(世界政府にとって)迷惑系動画配信者   作:伊勢うこ

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(ワンピースの二次小説は)初投稿です。

 最近増えているのでこのビッグウェーブに乗るしかないと思いました。例によってにわか勢なのでそこはご容赦ください。


聖地で奴隷解放したったwww

 

 暗闇の中、大きなスクリーンに映し出されたのは一人のあどけない少女の顔。

 

 

「ハローハロー全世界! どうも、動画配信系海賊のウサギで〜っす」

 

 

 海のならず者を名乗る白髪赤眼、頭頂部の大きな兎耳が特徴的な彼女は、朗らかな笑顔のまま映像を見ているであろう人々に挨拶をする。

 

 

「今回はですね、視聴者の皆さまからいただいたリクエストにお応えする形の企画動画となっております!」

 

「いろんな方からメッセージをいただいていましてね、えーっと『天竜人をぶっ飛ばして欲しい』『天竜人に攫われた家族を解放して下さい』『天上金パクってみて』、などなどですね〜」

 

「バチくそ嫌われてますね天さんwww さすがというか、うん、しょうがないよね、って感じかな」

 

 

 どこからか取り出した犯罪を促す手紙を数枚手に、彼女はケタケタと笑う。

 

 

「まぁそんな感じでですね、今回行う企画はズバリこちら!」

 

「ジャン! 『マリージョアに入って奴隷解放してみた!』です! イエ〜イ!」 (テロップと効果音)

 

 

 明らかに「やってみた」では済まされない行為の予告を、少女は嬉々とした様子で告げた。

 もしこの動画の撮影を生で見ている者がいたら、その多くは顔を青くさせていただろう。何せ絶対に犯してはならないタブーをこれから破ろうというのだから。

 

 

「もうそのまんまですね。マリージョアにお邪魔して〜天さんたちのお気にの奴隷guysを解放していこうかな〜って」

 

「天さんシリーズの、もうこれで何回目だっけな、前回やった『天さんのふりしてインペルダウン行ってみた』もそこそこ評判よかったんでね、続きましたね」

 

「アマス口調もおもろかったけど、次はだえ〜口調やってみたいっすね」

 

「またすぐバレるかもですww ウサギスキー聖www 流石に捻らなさすぎましたね、咄嗟に名乗ったんでね」

 

 

 己の過去の犯罪履歴の一部を盛大に暴露した少女は──

 

 

「それは置いといて! さっそくマリージョアにレッツゴー!!」

 

 

 ──笑顔で次の犯罪に乗り出した。罪の自覚があるのか無いのかは、誰にも分からぬまま。

 

 

 

(場面転換中 ウサギを模したチャンネルマークが映される)

 

 

「はい、というわけで! 今ですね、マリージョアにある奴隷用の独房みたいなとこに来てまーす」

 

 

 所打って変わり、少女は薄暗い地下にいた。

 聖地への侵入という犯行がまだ露見しては困るのか、誰にも見つからないように小さな声で語りかける。

 

 

「監視員みたいなカッコをしてるのはですね、やっぱり怪しまれないようにするためですね、ハイ」

 

「ちなみにこの衣装は現地の方から貸していただきました。今は疲れているのか足元でぐっすりとお休み中です。お疲れ様で〜すww」

 

 

 格好を変えた彼女の足元に映る成人男性の顔は俯いていて分からないが、下着のまま気絶して床に転がっている。

 誰が彼をこんな目に遭わせたかは明白だった。

 

 

「そしてですね、今回はなななんと! 現地の方が助っ人として撮影を手伝ってくれることになったんですよ〜ありがたいっすね〜」

 

「さっそく紹介しましょう! この方で〜す」

 

 

 彼女が指す方向に立っていたのは、大柄な男。

 拷問でも受けたのか。全身に無数の傷跡があり、その赤い皮膚からはより赤い液体が流れている。

 付けられていた首の錠、手錠、足枷は外れ、数カ所ほど少女の手による応急処置なのか、包帯が巻かれている。

 

 

「赤いお肌が特徴的な筋肉モリモリマッチョマン! 『タイ』さんで〜す」

 

