よふかしのあじ   作:フェイクライター

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第百二十弍夜「誰だい、この美人?」

 インターフォンが鳴り、やってきた来客を招き入れるために玄関へと向かう。ガチャリとドアノブを放って開け放つと、そこにいたのは夜中の友人である星環さんだ。

 

「こんばんは、蒼ちゃん」

 

 岡村蒼()も挨拶を返して星環さんを招き入れる。リビングに向かう短い通路を歩きながら話しかける。

 

「珍しいですよね。星環さんが私の家にいるの、凄く新鮮です」

「いつもは酒場(バー)だったもんね。まさか本当に蒼ちゃんから招かれるとは思ってなかったけど。今彼氏いるんでしょ、その子は?」

「今日もどこか奔走してますよ」

「彼女をほったらかしにして?」

「そうなんですよねー。私のためだっていうのは理解してるつもりなんですけど……そうだ、何か飲みますか? お酒はないですけど」

「うん、飲む」

 

 星環さんにはソファに座ってもらい、自分は飲み物を取りにキッチンへ足を踏み入れる。そこはヒトの居た痕跡すらないほどに綺麗に磨かれており、つい数時間前までショウがいたことなんて嘘みたいなほど輝いている。

 冷蔵庫を開けて整えられた中身から緑茶の入ったピッチャーを取り出す。コップに注いでリビングに戻る。

 そこにはどこから取り出したのか、色紙を使って折り紙をし始めてた。

 

「でも嫌だよね……独りにされるのって。せっかく好きなのに」

「間違いです。でも私も心配してますし、ここまで来たら任せちゃおっかなって……」

 

 自分事を語るように深刻気な星環さんは隣に腰を下ろしながら考える。

 面倒事を後回しにすると痛い目を見るとはよく言うけど、夏休みの宿題以外でここまで痛感したのは初めてだ。せっかく付き合えたのに。仮、だけど……。こんな事なら初めからおじいちゃんのこと解決して貰えばよかったなあ。

 まず昨日私以外に無理やりされたくせに、怖気付く暇もなく今日も出歩くとかどういう神経してるの。なんか腹立ってきたな。

 ムカムカと腹が唸り出したとき、パチンッと右耳元で破裂音がした。

 驚いて首を振ると、星環さんがため息をつきながら手を合わせていた。

 

「ほらほら、ナイーブになってるよ。代わりに寝静まったころには沢山堪能してるんだろ?」

「星環さんのおかげで色々と、楽しませてもらってます」

「良かったあ。振り向いてくれないなり、手にしたいものはあるからね」

 

 胸を撫で下ろす仕草をしながら、彼は尋ねてくる。

 どんなことをしたの?

 どんな風にあの子を壊そうとしたの?

 あの子の何が欲しいの?

 

 紫色が黒い瞳の中で瞬いて、美しすぎると私の心が波打つ。壊す。破滅的な響きも星環さんが呟くと、荒廃した景色から星空のような壮麗な姿に様変わりする。

 男のような。

 女のような。

 二面的な不思議な声。

 

「……星環さんにもいるんですか。胸の中でざわつく人」

「いるよー。いや、いたよー。なのかな?」

 

 首を傾げながらそのニュアンスに少し不快感を出す。

 でも、どこか誇らし気なのが気になって仕方がない。

 

「どんな人ですか?」

「凄く凄く綺麗な人。手に入らないなら壊したくなるほどに」

「私にとってのショウみたいなものかー」

「いやいや、キミらは付き合えてるでしょ」

「でも、ショウの気持ちが私だけに向くなんてありえないから」

「だからこそ、薬がある。楽しみっていうのはひっそりと味わうものだからね」

 

 誇らしさの中に余裕が混ざりだし、微笑みには色気があった。大人特有の、と言えるほど大人を知らないが、危険な甘い香りがする笑顔だった。

 

「でも、私のことどうして手伝ってくれるんですか?」

「実益と責務かな。これでも先人だからね」

「責務……?」

「先人だからって言ったでしょ。子供が助けを求めてたら手を貸してあげる」

 

 なんだかショウみたいなこと言うな。彼は大人になっても、純真さと厚顔無恥を忘れることなく突き進むだろう。であれば、星環さんの言った通りの大人になることは想像しやすいものだ。

