城抜け一般兵   作:K+#ガソ林

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21話

 ぐぬ…うう。一般兵です。どうやら、気絶してたみたい…。

『グオオ…。』

 アカも気絶してたみたいですね。あの後、何があったのやら…。

 目を開けます。ん、2足2腕無事…。

 !身体がガブリエールの物から人間の物に戻っていました。

 おそらく、生存本能的な何かで形態を変化させたのでしょう。人間の形態の方が燃費が良さそうですし。

 周囲はすごく暗いです。

『がオッ。』

 へ?これ、ガブリエールの鱗粉?

 天井を見上げてみると、穴が空いています。

 その穴からは、黒々とした空を見上げることができました。

 かなりたくさんの数のガブリエールが鱗粉を出さねば、こうはならないでしょう…。あ、クロ!クロはどこに!?

 クロ!横たわっています。右半身が溶けてる…!

 !クロが小さく鳴きました。まだ動けるのか…さすがガブリエール。

 この怪我は1ヶ月くらい時間があれば再生できるらしいです。すげー再生力…。

 ん?まだ言うことがあるようですね。

 …だから、ほっといてくれ?

 ガブリエールは同族で殺し合いますが、人間は、同じ人間を守る。

 それは尊い行いだと思ったので、アカとあなたにはそれをやってもらいたい…と。

 アカ、良いですか?

『グオッ。』

 自分より頭がいいクロの言うことだから、間違いないとアカはいいます。

 …じゃ、やりますか。救命活動!

 さっそくガブリエールを倒しに行きます。翼を生やし、屋外まで上昇!

 お、いましたね、ガブリエールです。

 すげー多い数だな…でも大丈夫!ピカとの戦いでわかりました!通常種の攻撃なら、鱗粉も炎も俺には効きません。

 軌跡魔術、起動!

 一時的に長い尾を生やし───それを高速で振り回して、回転切りです!

 この技を食らったガブリエールは身体を両断され絶命しました。

 一度に4体…いいペースですね。って!?

 なんだこいつら…人間にガブリエールの羽!?キメラ兵か!

 

「ダルム・リング!天使降臨のシナリオを変えるのはやめてもらおうか!宣教師パウリだ!」

「少し、失礼しますね。私はキルビムです。」

「……天使降臨、だと?」

 黒い鱗粉が吹き荒れるゼル大聖堂の真上にて、ダルム・リングと、パウリ、キルビム率いる【天使の教団】のキメラ兵達は相対する。

「困るんだよ。アストラ様が全てのガブリエールを屠って終わらせると言うシナリオを変えられてしまうと…。」

「前々から思っていたが…なぜこの量のガブリエールを保有しているのに、シナリオだがなんだかを気にするんだ?」

 ダルムは尋ねる。

「お前らなら国民ごと皆殺しにできるだろう。」

「天使は全てを見ていらっしゃる。我々が今のガナ公国を滅ぼし、新たに王国を築いたとしても、その国を認めないだろう。」

「…天使ってのは、おとぎ話かなんかじゃないのか?」

 ダルムはガナ公国の宗教について思い出す。

 彼にこのことを教えた教官の話によれば、ガナ教の天使は1000年ごとに地上に降り立つとされているのだ。

 パウリの代わりにキルビムが答えた。

「天使様はお眠りになられているだけなのですよ。」

「それは…死んだということだろ。」

「いえ、そのままの意味です。現枢機卿、マルドク・ラハーラの一人目の妻にして、天使…。ヒュペロー様と名乗った彼女は、今も降誕の間にて目覚めを待っている…。」

「…そこまで語って、どうしたいんだ。」

「時間稼ぎですよ。…ほら、見えてきました。黒空を裂く一条の流星。天使が目覚めます…!」

「……!」

 空を見れば、流星のような軌道を描く光が此処、ゼル大聖堂へと降り注いでいた…!

 

 

───

 

 

「…久しぶりだな。ヒュペロー…。」

 密室の降誕の間にマルドク・ラハーラの声だけが響く。

 ピカとアカの決戦後…8時間が経ち、時は明け方から夕暮れに至っていた。

 天使と呼ばれた女性の目が開く。

「…マルドク。」

 マルドクを見るヒュペロー。

「お前を迎えにきた。」

「…何故、あなたはこのようなことを。」

 ヒュペローは棺桶から立ち上がった。

「マルドク…。獣化した戦士達の戦いによって、ガブリエールの進行は食い止められ、国民も50万人は生き残ることができました…。ですが、18万人を殺したのはあなたです。何故このような行いを?」

「全てを見ているなら、知っているだろう?」

「……。」

「お前と一緒にいるためだ…ヒュペロー。」

「ならば、このような手段を取るべきではなかった。」

「獣化の術のメカニズムは、大地の精霊…ヒュペロー、お前自身が認めた戦士に力を分け与えるというもの…。だが、それを行うごとにお前の魔術印は末端から擦り減っている。」

