ぐぬ…うう。一般兵です。どうやら、気絶してたみたい…。
『グオオ…。』
アカも気絶してたみたいですね。あの後、何があったのやら…。
目を開けます。ん、2足2腕無事…。
!身体がガブリエールの物から人間の物に戻っていました。
おそらく、生存本能的な何かで形態を変化させたのでしょう。人間の形態の方が燃費が良さそうですし。
周囲はすごく暗いです。
『がオッ。』
へ?これ、ガブリエールの鱗粉?
天井を見上げてみると、穴が空いています。
その穴からは、黒々とした空を見上げることができました。
かなりたくさんの数のガブリエールが鱗粉を出さねば、こうはならないでしょう…。あ、クロ!クロはどこに!?
クロ!横たわっています。右半身が溶けてる…!
!クロが小さく鳴きました。まだ動けるのか…さすがガブリエール。
この怪我は1ヶ月くらい時間があれば再生できるらしいです。すげー再生力…。
ん?まだ言うことがあるようですね。
…だから、ほっといてくれ?
ガブリエールは同族で殺し合いますが、人間は、同じ人間を守る。
それは尊い行いだと思ったので、アカとあなたにはそれをやってもらいたい…と。
アカ、良いですか?
『グオッ。』
自分より頭がいいクロの言うことだから、間違いないとアカはいいます。
…じゃ、やりますか。救命活動!
さっそくガブリエールを倒しに行きます。翼を生やし、屋外まで上昇!
お、いましたね、ガブリエールです。
すげー多い数だな…でも大丈夫!ピカとの戦いでわかりました!通常種の攻撃なら、鱗粉も炎も俺には効きません。
軌跡魔術、起動!
一時的に長い尾を生やし───それを高速で振り回して、回転切りです!
この技を食らったガブリエールは身体を両断され絶命しました。
一度に4体…いいペースですね。って!?
なんだこいつら…人間にガブリエールの羽!?キメラ兵か!
「ダルム・リング!天使降臨のシナリオを変えるのはやめてもらおうか!宣教師パウリだ!」
「少し、失礼しますね。私はキルビムです。」
「……天使降臨、だと?」
黒い鱗粉が吹き荒れるゼル大聖堂の真上にて、ダルム・リングと、パウリ、キルビム率いる【天使の教団】のキメラ兵達は相対する。
「困るんだよ。アストラ様が全てのガブリエールを屠って終わらせると言うシナリオを変えられてしまうと…。」
「前々から思っていたが…なぜこの量のガブリエールを保有しているのに、シナリオだがなんだかを気にするんだ?」
ダルムは尋ねる。
「お前らなら国民ごと皆殺しにできるだろう。」
「天使は全てを見ていらっしゃる。我々が今のガナ公国を滅ぼし、新たに王国を築いたとしても、その国を認めないだろう。」
「…天使ってのは、おとぎ話かなんかじゃないのか?」
ダルムはガナ公国の宗教について思い出す。
彼にこのことを教えた教官の話によれば、ガナ教の天使は1000年ごとに地上に降り立つとされているのだ。
パウリの代わりにキルビムが答えた。
「天使様はお眠りになられているだけなのですよ。」
「それは…死んだということだろ。」
「いえ、そのままの意味です。現枢機卿、マルドク・ラハーラの一人目の妻にして、天使…。ヒュペロー様と名乗った彼女は、今も降誕の間にて目覚めを待っている…。」
「…そこまで語って、どうしたいんだ。」
「時間稼ぎですよ。…ほら、見えてきました。黒空を裂く一条の流星。天使が目覚めます…!」
「……!」
空を見れば、流星のような軌道を描く光が此処、ゼル大聖堂へと降り注いでいた…!
───
「…久しぶりだな。ヒュペロー…。」
密室の降誕の間にマルドク・ラハーラの声だけが響く。
ピカとアカの決戦後…8時間が経ち、時は明け方から夕暮れに至っていた。
天使と呼ばれた女性の目が開く。
「…マルドク。」
マルドクを見るヒュペロー。
「お前を迎えにきた。」
「…何故、あなたはこのようなことを。」
ヒュペローは棺桶から立ち上がった。
「マルドク…。獣化した戦士達の戦いによって、ガブリエールの進行は食い止められ、国民も50万人は生き残ることができました…。ですが、18万人を殺したのはあなたです。何故このような行いを?」
「全てを見ているなら、知っているだろう?」
「……。」
「お前と一緒にいるためだ…ヒュペロー。」
「ならば、このような手段を取るべきではなかった。」
「獣化の術のメカニズムは、大地の精霊…ヒュペロー、お前自身が認めた戦士に力を分け与えるというもの…。だが、それを行うごとにお前の魔術印は末端から擦り減っている。」
「……。」
「【海の教団】が台頭してきた最近の減り具合は特に目を見張るものがある。───ヒュペロー、お前、自死するつもりだったな?」
大地の精霊にして、ガナの天使、ヒュペロー…彼女の正体は、先人達によって作られた、タイガナーン霊峰にある魔術印であったのだ。
「…私はもういらないのです。この国の地殻変動を止めたのは、古代リンドベル王国…リンドグラード帝国から脱走したキメラ兵の安寧を願ったのこと。」
「ガナ公国の民衆はお前の庇護を必要としている。」
「私は長い運用によって摩耗し、地殻変動を防ぐ力ですら充分に使えなくなってしまいました。」
最近のガナ公国では、所々で断層が起き始めている。
