よふかしのあじ   作:フェイクライター

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お久しぶりです。
今回はちょっとキツイものがあるかもしれませんが、よろしくお願いします


第百十捌夜「死体みたい」

 夜半にも近づいた今日の空には星はぽつぽつと少しばかり散りばめられているだけで、大半が群青と灰の空に飲み込まれてしまっている。こんな夜は車も人も少ないはずだ。普通なら見回りのパトカーのサイレンが遠くでなっているくらい。

 けれど今晩はどうやら違うようで、野次馬の足音が耳朶を震わす。

 

「……人が多いな」

 

 吼月ショウ()はニュースに出ていたホテルのそばにまで来ていた。

 見上げるホテルは十階建て。横にも長く、防波堤のようにも思えるホテルは途中で屹立する植栽たちと夜闇によってどこまで続いているかは見ただけでは定かではない。

 数人の制服警官の他、俺のように噂を聞きつけた人たちがホテルの周りを少し眺めては去っていく。草臥れたコートを羽織った浮浪者然とした者がチラチラ警官を見ていたり、腕をさすりたくなるようなラフな格好の女性は天を仰ぎ見ている。仕事の帰り道らしきスーツ姿にしては背中が情けなく丸まった男性などが入れ替わり立ち替わりやってくる。

 偶然に眼を見開いたり、酒のツマミになる興味であったり、下を見ている安堵であったり眺める理由は人それぞれ。

 俺もそんな彼らと同類である。

 

「……」

 

 ヒラヒラとしたゴスロリ衣装を揺らしながら歩く。この衣装もかなり視線を集めている気がする。確実に二人ほど俺を見ている。

 

「お姉さん、すみません」

 

 その中のスポーツウェアを着たラフな女性に話しかけた。無論、少女の格好だから、ハツカとミドリさんを合わせたような声色だ。ハツカみたいにやれば上手くいく。

 

 ハツカみたいに……ハツカみたいに……

 

「……どうしたんだい?」

 

 スポーツマンらしい彼女は視線をこちらに下ろすと、ポツポツと流れる額の汗を腕で拭い取る。子供の野次馬への軽い調子の返答をしてくれる。

 

「なにかあったんですか?」

「ああ……なんか失踪というか、器物破損?があったみたいだよ」

「破損?」

「なんか客が暴れた後に消えたらしくてね。ほら、七階の右端から二番目の部屋らしいけど」

 

 ニュースとの食い違いに眼を光らせる。ホテルの外観を舐め回すように眺めると女性は懇切丁寧に指をさしながら件の部屋の窓を示した。高い。周りに木々があるとはいえクッションとして使っても人間が行えば無事では済まない。

 ぶるりと身体を震わせて女性の手を握る。

 怖がる素振りをして辺りを見渡した。周りに居た警官が覆面パトカーに乗ってどこかへ走り去っていくのが見えた。

 

「物騒ですね……」

「最近ビルの倒壊もあったらしいしね。キミも女の子なんだからひとりで出歩いちゃダメだよ。特に可愛いんだから」

「はは……気をつけます」

「もし家出とかなら(ウチ)に来るかい?」

「いいんですか」

 

 不安気な表情(カオ)を一瞬だけ彼女に見せて俯いてみせた。

 

「いいよ」

「……今日は大丈夫です。けど、もし何かあった時に頼らせてください」

 

 変に抵抗して警察に突き出されても面倒だから、相手に乗る形で話を締めた。

 俺に連絡先を押し付けると、彼女は再び走り始める。背中が見えなくなるまで彼女は心配そうにこちらに首だけ振り返りながら足を回す。彼女が居なくなるまで俺は手を振り続けた。

 その頃には野次馬もいなくなり、俺だけになっていた。

 

「直球勝負しかないか」

 

 フロントの明かりはまだ着いている。

 中に入ってみると、探偵さんが住むホテル同様にふたりの男性スタッフが出迎えてくれた。ふたりのうち、カウンターを挟んだ先にいる男性スタッフは夜間の仕事だからか疲れが溜まっている。