「……。」

「【海の教団】が台頭してきた最近の減り具合は特に目を見張るものがある。───ヒュペロー、お前、自死するつもりだったな?」

 大地の精霊にして、ガナの天使、ヒュペロー…彼女の正体は、先人達によって作られた、タイガナーン霊峰にある魔術印であったのだ。

「…私はもういらないのです。この国の地殻変動を止めたのは、古代リンドベル王国…リンドグラード帝国から脱走したキメラ兵の安寧を願ったのこと。」

「ガナ公国の民衆はお前の庇護を必要としている。」

「私は長い運用によって摩耗し、地殻変動を防ぐ力ですら充分に使えなくなってしまいました。」

 最近のガナ公国では、所々で断層が起き始めている。

「ですから、なんとかできなくなる前に、この地を自然に戻します…。私たちガナ公国の大陸は、2000年の時を経て自然の摂理から外れてしまっているのです。」

「どうするのだ?」

「【軌跡魔術】を使い、大陸を動かすのです。私の全ての能力を使って…この大陸を本来ある位置に戻します。」

 大陸とは、地殻変動の影響でしばしば移動する。

 だが、ガナ公国では魔術印…ヒュペローの影響で大陸が移動しなくなっていたのだ。

「戻す必要はないと思うが。」

「その場合、1年も経たずこの大陸は大断層にて崩壊します。自然の流れに逆らうのは恐ろしいことなのです。」

「…ヒュペロー。それでもお前を止めねばならん。」

「マルドク…。変わってないわね、あなた。確信したわ。あなたは16年前から何も変わってない…。」

 ヒュペローはマルドクの目を見る。

「お前のことが好きなんだ。アストラも大きくなった。また家族として…。」

「だからこそ、残念よ。あなたは一番大切なものを捨てれたあの頃のまま…。アストラまで計画に組み込んだのは、良くないと思うの。私たちの娘よ?」

「…アストラは、また!研究が進めば…いや、進ませる!また三人で家族を…!」

 ヒュペローは目を伏せた。

「ねぇ、私がなんであなたと結婚したと思う?それはね…過去、あなたが…【空の教団】に攫われた私を、助けに来てくれたから。」

「…。」

「無鉄砲で、やんちゃで…それでいて、快活だったわ。ごめんなさいね。マルドク…。私があなたから、それを奪ってしまった。」

「…君のせいじゃない!!」

「さよなら…マルドク。」

 ヒュペローは飛び立つ。

 密室だというのに、翼を出現させ、空へ飛ぼうとする。

「待つんだ!ヒュペロー!!」

 静止するマルドクだったが、その手は届かなかった…。

 天井を軽々破壊し、天使の身は天上に至る。

 

 

───

 

 

 ガブリエール大放出から8時間。

 ガブリエールの数は200頭から50頭までその数を減らしていた。

 ガブリエールを追ったアシュラ達【海の教団】の宣教師と、ラインハルト達が善戦したからである。

 だが、その代償に…全員が負傷していた。獣化の術が8時間一度も解けなかったおかげで、その程度で済んだとも言えるが。

 その中でも集団となったガブリエール9頭は己の危機を悟って集団となって固まり、宣教師達相手に抵抗する。

 【海の教団】員とマディ達が連携し、ガブリエールを追い詰めるも…。

「あっ!?…ぐ、う…。」

「マディ!!」

 マディの獣化が解け、翼を失ったことで地に落ちる。

「再獣化するんだ!」

 だが、マディは落下の際、脇腹に刺さった木材の痛みに気を取られて集中できなかった。

 誰もが諦めかけた、その時だった…!

「おいおい、戦いの最中によそ見はダメだぜ、ガブリエール!」

 ガブリエール達の背後から切り掛かったのは、マーロー、マーロー・トロン!

 卓越な剣技と、蝙蝠の羽の機動力を使い、瞬く間にガブリエールを殲滅した…!

「ま、マーロー!?」

「なんで此処に!?」

「マーローさん!?」

 マーローはガブリエールを処理し終わって初めて、マディ達に気づいた。

「おお!マディ!マルツド!ライネ!無事だったか!」

「マーロー…!ありがと!また助けられちゃった!」

「で、経緯だったか?実はな、獣化の術に突然目覚めて…。」

 そこからマーローは、自身が単独でガブリエールを処理して回っていたことを話した。

「最後に追ってた奴がこの群れなんだが、すばしっこい上に、鱗粉のせいで視界も効かなくてよぉ。取り逃したんだわ。」

「そ、そうなのか…。」

「それで、どうするんだ?話を聞く限り、ガブリエールは根こそぎ倒せたんだろ?」

「ああ、実はだな…。ゴホッ。」

 

「ガブリエールの鱗粉は、人を殺すに充分な力があるわ。それをなんとかするためには…それこそ、天使の力を借りるしかない。」

「天使…だと?」

 カースに介抱されるアシュラ。

 アシュラは特に肺活量が多いので、鱗粉の濃度が薄い地域でガブリエールを60体ほど倒した後にダウンし、カースの治療を受けている。

「ええ、鱗粉はもう、この大陸全土に広がりきれる量が用意されてしまった…。此処にいる皆も、3日後には全員死ぬわ。だけど…綺麗な空気を吸って毒抜きすれば間に合う。古典的なガブリエール対策の方法だけどね。」

「綺麗な空気を、天使に用意してもらうわけだな。」

 

 

───

 

 

「あれが…天使か。」

 突如、ゼル大聖堂の上空に現れた天使を見て、ダルムは問いかける。

「ええ。」

 ケルビムは答えた。

「…天使は、なんでも願いを叶えてくれるのか?」

「叶えさせねぇよ。」

 パウリが吠える。

「それに、期限だ…。ほら、見ろ。二代目の天使様が暴れるぞ。」

 パウリはゼル大聖堂の方を見る。

「……アストラ…いや、ピカ。」

 天使に追従するかの如く、天まで浮上したアストラ・ラハーラ。

 羽を動かして飛行するアストラと、羽を動かさず浮遊するヒュペロー…。

「彼女は天使ではなさそうだな。天使とは、羽を動かさないものであるらしい。」

 ダルムは炎で槍を作り、握りしめる。

「…私達を突破するつもりですか?」

 ダルムはパウリ達を睨みつける。

「鱗粉をなんとかさせる…。この楽園のような国を、壊させやしない…!」

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