「あ、ご本人の要望で顔と声にモザイクかけてマース。個人情報、大事ですからね。その辺はしっかりしていきますよ。リテラシーって奴です」

 

「じゃあタイさん、よろしくお願いしますね〜」

 

『……………………あぁ』

 

「無愛想wwさっきもうちょっと喋ってくれたじゃないすか〜www」 (塩対応ww、の文字)

 

 

 顔と声をモザイクに覆われたタイと呼ばれたその男は、陽気な少女とは裏腹に牢を脱出出来たことと、それを手助けした相手に未だ動揺を隠せない様子。

 

 

『牢から出してくれたことには、礼を言う。だが人間と馴れ合う気にはまだなれない。悪いが…………』

 

「あ、そういうのいいんでww 鍵あったんで他の人出すの手伝ってもらっていースカ?」(コキッ)

 

『あ、あぁ…………ところで、頭についているウサギの耳? のようなものはなんなんだ。ミンク族、ではないんだろう?』

 

「そうとも言えるし、そうでないとも言えますね。その説明をする前に今の動画配信界隈の状況を理解する必要が…………」

 

『いや、結構だ。遠慮しておく』

 

 

 草wwwwwと少女は笑った。

 

 

 

 

 再度場面が移り変わる。

 牢を出てから幾許か時間が過ぎたのか、彼らはこの世界の頂点に君臨する殿上人が住まう地に足を運んでいた。

 無論、ただ足を運ぶに留まるはずもない。

 

 

「ハイ、こちらウサギで〜す。今ですね、奴隷の皆さんを解放し終わってなんか高い塔からお届けしていまーす」

 

 

 少女はやはり、呑気に動画の撮影に勤しんでいる。

 

 

「ヤバイっすね、見てくださいこれ。マリージョアのあっちもこっちもキャンプファイヤー状態です」

 

 

 ごうごうと燃え盛るマリージョアと、解放されそこから必死の様子で逃げ出す奴隷たちを映す。

 一体何人いるのか数えられないほど多くの奴隷が、種族を問わずその突然降って湧いた千載一遇の好機を無駄にせぬために懸命に足を動かしている。

 衛兵たちも必死に彼らを逃さぬようにしているものの、数の暴力の前には無力であった。

 

 そんな彼らの様子は、彼女にとって最高の素材だ。

 

 

「めっちゃ奴隷の皆さんが逃げまくってますね〜人がゴミのようだ! ってやつです」

 

 

 眼下の惨状が見えているのかいないのか。奴隷たちの大脱走という一大事件を前に余裕の表情の少女の耳に、遠くで炎が爆ぜる音が届いても「あ、なんかまた爆発しましたね」と軽いリアクション。

 

 

「タイさんは〜…………あ、いましたいました! 兵隊さん相手に無双状態ですww」

 

 

 協力者となった元奴隷の魚人の元気な姿をズームで映す。他の奴隷たちを逃すべく暴れ回る彼は、駐屯兵や駐留していた海兵をその太い腕で次々と薙ぎ払っている。

 

 

「あ〜また人が吹っ飛んで『おい貴様!』…………んお?」

 

 

 戦闘の実況を始めた彼女に、誰かが声をかけた

 振り返ると、頭から大きな金魚鉢のようなものを被り、全体的に白い装いの男性が一人。

 紛れもなくこの世の絶対的な権力者、世界貴族「天竜人」の一人であった。

 

 

『何をこんなところでボサっとしている! さっさとあの魚類を捕らえに行かんかえ!!』

 

 

 彼は聖地の緊急事態を前にしても動こうともしない彼女に腹を立てている様子。

 尊大な様子の命令とも言える口調に彼女は────

 

 

「どうして行かなきゃいけないんですか?」(早口)

 

『は? ど、どうしてって…………』

 

 

 ────反論を始めた。

 

 

「なんか根拠とかあるんすか? 無いんだったらそれ、あなたの感想ですよね?」

 

『ぶ、無礼な! 貴様ら下々民はわちきらのために…………』

 

「えと、なんだろう、用ないんだったら静かにしてもらっていいですか? 撮影してるんで」

 

『さ、撮影? 貴様何を言って…………! ま、まさか…………!?』

 

