「うおあああああ!!」
ラインハルトは一人、奮戦する。
獣化の術を使い、一人で。
味方は皆死んだ。
リンドベルからの兵士…マルツドも、ライネも。
宣教師のベクカも、ランドマも。
皆、皆死んでしまった。
「こんなことってないだろォ!!」
【海波魔術】が起動する。
涙の軌跡かのように、青い魔力は煌めいた。
1体。
2体。
5体。
10体…。
まだ、まだ、終わらない。
300のガブリエールの軍勢は終わらない。
「うっ!?ゲホッ!」
鱗粉がラインハルトを追い詰める。
「ハッ。ハッ。…ゲホッ!?」
ガブリエールの鱗粉は細胞だ。
そのため、呼吸を行う。
ラインハルトの肺に侵入したガブリエールの鱗粉は呼吸を行い…ラインハルトの生を脅かす。
肺内部の酸素濃度の低下に耐えきれず、ラインハルトは地に落ちる。
その隙を見逃さなかったガブリエールのブレスによって、ラインハルトもまた焼失した。
───
「父上…いや。親父。」
「なんだ?」
イブヨ・トロンとマーロー・トロンは対峙していた。
「なんであんなものを…キメラなんて。」
「お前は知っているはずだ。」
イブヨの妻にして、マーローの母、ラマー・アンプ。
「ラマーを治療しようとしたのが始めだった。」
「母上はたしか欠魔症にかかって、数日の命もなかった…。」
欠魔症とは、身体の至るところから魔力を発散し、死に至るという恐ろしい病である。
イブヨはこの病を、さまざまな生物のエッセンスを組み込むことで治療しようと考えた。
「欠魔症にかかるのは、人間だけだ。」
「でも…父上はそれを解明する中、とんでもない発見をしてしまった。」
「RCC数値だ。」
RCC数値は人間の再生力を司る数値だ。
ラマーはこの値が高かったのだ。
「私はRCCと欠魔症の間には因果関係があると思い込んだ。」
「だけど、なかった。」
「欠魔症の原因は脳の疾患だった。魔力を内で貯めれぬようになっていたのだ。やるべきはリハビリだった。」
欠魔症の症状は、魔力のコントロールを行うことで改善する事ができる。残りの余命を数日間から数年間に増やす事ができるのだ。
「私は間違えた。」
「そして、俺はそれを見た。」
マーローは変わっていく父を見ていた。
自分の決めた道を正しいと思い込んででも、前に進まなくてはならなかった父を。
「…これが、君か。」
「誰だ…!?」
イブヨは消えていた。
そこに立っていたのは…自分そっくりの、黒髪の男であった。
「僕は黒いガブリエール…クロって呼んでよ。」
「なん…なんなんだ、お前…。」
「君は死んだ。」
「!」
マーローは思い出した。
あの時、マディを庇い、そして…。
「俺は…死んだ。」
「そして此処はキメラ体の中だ。言うなれば、精神の中だね…。」
「キメラ!?」
「うん。カースさん?だったっけ。彼女が言ってたよ。」
マーローは全てを知っているようなクロの言い分に違和感を覚える。
「なんでお前は、ガブリエールのくせに人の言葉とかを…。」
「人の言葉は君と混ざってから覚えた。だけど、この情報収集能力は自前さ。」
黒色の鱗粉をおもむろに発生させるクロ。
「!ガブリエールの鱗粉!?」
「僕はガブリエールの鱗粉の集合体。いわば、鱗粉のガブリエールなんだ。少し話すけど、いいね?」
マーローは困惑しながらも、頷いた。
クロは語り始める。
「ガブリエールの鱗粉は人を殺す…何故だかわかるかい?鱗粉は一つの細胞にして、卵なんだ。そして、酸素濃度が濃すぎると生まれる事ができない。」
「君たちの肺の中に入ったガブリエールの卵達は、呼吸をしながら徐々に肺の中の酸素濃度を低くしていく…それが、僕たちの生誕のメカニズムだよ。」
マーローは驚愕した。
まさか、鱗粉からガブリエールが生まれるとは…鱗粉にそのようなメカニズムがあったとは…。
「それじゃ、自己紹介も終わった事だし、君の知能をいただくよ。…やっとやりたい事ができる。」
クロはマーローの肩に手を置く。
「…待て!何をする気だ!」
「ダルム・リングの真似。」
「!?」
クロは微笑んだ。
「助け合いってやつだよ。───さぁ、行こう。」