よふかしのあじ   作:フェイクライター

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第百十夜 クレイジー

 いつもとは違う雰囲気だった。表現しづらいのだが張りのない平坦な空気感だった。相応の奉仕(アソビ)をしていれば暖房をつけていなくても暖かい心地になれるのだが、それは冷遇された時の悪寒を思い出しているからでもある。

 人間にしろ吸血鬼にしろ、感情の起伏は何かと比較した上に成り立つ。

 

 失望であれば幸福。

 夢中であれば退屈。

 悲しいであれば楽しい。

 

 グレーゾーンを超えた向かい側にある場所を行ったり来たりすることで、ヒトは刺激を受けて活力を得る。だとしたら、この場の雰囲気はその灰色に染め上げられた状況とも言えるだろう。

 

 私は片腕に抱えた深皿に乗せたチェリーや苺を指で摘んで、主人であるハツカ様の口元にまで運ぶ。パクリ。ハツカ様が綺麗な唇をおもむろに動かして喰む。時折、指に唇の奥が触れて湿る。より深くハツカ様に触れられていると実感して顔が緩む。

 反対側にいる時葉も同様で私とは別の果物を摘んではハツカ様の前に献上している。楽しみは私と同様だろう。ハツカ様の椅子になっている久利原さんも彼だけの楽しみに浸っている。

 充実した夜に違いない。

 けど、盛り上がっているのは私たちだけだ。

 

「……」

 

 ハツカ様は菩薩のような笑みのまま食べるのが常だが、今日は無味無臭な顔つきで虚空を見つめている。

 従者は主人の影を踏まず。

 食事を献上する時以外はギリギリ視界に入らない場所に佇む私と時葉が、アイコンタクトを交わしていることにハツカ様は気づくことはない。

 

 ––––やっぱり変だよね?

 ––––いつもの輝きがないよね

 

 本日何度目かの相槌を打ち合った私たちは、ハツカ様が見つめている場所に視線をやった。

 この家にはソファがひとつだけなのは覚えているだろうか。

 来客がない限りハツカ様はそこに座る。

 けれど、今日はわざわざ久利原さんに座っただけでなく、その空いた赤いソファに対峙している。ため息が溢れそうになるたびに果物を求めて口の中を甘さで満たして誤魔化す。

 なんて悲しみに満ちた姿なのだろうか。

 こんなハツカ様を見ているだけで胸が苦しくなる。

 ……原因は分かっている。

 

「ハツカ様」

「どうしたの、宇津木」

「ご命令くだされば今すぐにでも雁字搦めにして連行してきますが」

「わ、私も! ご命令があればこの場に連れてきます!」

 

 本来であればここにはもうひとりいるはずだった。本来なら、久しぶりの眷属候補である吼月ショウが座っているであろうソファをハツカ様は見つめているのだ。

 昨晩、吼月くんは帰ってこなかった。

 理由は聞けていない。トラブルがあったのは間違いない。大方、ハツカ様を失望させるような事でもしでかしたのだろう……とだけは予想できた。

 嬉しさ3割、心配6割、疑問1割。

 新しい眷属がいなくなったことでハツカ様からのポジション争いが無くなったことは素直に嬉しい。人が増えるだが見てもらえる時間が減る。ただでさえ最近は吼月くんにかかりきりだから、遊びの時間も切り詰められているのだからそこは素直に喜びたい。

 

 だからといってハツカ様が本調子じゃないのは辛い。

 調子が崩れるほどに吼月くんへの熱量があったということだから、眷属にできないとしたらハツカ様のショックは計り知れないだろう。ハツカ様の悲しんでいる姿なんて見せて欲しくない。

 主人は私からの進言に首を左右に振った。

 

「いいよ。今は整理がしたいだけだから」

「整理……ですか?」

「そう、自分そのものの整理整頓。ところで皆んなに質問だけど––––」

 

 ハツカ様は少し間を置いてから不思議な、それでいて現状にピッタリな問いかけをしてきた。

 

「今の僕って変?」

 

 答えを濁すべきか。

 正解は分からなかった。

 

 

 

 

『え、ハツカが変わったか? まぁ前より人としては優しくはなったんじゃないかな』

 

 授業の合間にある休憩時間に電話してみると、ニコちゃんは利点だと答えた。

 

『う〜〜ん……少し前のハツカなら吼月くんを手懐けられたよね』

 

