いつの間に眠りに落ちてしまったのだろうか。
瞼をゆっくりと瞬かせながら、潤んだ視界から輪郭がハッキリとしたものへと移り変わっていく。どうやら、誰かが
記憶が途切れる直前に見たものは––––
「どこッ……!」
目の前で星見キク……キクちゃんの爪によって胸に痛々しい傷を負ったはずのショウくんの姿。彼らを追い求めて首を左右に何度も捻る。
しかし、目についたのは残骸同然の掃き出し窓。窓ガラスは砂塵も同時の有様で、雨戸は歪んで外からの月明かりを飛び込んでいる。
外見的に変わったのはそれだけ。
破壊の痕跡をつけたであろう人物達は忽然と姿を消していた。
不味い。あのふたりだけにしていると、何が起こるか分からない。いち早く追いかけなければいけない。
「……」
だというのに、体は全く動かない。全身に隈なく『動け』と命令は下っているはずだがそれを受け付けることはなく、代わりに重い倦怠感がのしかかってくる。
自然と身体がソファに沈んだ。柔らかくて力強い、安心感のあるソファに身を預けながら僕は考える。
「キミにとって僕はなんなの?」
彼の心の中に僕がいるのは間違いない。身を挺して守ってくれるほど大切にされているのは疑う必要のない事実––––でも、それは本当に愛情だとか優しさだと言えるだろうか。
彼にとっては誰に対しても普遍的に与えるものでしかない。本人が意図しているかしていないかはさておいて、基本的に善い結果を最大効率で出す。
そのために自分を見ている誰かの想いを犠牲にしてでも。
「…………」
手が動いた。紺色のニットワンピのポケットを探り、起動させていたスマホとイヤホンを抜き取った。スマホは録音用のアプリが開かれていて、今もなお外界の音に聞き耳を立てている。
録音を止めた。
スマホに繋げたイヤホンを両耳につけた。
「どうせキミのことだから一人でなんでも進めようとしたんでしょ」
分かってるよ。
お見通しなんだよ。
息苦しさを覚えながら、音声をスタートさせた。
⭐︎
白山さんと世間話をしながら夜道を歩いていると呼び出しがあった。キクさんからラインでメッセージが送られてきたのだが、どうやら知り合いの家に場所を移したようだ。
「だから元の場所にいなかったんですね〜」
「あそこじゃ叱れないからな」
僅かに目を細くしながら白山さんが言った。
その目には確かな嫌悪感が滲んでいた。長年優等生をやってきたからだろうか、吸血鬼ほどではないが、それなりに他人の機微には鋭いと自信がある。
「……」
「どうしたんだ」
「いえ、やっぱり珍しいな、と」
「珍しい?」
コクリ。首だけ動かして肯定する。
けれど、その先を口にはしなかった。
『––––マヒルくん』
「キクさん」
口にするよりも先に、一番大事なものを見つけてしまった。すでに意識はそちらに向いてしまっていて、話すことを頭から忘却してしまった。
聞き憶えのない弱々しい声に駆け寄れば、月が放射する乳白色の光が星見キクさん……キクさんの目元を照らしていた。声色に聞き憶えがなければ、顔つきも見憶えのないものだった。
「……マヒルくん」
余裕のある大人の表情をしている。
俺の知るキクさんはいつも優雅だ。
けれど今はまるで、親に叱られるのを怖がる少女を思わせる卑屈いた顔になっている。
それもそうか。キクさんの眷属たちは、何もしてもらえすにに捨てられたから吸血鬼らしい生き方を出来なかった。巡り巡って俺の親友を傷つけることになった。
親友を傷つけた奴と同種なだけとはわけが違う。
嫌われている、と思っている。
––––嫌われているとは違うな。それならとっくに諦めた表情をしているはずだ。