「ですから、なんとかできなくなる前に、この地を自然に戻します…。私たちガナ公国の大陸は、2000年の時を経て自然の摂理から外れてしまっているのです。」
「どうするのだ?」
「【軌跡魔術】を使い、大陸を動かすのです。私の全ての能力を使って…この大陸を本来ある位置に戻します。」
大陸とは、地殻変動の影響でしばしば移動する。
だが、ガナ公国では魔術印…ヒュペローの影響で大陸が移動しなくなっていたのだ。
「戻す必要はないと思うが。」
「その場合、1年も経たずこの大陸は大断層にて崩壊します。自然の流れに逆らうのは恐ろしいことなのです。」
「…ヒュペロー。それでもお前を止めねばならん。」
「マルドク…。変わってないわね、あなた。確信したわ。あなたは16年前から何も変わってない…。」
ヒュペローはマルドクの目を見る。
「お前のことが好きなんだ。アストラも大きくなった。また家族として…。」
「だからこそ、残念よ。あなたは一番大切なものを捨てれたあの頃のまま…。アストラまで計画に組み込んだのは、良くないと思うの。私たちの娘よ?」
「…アストラは、また!研究が進めば…いや、進ませる!また三人で家族を…!」
ヒュペローは目を伏せた。
「ねぇ、私がなんであなたと結婚したと思う?それはね…過去、あなたが…【空の教団】に攫われた私を、助けに来てくれたから。」
「…。」
「無鉄砲で、やんちゃで…それでいて、快活だったわ。ごめんなさいね。マルドク…。私があなたから、それを奪ってしまった。」
「…君のせいじゃない!!」
「さよなら…マルドク。」
ヒュペローは飛び立つ。
密室だというのに、翼を出現させ、空へ飛ぼうとする。
「待つんだ!ヒュペロー!!」
静止するマルドクだったが、その手は届かなかった…。
天井を軽々破壊し、天使の身は天上に至る。
───
ガブリエール大放出から8時間。
ガブリエールの数は200頭から50頭までその数を減らしていた。
ガブリエールを追ったアシュラ達【海の教団】の宣教師と、ラインハルト達が善戦したからである。
だが、その代償に…全員が負傷していた。獣化の術が8時間一度も解けなかったおかげで、その程度で済んだとも言えるが。
その中でも集団となったガブリエール9頭は己の危機を悟って集団となって固まり、宣教師達相手に抵抗する。
【海の教団】員とマディ達が連携し、ガブリエールを追い詰めるも…。
「あっ!?…ぐ、う…。」
「マディ!!」
マディの獣化が解け、翼を失ったことで地に落ちる。
「再獣化するんだ!」
だが、マディは落下の際、脇腹に刺さった木材の痛みに気を取られて集中できなかった。
誰もが諦めかけた、その時だった…!
「おいおい、戦いの最中によそ見はダメだぜ、ガブリエール!」
ガブリエール達の背後から切り掛かったのは、マーロー、マーロー・トロン!
卓越な剣技と、蝙蝠の羽の機動力を使い、瞬く間にガブリエールを殲滅した…!
「ま、マーロー!?」
「なんで此処に!?」
「マーローさん!?」
マーローはガブリエールを処理し終わって初めて、マディ達に気づいた。
「おお!マディ!マルツド!ライネ!無事だったか!」
「マーロー…!ありがと!また助けられちゃった!」
「で、経緯だったか?実はな、獣化の術に突然目覚めて…。」
そこからマーローは、自身が単独でガブリエールを処理して回っていたことを話した。
「最後に追ってた奴がこの群れなんだが、すばしっこい上に、鱗粉のせいで視界も効かなくてよぉ。取り逃したんだわ。」
「そ、そうなのか…。」
「それで、どうするんだ?話を聞く限り、ガブリエールは根こそぎ倒せたんだろ?」
「ああ、実はだな…。ゴホッ。」
「ガブリエールの鱗粉は、人を殺すに充分な力があるわ。それをなんとかするためには…それこそ、天使の力を借りるしかない。」
「天使…だと?」
カースに介抱されるアシュラ。
アシュラは特に肺活量が多いので、鱗粉の濃度が薄い地域でガブリエールを60体ほど倒した後にダウンし、カースの治療を受けている。
「ええ、鱗粉はもう、この大陸全土に広がりきれる量が用意されてしまった…。此処にいる皆も、3日後には全員死ぬわ。だけど…綺麗な空気を吸って毒抜きすれば間に合う。古典的なガブリエール対策の方法だけどね。」
「綺麗な空気を、天使に用意してもらうわけだな。」
───
「あれが…天使か。」
突如、ゼル大聖堂の上空に現れた天使を見て、ダルムは問いかける。
「ええ。」
ケルビムは答えた。
「…天使は、なんでも願いを叶えてくれるのか?」
「叶えさせねぇよ。」
パウリが吠える。
「それに、期限だ…。ほら、見ろ。二代目の天使様が暴れるぞ。」
パウリはゼル大聖堂の方を見る。
「……アストラ…いや、ピカ。」
天使に追従するかの如く、天まで浮上したアストラ・ラハーラ。
羽を動かして飛行するアストラと、羽を動かさず浮遊するヒュペロー…。
「彼女は天使ではなさそうだな。天使とは、羽を動かさないものであるらしい。」
ダルムは炎で槍を作り、握りしめる。
「…私達を突破するつもりですか?」
ダルムはパウリ達を睨みつける。
「鱗粉をなんとかさせる…。この楽園のような国を、壊させやしない…!」