すまない・・・・・・まだなんとなくしか決まってないんだ・・・・・・空前絶後の設定ガバガバ作品ですまない。
そんな作品にも関わらず応援していただいております。本当にありがとうございます。がんばるます。
偉大なる航路前半の島 シャボンディ諸島
幾つもの巨大なマングローブが集まって形成されているその特殊な島では、日頃から騒ぎが絶えない。海軍本部や聖地マリージョアが近くにあっても、あるいは近いからこそ。
偉大なる航路後半の海“新世界“へ乗り込もうとする無法者たちの衝突、彼らを捕らえんとする海軍との争い、人攫いに奴隷売買、世界貴族「天竜人」の起こす合法の諸問題。
島の根から次々に浮かんでくるシャボン玉のように、この諸島で起こる問題は尽きることがない。
そして今日もまた、人々を騒がせる問題が起きていた。
『ハローハロー全世界! どうも、動画配信系海賊のウサギでぇ〜っす! 今回はですね、このたくさんゲットした天さんたちがいつも被ってる透明ヘルメットの耐久実験を────」
「撮れ! 撮りまくれ!! ウサギがまたやったぞ!」
「本社! こちらシャボンディ諸島取材班! スクープ、スクープです! すぐに号外を────」
「放送を止めろ!! 電伝虫の電源を切れ!」
「ダメです大佐! 外部から遠隔で操っているようです!」
「CPは!? 政府の役人どもはどうした!?」
「も、もう間も無くかと!!」
シャボンディ諸島の中央エリアでは、設置されたスクリーンにある海賊による映像が映し出されていた。
どんな非道を行おうと許され、絶対的な権力を持ち、あらゆる存在を跪かせてきた世界貴族相手に盗みを働き、さらには彼らの持ち物をおもちゃにするという、およそ正気の沙汰とは呼べない行動。
それが白昼堂々映し出され、人々は身分も種族も問わず足を止めその映像を見ていた。ただしその表情は、大きく分けて喜悦と焦燥の二つに分かれていたが。
「下がって! 下がってくださーい!!」
「撮影は許可されていません! お引き取りを!!」
「そんなわけにいくか! 撮らせてくれ!」
「またあのイカれ海賊がやりやがった!! 天竜人に!!」
「引っ込め海軍──!!」
とても世間に流せないような代物を巡って、現場は騒然としていた。
映像を一刻も早く消し、騒ぎの収拾をつけようとする政府側の海軍。彼らの圧力にも負けず意地でも映像を撮ろうとするジャーナリストたち。それを外から見る民衆と、遠巻きに騒ぎ立てる海賊まで。
海兵たちの規制に負けじと押し寄せるマスメディアと一般市民の波は、暴動のそれにも似ていた。
まさに混沌とした状況だが、海兵たちは意地でなんとか抑え込んでいる。
「まだ掛かるのか!? 早くしなければ、マスコミ共がこのことを…………」
「大佐殿!」
「今度はなんだ!?」
「報告! 現在このシャボンディ諸島全域で問題映像が流されている模様! ここだけではありません!!」
「なんだと…………!?」
彼らの思惑を嘲笑うように、事態は悪化していく。
これがただの海賊による暴動ならばまだマシだっただろう。その海賊を取り押さえれば収まるのだから。
しかし元凶はこの場にいない。よって捕まえることは出来ず、彼らには映像を止めるしか手段がない。尤も犯人がこの場にいたところで拿捕可能かは別の話だが。
「本部に援軍の要請を出せ! 大至急だ!!」
「りょ、了解!!」
相手は世界でも屈指の厄介者。暴力ではなく、映像で政府に被害を与える異端の海賊。
一度でも捕まえることが出来た者は一人として居らず、今現在ものうのうと野放しにされている無法者。それもタチの悪いことに、一部の市民から支持を得ているような。
電伝虫一匹で世界を震撼させてきたヤツの名は────
「貴様の好きにはさせんぞ、“配震“ウサギ…………!!」
海軍本部大佐が空を睨みながら吐き捨てた言葉は、誰に聞かれるでもなくシャボン玉と共に宙へと消えた。
一方。
諸島全域で映像テロともいうべき騒動が起こる中。
“13“と記された巨大マングローブの上にひっそりと建つその酒場は、表の騒ぎなどあずかり知らぬとばかりにいつも通りの空気を保っていた。
一人の客を招いて。
「ゔぁ〜さひぃ〜すぅぱぁ〜〜どぅらぁ〜い」