上目遣いで俺を伺うキクさん。
自分の願望が入っていることは重々承知だが、きっと『嫌ってほしくない』とキクさんは思っているんだ。憂いを秘めた眼差し。怯えた瞳。それらが一斉に俺に向けられているこの瞬間が堪らない。
「……どうしたの?」
「いや、ちょっと……嬉しくて」
そう自覚してしまうと、口元が緩んでしまう。
背後から『えぇ?』と困惑が夜気に滲み込んでいくのが分かるが、どうしようもないだ。コウやショウみたいに血を吸われたこともなく、『待っていて欲しい』とだけ言われ続けてきた。のらりくらりと一緒に過ごしてきたけれど、ここまでハッキリとキクさんからの想いを受けたのは初めてのことだ。
いけないことだけど、キクさんのこの怯えた表情をずっと見ていたいとすら思ってしまう。できればずっと残しておきたい。スマホを取り出す雰囲気じゃないのが惜しい。
「私は色んな人を不幸にしてきたのよ? マヒルくんのお友達だって……そんな私を信じるの?」
このいじらしい姿も演技の可能性だってある。
ショウはそう口を挟むかもしれない。
「好きですから。当たり前ですよ」
たとえ俺が間違っていたしても、好きだって想いを否定させはしない。
「……そっか」
キクさんは俯いて視線を下ろした。膝を折って、更に下から彼女の表情を覗き込んでみたかったけれど、そこまで無神経ではない。だからじっと……待った。
待ちながらキクさんの姿を見て––––
「ん?」
今更ながら気がついた。ずっと顔ばかり見ていたから遅くなったが、服装が変わっている。冬物の縦セーターがキクさんのハッキリクッキリとしたボディラインを外界に晒していて、いけないものを見たような気分をさせてくる。
本質はそこではない。
服が変わっている。夜に溶け込むような紺色のセーターだ。別れる前は明るめの服を着ていたはずなのに。
「キクさん、着替えました?」
「え、ええ……ちょっと色々あって」
「……くーづーきぃ!」
慌てて顔を上げたキクさんを見て、俺は原因であろう相手の名を呼んだ。
「その色々はあくまで俺に対する罰を与えていたって意味だよ」
声は上空から飛んできた。なんで? と思って顔をあげると、そばの家屋の屋根。ギリギリ街灯の光に足を踏み入れていたショウがそこにはいた。
なんでそんなところにいるの?
なんだったら女装から普通の男装に戻っているし。
ショウは屋根から塀へ、塀から地面へと軽やかに足場を移して俺のそばにやってきた。無駄に運動神経がいいんだよなコイツ。
「なんで罰を受けたらふたりして服が変わるのさ」
「聞くな。色々あったんだ。ですよね、星見さん」
「そうなの! 吼月くんがあまりにも生意気だから、蘿蔔さんと一緒に色々やってたら汗かいちゃって!」
「……ふーん」
落ち着いてるショウと焦っているキクさん。なんか仲良くなってるようにも思える。
すごく腹立たしいのだが、ショウがキチンと距離を置いてくれてるのは分かる。俺がショウについて知っていることはふたつだけ。人間不信と、距離感で呼び方を決めていること。
つまりコレは俺への合図でもある。
一歩、ショウが後ろに下がった。
「だからねマヒルくん、関係ないんだよ!」
弁解しようとアワアワしているキクさん。その後ろでショウは物言わぬ支柱になって、ことの成り行きを見守っている。慌てているキクさんほど貴重なものはない。
「キクさん」
––––いいじゃないか、貴重なキクさんが見れるぜ?
悪魔さん! ショウの顔をした悪魔!
––––だめだよマヒルくん。そんなことしたら私え?