 

 男性のこれまでの人生において、反論されたことはほとんど無かった。自分は高貴な存在で、口答えなど許されない。

 にも関わらず、目の前の少女はあろうことか堂々と反論してくる。あまつさえ平伏すらしない。彼にとって理解不能な、完全な未知との遭遇。

 本来ならありえない光景、ありえない状況、あり得ない存在を前にたじろぐ男性だったが、少女が放った言葉から彼女の正体を察した。

 

 だが。

 

 

「えいっ⭐︎」 『ぐえぇっ!?』   バタリ

 

 

 その正体を口にする前に失神させられた。拳で。

 

 

「…………ヨシ!」(安全確認)

 

 

 少女は堂々と天をも恐れぬ大犯罪を犯し、満足げにその一部始終を映像に残した。

 

 

 

「あ、いたいた。タイさーん大丈夫っすか〜?」

 

『っ! あんたか、驚かせないでくれ。奴隷たちはどうなった?』

 

「もう皆大体逃げたと思いますよー」

 

 

 一通り塔の上からの画を撮り終えたウサギはそこから降り、タイさん(仮称)と合流した。

 二人の周辺は既に炎に包まれ始め、もうもうと煙が立ちこめている。奴隷たちはそのほとんどが聖地を後にしたようだった。

 

 

『そうか…………こっちも大丈夫だ。あんたも今のうちに逃げた方がいい。折を見て俺もここを出る。海軍の実力者が来る前に──』

 

「あ、ちょっとこっち寄ってもらっていい?」

 

『…………? 何を』

 

 

 刹那。

 

 

 背後を光る何かが通り抜け、轟音と共に遠くの建物が破壊された。

 

 

『なんっ…………!!?』

 

「あー来ちゃったかー。やっぱもうちょい巻いた方がよかったかなー」

 

 

 爆破された建築物とは反対の方角から、何者かが歩いて来た。煙に紛れ、シルエットしか見て取れない。

 長身痩躯の人物の指が瞬くと、そこから少女に向けて光線が発射されるも容易に躱される。

 またしても後方で爆発音。

 

 

「久しぶりーボルサリーノ君。元気ですかー!? (挨拶)」

 

『お陰さんでねぇ〜。悪いがいい加減大人しく取っ捕まって貰うよぉ〜』

 

 

 現れた間伸びした口調の男の名は、ボルサリーノ。

 ピカピカの実を口にした光人間。現役の海軍本部中将であり、後の大将「黄猿」である。

 

 しかし間違いなく実力者の一人である彼を前にしても、少女はカケラも慌てた様子はなかった。

 

 

「無理でしょww ねぇ大将は、大将。出てもらったら動画の再生回数稼げるんだけど。来てないの〜?」

 

『あいにく全員忙しくてねぇ〜。なんせ誰かさんのお陰で一刻も早く来いって言われたもんで、わっしに出番が回ってきたってわけぇ〜』

 

「あっ、ふーん。そっかぁ…………」

 

『露骨に興味なさそうにしないでもらいたいねぇ〜』

 

「や、だいじょぶだよ。君ピカピカするから映えるし、問題ナイナイ」

 

『勝手に撮るの、やめて貰えますぅ〜?』

 

「だいじょぶだいじょぶ、(全身に)モザイク処理するから」

 

『そういうことを言っとるんじゃないんだがねぇ〜。というか、もう名前出したでしょ〜?』

 

「じゃあモザイク音(ピー)もつけとくね」

 

『人の名前を禁止用語みたいに扱うとか、まったく勘弁して欲しいねぇ〜…………』

 

 

 コントのような会話を始めた二人の横で、タイは覚えのある海兵の名前を耳にして歯噛みした。自分では目の前の海兵には敵わないと判断した故に。

 

 

『ボルサリーノ。こんなところで噂の海軍本部中将の登場か、厄介だな…………!』

 

「あ、タイさん忘れてたww ごめんww てか、知ってるんだ?」

 

『ここに連れてこられる前からな。まぁ、まさか自分がそんな奴と戦うことになるとは思わなかったが』

 

