よふかしのあじ   作:フェイクライター

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 Happy birthday! 夜守コウ!
 というわけで、コウくんの誕生日なのでナズコウを書いてみました。楽しんでいただければ幸いです。

 あじでの投稿なので、一応その要素も入っています。


Ex-Night(原作キャラでの短編)
Ex-Night1「おそろい」


『夜遊びなんて不純くらいがちょうどいいぜ』

 

 夜を楽しむための心得のようなモノを以前七草ナズナに言われたことを夜守コウは思い出した。

 あの時–––誤ってラブホテルに入った時–––ナズナを友達として見ていたコウにとって悪くない嗜みだ思ったのを覚えている。清濁併せ呑むとは少し違うだろうけど、ナズナと過ごす善し悪しや喜怒哀楽の行き着く先が『恋』だったら良いなと。

 

(だけど……)

 

 そんなコウは今、買い替えて間もないふっかふかなベッドの上でうつ伏せになりながら必死に声を押し殺していた。

 コウの中で渦巻いているのは羞恥でもあったし、興奮でもあっただろうし、危機感でもあったはずだ。心の中を激しく駆け回る羞恥と興奮の想い自体は経験があった。

 友達–––朝井アキラ–––の前でナズナに吸血された時の恥ずかしさ。

 ナズナが添い寝屋の手伝いをする代わりに《チュー》をしてあげると言ってきた時の興奮。

 その後も何度かそうした場面があって徐々に耐性がついてきたと思っていたコウだった。

 

(だけど、これは……)

 

 しかし、危機感。

 これだけはどうしても。

 

「次は首のツボを押していくよ」

「う、うん……」

 

 目と鼻の先にナース服から伸びる真っ白で綺麗な白い脚が現れたことにコウは更に強い危機感を覚えていた。

 今コウはナズナのマッサージを受けているのだ。

 

(これは不味いだろ……!!)

 

「ふふふ……うふふ……」

 

 青少年の純情を指で撫で弄ぶような微笑みを浮かべながらツボを押すナズナにコウは耐えきれず顔をベッドに埋めた。

 

 

 

 なぜ、こうなったかと言うと––––––

 

 

 

 昨日は大雨だった。

 強風に攫われるように横薙ぎに空を走り、地にぶつかり弾ける雨音が街中に鳴り渡っていた。10月だというのに台風がやってきたのだ。

 当然その日、コウはナズナに会えなかった。

 その分、晴れた今日は星々が迎えてくれるような晴天で、絶好の夜遊び日和だった。

 いつも通りコウはナズナの家に、ナズナはコウの家に向かおうとして、その道中、それぞれのトランシーバーのけたたましいブザー音が鳴り渡った。

 近くにいた。

 これ以外に連絡手段が無いとはいえ、片方は家で待っていても良いはずなのにどちらも相手の下へ歩き出していたのは、双方ともに会うことを望んでいたからに他ならなかった。

 そこから空いてしまった一日を取り返すようにふたりは街を回った。

 ナズナの弱点の抹消をする必要がなくなったいま、特にすることはないが、逆に言えば明確に目的がなくても会いたいのだ。それは相手といるだけで楽しいから。

 街中をぶらぶらと歩き回る。

 自堕落に使い倒すように車道の真ん中を歩いていく。

 

「あ」

 

 視線の先から暗闇を裂くように光が差した。

 ふたりはそれがすぐに車のヘッドライトだと分かり、歩道に移ったものの……タイヤが水溜まりの上を通り、ビシャアアア!と水が跳ねた。

 それは車道側で歩いていたコウの身体めがけて飛んできて、

 

「…………」

「……お、おう…………コウくん、大丈夫?」

 

 頭から被るように雨水を受けたコウの身体は全身がびしょびしょになってしまっていた。ジャージの中のシャツまでも濡れてしまって、体に張り付いてジメッとした生温かさが不快感を煽る。

 コウは不服そうにため息をつきながら、ナズナに目をやった。

 

「ナズナちゃんこそ大丈夫……って全く濡れてない!?」

「アタシはスリ抜けれるし」

「ホント便利だなその能力!!」

 

 人間と吸血鬼の違いを思い知りながら、『ナズナちゃんにかからなくても良かったよ』と呟いて自分の服装を再び見下ろす。

 これはダメだ。

 しかし、着替えなんてモノを持ち歩いているわけではないし、家に帰ろうにも結構歩いてしまっているため時間もかかる。ナズナに抱えてもらって家まで行くのも手ではあるが、せっかく無事だったのに自分のせいで濡れてほしくはなかった。