キクさんの顔をした天使がそばに現れたのて、摘んで掌の上で転がしてみる。可愛かった。
「汗かくようなことしたんですね。……変態」
「まっ、待って……! 違うのぉ!」
俺の失望した声に上擦った声が縋り付いてくる。可愛らしい音色が身体中にまとわりつくように何度となく響いた。必死に弁明するキクさんは、言葉を重ねるほどに取り乱す。
「本当だから! コイツとは何もしてないの!」
「ふふふっ、冗談ですよ。すみません、からかってしまって」
言葉遣いまで荒れてきたところで、残念だが打ち止めにした。嫌われてしまったら元も子もない。ニヤッとした顔をすぐに真剣なモノに変えるが、その表情を見たキクさんは形容し難い顔つきになって叫ぶ。
「……せ、性格が悪いよ!!」
「安心してください。そりゃ俺も嫉妬したりしますけど、さっきも言った通り、自分からキクさんの下を離れるなんてありえませんから!」
「だからって驚かせちゃだめ!」
「そうですね」
顔に浮かぶ想いを両腕で抱きしめる。ひんやりとした、それでも確かな熱が体に伝わってくる。
「ッ…!?」
「だったらキクさんも信じてください。俺がそう簡単に離れたりしないってこと」
どれだけ好きと伝えても不安に駆られるなら、キクさんが心配する必要なんてないぐらい頑張ろう。何を頑張るかは分からない。キクさんが求めている物を知らない。何も決まっていないけれど、頑張った先に眷属になれると思うから。
「そういうことだからさ。俺は別れるつもりなんてないよ」
仕掛け人であるショウを見据えると、返ってくるのは微笑みだ。
「それで良い。マヒルが選んだならそれで良い」
短く言葉を残して唇をキツく結ぶ。見れば微かに顎が斜めに引かれていて、ほどよくショウの右頬に拳を叩き込みやすそうな……
「いや、殴らないぞ?」
「……?」
「いやなんで? みたいな顔されても……第一殴られる準備されてるのが一番萎えると思う」
「……ッ!」
いや、なんか喋ろう?
すごく微妙な雰囲気になって、俺とキクさん、加えて白山さんもジトっとした目をショウに向ける。当の本人は気づいておらず、こちらの多少はある怒りに泥を塗ったことを悔いてまま俯いている。
「キクさん、白山さん。少し話があるので、二人きりにしてもらっていいですか?」
「またぁ?」
「いいじゃないですか。文句のひとつやふたつあるでしょうから」
「むぅ……」
頬を膨らましたキクさん可愛い。けど、なんかショウに対して対抗心を燃やしているような態度なのは謎である。可愛いけど。
ふたりが夜闇に紛れたのを見届けてると、俺はショウと真正面から対峙する。対決するわけじゃないんだけど、向かい合ってないといけない気がした。
「なにがあったんだよ」
「お互いが気に入らないだけだよ。なにより星見さんは、俺が自分よりマヒルに優先されるのが嫌なだけ」
ショウもキクさん達が消えたのを確認しながらそう呟いた。
「そう聞くとあまり悪い気はしないな」
「お前も結構意地悪だよな」
「モテる彼女がむくれるなんて嬉しいじゃん。まさか元彼が百人以上いるは驚いたけど、まぁそこは吸血鬼だし」
「長いこと生きてれば色々あるだろうしな」
キクさんが敵愾心を吹き荒らす一方で、ショウは柔らかい野草のように気軽な口調だった。やはりショウからは特別な熱がキクさんに投げられていない。呼び方同様、どうでもいい相手なのかも。
現状、ショウが気を遣っているのは俺だろう。
『何もしないのか?』と途切れていた会話が突然吹き上がった。
「殴られたらお互いに気が晴れるてか」
「罰は受けて然るべきものだ。当然のことがあって気分が軽くなるなんてありえないだろ」
「……俺と絶交したかったのか?」
首を傾げることなくショウは聞き耳を立て続ける。
「別にさ。元々邪魔になるなら倒すみたいなこと言ってたから意外じゃない。でもさ、何も言われずに……拒絶される身にもなれよ。一言ぐらい話してくれよ」