 今度はミドリちゃんに声をかけてみた。出勤する道中らしかった。足を止めて考えてくれた彼女からすると、欠点らしかった。

 日を置いて、夜風に当たりながら考えを巡らせると落ち着いていられる。特にベランダから夜景を見下ろしている時なんかは、自分の抱えている全てが人並みに思えて、心の中にゆとりができる。

 さて、僕としてはどちらの意見も理解できる。

 トラウマ持ちのショウくんと接する以上普段のやり方が出来なかったのは間違いなくて、加えてあの子が体験した人間の残酷な一面を目の当たりにしてからは、無意識的に自分の行動を内省していたのかもしれない。強力なブレーキだった。

 僕自身あんな奴らと同類になりたくない。

 だからこそ、彼を眷属()にすると再度誓った。ヒトとしては、愚かな行為でも外道でもなんでもない。胸を張ってすらいいものだと自負できる。

 それ故の穴もあった。

 僕という存在があの子の中で軛として機能しなくなっていた。

 元より人間とも吸血鬼とも言えない価値観で行動する自由人であったショウくんに、僕が制御器になれていたかも怪しい限りだ。けれど、実家や神崎からの仕打ちがあって、それから逃れるために僕の家に来た。

 ……ここも振り返れば齟齬があるかもしれない。

 僕は彼を隔離し保護するため。

 彼は僕をそばで守るため。

 考えてみれば、僕とショウくんでは視点が違いすぎた。

 (ウチ)におけば、それだけ精神的な余裕ができて僕の懐に落ち着くだろうとなど浅薄な考えだ。

 死にたがりで、死ねないから進むしかない子供。

 辛いことがあっても道さえ示せば進んでしまえる子供。

 昔の自分が嫌いで、力そのものの行使をルール化している子供。

 子供じゃない。

 子供として見るべき相手じゃない。

 だとしたら、僕は僕の思い通りにことを進めてもいいのだろうか。

 

「大事な一歩だからね、しっかり考えないと」

 

 ショウくんを苦しめた奴らと同類になってしまうことだけは、僕のプライドと彼の怯えた声に誓ってでもしてはいけないことだ。

 なら、僕はどう進んだらいいのだろうか。

 第一に、その一歩は誰が決めるのだろうか。

 影響をうけるショウくんしかいない。

 

「……考えるまでもないんだ」

 

 一歩の良し悪しを決めるのがショウくんなら、訊ねるまでもなく僕は知っている。踏み出していいのだと。僕が望めば、あの子は身も心も差し出すと知っている。

 だから、僕の好きなようにしていいのだと。

 最後は僕自身が決めることだ。

 

「僕らしいっていうのは結局そこだよね」

 

 カブラさんやセリちゃんをすっ飛ばして、本丸へ。耳に当てたスマホからコール音が三度響くと、向こうから声がやってきた。今日は誰を殺しているのだろうか。

 

『こんばんは、蘿蔔さん』

「やあ、理世。話がしたい」

『なら、今からいう場所に来て。遣いに案内させるから』

 

 用件だけ話して、通話を終える。

 彼女、眷属持ちなのか。

 ショウくんも創れるってことかな。

 

「記憶持ったまま色々やれるってことだよな……人間関係リセットしないって利点だな」

 

 ベランダの柵を跳び越える。羽ばたくように星が煌めく夜空へ溶け込むように舞い上がっていく。冷たい風は吹くけれど白い煙は上がらない。黒と星色だけを見ながら確信する。

 答えを得たあとほど気楽なものはない。

 人々が棲むマンション、家屋、病院に加えてそれらの光を支える電柱を足蹴にしながら進むと、目的地が見えてきた。黒に溶け始めて輪郭がややぼんやりとしているマンションだった。

 なんの特徴もない建物だ。吸血鬼が好みそうな背のあるなりをしているが、立地が良いわけでもない。

 けれど、この場所な理由は屋上に降り立ってすぐに分かった。白衣を着たその人はよく目立つ。

 

「甘凪さん?」

「よく来たわね、ハツカ。理世様が待ってるわよ」

「え、なんで」

「なんでもなにも、私は理世様のペットだもの」

 

 いきなり公開された事実に頭を痛めながら、甘凪さんについていく。一つ降りて最上階の通路に面した扉は四つ。非常階段に近い一つと次の扉には不自然な距離があった。

 