 

「じゃあアタシん()が近いし、行こっか」

 

 洗濯機や乾燥機もあるから2時間ぐらいあれば乾くよ、と言われたので承諾する。

 

「あ、流しっこする?」

「しないよ!!」

「あはは〜〜」

 

 いつものように揶揄われ、楽しそうに笑うナズナと頬を膨らませるコウは一緒に歩き出した。

 

 

 

 

 暫くして、お邪魔しますと小さく頭を下げたコウはナズナの家に上がる。

 最初は身体はタオルで拭くだけでやり過ごすつもりだったが、風呂も沸いているとのことで「せっかくなら入ってきなよ」とナズナにおしこまれるように浴室に入れられた。

 悪いなと思いつつ、軽くシャワーを浴びてから湯船に浸かって身体を温める。

 

「はぁああ〜……」

 

 水浸しになったのに加えて、最近気温が下がってきたのもあり温かい湯の中に体を沈めるのがとても気持ちよかった。

 身体が整って落ち着いてくるコウの中にある思考が生まれる。

 

「ナズナちゃんのお風呂……」

 

 いつもココを使っているんだよなと邪な妄想が、湯船から昇る湯気のようにホワホワと湧き立ってくる。自分と同じようにナズナが裸になって、湯船に浸かって、シャワーを浴びている姿を想像する。

 赤らめた頬を見えない誰かから隠すように鼻頭まで湯船に浸かって、ぶくぶくと泡を立てる。

 女の人が嫌いというコウではあるが、ナズナと出会ってからある程度治ってきた。それに吸血鬼のセリしかり、バーの女定員しかり、胸元を見れるチャンスがあれば無意識に目が行ってしまう助兵衛な年頃の男の子である。

 特にナズナは普段から上着を剥げばほぼ下着だけなのだから、想像してしまうのは無理ないだろう。

 

時々パンツのチャク開いてるんだよ(ぶぶぶくく、ぶく、ぶくぶくぶく)……あんまり他人に見せて欲しくないな(ぶくぶく、ぶくぶぶく、ぶくぶくぶく)

 

 コウが言ってもナズナは辞めないだろう。

 彼女自身の趣向や主義の範疇にあることで()()()()()()()()()()()()()のだ。

 とはいえ独占欲が思いの外強い–––本人感覚–––コウからすればあまりよろしくない。

 どうしたものかとカウンターに置かれたシャンプーを見つめていると、

 

「お〜いコウくん」

「は! えなに!?」

 

 突然ナズナから声をかけられて慌てて湯船から飛び上がる。

 振り返ってみると浴室のドアの曇りガラスにぼやけているがナズナの姿が映っていた。

 

「どうしたん?」

「い、いやなにも。それでナズナちゃん、なにかあったの?」

「着替え持ってきたからさ。籠の中に置いとくね」

「ありがとう」

 

(長く浸かってるのも悪いし、そろそろ出ようかな)

 

 2時間も入り続けるわけにもいなかいコウは、ナズナが脱衣所を去ったあと入れ替わるように浴室を出た。

 バスタオルで全身を拭いてからナズナが用意してくれた着替えに手をつける。

 

「あれ?」

 

 籠の中に紙が置かれており、それを見ると、

 

『いまコウくんが着れそうな服これしかないの』

「……」

 

 籠には確かに着替えがあるのだけど、コウが想像してたものと違った。手に取り広がるのは丈の短いズボン。ナズナがよく履いている女性モノのショートパンツであった。

 それもそうだろう。

 なんせここは女性であるナズナだけが住むこの雑居ビルに、コウが履ける男物の服が置いてあるはずないのだ。

 

「ナズナちゃん!」

「ん〜〜なに?」

 

 コウが彼女の名を叫べば、少し間を置いて脱衣所のドアの奥にナズナが現れる。ドアひとつ隔てた先にいるナズナにコウは訊ねる。

 

「服ってこれしかないの?」

「うん、ないよ。紙にもそう書いたじゃん」

「流石にコレは恥ずかしいよ。ズボンだけでも……ほら、前に着たナース服のズボンとかさ」

「アレも干してて着れないよ。コウくんの服もまだ洗濯機の中だし」

「そんなご無体な……」

「因みに代わりに着るとしたらスカートになる」

 

 コウはヒラヒラとしたスカートを履いた自分を想像し、背筋を震わせた。

 どちらが良いかなど分かりきったモノだった。

 

「じゃ、アタシしゃゲームしに戻るから」

「分かった」

 