「ふふ、仕事の後の一杯は美味いかね?」
「そりゃあもう! あ、シャッキー次こそビールちょうだい」
「あらダメよ、ウサちゃん。17歳なんでしょ?」
「ちぇー」
店主から酒の代わりに出されたジュースを受け取り、ぐびぐびと飲み込んでいく兎耳が特徴的な少女。
カウンター席に陣取る彼女は、いい仕事をしたとばかりに晴れやかな表情。実際にやったのは仕事ではなく、ただの違法行為だが。
「最近調子はどうだ?」
「っぷは! いや〜絶好調だよ。今日のやつもいっぱい見てもらえるんじゃないかな」
少女と一つ分席を隔てて座る老人は、グラスを傾けながらご機嫌な少女に近況を尋ねた。
歳相応の白髪に白い顎髭を蓄え、眼鏡をかける彼は少女と数十年来の付き合いであり、かつて同じ船に乗っていた仲間。外見だけ見れば祖父と孫娘の会話にでも見えるだろう。
老翁はおよそ半年ぶりに店を訪れた相変わらずの彼女の姿に笑みを浮かべている。
「まさか今この島を大騒ぎにしている張本人が同じ島の中にいるなんて、誰も思わないでしょうね」
「あれだよあれ、放火魔は現場に現れる的な? ん、あってるっけこれ?」
酒場の店主であるシャッキーことシャクヤクもまた少女の古い知り合いであった。かつては海賊だったが、足を洗い現在はこの「シャッキー‘sぼったくりBAR」という名の通り法外な料金を(知り合いや気に入った相手以外から)請求する酒場を営んでいる。
「ところで表が随分賑やかだったが、今回はどんなものを撮ったのかね?」
「んとねー、天さんたちのヘルメット使った実験。引っ張ったりー、ぴこぴこハンマーで叩いたりー、深海に持っていったりー、火山の噴火口に放り込んだりー、あと巨人にぶっ叩いてもらったりしたよ」
「ハハハ、昔と変わらず自由だな君は!」
「あら、面白そうね。私も後で視ようかしら、ウフフ」
「お〜じゃんじゃん視ちゃって視ちゃって。ウサギちゃんねるをよろしく〜」
半年ぶりに顔を合わせた知己にも宣伝を怠らない。それが自称動画配信系海賊である彼女のスタンスである。
「そっちはどうなの? 儲かってる?」
「この店はそこそこね。まぁ、この人の方は…………」
「個人のコーティング屋など、そう儲かりはせんよ。私のは実益を兼ねた趣味みたいなものだしな」
金は無くなれば身売りでもして盗んでくるさ、と普通なら思いついてもできないような方法で実際に何度か成功しているあたり、彼もマトモな人間とは言い難かった。
「じゃあ私のチャンネル出る? 知名度上がれば依頼増えるかも!」
「勘弁してくれ。私のような老いぼれが出しゃばったところで誰も喜ばんだろう。そういうのはもっと若い子に頼むといい」
「海賊王の右腕ならみんな視ると思うけど?」
「それで注目されても困る。もう隠居した身だ、今更海軍にしつこく追われてもな。それに、私は静かな老後を過ごしたいのでね」
「現役の時は騒がしかったからね!」
「全くその通りだ、ハハハハハ!!」
海賊としての在りし日々。
何かあれば宴を開き大騒ぎしていた頃を思い出してか、老翁と少女は愉快そうに笑う。
そうして昔話に花を咲かせていると、おぉ、と老人は何かを思い出した様子。
「そうだ忘れていた。この間シャンクスに会ってな、君に会ったらよろしく言っておいてくれと頼まれたよ」
「お、懐かしい名前。じゃああの子遂に自分で新世界に行ったわけだ。うんうん、立派になったようでお姉さんは嬉しいよ…………。ん、バギーは?」
海賊王の船員時代、彼女にとって弟分だった二人の存在。赤い髪が特徴的なシャンクスと、対照的に青い髪に赤い鼻が特徴のバギー。少女が彼らに最後に会ったのは、海賊団が解散した頃だった。
「なんでも、東の海で今も海賊をやっているそうだ。一緒にはいなかったよ」
「へぇー意外。てっきりカメラマンか旅の芸人でもやってるかと思ってた」
「君が散々連れ回しては、撮影に付き合わせていたからな」
「そう! 私が撮影技術を叩き込んで育てました!」
「ぶぇっくしょい!!」
「どうしました船長? 風邪ですか?」
「いや、今なんか悪寒がな・・・・・・知ってる誰かが俺様のことを噂したような…………」