「ぶち抜いたの?」

「私は横に広い方が好きなのよ」

「オーナーを籠絡でもしたの」

「籠絡も何も、ここも午鳥さんの所有地よ。二つ返事で許可をもらったわ」

「便利だなぁ」

 

 僕も引っ越した時は萩凛さんにお願いして、最上階丸ごと僕のものにしてやろう。一室はペット部屋だ。二人でいる分には狭くないだろう。

 僕の中に湧いた密やかな企みを知らぬ甘凪さんは、患者を相手にするかのような相手を労る態度で(ウチ)に招き入れた。

 三和土に靴を綺麗に並べてから通路を歩く。リビングまでは道なりに歩くだけだったから、思いの外、簡単に願った相手とは会えた。一人で使うには余りある広々としたリビングで、食卓に並べられた暖かそうな食事と向かい合って舌鼓を打っている。

 タートルネックの黒いセーターの上からワンピースを着込んだ姿で夕食を楽しんでいる。呑み込んだばかりだからか、首元が不自然に膨らんでいる。

 

「こんばんは、蘿蔔さん」

 

 理世はナプキンを使って口を拭うと和やかな笑顔を魅せた。

 

「昨日ぶりだね」

「意外に冷静。昨日の今日だから嫌味の一つや二つ言うと思ったのに」

「一つや二つよりもっと大きなことができるからね」

「そう、楽しみね。あなたも腰をかけて、食事は必要? それともオセロでもやる?」

「君の血でもくれるならありがたくいただくけど、椅子はどこ」

 

 食卓には彼女が座る椅子しか腰をかけるものは見られないから、不思議に思う。ひとつしか椅子がない光景。よく見慣れた、僕の家と同じ状況だった。

 必然、僕と理世の視線が甘凪さんに集まる。酸っぱいレモンでも吸ったような拒絶の顔をしながら彼女は言う。

 

「命令よ、椅子になって」

「本来なら座っていいのは理世様だけですからね」

 

 甘凪さんは白衣を脱いで肌着だけのラフな姿になると、卓の側で四つん這いになった。理世は当たり前のように椅子になった甘凪さんを指し示す。

 

「どうぞ」

「僕以外に眷属で家具作ってるの初めて見たよ」

「蘿蔔さんとは結構趣味が合うと思うのよね。ショウに目をかけるところとか」

「そうかよ」

「今のはちょっと男っぽい」

「僕は元々男だ」

 

 荒っぽい口調を向けられても理世は笑う。人殺しと趣味が合うと言われて気分を良くする奴はいない。

 

「その人殺しの誤解も解かないとね」

 

 理世は手をパンパンとリズム良く鳴らすと、リビングから繋がる奥の一室の扉があった。現れたのはこれまた知的な女性だったが、認識すると僕は自分を疑った。

 

「キミは昨日殺された……」

「えっと……はい、稲城(いなぎ)(すい)と言うらしいです……」

「らしい?」

 

 稲城と名乗った彼女は間違いなく昨晩理世がナイフで殺させた……いや、殺した人物だった。けれど自分の名乗るにしては歯切れが悪い。まるで別人の名前を騙っているかのようだ。

 恐らく本人に尋ねても正確な答えは返ってこない。

 

「どういうことなの」

「簡単に言うとね、私の血は特別で吸血鬼を殺せるの」

「吸血鬼を殺せる血……? えっ待てこの子吸血鬼だったの」

「少し遠くから見てたから気づかなかったんでしょうね。悪徳社長にナイフを渡す時ちょこっとつけておいて、刺させて仮死状態にした」

 

 頭がおかしくなったのかと言ってやりたかった。いくら半吸血鬼とはいえ、血液に奇怪な能力が宿るとは思えない。

 

「酷い言い草。吸血鬼が居る時点でおかしいとか言ってられないでしょ。あとは死体を回収して確認だけ取って、復活させたってわけ。本人の感覚は聞いてみましょうか」

 

 理世が稲城を視線で射抜くと、彼女は全身を痙攣させながら固まって、間を置いてから話し始めた。

 

「なんというか……記憶だけある、みたいな感じです。自分がやったとは思えない悪事の記憶を次々と思い出して……」

 

 まるで人格が入れ替わってしまったのようだ。

 

「血は吸血鬼の脳に……そして心に干渉できる力がある。元の人格だけ破壊した。訊くけど、新たに生まれた貴方はちゃんと苦しいかしら」

 