『悪いけど、そっちの魚人にも一緒に来てもらうよ〜』 

 

『ボルサリーノ中将!』

 

 

 戦闘を開始しようとするボルサリーノの後方から、武装した海兵たちが続々と現れる。

 犯罪者を逃さぬよう半円形の陣を敷き銃器を構え、その銃口を二人に向けた。

 

 

『くそっ! 援軍か…………!』

 

「タイさん、もう2歩下がってくれる?」

 

『は? 何を…………』

 

 

 数の優位を失い、追い詰められたと思うタイとは逆に、ウサギは落ち着いていた。

 

 

『君らは下がんなよぉ〜。あれは君らじゃあ…………』

 

『投降せよ、海賊ウサギ!! 貴様もこれまで…………ッ!?』

 

 

 何かが、戦場を走った。

 抗い難い悪寒が、正義の徒を無慈悲に襲う。

 犯罪者を捕らえる目的でこの場に来た彼らは自分達の上官の忠告虚しく、その上官一名を残したまま呆気なく気を失い倒れ込んだ。

 

 

「はい、お掃除かんりょー。ロボットよりはやい掃除、はっきりわかんだね。私じゃなきゃ見逃しちゃうYO!」

 

 

 突然起きた一連の現象に、魚人の男は理解が追いつかないようだ。

 窮地に立たされたはずが、一瞬でそれが覆ったことに驚きを隠せない。

 

 

『これは…………』

 

『って遅かったかぁ〜。しかし相変わらず馬鹿げてるねぇ〜その覇気』

 

「私、何かやっちゃいました? 私の覇気が馬鹿げてるって、弱すぎるってこと?」

 

『分かり切っていることを態とらしく聞きなさんなよぉ〜。腹が立つねぇ〜』

 

「まぁ、戦闘パートもいいけどそろそろでんでん虫君がスリープしそうなので帰りますね。そういう訳だから、最後に盛大にフラッシュしてもらえる?」

 

 

 その一言を受け、その場に唯一残った海兵はニッコリと笑った。

 

 

『お断りだよぉ〜…………!!』

 

 

 ボルサリーノの両の手に、光が集う。

 

 事件の映像はここで途切れ、スクリーンには「ウサギちゃんねるをよろしく!」の文字が映し出されていた。

 

 

 

 

 

 偉大なる航路、某海域

 

 マリージョア襲撃事件から一夜明け。

 大勢の奴隷を解放した彼らは現在、朝焼けの海に浮かぶ一隻の船の中にいた。

 にんじんを咥えた兎を模したファンシーなデザインのその船の一室。「せんちょーしつ」と丸い文体で書かれた扉の内側で船の主人は画面を見ながら忙しなく手を動かし、赤い魚人はそれをどこか落ち着かない様子で見ていた。彼が落ち着かないのは、薄暗い部屋の中がやけに多いコードや、菓子、ぬいぐるみで散らかり足の踏み場もないこともあるが。

 

 

「アンタには助けられた、礼を言う。アンタの助力がなけりゃ今頃みんな…………」

 

「あーいいのいいの気にしないで。それよかそっちのデコデコ電伝虫とって?」

 

「あ、あぁ。このやけに派手なやつか?」

 

 

 感謝の言葉を軽く流された赤い魚人、タイガーは床に転がっていたやたら飾り付けられた電伝虫を拾い、恩人である彼女の手元に置いた。

 

 

「サンキュー。ところでタイさん、これからどうすんの?」

 

「俺はひとまず、一度故郷に帰ろうと思っている。みんなに顔を見せに行きたい」

 

「ふーん、そっかぁ。がんばえー」

 

 

 彼女は画面から顔を動かすことなく礼を告げ、タイガーがこれからとる行動にも然程興味を示さずにカタカタと忙しなく作業を継続している。

 

 

「アンタは? それに、この船に乗せた奴隷たちをどうする」

 

「んー、とりあえず返せそうな人たちは返しに回るかなー。あとはシャボンディにいる知り合いと相談って感じ?」

 

「そうか。なにかあれば言ってくれ。この恩は必ず返す」

 

 

 その言葉を待っていましたとばかりに、座っていた椅子ごとぐるりと勢いよく体を回転させてタイガーの方へと向けた。

 