 疲労が透けて見える瞳が俺を捉えると怪訝な色を持ち始めた。

 

「キミ、ひとりかい?」

「はい。スタッフさん……岡村弓生(ゆみお)ってひとに呼ばれてるんだけど、知りませんか?」

「岡村弓生さま」

「この人なんですけど」

 

 先生の名前を出すとスタッフは復唱する。追撃をかけるように撮影しておいた岡村家の写真を見せる。

 すると、スタッフは一瞬だけ気分を害したかのように口をへの字に曲げた。不快さを顔に出したことに気づいたスタッフは、取り繕うように微笑みを浮かべる。

 

「岡村様はここにはもういないよ」

「もう、ってことは泊まってたんですね」

 

 今度は驚いてスタッフは視線を泳がす。

 俺はスタッフが平静を繕う前に続けて訊ねる。

 

「失踪だって話ですけど、いなくなる前の様子とか覚えてますか……?」

「なんでそんなことをキミが聞くんだい」

「岡村先生の孫娘が友達なんだけど、心配してたから……もし知ってるなら教えて欲しいなって…………だめ?」

「……」

 

 上目遣いで尋ねてみれば、スタッフはこちらを見下ろしながら悩み、数秒の間をおいてから頷いた。

『なら現場に行きながら話そうか』とスタッフは一度スタッフルームに引っ込むと別の扉からフロントに出てきた。俺はスタッフの横についてそばに設けられたエレベーターに乗り込む。

 

「来たばかりの岡村さんはどんな様子でしたか?」

「カッコいいおじさまって印象。キミみたいに注意を引く人だった。怯えたみたいに人の目を気にする様子はあったし、受付の時も目を合わせてくれないけど、渋い感じのいいオジサンだった」

 

 ……結構ボロクソ言うな。

 渋いオジサンか。スタッフの印象を聞きながら学校での岡村先生の姿を思い出そうとするが、どうにも思い出せない。先生Aぐらいの印象だ。クラスメイトですら一致するのは殆どが顔と名前だけで、印象までは言うことはできない。例外は応野やアキラぐらいだ。

 岡村先生も夫婦仲の良い気の優しい先生、としか言えない。

 渋かっただろうか。

 そうなると、久利原に似てるのか。

 

「けど来てからは引きこもりっぱなしで応答もなし。ついに昨日は騒ぎが起きて駆けつけた時には部屋の中がグシャグシャの荒れ放題だったってわけ。外に出た様子はないし、どうなってるのか警察も頭を抱えてるよ」

「防犯カメラはどうですか?」

「それもダメだね。誰も映ってなかった」

 

 ピンッ、と到着をつげる電子音が鳴る。

 七階に出て岡村先生が泊まっていたらしい部屋に向かっていく。

 

「まず最初からダメだったんだ。名前は本名のくせに住所は適当だし、取れるだけとってくれっていきなり言われたあげく、最後の最後には冷蔵庫とか諸々壊しやがって……おかげでまた上司に怒られるし、下っ端仕事の清掃までやらせられるし」

 

 ドンドン文句が垂れ流されていく。恨みつらみの泥で廊下が埋め尽くされてしまいそうだ。更にはこっちを睨みつけてくる。憎むような熱い視線だ。

 俺に文句言ってもどうしようもないだろ。

 岡村先生が悪かった、で済む話なんだ。

 客との信頼で取引してる以上は、運が悪かったとしか言いようがない。

 

「大変だったんですね、すみません」

「本当に辛かったと思う?」

「はい。本当にご迷惑をおかけして……」

 

 でも不貞腐れて帰られてもメリットがない。

 

「ここが岡村が泊まっていた部屋だよ」

「へえ、そうなんですか」

 