 余計なことを考えないように目を閉じて一息で服を着替えていく。

 膝より上の丈のズボンを履き、そして白いシャツに腕を通す。女性モノの服に袖を通すという男としての尊厳を放り投げるような行為だ。

 

(……どこかで嗅いだことのある匂い)

 

 さらに目を閉じたことで鋭くなってしまった嗅覚が捉えたのはナズナの匂いだ。ナズナが愛用している布団で何度も一緒に寝ているコウの鼻は自然とその香りを覚えてしまっていたのだ。

 覚えのある香りがなんなのか理解したコウはすぐにシャツから顔を出す。

 目を開けて浴室から流れ込んだ暖かい空気を吸い込む。

 目の前には鏡がコウの姿を映していた。頬を興奮で赤らめている少年の姿がそこにはあった。

 それは背徳感から来るモノだろう。好きになりたい人の服を着たことか、好きになりたい人の香りに身を包まれることなのかは言及はしないが。

 

「ふぅ……ふぅ……」

 

 コウは息を整えようとするが、茹だった心は落ち着きを見せない。

 とはいえ、このまま脱衣所に篭るのもおかしなことだし、自分の服が乾くのにも時間がかかる。

 頬を赤らめたまま外に出て、髪を乾かしたのちに居間に入った。

 

「おっ、おぉ……おぉ!! よし、行け!」

 

 コウがナズナの下に戻ると、『YOU WIN』という電子音声が流れた。

 格ゲーをしていたようだった。

 スマ◯ラだろうか?

 

「お、コウくんおかえり」

 

 コウに気がついて、彼の方に首だけ振り向かせたナズナはジロ〜とコウの身体を舐め回すように見つめる。

 時折ナズナがみせる汚いオッサンの視線だった。

 まるで視姦されてる女性にでもなったかのように顔を背けるコウに、ナズナはニヤニヤと笑ってみせる。

 

「おそろいだね」

「あっ……」

「彼Tってヤツだな!」

 

 彼女の服装を見返してみれば、今の自分と同じ白いシャツにショートパンツを身につけている。

 正しくお揃い、彼服なのだが……。

 

「……」

「自分で言ってて照れないでよ」

「悪かったって」

 

 恋の『こ』の字ですら照れてしまうナズナにとって自傷ダメージになる言葉だったのだ。

 コウはナズナの隣に座り、妙な居心地の悪さを感じながら一緒にゲームをして過ごしていく。

 

「そういえばさ、コウくんに頼みがあるんだけどさ」

 

 ゲームが一区切りついたところでナズナがそう切り出した。

 

「どうしたの?」

「マッサージ受けてくれない?」

「え」

 

 ナズナ曰くコウと出会ってから極端に減っていた添い寝屋の営業がここ最近の探偵騒動でゼロになっていた。生活費自体は時折お邪魔している《ゔぁんぷ》という店の給料でなんとかなっているが、添い寝屋をするための技術はそうはいかない。

 

「腕が鈍るといけないしさ」

 

 そうは言われたモノのコウの反応はあまり芳しくなかった。

 普段ならいざ知らず、ナズナの服を着て平常ではない今のコウにとってはやや危ない橋である。いくら不純を認めているナズナ相手でも、流石にコウのあるモノがあるべき形に変化してしまうかもしれなかった。

 それがナズナにバレるのだけは避けたかった。

 

「う〜〜ん、それじゃあさ」

 

 ナズナもコウが乗り気ではないことは察したため、とある札を切ることにした。

 

「またチューしてあげる」

「……」

 

 コウの身体がピクリと跳ねる。

 自然とナズナの方に向いた顔にナズナの両手が添えられる。

 

「ね、だからお願い」

「……なら、お願いしちゃおうかな」

 

 迫るナズナの微笑みにコウは誘惑を断ち切れず、ズルズルとベッドの中に入っていった。

 

 

 

––––––こうして冒頭に戻る。

 

 

 

 

 ベッドに顔を埋めるモノの逆に染み込んだ心地の良い香りが鼻腔を刺激して思考を歪められる。

 

「さて、ラストスパートだ!」

「うぉぉおお……気持ちいぃ……!!」

 

 ナズナのマッサージも逸品級なため余計に思考が鈍る。

 全身がナズナの色香に当てられているのを、なんとか意識して身体に力を込め、ナズナに自身の興奮がバレないように努める。それでも悶々とした感情は溜まり続ける。

 

「あら〜お客様、股間にリンパが」

「集中してない!」

 