 稲城は心痛極まる顔つきで俯く。よほど懺悔の念に囚われているらしい。理世は鬱々とした様をたっぷりと眺めたあと、稲城に空いた皿たちを下げさせた。

 

「その悪事って詐欺のことでしょ。そもそもキミ……なんであの会社のこと知ってたの」

「私たち、ネットで悪事潰します!みたいなサイトやっててね。そこに依頼があったのよ」

「それだけじゃないわ。理世様には岡村蒼というお友達がいるんだけど、その子のお婆ちゃんがコイツらの悪事の巻き添えに遭って死んだから、お灸を据えるためにもね」

「自慢することじゃない。蘿蔔さん、甘凪の尻引っ叩いといて」

「同感。でも、男たちにも死ねって命令してたよね」

「罪を償ってから死ね、よ。服役出所してから奪った金額分返えそうだなんて、全員でやっても過労死寸前で生き続けることになるんだから、結局寿命まで生きるわよ」

 

 誤解、といえば誤解なのだろう。

 だとしたらひとつ疑問が残る。

 

「キミは吸血鬼を殺せる。そしてキミは吸血鬼が嫌いなわけだ」

「半分正解。私は吸血鬼が嫌いわけじゃないわよ。人間だろうが吸血鬼だろうが悪人はいるだけ。寄生虫だって言ったのは生態を正しく表現したに過ぎないもの」

 

 そこに加えて理世は、『セリちゃんやミドリちゃんみたいに可愛い子は普通に好きで、甘凪やカブラ、稲城みたいな悪女は手篭めにしてやりたいってだけ』と胸を張って答えた。

 

「悪女……」

 

 サラリと悪女にカブラさんが入っていたことに驚くが納得してしまう。

 

「これでも吸血鬼の因子は持ってるからね。蘿蔔さんがショウに『好き好き〜』ってされるのが良いように、私は悪女が尊厳を差し出しながら『好き好き〜』ってしてくれるのも好きなだけ」

「だったらひとつ聞きたいんだけど」

「なにかしら」

「キクちゃんを放置してたのはなんでだ」

 

 棘をつけて訊ねると彼女は鼻を鳴らして答える。

 

「私が星見キクと鶯アンコの存在を甘凪から聞いたのがちょうど二ヶ月前。その時には既にマヒルくんが惚れていたから手を出さなかった。それだけよ」

「僕とショウくんが一緒にいると分かったあとでも、だね」

 

 言いたいことは理解できるが、キミにとって一番大事なのは夕マヒルじゃないだろ。怪訝な視線を向ければ、理世は跳ね返すような毅然とした態度を取る。

 

「予想ぐらい立てれたでしょ。ショウくんのことをよく知ってるキミなら、キクちゃんのことを知ったらどう動くか」

「ええ。だから、ゔぁんぷで貴方たちの監視を引き受けたわけだしね」

「……ショウくんは(セキ)くんにナイフを払った」

「星見キクの対応を見るためでしょ」

「衝動的に人を傷つけられるようなら、いつかキミは彼を殺すことになるんじゃないのかい? 悪意は滅亡すべき、なんだろ」

 

 また鼻で笑って彼女は言う。

 

「貴方馬鹿ね。ショウがそのラインを踏み越えるわけないじゃない。あの子はあの生き方しか知らないんだから」

「周りが見えないまま……突き進めてしまう今のあの子でいいって言うんだね」

 

 ダンッ!

 僕が言い終えるが早いか遅いかのタイミングで理世がテーブルを引っ叩くと、その反動を利用してテーブル上に乗り上がり滑ってきた。『いい?』と威嚇し始めた時には、既に彼女の顔は僕の鼻先にあった。頬杖をつきながら黒い瞳で僕を睨む。

 昨日、唇を奪われた時と似た距離感だ。

 

「私はあの子の最高最善が好きなの。衝動に任せたなら、相応の相手だということ。そのセンサーがピカイチなのは、貴方もよく分かっているでしょ」

「わざと教えてこなかったってことか」

「そうよ。私も、他の人たちもね」

 

 理世だけじゃない。神崎も、あの父親たちも全員だ。

 ……なるほど。キチンと関わってくれていたら、あの子は捻じ曲がらずにすんだかもしれない。捻じ曲がってしまったからこそ、あの子の性根が現実に存在しない。間違っているわけではないけれど、邪魔になるなら倒すだけだ。