 スタッフが立ち止まった部屋を見る。立ち入り禁止のテープやロープがされているわけでもなく、見張りが立っているわけでもなかった。

 

「仮にも事件があったっていうのに雑に保管されてるんですね」

「殺人事件でもない限り、念を張って作業なんかしないよ」

「……中に入ってもいいんですか」

「いいよ」

 

 許可を得るとドアノブを放って押し開く。ドアの動きに問題はない。ドアのそばにあったスイッチで部屋の照明をつけて、ドアの金具を見ても新しく取り替えた様子はない。

 スタッフを部屋に入ってきて、鍵を閉めていた。他のスタッフにバレるとまずいもんな。

 部屋は洋室のようでカーペットが敷かれた部屋にはベッドやデスク、クローゼットがある。問題はその有様だ。

 

「酷いな……」

 

 現場保存のためか、テレビや冷蔵庫などの備え付け品が壊れたまま床やベッドに散乱している。ひとつひとつ近寄って見てみると、まるで殴り壊したかのような痕が残っている。

 なにより驚いたのは––––爪痕、だった。

 冷蔵庫の天板に引っ掻いたような傷が残っていたのだ。

 断言はできないが、部屋を調べても叩き壊したり引き裂いたりできそうなものなどなかった。

 

「……警察の人、なにか言ってませんでしたか?」

「奇怪な現場だとは言っていたよ。壊すために使った道具とかも見当たらないし、人が付けられる傷でもないって」

「灰が見つかったとか、そんな話は」

「灰?」

「そうです」

「流石にそこまでまだ詳しくは……」

 

 スタッフは昨晩からの記憶を手探りで掘り返すように唸るが、やはり知っているわけがない。

 考えすぎか? でも物を切り裂くようなことができて、誰にも見つからずに逃げられるとしたら––––

 

「そういえば、警察の人がクローゼットの中に粉末があったって……」

「本当ですか?」

 

 スタッフが目を向けたクローゼットを開けると、衣服どころかハンガーすらかけられておらず、ポッカリと穴の空いたようだ。中に添えられた姿見が床を見ているスタッフさんを映している。

 

––––……え

 

 また、俺の姿がない。

 目を擦ると俺の困惑で口元が引き攣った歪な顔が映った。

 なんなんだ、一体。

 よほど体調が悪いのだろうか。

 それでも俺は上体をクローゼットの中に突っ込むんで手がかりを探す。

 

「なにか残ってないかな。––––っ!」

 

 その時だった。足が掴まれた感覚がした。

 身体が不自然に前のめりになって、全身がクローゼットの中に収納されると周囲が一気に闇に閉ざされた。突然のことで声を上げようとするが、顎ごと口を掴まれて声が出せない。次いで鳩尾に何かがめり込んで、胃の中の内容物がせりあがってきた。

 何が起こったのか分からない。

 でも、ここに居てはダメなのは分かる。

 だって、むかしみたいにされちゃう。やだ、まって、や、

 からだがかたままったままうごかないはんきゆうけつきのちからをつかえばいやだめおばさんみたいになっちゃううでどけいどここしまわりがすうすうするいちばんいたいところがだれかのてでつぶされるいたいいたい

 うえからほえられたけものみたいなこえだった

 きもいとかおとこだとかおんなだとかかおはいいとかそんなのことばはわかるのにないようがあたまにはいってこない

 やめて

 かりだがちいさくなったまたいちいさくなったてがかべにあたるなにかぐしゃとかみがおれたようなおとがしたじゃりじゃりする

 くちのなかになまあたたかいはぶらしみたいなのがくちのおくのおくにしんにゆうしてはでていくひかりがめをやいたいたいいたいひかりめをとじるととおくにいった

 くちのなかにどろどろとしたものがとびだしてきたながいものがなんかいもふるえた

 またながいのがうごきはしめた

 たすけてハツカハツカ

 

 きょうもいのりはとどかない

 