「大丈夫ですかキャプテン? 鼻赤いですよ?」
「だぁーれがとっても立派な赤っ鼻だコラァ!!」
「ぎゃああああああ!?」
ひとしきり笑った後、老翁はグラスの中の氷を酒の中に泳がせながら話を続けた。
「シャンクスからもう一つ面白い話を聞いてな」
「面白い話?」
「東の海に、ロジャーと同じことを言った子供がいたそうだ」
「!」
彼らの乗った船の長、今や伝説となった“海賊王“ゴールド・ロジャー。今も船員たちの心に刻まれる彼の生涯の中でも、一際記憶に残るあの言葉を口にした子供がいることに少女は驚き目を見開いた。
「ほぇー、変な子」
「あぁ、私も驚いたよ」
「嬉しそうだね」
「ふふ、そうかね?」
「そうそう。あとなんていうか、懐かしそう?」
煙草をふかす店主に見守られながら、昔話は続く。
グラスに酒を継ぎ足し、老人はその水面に視線を落とす。
「かもしれんな。気付けばあれからもう10年以上経つのか。懐かしく感じるはずだ」
「はやいねー。あっという間だったよ」
「君はあの時、あの場にいなかったんだったか。私が言えた義理ではないが、何故?」
「んー、色々あるかなー。処刑前に一回会ったし、人が死ぬところを撮るのって基本的に私の主義に反するし、それに────」
からん、と乾いた音。
「────あの人の死に様は、私が撮らなくても残るものだと思ったから」
『おれは死なねェぜ…………? 相棒…………』
「…………そうか。そうだな、そういう男だった」
己の船長が最後に己にかけた言葉が脳裏に過ぎった。
酒をあおった老人の目元は、うっすらと赤らんでいるように見える。
「最後まで派手だったね」
「あぁ。死に際に時代を変えるなど、誰も想像していなかっただろうな」
海賊王の最期。彼の処刑が一つの時代の終わりを告げることを予想した者はいただろうが、それまで以上の怒涛の時代の到来を予期した者はいなかっただろう。
海賊は減るどころか、大秘宝を求める荒くれどもが海に出たことでさらに増加した。男の死に際の一言が、世界を変えたのだ。
これが、今に続く大海賊時代の始まり。
旧い時代の終わり。
伝説は終わり、また新たな伝説が始まったのであった。
すっかり辺りの陽が落ち、黄昏が顔を出す。
諸島中を騒がせていた映像は既に消え、島には静けさが訪れていた。夕日とそれに照らされたシャボン玉が織りなす幻想的な風景は、昼間の喧騒を忘れさせるほど美しい。
グラスの中の氷の塊は、すっかり溶けていた。
温くなった果実水を飲み干し、少女は知り合いからは金を取らない店主へ紙幣の代わりに彼女の撮った動画が保存された映像電伝虫をカウンターテーブルに置いて立ち上がる。
「なーんかしんみりしてきたし、私そろそろ行くね」
「あら、ウサちゃんもう行くの? 忙しいのね」
「次の動画を撮らないとだからね。こう見えて多忙なのです」
「そう。またいつでも来なさいな」
「うん! ジュースありがとね、シャッキー!」
「いいのよ。撮影、応援してるわ」
「ありがとー! また来るから!」
店主に別れを告げ、兎耳の少女は出口の扉に手をかける。
「そういえば、九蛇の娘たちが君に会いたがっているそうだ。顔を出してやるといい」
「オッケー! じゃあ近いうちに行くってBBAに伝えといて!」
「あぁ、伝えておこう」
去りゆく彼女の背に、老翁は顔を向けずに伝言を告げた。
かつて共に死線を乗り越えた同胞との一時の別れに、そう多くの言葉はいらない。
「じゃあね、レイリー! またね!」
「あぁ。達者でな、ウサギ」
冥王は、少女の背を見ずに彼女を見送った。
この島に浮かぶ泡沫のように、どこまでも高く飛んでいく姿を瞼の内に浮かべて。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
ワンピースの世界では何歳から飲酒出来るのか分かりませんが、この作品では18からということで。まぁ無法者ばっかなんですけど、ヨホホ。
2話続いて伝説のジジイがメインに登場したので次回はもうちょっと、あるいはもっと若い世代を登場させたいと思っています。
皆さんの感想、高評価が励みになっております。引き続き応援のほどよろしくお願い致しします。それでは。