一般兵です。このキメラ兵を突破します。
───【軌跡魔術】!
もはやお馴染みとなったこの術式ですが、便利なんですよねぇ。超スピードを簡単に得ることができます。
正拳突き!尻尾で薙ぎ払い!ブレス!火の槍投擲!
はい、終わりました。
キメラ兵くん達もなかなか頑張ってくれたんですが、結構弱いですね。…彼らにはやったことの報いを受けてもらいました。体を貫いたりしたので、死ぬか死なないかは運次第でしょう。
『グオオオオオッ!』
はい、次はアストラですね…って、え!?
アストラが…いや、天使…ヒュペローとやらもいません!
いつのまにかどこかに行ってしまったようでした。
『グオッ?』
アカが提案してきました。アカはなんと、アストラ…ピカについては匂いでどこに行ったか分かるようです。体を貸します。
アカはガブリエール形態になり、はるか上空…黒雲を抜けた先へと飛び立ちます。アカ、ここに?
『ガウッ!』
!見えました!ヒュペローとピカが戦っているようです。空中で激しい白兵戦を繰り広げる二人…。
なんとかヒュペローに協力して、ピカを倒しましょう!
『グオオオオオッ!!』
合わせます!【軌跡魔術】!
アカの身体は慣性を無視してピカの横まで辿り着きます!
『ガァァァァァァァァッ!!!』
【軌跡魔術】───アンド、ドラゴンブレス!
軌跡魔術によって勢いを増した尻尾と、アカの炎のブレスがピカを襲います!天使!今のうちに!
…あっやべ、アカが表に出てるから声出せないや。
ヒュペローはこれを好機と見たのか、どこかへと飛び去ります…いや、どこ行くねーん!
俺が追いつけない速度でどっか行きました!やべー!天使はなんでも願いを叶えてくれるんじゃないんですか!?
しかし今は、ぼやいていても仕方ありません…なんとか俺の全霊を持って、ピカを足止めします!
ヒュペローがこっちに戻ってくるまで!
───
ガブリエールを処理しながら、黒霧を抜けてゼル大聖堂へと至ったマディ一行。
そこには…ダルム・リングと、地に転がる【天使の教団】のキメラ兵がいた…!
「ダ、ダルム!?」
しかし、たちまちダルムの身体はガブリエールへと変貌し…空へと飛び立つ。
場にはマディ達が残された。
「…マディ、マーロー…行って来なさい。」
ラインハルトが言う。
「…ラインハルト…。」
「俺たちは大丈夫だ。マルツドとライネは空を飛べないから、君達だけでも追ってきた方がいい…。元々、ダルムを追ってこの国に来たんだろ?ただし、危険と思ったら…すぐに助けを呼ぶんだぞ。」
「…マーロー、此処は任せろ!ガブリエールもあと少しだからな!」
「…わかった!此処は任せるぞ、マルツド!」
「ダルムさんに会いに行けないのは残念ですが…致し方ありません。マディさん!マーローさん!ダルムさんを連れて帰ってきてくださいね!」
「約束するわ!待っててね、ライネ!」
マディとマーローはそれぞれの翼を使い、雲上へと上昇する。
そこでは…白と赤の、二体の竜の戦いが繰り広げられていた…!
「…!ガブリエールのキメラ兵…!それも、年端のいかない子供!?」
「見かけに騙されちゃダメだ…!あのダルムが戦ってるんだぞ!?何かあるはずだ───。」
二人が観察のために接近した、その時だった…!
「あーら?可愛いお客さんじゃなーい。歓迎するわ。」
背後からがっしりと掴まれ、拘束されるマディとマーロー。
いつのまにか、白いガブリエールは姿を消していた。
「…お、おまえ、は…!」
「私は、天使様よ。でも望みは叶えてあげない。…アカ、いや、ダルム・リング。」
ダルムはガブリエールの姿から人の姿に戻っていた。
「……。」
「そうとう邪魔をしてくれたじゃない?多少の憂さ晴らし…あんたの目の前で、人を殺してやるわ。」
「…マーロー、マディ…。」
「やだ、知り合い?良かったわね。あんた達。そう言うことなら…痛ぶって殺してあげるわ。人間にはそうすると効果テキメンだって、お父様が言ってたもの!」
「……ッ!」
マディとマーローは獣化の力を活かし、拘束から抜けようと抵抗するが…全く通じない。ガブリエールのキメラ兵と自分たちの間には、赤子と大人の様な力の差があることがわかるだけだった。
「二人から離れろッ!」
「責めるなら、あなたの行いを責めることね。あなたは私に逆らいすぎた。これは、その罰だから…。」
「…軌跡魔術───!」
「させないわ。」
軌跡魔術はダルムの槍のように、自分以外対しても適用することができる。
今回は、マディとマーローに対して発動したのだが…。
「…!魔術を無効化した!?」
「私の体から魔力を放出して、術式を乱したの…。残念ねぇ。」
「くっ…!」
「ぐぬっ…外れろ!外れろぉぉ!!」
マディとマーローはダルムに感謝していた。
ダルムは…何も変わっていなかった。
優しく…始まりのヴァラ砦から自分達を逃したダルムと相違なかった。
だからこそ…今になって、ダルムの足枷となっている事実が───とんでもなく、悔しい…!
