるガブリエールの大群だった…!
「おい!気をつけろ!ガブリエールの大群が外に出ている!」
視界が黒に塗りつぶされる。
「鱗粉を吸い込まないよう、気をつけろ!」
「マズイ、あれだけのガブリエールが密集していると…周辺住民が鱗粉で死んじまう!」
「3時間ってところね。」
「カース!」
「あなた達の声が大きいからつい来ちゃった…。ミネルバは異常無しよ。呼吸器が焼かれてたけど、魔術で治したから。」
「…カース、3時間というのは本当か?」
アシュラがカースへと聞く。
「ええ。3時間…。鱗粉を飛ばす前に倒さないとマズイわ。この国が終わるわよ。」
───
港では避難行動が進められていた。
【海の教団】の団員はこの時に備え、一般人を避難させるように言いつけられていたのだ。
鯨の亜人が自身の特性を活かし、大音量の避難勧告を行い、他の亜人達は聖剣弾頭を使ってガブリエールを足止めする。
だが、それでも…ゼル大聖堂周辺2km以内にいた人々は全員死亡した。
吸い込んだ鱗粉が致死量に達したからである。
海の教団員約160名、一般人約1万名が死亡した。
また、何も知らない【天使の教団】の団員も7千名程が死亡する。
ガブリエールの噴出口であるゼル大聖堂は本来、【天使の教団】の本拠地であり、その近くに住もうとする【天使の教団】団員は少なくなかったからだ。
この街…ガナ公国の首都でもある港町、ガナダデールに住む住民は、24万名。
彼らは危機を知り、ガブリエールから逃げる。
内陸へと向かい、ただひたすらに…。
だが、ガブリエールは動くものを執拗に狙う性質がある。
1時間後には【天使の教団】や【海の教団】含め、8万名ほどの亜人がガブリエールによって焼かれ、鱗粉によって死に、建物の倒壊などで死亡した。
聖剣弾頭もあっという間に尽き、人々は救世主を必要としていた。
「…なんだよ、この黒い雲…!?」
「なんで…あんな数のガブリエールが、此処に!?」
「…少年少女!もう一回獣化だ!…ガブリエールを一体でも多く倒すぞ!」
ラインハルト達は首都の異変に気付き、ガブリエールを倒した後に施設へと突入するのをやめて、市民達の救援を行おうとしていた。
「…!ガブリエールゥゥ!!」
「ライネ!?」
ライネは地面に伏せる子供の死体を見つけ、激昂する。
獣化によって得た、ヒクイドリの脚力を利用してガブリエールの首を捻り切った…!
「お前らはライネに続け!俺は単独で他のガブリエールの相手をする!」
ラインハルトは大剣を構え、他のガブリエールは目掛けて飛んでいく。炎を躱し、大剣を振るってガブリエールの首を切り裂く…!
「…行くぞ!マディ!」
「うん!」
マルツドは身体能力と亀の甲羅という硬い外殻を使い、ガブリエールを倒し…。
マディも翼で飛行して空を飛ぶガブリエールを仕留めていく…。
───
「…げほっ…がほっ…。」
【海の教団】の施設。
そこにて咳き込むマーロー。
窓も閉め切った密室なのが功を奏したのか、なんとか生存していた。
「…獣化の、術…!」
マーローは獣化の術を発動させようとする。
本来この術は、大地の精霊…地を走る魔術印の知覚が行えなければ使用できない。
だが今回は、特例であった。
その境遇を哀れに思った大地の精霊は、マーローへと力を与える…。
「な…!なぜ…?」
突然獣化の術が成功したことに驚きを隠せないマーロー。
蝙蝠の羽が生えている。
「…身体に力が、満ち溢れている…。動ける…か?」
マーローは包帯を解き、ベッドから降りて服を着る。
「…親父。」
マーローはイブヨ・トロンについて考えた。
「行き過ぎた力ってのは…よくないな。」
彼が発展させたキメラ技術は、回り回って今の状況を引き起こした。
「だけど、今の状況をなんとかできるなら…いいとは思うよ。」
マーローは一つぼやき、施設の外を目指す。
事態の収集をつけるために…!