 大きな声で否定するコウをナズナは愉しげに見つめながら施術を続けていく。

 身体の上部から降りていくように首に腕、背中とどんどん身体が刺激されていく。的確に凝りを見つけるナズナがその優美な指遣いで的確にツボを押していく。

 

「あっ……あぁぁ……」

「ほらほら、もっと声出してもいいんだよ」

「ふわぁぁぁああぁぁああ」

 

 ナズナのマッサージ師としての力量に負けて、中学生が出すべきではない艶めかしい色のある声をあげるコウ。

 その度ベッドに顔を埋めて声が潰れるので余計に卑猥さを際立てている。

 

「それじゃあ次は陰交(いんこう)ていう腹回りのツボを押すから仰向けになって」

「待って! なにそのツボ!? 絶対イヤらしいじゃん! なんだよインコウって!」

「大丈夫大丈夫、エッチじゃないから。それにアタシは気にしないからさ!」

「なにを!? なにをだい!」

「あらあら、コウくんこれは〜〜」

「ぬああああああ!!」

 

 抵抗虚しく仰向けにされたコウはなす術なくナズナのマッサージに敗北するのだった。

 

 

 

 

 マッサージが一通り終わったふたりは、そのままベッドに横になって同じ掛け布団を共有する。このまま一緒に眠りにつきそうな雰囲気だが、互いに意識を向けていてよそよそしい。

 同じ温もりに包まれるコウとナズナの目線は交わらない。

 

「はぁ……はぁ……」

「ごめんって、ちと張り切りすぎちゃった」

 

 マッサージによって身体は緩みきって幸せなのに、精神は気を張り続けて逆に疲れてしまったコウ。そんな幼い少年を抱きしめるように背中をさするナズナ。

 さっきから目を合わせてくれないコウにやりすぎたと自戒するナズナは柔らかい声色で彼を呼ぶ。

 

「コウくん」

「……なに? ッ」

 

 顔を膨らませながらナズナを見たコウの唇に、微笑みながら彼女は自分の唇を重ねた。

 約束通りのチューである。

 奪われた唇からナズナの体温が伝わってくる。それだけで心の中に留めていた緊張の熱がどこかへ流れ出し、代わりに心が安らぐような熱で身体が包み込まれていく。

 心も体も熱っているのに妙に理性だけは落ち着いていて、コウはその双眸でハッキリとナズナを捉えている。

 幸福感を伴った口付けは実時間数秒ほど経過したところで離れていく。

 

「どうだった?」

「……良かった、です」

「そっか」

 

 満足気に頬を赤らめるコウを見て、ナズナも照れ笑いを浮かべる。

 さっきまで弄ばれたことにムキになっていたのに、キスひとつで籠絡されてしまうことに、コウは我ながら単純だなと苦笑いも浮かべた。

 

「……」

 

 キスを経て、逸らしていたはずのコウの視線はナズナから外れることはなく、意識して彼女を見てしまう。

 コウはなんとなく、凄いなと思ってしまった。

 

「なんか、凄いね。ナズナちゃんは」

「ん? なにが?」

「いや……当たり前にキスしてくるし」

 

 大胆な行動もそうだが、躊躇いもなくキスができてしまうことにだった。

 ふたりは恋をする為の友達という間柄ではあるものの、だからといってコウが易々と唇を重ねられるかと言われればそうではない。

 それはコウが心のどこかでナズナを特別視しているからなのだが、そう考えると、ナズナからは特別視されていないのではと思ってしまう。もちろん、誰から構わずキスをするなんて節操がないことをナズナがしないのは分かっている。彼女が許容する範囲の中に入っていることは純粋に嬉しい。

 けど、彼女が容易く–––ある種、児戯の感覚で–––出来てしまうのが酷く残念だった。

 きっと今着ている服だってそうだ。

 コウだから悪いことにはならないと信頼して貸してはくれる。それはとても嬉しいことだけど、もしかしたらを考えられていない。

 人間と吸血鬼である以上、仕方ないのかもしれないが、やはりどこか対等ではないと感じてしまう。

『恋愛は対等でなくてはならない』という自論を持つ夜守コウにとってはあまり好ましいものではなかった。

 

「そうか?」

 

 首を傾げるナズナはそうは思っていなかった。

 

「児戯でも本気でもアタシがしてるのはコウくんとしたいからだし。少なくともあの夜、本気でしたキスはコウくんだけだから」

 

 さも当然のように言い切ったところで、自分の言葉を省みたナズナは再び恥ずかしさに頬を焼く。コウもナズナが本気で自分を眷属にする決意をした夜にされたキスを思い出し、無意識に唇を触る。

 自分に素直な所も七草ナズナの凄いところだとコウはつくづく思う。

 やりたいか、やらされてるかで、常にやりたいで考えられるナズナの生き方には憧れる所がある。きっと自分がナズナの眷属として吸血鬼になりたいと思ったのは、そんな素直な部分に惹かれたからでもあるのだろう。

 自分も素直に感情を出せたら対等になれるのかもしれない。

 

 

 でも、どうしたらいいのだろうか?

