マーローが死にました。
今の俺は…後悔の念が溢れる訳でもなく、怒りが生まれる訳でもなく…冷静さに支配されています。
此処まで冷たい人間でしたっけ、俺。
やはり、何かのタガが外れているんでしょうか…今でさえ、元があのアストラといえど───ピカを殺すことに、一切の葛藤がありません。
『グガ。』
アカ。
やりますよ。お前もクロを殺されて無念でしょう。
何故クロがあの時駆けつけてくれたのかはわかりませんが…。
『グオオオオオ!!!』
俺が軌跡魔術を担当します。
アカはガブリエール形態で思いっきり戦ってください。
この勝負…勝ちます。
ピカは腕を再生し…先ほどのように俺への罵詈雑言を飛ばしながら飛んできます。
【軌跡魔術】───限界起動!
俺が操る魔術、【軌跡魔術】の真髄…それは自分自身に常に軌跡魔術を適用して高速移動すること。
本来ならそれは、戦闘中に【戦況の把握】と【辿る軌道の設定】の二つのタスクをこなしながらじゃないと行えません…しかし。
アカと俺は同じ身体を共有しています。アカがどこにどう動きたいのかとかは、手に取るようにわかるのです。これを利用すれば、まだまだ技量としては未熟な俺でも【軌跡魔術】の真髄を熟す事ができます…!
得られるリターンは超速移動とパワー!
常に威力を持った攻撃を相手に当てる事が可能!
1秒間に2回の動作にて───ピカを圧倒します!
6対の翼のうち、3対をもぎ取り…防御のために繰り出した尻尾を切断、再度腕を切り落として首を落としにかかります…!
足止めとは言わず…ここで、殺します!
流石の輝けるガブリエールでも、軌跡魔術の効果を十全に発揮した赤のガブリエール相手では歯が立たなかった。
覚醒した力である…身体中からの熱放射も、アカの野生的な勘によって避けられ、決定打もなく…ただただ一手ずつ翼を、尻尾を、腕をともぎ取られ…ついには、その首を失った。
だが…ピカは生きていた。
ガブリエールは皮膚呼吸を行っている…そのおかげで、首を切り落とされても酸欠で脳死すると言ったことはなかった。
また、残された肉体に魔力の弾丸をぶつけて無理やり移動させ、首と身体をくっつける離れ技を見せる。
「…アカ。」
本来なら、それを黙って見ているアカではなかった…のだが。
赤のガブリエールの身体は停止していた。
「あなた、もう少しクロを労ってあげた方がいいわよ…。あなたのその体が【軌跡魔術】の副作用を今の今まで受けなかったのは、クロのおかげなんだから…。」
ガブリエールの鱗粉。
それは…細胞だ。
赤のガブリエールの身体のうちに、クロの鱗粉が入り込み…その身体を人知れず再生していたのだった。
「アストラの知識よ。【軌跡魔術】は本来連発できるようなものじゃない。身体の全ての細胞に術をかけて移動しているんだから、当然よね。軌跡魔術は細胞の破壊を伴うの。」
アカは吐血する。
「魔術の限界起動で、クロの鱗粉でも直せなくなってしまった…そんなところかしら。その巨体で10秒間も魔術を行使できたのは、賞賛に値するわ。」
ピカは雲海を見下ろす。
「…雲が白くなってる。ガブリエールの鱗粉は全てあの天使様に取り除かれちゃったみたいね。」
そして、間髪入れずにピカは───手刀を使ってアカの体をバラバラに分解した。
「5等分ね、ちょうどいいわ。…さよなら、アカ。…ダルム・リング。」
落ちていくアカのパーツは…ダメ押しと言わんばかりにピカの熱放射によって滅却される。
内臓も焼かれ、生命維持は見込めない。
ダルム・リングと赤のガブリエールは、完全なる敗北を喫した。
死という形で。
───
死からの蘇生。
それを可能とするのが、キメラ技術だ。
魔術印を起動するカース。
「キメラ技術を使用するわ。」
「…え!?カース、やり方わかるの!?」
「…やって見なきゃわからない。アシュラの身体と獣化の術から着想を得た…いわゆる、合成魔術だからね。」
獣化の術は、タイガナーン霊峰の魔術印の力を人に与える術式だ。
キメラの合成魔術は、少し強引な解釈だが…獣化の術の力を与える部分を、魔物と合成すると見立てた術式だ。
マーローの体と黒いガブリエールの身体が消失し、巨大な魔力の中で潮流となって混ざり合う…!
「さぁ、起きなさい!マーロー!」
───龍神、顕現。
───
「アストラ。ようやく戻ってきたか。天使の足止めはできたのか?」
「いえ?ダルム・リングに妨害されちゃってできなかったの。でも大丈夫よ。殺してきたから。」
「…計画を続ける。300体のガブリエールを解放しろ。」
「ハッ!」
300体の死の天使は檻から解き放たれ、地獄は再び…。
───
ラインハルト達はついに、全てのガブリエールを屠ることに成功した。大した損耗は無く、強いていうならば獣化の術が解けかかっている程度だ。
「エリクソン。」
「おう!」
ラインハルトはエリクソンに笑顔を向ける。
彼らはガブリエール殲滅を行なっているときに、ようやく再会できたのだ。その時は驚愕もあったが、ラインハルトの喜びは計り知れない。
「…よく、生きてたね。襲撃されたと聞いたけど。」
「カース女医に助けられたんだ、魔術を使ってくれた。…情けない限りだよ。」
「なぁに、ガブリエールを倒せばチャラだ。200体もな!ハハ!」
「そりゃそうか。…鱗粉が消えてる。天使とやらが上手くやったみたいだな。」
「そうだな…。綺麗な空気だ。」
ヒュペローの軌跡魔術の影響でガブリエールの鱗粉は消え失せ、悪夢は消え失せた。
地獄は終わり、夜明けがやってくる…そう思っていた。
炎が、見える。
「ラインハルトッ!」
「ぐっ!?」
ドン、と。
エリクソンの腕がラインハルトを突き飛ばした。
「ぐおあっ!?」
ガブリエールのブレスは、一瞬で3km先にも届く。
エリクソンは焼失した。
「…!ガブリエェルゥゥゥゥ!!!」
咆哮。
黒霧は、また。