 なんどもくちにでてきて、ようやくひかりがでてきた

 おじさんたちがまんぞくしたんだ。

 

 

「なにやってるの!」

 

 

 二人の女性の声が聞こえた。

 

 

 

 

 あれから何時間経っただろうか。

 周りを見渡しと静かな夜景を引き裂く真紅の回転灯がいくつも瞬き、夜空ごと赤く染めている。夕暮れとはまた違う赤い光景は酷く恐ろしく感じられた。

 響くサイレンもこちらの心中を厳しく縛り付けてくるようだ。

 

「乗れッ!」

 

 ひとりの警察が叱咤する。

 だれか独りに注ぐにはあまりにも大きな声で周囲にいた人達全員がビクついた。

 鋭い目で彼らが睨みつけるのはスーツ姿の青年だった。数時間前までは、と枕をつけるべきか。パトカーに乗せられた青年の目の焦点は定まっていない。悶絶したような喘ぎ声だけが周囲に微かに広がる。

 

「時葉香澄さん」

 

 呼ばれ慣れないフルネームでの呼びかけをしてきたのも警官だった。

 

「ご苦労様です」

「……いえ、今回は」

「はい」

「友人の子とはいえ、あんな現場を見た時葉さんもさぞかしお辛いことだと思います」

 

 私のそばに駆け寄ってきた警官は舌ったらずになりながらも、吼月くんの状態を心配しているのが伝わってくる。

 

「偶然とはいえいいタイミングで見つけてくださいました。吼月くんの中に……まあ奴のものと一致したそうですので、数年は出てこれないでしょう。それに奴の大事なところもスマホごと使い物にならなくなったみたいですし」

「……そうですか」

「吼月くんにも伝えしましたが、無茶なことはさせないように。優秀な子ではありますが、まだ子供です。先に壊れてしまっては元も子もありませんから。

 あとカウンセリングには必ず行かせてくださいね」

 

 それでは、と警官は一礼してパトカーに乗り込んで行った。

 

「…………」

 

 警官たちを見送ったあと、少しの間だけ静寂が訪れた。

 何があったのか、私の頭の中でも整理ができていない。

 

 まず、私と宇津木(うつぎ)はハツカ様からの言伝で、吼月くんがこのひんやりと静まり返ったビジネスホテルにいることを知らされた。彼がいま何を思って、どうしようとしているのか知るためにここまで来た。

 さすがハツカ様の情報網。

 私たちが着いた頃には吼月くん本人はビジネスホテルの前で辺りの様子を伺っているところだった。

 そのあとはずっと観察。見ているだけで違和感があった。

 女性に話しかけた時も、スタッフと移動した時も、必ずそのあとをつけるように行動していた。あの子が七階に移動したときは、非常階段からひとっ飛びで同じだけ昇った。そうして、例の部屋に入ったあとは監視しながら待機していた。

 異様に長い間部屋に留まっているのが不思議になった私たちは、すり抜けで中を覗くことにした。

 そこで誰もいないことに気がつき、中に入るとクローゼットから物音がした。ふたりで慎重に扉を開いてみると–––––

 

「ウッ」

 

 やられたわけではない私ですら、胃液が昇ってくる。

 私はすぐに吼月くんを男から引き離し、宇津木が使われていたスマホと男の物を蹴り砕いたのだ。腕の中にいた吼月くんはまるで、まるで……

 

「死体みたいだった」

「誰が死体ですか。死んでませんよ」

 

 独りごちた声を打ち返された答えに驚きながら振り返ると、宇津木に連れ添われた吼月くんが歩いてきていた。

 普段の調子で歩いてくる彼は間違いなく人間だった。

 

「すみません、ご迷惑をおかけしました……」

「いいの。いいのよ……大丈夫だった?」

「ハハハっ、実を言うと暗かったからあんまり覚えてないんですよね。分かるのは顎が痛いことと、胃に気持ち悪いのが溜まってることぐらいで。この感覚抜けるの結構かかるんですよね」