 

「ありがとナス! じゃあ早速動画の編集を…………」

 

「他の連中の様子を見てくる」

 

「あぁ〜嘘つきぃ〜何でもするって言ったのにぃ〜」

 

 

 ブーブーと文句を言う少女の姿は、自分達を地獄から解き放った大恩人とは信じがたくなるほど無邪気なもの。

 だが聖地にこっそりと侵入したり、鍵がなければ外せないはずの首の錠を素手で外したり、大勢の海兵を一瞬で戦闘不能にしたり、中将を相手に余裕綽々に逃げ切ったりと、色々と得体が知れないのも確かだ。

 

 彼女が自分の目の前に現れた時を思い出す。

 まだあれから一日と経っていないが、出会ってからの時間が濃すぎた。

 

 薄汚れた牢の中。

 人間に囚われ理不尽な目に遭い、深い絶望の中にいた自分。人間に失望し憎しみすら抱き始めていたが、そんなこと知ったこっちゃねぇとばかりに彼女はタイガーを解放した。

 不信感から何が目的かを問えば、「動画の撮影」とよく分からないことを喋り出し、助け出した対価にその撮影に協力しろという。タイガーは他の奴隷たちも逃すことを条件に、彼女の言葉を呑んだ。モザイクは念のためかけてもらった。

 

 

「言っていないが…………なぁ、アンタもしかして」

 

 

 奴隷として捕まる前。冒険家として世界を回っていたタイガーには、少女の正体に一つだけ覚えがあった。旅の途中で時折耳にした、大海賊時代より前から活動する海賊の一人。

 

 

「あえ、言ってなかったっけ? 私はね──」

 

 

 

 

 

 映像投影用の電伝虫の瞳が閉じる。

 

 映像が終了したとあっても、視聴していた者たちの表情は晴れるどころか一層厳しいものになっていた。

 

 

「以上が、今からおよそ16年前に起きた聖地襲撃事件の様子です」

 

 

 偉大なる航路前半の島、マリンフォード。

 そこに聳え立つ正義の要塞・海軍本部の一室では、現在ある海賊の脅威の対策と再認識を目的とした試聴会が行われていた。

 本部所属の将校の多くが集められ、改めてその海賊の異常性を危険視する。遭遇した経験を持つ者の中には、苦虫を噛み潰したような表情になる者までいた。

 

 

「この他にも奴が世に放った映像はいくつも存在し、デビュー作と言われているエッドウォー海戦を記録した『ウチの船長と金獅子の大喧嘩撮ってみた』や、『クラーケン見つけたったww』、『アラバスタの砂漠でオアシス掘ってみた』など他多数。また、天竜人に対しても幾度となく問題行動を起こしていますが、政府が特に危険視している理由としましては、かつてオハラで行われたバスターコールの────」

 

「あぁ、よく分かった。それ以上は言わなくて結構だ」

 

「はっ」

 

 

 司会のブランニューの進行を途中で止めたのは、彼の上官だった。

 がっちりとした体躯にアフロヘアー、編んだ顎髭、丸眼鏡が特徴的な男。

 彼こそがこの海の安寧と秩序、平和と正義を背負う全海兵の頂点に立つ男。

 

 海軍元帥・「仏」のセンゴクだった。

 

 

「つくづくイカれた女だ、今思い返しても頭が痛くなる。いや、胃の方が…………」

 

「情けないこと言うんじゃないよ。しっかりおし」

 

「しかしおつるさん……」

 

「そうじゃぞ、センゴク。おつるちゃんの言う通りじゃ。…………ところでこれ新しいやつは見れんのか?」

 

「勝手に触るな見ようともするな聞いているのかガープぅ!!」

 

 同期である海軍中将「大参謀」おつるに叱咤された彼の胃の荒れようを加速させたのは、同じく同期であり中将である海軍の「英雄」、生きる伝説とも言われるモンキー・D・ガープだった。

 

 

「ガープ貴様、他人事だと思って…………! 私がどれだけ上から文句を言われているか知っているのか?」

 

 