 

 

 コウにはそれが掴めていなかった。

 

––––ナズナちゃんが嬉しいと僕も嬉しい。

––––きっと生まれて初めて自分以外の誰かを大切だと思った。

––––こんなに一緒に居るのにまたすぐに会いたくなる。

 

 ナズナに包まれるような感情で生きているに等しい今、それをもっと強く、もっと大きく素直に吐き出すにはどうしたら良いのだろうか。

 

「コウくんがしたいようにすればいいんだよ」

「俺の、したいように……」

「アタシになら何でも甘えてくれていいからさ」

 

 聖母のような微笑みを浮かべたナズナは、一転して息を荒げながらコウに訊ねてくる。

 

「ね」

「なに?」

「血、吸っていい?」

 

 ふと、コウはとある言葉を思い出す。

 友人とは言い難い、かといって人間という遠すぎる間柄でもない。同じ秘密(存在)を共有する関係をなんと呼べば良いのかコウには待ち合わせがないが、そんな関係の相手から言われた言葉を思い出す。

 

『恋焦がれる相手に自分だけを見ていて欲しいなんて当たり前』と、

『少なくとも自制できないほどの感情があればなれる』と、

 

 彼はそう言った。

 だからなのか、あの時無意識に身体が動いた感覚を真似るように、倣うようにコウはやりたい(願い)を選択する。

 目の前の大切な相手と並べるようにコウはちょっとだけ自分に素直になった。

 

「えっ……コ、コウくん? どうしたの?」

 

 その素直は(はた)から見たら驚くしかないだろう。

 何故ならコウは自らの唇を噛んで、血を流したのだから。

 裂けた箇所からたらりと血が溢れ出す唇をナズナに突き出しながら、コウはまるで媚びるように上目遣いで答える。

 

「いいよ、飲んでも」

「んんっ……」

 

 服装も相まって少女に求められてるような錯覚に陥いるナズナは、唇から漏れ出す血がより淫靡なモノに感じられた。日常と化していたコウからの吸血が一瞬で非日常に塗り替えられる。

 どうしてそんな発想に至ったのか分からないナズナは固唾を呑む。

 しかし、彼女もひとつだけ分かっている。

 キスして血を飲めとコウが言っていることは。

 

「あはは……あははは…………」

 

 ナズナもまた友人に言われた言葉を思い出す。

 

『七草さん超かわいい、ベロチューしたい……』

『見た目が好みで毎日一緒に居たらそういう(・・・・)気に全くならない方が不自然じゃない?』

 

 つまりはコウはいま、そういう気になっているかもしれないとナズナは考えてしまう。

 自身の中にある照れや恥ずかしさを誤魔化すようにあっけらかんと笑うナズナは後ろ頭を掻いて、

 

「これはまた……エッチな子だね〜……」

 

 コウの頬に両の手を這わせ、自分へ近づける。

 抵抗のない彼の顔は、いとも容易くナズナの口元に引き寄せられ––––数秒躊躇ったのちに––––唇を合わせる。

 今度はさっきと違い、味わうように舌を這わせていく。

 以前、偶々唇が切れた時に行った前戯のような吸血とは違う、艶めかしく、淡い色のある吸血にふたりはのめり込んでいく。

 

 その瞬間、確かにコウは幸福だった。

 素直に出した感情が満たされているのをぼんやりと感じ取っていた。

 

「もっと……いる?」

「……この、ドスケベエッチマンめ」

 

 コウが求めて、ナズナが応える。

 一度離れた唇をまた合わせるふたり。

 チビチビと酒を飲むような吸血ではナズナの欲が短時間で満たされないのも相まって、長い時間をかけて求めて、交わっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 月が落ちる頃、ふたりの真っ白なシャツにはお揃いの血化粧が彩られていた。




 唐突に原作キャラをやんややんやさせたくなったらEx表記で投稿します。

陰交……下腹部や瘀血の改善で、腰痛や生理に効果があるツボのことである。場所としては臍の真下である。
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