 

 あっけらかんと言ってみせる吼月くんに私たちはどうしたらいいのか分からない。

 

「ハツカには感謝しないといけませんね」

 

 夜空を見上げながらハツカ様を思い浮かべて恍惚とした表情を浮かべる。まるで気娘が顔を赤らめているようだった。

 気分が落ち着いたところに笑いが、こっちはひとつだけ確認したいことがあった。

 

「……ねえ」

「なんですか?」

 

 首を傾げる吼月くんに言う。

 

「なんでわざわざ吸血鬼の力を使ったの」

 

 意を決した問いかけに宇津木を真剣な眼差しで答えを待つ。

 吼月くんは呆然とした顔で受け止める。

 私たちが感じていた違和感。それは彼が人間とは思えないほど、的確に相手を落とすための動作を取っていたことだった。たとえば怖さを共有するために女性の手を握ったり、男性に対して上目遣いで頼んでみたり要所要所で吸血鬼を想起させる動きをしていた。

 やたらめったら吸血鬼の魅力を振り撒いていたら、今回のようになってもおかしくない。

 

「どうなの?」

 

 最初は誰かの手で眷属にされたのでは、と思った。

 でも彼には脈があった。人間相手に対抗できないこと自体おかしくはあった。ならば、この子が自ら吸血鬼の力を使い発動時間が終わったタイミングで襲われたとしか考えられなかった。

 

「いやいや、俺が吸血鬼の力を使うのは吸血鬼と戦うしかないときだけですよ。わざわざ人に向けたりしませんって」

「……そう?」

「ええ! ……吸血鬼の力がどれだけ危ないかは、自分でよくわかってるつもりですから」

 

 意気が消える息づかいで淡々と言う。

 本心なのだ。そして、本当のことなのだ。

 だとしたら、彼自身がハツカ様を見て学んだとか?

 ……どうなっているんだ。

 吼月くんは微笑みながら続ける。

 でも、その笑みは小さく震えていた。私たち吸血鬼でなければ、分からないほど小さな動揺と恐怖が吼月くんを苛んでいる。

 だというのに不敵に笑ってみせるこの子のことが心配でしかたない。そして、この子の痩せ我慢が怖くて怖くてしかたがない。彼の手を見ると、一部分だけ痩せかけたみたいに抉れている。

 何があったんだ。何をされたんだ。

 

「でも、怖い目にあった甲斐もあった」

 

 吼月くんが握っていたのはなにか紙片だった。

 この子の横に回って覗き込んでみると、隣で肩を寄せ合った老夫婦の顔が映った写真だと見て取れた。断片でも幸せそうな顔をしていて、なぜ無造作に破られているのか疑問が湧く。

 

「やっぱり岡村先生は……」

 

 写真から顔をあげた吼月が口を止める。

 見ていたのはホテルの駐車場の出入り口。街灯に照らされたそこには、草臥れた姿をしたカカシのような人影があった。

 

「–––––ッ!」

「吼月くん、どうしたの!?」

 

 それを見て吼月くんが一気に駆け出した。

 私たちもあとを追って駐車場の出入り口まで走る。見失ったのか寝息すら聞こえない道路を首を振って見渡す彼は、たまらず歯噛みしながら地面を蹴り付けた。

 

「誰がいたの?」

「……俺の、学校の先生」

「先生……?」

「先生が吸血鬼にさせられたかもしれないんだ……」

 

 苦々しい視線が周囲に撒き散らされていく。先ほどまでの恐怖はまるでなく、ただただ先生と呼ぶ誰かの安否を案ずる優しい瞳があった。

 子供が味わうにはあまりにも大きな恐怖だったはずなのに、まるで記憶を消されたみたいに自分のことを考えないのだろうか。

 彼が何を思おうが勝手だ。

 でも、見ているだけで痛々しくてたまらない。

 酷く歪な自由が人の形を成したみたいだった。

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