「攻撃してきなさい。ダルム…。抵抗してこなきゃ、面白くないものね…。」
「…うおおおおおーっ!!」
ダルムは軌跡魔術と火の槍を使い、自慢の槍術でアストラに戦いを挑むが…。
「ダルム…あなたには忌々しく思うのと同時に、ありがたいとも思ってるの…。私のこの力を…目覚めさせてくれたから…!」
ピカに目覚めた新たな力。
それは…身体のあらゆる箇所から炎を放出し…擬似的な太陽と化すこと…!
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
ピカの身体の前面から炎が噴出し、ダルムの身体が燃え盛る。
炎を得手とする筈のアカのガブリエールの肉体が…焼け焦げるほどの熱量…!
「さ、あなた方も燃えなさいな。」
「…ち、くしょう…。」
「ダルム…ごめん…!」
炎が…2人を覆った。
だが…。
「マーロー…?マーロー!何してるの!マーロー!」
「俺たち2人とも焼け死ぬよりかは…建設的だ…。」
マーローの蝙蝠の翼が…マディへの炎を受け止めていた…!
「あら、無駄な抵抗ご苦労様。いつまで待つかしらね、その翼…ッ!?」
雲を割って出てきたのは…黒いガブリエール!
その身体は翼を再生してあるだけの歪な形状をしている…!
「…っ、クロ!」
クロがボロボロの身体を加速させ、ピカへと体当たりする!
避けるピカだが、ダルムはその隙を逃さない…!
ピカの腕を軌跡魔術で加速させた尻尾で切断し…二人を回収する…!
滑空するマディとダルム。
ダルムが抱えるマーローはかなり疲弊していた。
心理的にも…体力的にも。
「マーロー!何やってんだお前!」
「火傷には…慣れてんだ…へへ…。」
「マーロー!」
マーローは蝙蝠羽から炎が伝い…背中のあたりが炭化していた。
「ダルム…会えてよかったよ。生きてて、良かった…。」
「色々言いたいことはあるが…死ぬな!」
「…お前、ほんとに…かわって、ないな?ふっ…ちちうえのけんきゅうじょで、あったときも…その、ちょうし、で…。」
「マーロー…?マーロー!おい!死ぬな!死ぬなよな!!」
「ダルム!下にカースさんって言うお医者様がいて、その人に診せれば…。」
「…わかった、マディ。こいつ抱えて下に降りてくれ。…俺はまだ、やることがある。あのガブリエールのキメラの足止めをしなきゃならない。」
ダルムはマディにマーローを預ける。
「行ってくれるか?」
「…うん!元気で!ダルム!」
「ああ…生き残って見せるさ。またな。」
マディの羽音が遠ざかる。
ダルムは上を見上げた。
「…クロ…。」
心臓に穴を開けられたクロが頭から落ちていく。
元々死体のような状態だったのだ…。最早、助かるまい。
「ピカ!こっちを見ろ!」
ダルム・リングは覚悟を決めた。
「俺が最後まで…相手をしてやる!」
───
「枢機卿、【残りの300体のガブリエール】はどうされますか?」
「少々、計算外のこともあったが…計画は続行する。アストラがこちらに戻り次第、放出しろ。」
「了解致しました。」
元々、【天使の教団】が保有するガブリエールは500体。
アストラの熱によって檻が溶け、放出されたのは200体。
地獄という、天使に最も相応しい舞台が組み上がる。
「ヒュペロー。お前の目論見はわかっている。だからこそ…終わりだ。」
───
夕暮れが過ぎた頃だろうか。
黒雲により、空が見えず、星もない。
ガナ公国の民達は…天使の降臨を心待ちにしていた。
全てを救う者を…。
「…カース、揺れとらんか?ここ。」
「…何も感じないわ。」
扉を開け、【海の教団】の者が焦った様子で報告する。
「カースさん!急患です!あと…。」
「わかったわ、あとって?」
「黒いガブリエールの、その、死体が落ちてきたので…少し動いているようですが。」
「…死体?死体は羽を動かさないし放っておきなさい。急患が先よ。」
「ハッ!」
マディが慌てた様子でマーローを運ぶ。
「カース!マーローが…!」
「…マーロー!?…この傷…まずいわ。私の魔術だと、今後の寿命を使ったとしても治すのは…。」
カースはその時、何かを思いついたかのように立ち上がった。
「報告してきたあなた。」
「ウィリアムです。」
「ウィリアム君、さっき言ってたガブリエールの場所まで案内して頂戴…。一つだけ、治す方法がある…!」
───
ガナ公国は、動き出す…。
大陸が本来動くはずの軌道をたどりながら…今在るべき場所へと動く…!
「せめて、鱗粉は此処に置いてきましょう…。軌跡魔術!起動!」
タイガナーン霊峰の魔術印が輝き…大陸はガブリエールの鱗粉のみを置き去りにして動き始めた…!
小話2
天使の教団はアカはアホなので制御なんてできないかもと思っていました。なのでキメラにする計画も本来ありませんでした。
だけどピカの方の制御ができれば、戦績的にアカはピカに勝てず死ぬしかないので、ふざけてダルムとアカを合成してしまいました。
ダルムは検体として最高クラスだったので、実験したくなってしまったんでしょうね。