 痛む胃の辺りを撫でながら、相変わらず破天荒で勝手極まる戦友へ恨みがましげに愚痴を吐く。

 センゴクの問いに対して、席に戻ったガープは手元の茶を啜ったあと、こう言い放った。

 

 

「知らん!」

 

「あぁそうだろうな!! 貴様に聞いた私がバカだった!」

 

「センゴク元帥、そのあたりで」

 

 

 部下に諌められ、大きく息を吐いて切り替える。ガープは煎餅を齧り出したが無視した。

 

 

「まぁいい。それで、今奴はどこに?」

 

「現在は新世界から偉大なる航路前半の海に移ったとの情報が入っています。目的は不明ですが、恐らくまた新たな動画を撮る為かと」

 

「また随分と動いたな…………! 待て、サカズキ! 何処に行く?」

 

 

 会議室から退出しようと席を立ったのは、海軍最大戦力である「三大将」の一人。

 悪党への燃え沸る敵意を抱き、徹底的に叩き潰すことを正義に掲げる海兵。

 赤犬ことサカズキだった。

 

 

「決まっちょろうが。奴の居る場所が割れたのなら、ワシが出る」

 

「おいおい、そいつはちょっと急ぎすぎじゃねーの? 場所だってまだかなりアバウトだろ」

 

「君一人で大丈夫か〜い?」

 

 

 逸る赤犬を留めたのは、残る二人の大将。

 青雉・クザンと黄猿・ボルサリーノだった。

 

 しかし二人の態度が気に障ったのか、赤犬は鋭い視線を彼らに向けてギロリと睨みつける。

 

 

「貴様らがいつまでもトロトロとしちょるから、奴に好き勝手されるんじゃ…………! 大体ボルサリーノ、貴様があの場で奴を仕留めておけば…………」

 

「そこまでだ! …………本気で奴を捕らえるなら、こちらも相応の戦力を動かす必要がある。最低でもお前達のうち二人には出てもらうつもりだ。命令が下るまでは、勝手な真似はするな!」

 

 

 仲違いを起こされても困る元帥は、口論になるより前に口を挟んだ。

 

 

「ぬぅ…………!!」

 

「そりゃぁ、大捕物になりそうだ。気が重くなる」

 

「おぉ〜責任重大だねぇ〜」

 

 

 納得はいかないが一定の理解はしたのか、サカズキは席に戻り、他の大将二名はいずれ下される命令にそれぞれの反応を示した。

 サカズキを諌めたセンゴクは、話の続きを部下に促す。

 

 

「それではここで改めて、分かっているだけではありますが奴の経歴と現在の懸賞金を説明したいと思います」

 

 

 ブランニューの進行に合わせて、映像でんでん虫がスクリーンに映す対象を動画から手配書に載る海賊の顔へと切り替える。

 大勢の視線の先に映るのは、海賊とは思えないほど幼い少女の純粋な笑顔。一見すると彼ら海兵が守るべきか弱い市民の一人にしか見えないが、この場において素直にそう捉える者は誰一人としていない。見た目には騙されない。彼等はそれが悪魔の微笑みだと知っているから。

 

 

「出身地、正確な年齢は不明。ですが幼い頃より海賊王の船に乗っていたことが確認されています。容姿に関しましては今の姿から数十年変化が見られておりません。ロジャー海賊団乗船員時代から動画撮影を始め、それを世界に拡散。解散後は単身で世界各地に出没、問題あるものを含め数多の動画を無差別的に世界中にばら撒き始めました」

 

「過去には複数名の本部中将が率いる部隊から逃げおおせており、当時の大将による作戦も同様に失敗に終わりました。また、CPからも刺客を放たれるも逆に彼らを捕え、動画編集作業をさせる様子を配信しましたが、こちらは現在おおよそのデータが削除されております」

 

「さらに革命軍とも繋がりがある可能性が示唆されており、政府関係者からも奴を危険視する声は年々増加しています。そのため世界政府にとって最も厄介な犯罪者の一人と言えるでしょう」

 

「一般市民に危害を加えるでもなく、海軍や政府に積極的に攻撃を加えるでもなく、ナワバリにも興味を示さず。海賊らしい行為には殆ど手をつけないにもかかわらず、ただ無邪気に動画を世界に流し続けるヤツの首に政府が懸けた金額は────」

