新世界の月   作:シコウ

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もう一つのファーストコンタクト

 ファーストコンタクトから4日後、会談前日、ゆかりと少尉改め『大尉待遇少尉』の姿は、サン=ユーオソキ双王国、首都『河都』近郊の砂浜にあった。

 

 しかし、久しぶりの地面を踏みしめるのは二人だけではない。二人とは色違い、薄い緑の制服に身を包んだ陸軍の警務隊担当者が二人と、初夏にもかかわらず背広を着込んだ外務省の人間も二人同行していた。六人はユーオソキの王宮衛士と外交担当者の案内で会談場所の下見に来ていた。

 

 軍人は四人とも腰に拳銃と共に、少尉と陸軍の担当者はサーベル、ゆかりは短剣を帯びている。未だ特権階級の残る国外での帯剣は、トラブルを防ぐため国防軍将校の常識となっている。ちなみに剣術の腕前は、ゆかりは並程度、少尉は生身の状態だと雑魚、とだけ言っておこう。

 

 「こちらが会談の予定会場となっています。」

 

 案内されたのは、ある貴族の別邸だという海辺にほど近い屋敷、見晴らしのいい丘の上からは河都湾が一望できた。

 

 ARレンズの望遠機能を使うと、湾内を行き交う船の中に巨大な影が3つ、乗ってきた客船と『むさし』、『いず』だった。

 

 「ん…、ちょっと少尉(マスター)、アレ見てください。」

 

 屋敷のバルコニーで、紫の髪を海風に揺らし行き交う舟や海を眺めていたゆかりが何かを見つける。

 

 「はいはい、何でしょうかゆかりさん?」

 

 大尉待遇になっても相変わらず少尉(マスター)と呼ばれている彼が目にしたのは、魔石特有の鮮やかな煙を吐いて進む『魔導蒸気船』だった。

 

 「へぇ〜蒸気船か、帆船と風神の涙しかないと思ったけど蒸気船も持っていたとは。…ん?旗が違うぞ、ユーオソキの船じゃないのか?」

 

 二人は知る由もなかったが、その船の名は装甲艦『ヴェステン』、『帝国』大西海艦隊の最有力艦だった。

 しばらく後、もう一度見たときには日本海軍の『むさし』、『いず』の手前を通り過ぎ屋敷の沖合で停泊、錨を下ろしたようだった。

 

 「あんなところで何をするつもりなんだろうね。魚釣りか測量か。」

 

 「さあ?後で海軍にでも聞いてみますか。」

 

 後で調べるか、と思いつつ二人はバルコニーを後にした。

 会談会場の下見を終え港まで戻るため馬車へ向かう六人、用意された馬車が四人乗りだったため先に外交官と陸軍の担当者、後にゆかりと少尉の組み合わせとなった。

 

 「怖い警務(憲兵)さんと一緒は嫌ですからね。」

 

 「ボクたちと似たような仕事じゃない?共同作戦もやったし。」

 

 「少尉(マスター)、被疑対象を暗闇から引きずり出して裁判にかけるのと、暗闇に引きずり込んで消し去るのは、違います。」

 

 「その理屈だとウチの方が怖くない?」

 

 浜沿いの石畳の路を歩きながらそんな話をする二人に、馬上から声をかける人物がいた。

 

 「失礼、ニホンコクの方とお見受けする。」

 

 馬から降りた男は、この国の物とは違う黒の軍服にサーベルを下げている。ええ、そうですが。と訝しげに応える少尉とゆかりに、男は続けた。

 

 「私はヘルムート・フォン・ベルガー、ここから遠く東に離れた国…『帝国』大西海艦隊提督を務めている。」

 

 従者も連れず現れた提督に少尉は、うわぁ…他国の要人か面倒くさいなぁ…と思いつつ心の中に留めて、

 

 「初めまして、日本国防軍大尉の×××です。こちらは部下の結月曹長。さて、提督閣下自らなんの御用でしょうか?」

 

 提督は真っ直ぐ少尉を見据えると、

 

 「貴国ははるか西から来たと聞いている。そこで我が国ともぜひ国交を結んで欲しいと思ってな。あのように巨大な装甲艦と竜母を操る国をぜひ知りたいのだ。良ければ後日あの船…『ヴェステン』に招待させていただきたい。」

 

 沖合の装甲艦を指しそう言う提督に少尉は、アレこの人のところの船だったのか。砲艦外交…面倒くせぇ…何で先に帰っちゃうかな外務省と、思っても顔には出さずに、

 

 「国交の開設を申し出ていただけるとは嬉しい限りです。しかし閣下、申し訳ないが、我々軍人にはその権限が与えられていません。ですが担当の者に取り次ぎはしておきましょう。我々は白い船に乗っておりますのでまた後日。それでは失礼します。」

 

 提督は少し無念そうな顔を見せたが、

 

 「そうか、ではくれぐれもよろしく頼む。私はこの国の海軍学校の教授も勤めている。何かあったらそこに連絡をくれ。」

 

 とだけ言った。

 

 提督と別れた二人は馬車の中で話す。

 

 「さっきの船、装甲艦『東』に似てましたね。」

 

 「うん、それと彼は『いず』のことを『竜母』と言った。彼らが航空戦力を海上に展開できる証拠だ。報告が面倒だね。」

 

 200年ほど前の船をデータベースから例に挙げるゆかりと、かの国が竜母を保有している可能性を確認した少尉、話し込む二人を乗せた馬車は港へと向かった。

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