 

「ショウくんの根底にあるのが憧れなのは分かってる」

「憧れなんかじゃない。彼らしかいない。でも本当は何でもいい。ライダーだろうが戦隊だろうが、鬼◯郎だろうが○NE PIECEだろうがあの子にとって嵌まるピースにさえなれば、それがあの子にとっての道徳の基礎になる」

「それしかないなら、僕が道徳とやらを壊す」

 

 僕の宣言に彼女は笑う。先ほどまでの小馬鹿にしたようなものではなく、純粋な笑いは『あり得ない』と声を大にして響く。

 

「あの子の生き方は変わらない。今の自分を作ってきたものは……過去のものは誰にも脅かせない。あるわけないわハッハッハッーー––––っ!?」

 

 その声はすぐに鳴り止んだ。

 僕がこの手で、いや、この口で塞ぎ込んだからだ。

 まつ毛が擦れ合うほどの至近距離で理世の鼻息を感じる。舌にも感触が伝わってくる。最初は彼女の口の中で頬裏を、舌を歯茎を触る。次第に彼女の舌も動き始めて、少し動きを止めれば求めるように舌が僕の咥内にやってきて、一気に捕縛する。

 笑い声が止むと、次にやってきたのは歓喜に震えたくぐもった呻き声だ。

 すでに彼女の身体に力は入っておらず、両腕で僕の足元に膝跨がせる。抵抗もさせず睥睨する体勢になったところで口を離す。

 

「どううまかった? て、聞くまでもないか」

「なんで……?」

 

 絡み合った舌が離れて、垂れた唾液を拒絶することすらできず、視線を所在なく泳がせながら困惑した理世。その疑念は当然、キスをされたことだろう。どろりと粘度を増した液を指を使って彼女の顔に塗りつけながら僕は言う。

 

「––––の匂い……」

「言っただろ、壊すって。そのためにも先ずはキミを堕とす」

「……っ」

 

 視線が合うと理世は息を呑んだ。快感だった。煩かった奴が僕を見上げて口もきけなくなる様はかなり好きだ。理世のような生意気な子は特に。

 僕はキクちゃんがやったみたいに、甘凪さんの頭の中を撫でるように指をスリ抜けさせて気絶させる。理世はペットに手を出されたことなど気にもしないで、鼻をピクピクと動かしながら鼻の周りを湿らせる唾液の匂いを嗅いでいた。

 

「ご褒美だよ、ほらっ」

 

 静かにできた代わりに鼻に唾を吐きつけてやってから、理世の体を肩で担いで歩き始める。

 

「聞こえてないかもだけど、言いたいから言うね。僕、嫌だったんだよ。ライダーだとか、ベストマッチだとかキミらの習慣に合わせて攻略していかなきゃいけないのって」

 

 リビングから入れるドアを開いて寝室を探す。

 多感な時期に無意識に自殺するなんて対処に困る子だったから、間違ってたかと訊かれたら『常に僕の判断は正しい』と断言する。とはいえ、僕のやり方ができないのは窮屈だ。つまり、僕らしくない。

 

「僕が来たのは宣戦布告だから。でも、」

 

 見つけたベッドに理世を放り投げる。

 キスだけして帰るのもよかったのだが、僕は組み敷いた理世のセーターの首元をめくる。

 

「触るな……!」

 

 突き放そうとする手を空いてる手で掴んで、露出した首元を見る。

 

「こんなに真っ赤な首輪を着けて待っててくれたなら、食わなきゃ可哀想だよね」

「ビッチめ。いい狂い具合わよ、ホント」

「どう呼んでくれてもいいよ、僕が一番欲しいのはショウだから」

 

 ショウの寝顔も、笑顔も、泣き顔も尊厳も全て僕の物だ。必然、キミが手にしようとしてるこのペットも僕の物だ。キミは僕だけを見ていればいい。キミの中に入る身体も僕だけでいい。

 そのための玩具として理世には居てもらうよ。

 

 理世の美しい瞳の中で見慣れた僕の笑顔が葡萄色に彩られながら映っている。




ナンバーワン戦隊いい感じですねぇ! ミニチュアを使った爆破と派手なアクションがまァァカッコいい!! 今後も楽しみだ!
クワガタオージャーがクワガタオージャーって名乗ったのこれが初?

来週は投稿できないかもしれないです。
申し訳ございません。
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