 

 

 

“配震“ ウサギ

懸賞金 33億8千2百10万ベリー

 

 

 

 

 

「────かわいいかわいいウサギさんだぜぇ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 以下設定など

 

 

 character

 

 name:ウサギ

 

 

 殆ど海賊らしいことはしない、自称海賊。ただし海賊相手の略奪はよくやる常習犯。

 

 二つ名は、時に世界を震撼させるような動画を撒き散らすことから“配震“。また世界を股にかけるフットワークの軽さと逃走能力から“高跳び“とも。船の名前はラビット・ファイア号。

 

 普通のおもしろ動画から世界政府にとって不都合なものまで世界にお届けする、謎多き困った旅する兎娘。ミンクではなく、種族は普通の人間。兎耳はキャラ付けのためにつけてる。一部からカリスマ的な人気を博す。

 

 懸賞金の額の33億は(兎の)耳から、それより下の数字はバニー(821)の語呂合わせ(バニーガールの格好はしていない)。こんなに高くなったのは誰に追われても捕まることがないことと、長年の積もり積もった彼女に対する世界政府の怒りと危険視の証。過去には色々と表には出せないようなものまで流出し、そのため政府役人が火消しに奔走することになるケースも。ただ裏ではその動画データが高値で取引されているとも噂される。

 また、彼女の対策に頭を抱えた政府はかつて七武海への勧誘を行ったことがあるが、動画のネタにされただけだった。

 

 彼女の登場まで動画配信・投稿は文化として無名だったが、以後は彼女とその動画の知名度が上がるにつれて広がりを見せる。動画を配信する者も次第に増えていったが犯罪行為に手を染めるケースも発生、海軍や政府が対応にあたることが増えた。そのため規制がかかるようになり、元凶として彼女を危険視する要素の一つに。

 

 実力に関しては元ロジャー海賊団のクルー故か高く、特に覇気の扱いに優れる。ただ戦闘自体に大した興味はなく、毎回テキトーにやって逃げるため底が知れない。四皇相手にも逃げ切る程。戦って勝てはしないが。推定、非能力者。

 動画配信に関してはロジャー達はいくつかの決まりごとを守らせた上で彼女の好きにさせていた。その上で彼らも面白がっていた様子。

 

 動画配信に関しては映像配信電伝虫を利用。

 映像配信電伝虫の登場以前は映像電伝虫を使って撮影、編集したそれを各地の電伝虫を(勝手に)利用して放送したり、生配信したり、映像を記憶させた個体をばら撒いたりしていた。映像配信電伝虫は原作新世界編開始の3年前からその存在が確認されていると見られるので、そのあたりからウサギも利用し始める。

 

 ちなみに一番有名になったのは「空島行ってみた」という動画。これ自体は特に政府に問題視されていないが、海賊たちや一般市民の間で話題を呼んだ。実際に自分も空島に行くという者が増えたが、それにより道中で壊れた船と死者も増えることとなる。

 

 革命軍との関係は政府も把握し切れていない。実際はドラゴンや一部幹部と面識がある程度。協力関係にあるとは言い難いが、敵対しているわけでもなくお互いに不干渉に近い。

 

 

 聖地マリージョア侵入・襲撃並びに奴隷解放によりフィッシャー・タイガーは公には主犯として懸賞金がかかり、公式では犯人扱いされていないウサギの懸賞金額も密かに上がった。

 事件自体が本来より早く引き起こされたことで、タイガー他、捕まっていた奴隷(ハンコックたち三姉妹など)達は原作より少し早く解放されることに。解放された後、彼らの多くはウサギに送り届けられた者、シャボンディについてから別れた者、シャボンディ諸島に住む彼女の知り合いの手で故郷に送り届けられた者に分けられる。

 

 タイガーは一度魚人島に戻り、タイヨウの海賊団を結成。以降、彼とウサギとの接触は少なくなる。

 

 

 

 終わり。




最後まで読んでいただきありがとうございました。
続きは完全未定ですが感想、高評価等いただけると嬉しいです。それでは。

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