深い付き合いがあるわけじゃない。それでもショウが誰かの為に、いつも色々やってるのはみんな知ってるから、余計に思ってしまう。真正面から惜しげもなく『お前は間違ってる』と言われているみたいで不愉快だし、友達に裏切られたようで傷つく。白山さん達のように普段のショウを知らずに、【クズ】だと断じることはできない。
にも関わらず、ショウには届いていない。
「俺が言ったところで信じる理由がないだろ」
分かりきった答えを淡々と読み上げるようにショウは言った。嘲笑も嫌悪もなにもないけれど、俺とショウの関係を口にされたのと同じ事だった。
「事実を事実として認識してもらうには、星見さんの言質も必要だったし、語り聞かせるなら被害者本人の言葉が一番良いのは当然のこと。今回は偶々手札が揃ってた」
「じゃあなんだよ……ただ教えるためだけにこんな事をしたっていうのかよ」
「マヒルの決定に俺の意思が影響したら意味ないだろ」
あまりにも、友達として何もない。
言葉が出てこない。
そりゃさ、信頼がどのって言って悩んでるところに漬け込んで友達に引き込んだのは俺だけどさ。何も感じてないのは違うだろ。それじゃ俺と一緒にいても無価値だったみたいじゃないか。
違う。無価値とかじゃない。ショウとしては守るべき物として見てくれている。あまりにも友達と言い難い関係。本当は誰にも興味がないんじゃないのか。
「それと絶交したいのか、だったな。そうだ。俺の知り合いが吸血鬼殺しみたいだからな」
「……は?」
耳を疑っていると、ショウは罰が悪そうな顔をしながら財布を取り出すと2枚の紙を取り出した。紙をこちらに手渡す。紙を見下ろせば、それは男と女の写真だった。
ショウ曰く、神崎
「ハツカも俺と一緒にいるのが見つかって狙われ始めてる。だから、事態が解決するまでは会うのはやめた方がいい」
「……」
理解はできる。
理解は–––––手のひらが痛い。
「その様子だと、白山からは話してもらえなかったみたいだな。たく、そこも肝心だろ」
「フンッ!!」
「ッ!?」
気づいた時には手が出ていた。爪が食い込むほど握りしめた拳でショウの頬を殴りつけた。予想していなかったのか、あえて受けたのは分からない。
蹈鞴を踏みながら後退るショウは、どこか安心した様子で俺を見ている。優しく包み込もうとする母親のような、遠くに置き忘れた記憶に触れるような笑みを浮かべている。
何もかもがショウの思い通りに動いているみたいだ。
腹立たしい。
こっちを見させてやりたい。
「お前なぁ……!」
ショウの胸ぐらを掴んで引き寄せる。真っ黒な強い光がこちらを覗き込んでくる。
「全部好き勝手決めるなよ! 俺たちは友達だろ。こっちの事を考えずに動くなよ!」
「マヒルに本当に必要なのは、コウとアキラ、それに星見さんだろ?」
「だから、別にそれだけじゃ!」
「元々それが仲のいい友達になろうとした理由だったじゃん。ブレちゃダメだよ。俺はあくまで星見さんの眷属になるまでの満たされない空白を埋めるためのもの。こんな代替え品なんて使い捨ててやればいい、惑わされちゃダメだ」
「だったら蘿蔔さんにぐらい言えよ!」
「ハツカは何も関係ない。関係ないのに星見キクが勝手に同罪にした」
「お前、蘿蔔さんに嫌われたいのか?」
「……俺が望んでいるわけじゃない」
「俺とお前は……」
なんで言えばいいんだ。
いや、分かってる。鼻と鼻がかち合うほど近くにいるはずなのに、霞を通るように言葉は的を捉えない。だったら無理矢理でも引っ張ってやればいい。
「……今日の帰りの時にさ」
「んっ? うん」
「応野たちが言ってたこと、アレ本当なんだろ。家族にのけ者にされてるって話」
ようやく表情が変わった。困惑を滲ませるのは、腹を括った俺の重い声色もあったのかもしれない。
「そうだよ」
「俺も同じなんだ。俺も親に家族として見られてない」
「……そっか」
ショウは頷くだけだった。詮索しようと思えばできるだろうに、ただこちらに真っ黒の瞳を添え続けている。瞳の中に微かに欠けた月が見えた。欠けた部分には何を入れればいいのだろうか。
