新世界の月   作:シコウ

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地球の亡霊

 内乱により星央列強各国の支援する軍閥が群雄割拠する大セーカ国、皇帝すら行方不明の国の、ある地方軍閥の兵器工廠では二人の若い兵士が雷管式前装ライフルを手に歩哨についていた。

 

 「…暇だな。」

 

 その言葉に、隣にいた同僚が苦笑した。

 

 「仕方ないさ、ここは後方だぜ?」

 

 「こう、何も起きないと志願した意味がないような気がしてな。」

 

 農家の四男に生まれた彼は退屈な日常に飽き、刺激を求めて功名心から革命軍に志願していた。

 

 「立ってるだけで金が貰える。結構じゃないか、平和が一番さ。」

 

 戦乱を巻き起こした革命軍の構成員とは思えぬセリフを呟いた相方は、ライフルを壁に立て掛けタバコを取り出すとマッチを擦ろうとした。その刹那、

 

 ブシュン!

 

 タバコを咥えた彼は眉間に孔を開け、給金を受け取ることなくその生涯を終えた。

 

 「えっ!?」

 

 農家の四男は驚き、一瞬身が固まってしまった。我に帰り身を伏せようとするが、

 

 ブシュン!

 

 その隙は見逃されることなく、驚愕の表情のまま歴史に名を遺すことなく相方と同じ末路を辿った。

 

 二人から数百メートル離れた森の中、この国には存在するはずの無い、7.62mm亜音速弾を使用する狙撃銃を構える人物がいた。ギリースーツの下の黒で統一された装備の肩には小さく『鈴蘭と彼岸花を咥える八咫烏』のエンブレムが刺繍されている。その下には『大東洋統合警備保障』の文字。

 

 「歩哨を排除した、周囲に敵影なし。」

 

 『了解、これより突入する、援護を頼む。出るまで撃つなよ?』

 

 「遅刻する奴は嫌いだ。」

 

 『おっかねえ、野郎ども姫は時間にうるさい、さっさと済ませるぞ。』

 

 工廠前の草むらを掻き分けて現れ、死体のチェックを済ませ門をくぐるのは、迷彩塗装の自動甲冑(アーマースーツ)に減音器付きのサブマシンガンや銃身を大幅にカットした12.7mm対物ライフルを装備する集団。彼らは名前こそ警備会社風だが、工事現場で誘導棒を振るわけではない。戦場でアサルトライフルを振るう民間軍事会社(PMC)傭兵(コントラクター)だった。

 

 素早く工廠の建物内に入ると、各所に分散、不運にも鉢合わせた敵兵を減音器特有の気の抜けた銃声と共に排除、建物内の革命軍幹部の私室や作戦室を捜索、命乞いをする幹部に無言で鉛弾の返事をして目標となる暗号表や作戦書類を回収すると、目撃者を消しつつ撤収した。

 

 「20秒遅刻だ。」

 

 『家主が居たもんでね、世間話してたら遅くなっちまいました。』

 

 「そうか。軽迫撃て。」

 

 それを合図に、死体が見つかったのか騒がしくなり始めた建物が爆発した。

 

 「初弾命中、やるじゃないか。諸元そのまま全力で撃て。」

 

 さらに工廠各所から爆炎、ついには在庫の弾薬に引火したのか魔石特有のカラフルな爆発を起こし、革命軍工廠は跡形もなく吹き飛んだ。

 

 「撃ち方止め、撤収するぞ。」

 

 「『帰るまでが遠足です。』ってね。姫こちらは準備完了です。」

 

 隊長格の自動甲冑(アーマースーツ)が草むらに偽装してあった軽装甲車から声を掛けると、姫と呼ばれた人物は狙撃銃をケースに収め、頷くとその軽装甲車に乗り込んだ。

 

 迫撃砲を牽引する軍用トラックと車列を組む軽装甲車の車内で、

 

 「このところロデニウス産の弾ばっかりだ。」

 

 と愚痴をこぼす隊長格に姫は、

 

 「じゃあ、こっちを使え。」

 

 と技術水準の推測のため持ち帰った、軍閥工廠製の雷管式前装ライフルを手渡した。

 

 「こりゃ弾が飛び出る槍ですぜ。ミリシアルのLA59のほうがまだマシだ。」

 

 軍閥ライフルを弄り回すと有名な駄作銃を引き合いに出し、姫に返した。

 

 なぜ日本から遠く離れた星の裏側大西海、大セーカ国に『大東洋統合警備保障』の日本人が居るのか。これには日本の闇が関係していた。

 

 VOICEROIDシーリズとその廉価版の自律化戦闘人形(ドロイド兵)を実用化した国防軍は、兵階級をほとんどこれに置き換えた。異世界に転移しても少子高齢化の止まらぬ昨今、国民は人が死ぬことに敏感だ。

 死ぬのは将校で充分、これが日本政府、国防軍の方針となった。それに伴いほとんどの旧自衛隊の自衛官は昇任試験と教育を受け士官階級となった。しかしながらそれが叶わなかった者や、新生国防軍が肌に合わなかった者もいた。

 

 軍拡と省人化の両立、その割りを食ったのが彼らだった。下野した彼らの中には国外で民間軍事会社(PMC)を立ち上げる者もいた。この『大東洋統合警備保障』もその一つ、元陸自と、ある組織の元構成員が立ち上げた企業だった。

 

 「俺たちは学が無いからアレですが、姫には情報軍に残る道もあったでしょう?」

 

 「ブリキの兵隊(自律化戦闘人形)と今の政府が気に入らんからさ。使い捨て(ディスポーザブル)同然で働かせたくせに、今度は『日本情報軍』の名で政府の下につかせてやるだって?クソ喰らえだ。」

 

 彼女は以前、情報軍の前身組織に籍を置いていた。しかし日本政府の、前身組織に対するぞんざいな扱いが彼女を始めする一部の人間を出奔させた。

 

 「『南方事件』で何があったか知ってるか?アイツら艦砲射撃で、私らごと吹き飛ばそうとしたんだぞ。その上アニュンリールの呪いでこんな身体になっちまった。どうにか帰ったら古巣は解体、組織は政府の指揮下に入れときた。議事堂ごと内閣総辞職させてやろうかと思ったが、馬鹿らしくなって逃げてきたわけさ。」

 

 遠い過去の出来事を挙げ、自身が情報軍へ移らなかった理由を明かした。

 

 「いつまでも若々しくて結構じゃないですか。で、姫次の仕事は?」

 

 「社長と呼べ、次はユーオソキに行くぞ『帝国』がお呼びだ。河都にヤツが来ているらしい。」

 

 隊長格は、ヤツ?と聞き返す。

 

 「昔の同僚さ、今じゃ情報軍の将校様だ。挨拶くらいはしてやるさ。」

 

 獰猛な笑みを浮かべた彼女と傭兵(コントラクター)を乗せ、軽装甲車は依頼主の元へ走った。

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