「昔、兄がいたんだ。でも事故で死んで以来、母さんはずっと兄さんを待ったまま壊れて、父さんも壊れた母さんだけを守ってる。ふたりとも俺のことなんて眼中にないんだ」
身の上話はなるべく簡素に伝えたかった。
口にするのが嫌だった。家族に愛されてないなんて、普通誰かに言ってもピンと来ないだろうし、第一ウチの家族は外面だけは良いものだから信じるとは思えない。自分と他人との強烈な負のギャップを話す時はひどく疲れる。
でも、でも、もしかしたらコイツなら。
何か一言でもいいから口にしてほしい。ただ耳を傾けてほしいんじゃない。
俺には、お前の言葉が––––
「……ごめんね、マヒルくん。
––––ようやく来た。
表情は変わらず冷笑じみたものだった。それでも、その奥にある何かが俺の一言でグチャグチャに掻き乱されているのだと、早まる鼓動が教えてくれる。
もっと無造作に手を入れたい。
「違うって、なにが……?」
「俺には家族はいない。誰も、いないんだよ」
その吐露が真実なのはすぐに分かった。確証とかではなく、本能から『間違いない』と思った。昔授業でやったことがある共鳴の実験を俺は思い出した。二つの音叉。片方の音叉に振動を加えれば、空気を伝ってもう片方も震えるというもの。似たように根っこの部分が共鳴したのだと。
俺がそう理解してしまうほど、強く震えている。
「でも、父親は生きてるんだろ? ショウは壊れてしまえって思ったことはあるか?」
「……憎む意味もないよ。親は別に神じゃない。いつか死ぬ、いつか壊れる人間だ。そこまで望む価値も、望まれる価値もないよ。ましてや家族ですらないし」
やっぱり、凄いなと思った。
俺は親も、家も嫌いだ。昔、誰とも知らない女の人に『家族だって赤の他人なんだから、嫌いになっても良い。でも嫌い続けるのも疲れるから【どうでも良い】と思えたら一番良い』と、そんな言葉をもらって救われた。俺はまだ嫌いにしかなれてないけど、ショウはすでに先を歩いてる。
やっぱり、ショウはコウと同じく、独りでも生きていける側の人間だ。俺みたいに、誰かに満たされてないと寂しくてしかたない奴とは違う存在だ。
その強さが凄いと思った。
すごく腹の辺りが熱い。へその奥に何か焼き石でも入っているかのようだ。いつも何事にも余裕を持って、自信過剰なショウの奥にあるものを垣間見て、自分の何かが満たされる。
多分、コレは悪い奴だ。
もっと抉ってやりたい。抉った月のかけらを呑み込みたい。
「やっぱり、俺とショウは同じ––––」
掘り起こそうとした口が、艶やかな指によって閉じられる。
「ダメだよ、マヒルくん––––」
いつもに比べて弱々しい声が良い。
もっと聞かせろと耳朶が求めてくる。
『なんで?』とショウの手首を掴んで無理矢理引き剥がしながら訊ねた。
すると、ショウはこう言ったのだ。
「マヒルくんは
すると、ショウはこう言ったのだ。
「こんな化け物と一緒なんて言っちゃダメだよ」
欠けた月を満たす熱が臍から脳へと昇ってくる。
☆
ドアが開いたと分かったのは、空気の気配が変わったからだった。何か熱を持ったものが押し込まれた分、何も持たない空気が押し負けて部屋を出ていった。
僕は寝転がっていたソファから身体を起こす。片耳からイヤホンが溢れて、襟の隙間を転がり落ちていく。
部屋の明かりがついたのは僕が振り返ったのと同時だった。
「大丈夫? ハツカ」
入ってきたのはショウくんだった。
すぐに彼は頭を下げた。キクちゃんに怒りの巻き添えを喰らったことへの謝罪であり、本当に反省しているのが分かる。けれど、それはあくまで道中の一部が悪かったと思っているだけだ。
キミにとって、僕はなんなんだ。
ただ守られる存在なのか。
「ねえ、ショウくん」
「なに?」
「僕たち、別れよっか」
少しキョトンとしてから、ショウくんは受け入れた。
2年目もお付き合いくださりありがとうございました!
今年はあまり投稿できず、話の進行も遅いという……改善点が多い年になりましたが、来年からはもっとテンポ良く話を作っていけたらと思っています。
新年からもよろしくお願いします!