 なんせ、昨晩無理やりされたにも関わらず、また夜に出歩けるのだから。

 理世ならもっとそばにいられたのだろうか。

 私が知る限り、ショウの世界を真に共有できているのは彼女しかいない。

 

「まーた暗い顔してる。仕方のない子だね」

 

 星環さんは立ち上がるとソファをぐるりと回って私の背後に立った。彼を眼で追うために顎をグイッとあがると、ちょうど色のついた紙が私の顔に降り落ちた。シュッシュッとスプレーを吹きかける音がして、紙が湿り張り付いてくる。不快感はなく、頬が緩むような香りすらした。

 私の顔を模るように紙がしっかり貼り付くほど思考が定まらなくなる。

 

「凄いでしょ。僕が作ったリラックスシートなんだ。今のキミみたいに疲れてる友達に人気でさ」

「へぇ……そうなんですね……」

 

 紙越しに透けて見えるのは紫の瞳。

 なんで透けるんだろう。

 薬剤師?で科学者なのかな。相変わらず凄い人だなと感心しながら今にも眠りに落ちそうだ。スプレーの音が二度、三度耳朶に響く。星環さんの声が脳にジンワリと染み込む。

 

 何か聞こえる。

 私はショウを壊さなきゃいけない。

 

 

––––そうだ。だって、私はショウの彼女なんだから。

  一番邪魔なのは蘿蔔、ハツカ。

  消すのに協力してくるんだ。

 

––––……誰かがそばにいる。だれだっけ?

  紫色の瞳が見える。

  見覚えがあ……ない……。

 

 

 はい、ないです。

 

 

 

 

『情報屋とのコンタクト?』

 

 目的地に向かう片手間に連絡を取り付けた相手は士季だ。スマホ越しに電子的に再現された彼の声が聞こえてくる。

 

「そうだ。今までは偶然が重なって話せてたから、こちらから会いに行く手段がない」

『割と神出鬼没だからな。いいぞ』

「助かる」

『こっちも手が足りないからな。情報屋と接触してくれるのは助かる』

「何やってんだ?」

『粟坂さんたちが返り討ちにあっただろ。で、その成功要因が逸れ吸血鬼が吸血鬼殺し側に寝返ったことだ。だから』

「無理やり吸血鬼にされた人達や、吸血鬼になって間もない者に片っ端から声をかけてるわけか」

『最後まで言わせろ』

「……悪い」

 

 星見にも言われた悪癖に尻すぼみになりながら小さく謝罪した。どこかにいる士季が口をへの字に曲げている姿が目の前に浮かんだ。

 士季は、まあいい、と不貞腐れた声で続ける。

 

『吼月、確か小森団地に住んでたよな?』

「そうなってるな」

 

 最近全く帰っていないが、どうせオジサンたちは気にしないだろう。よくて、今月は光熱費が安いな、ぐらいだろう。

 妙なニュアンスにしてしまったせいか、一瞬声が途切れて、また始まる。

 

『あそこ掲示板があるだろ。そこにAtoZって書いて一晩経てば、どこそこへ来いって返答が書かれる。で、見たら消しておかないとアイツ来ないから気をつけろ』

「なんか昔の駅みたいだな」

『伝言板な。それよりかは手間ではあるが、貴重な情報源だからな』

 

 しかし、ここから小森団地に戻るとなると、かなり返答が来るのは明後日の朝になってしまうな。

 

「お願いがあるんだが」

『なんだ』

「いま、小森団地のそばに逸れの吸血鬼を探してる人はいないか?」

『いるが……お前、今日はどこをほっつき歩いてるんだよ』

「お前らとやり合った廃ビルのそば」

『なんでだよ』

「知り合いと会うんだよ。それでだが」

『分かったよ。そばにいるやつに書き込ませておく』

「助かる。そっちが聞いておきたい情報を教えてくれ」

『そうだな。この街近辺の吸血鬼のリストを作ってくれってのと……神崎の拠点』

「どこかで弱点を保管してるはずだもんな」

『ああ、頼む』

「こっちこそ。頼むよ」

 

 協定を結ぶと、彼の言葉をスマホの中にメモを残す。

 電話を切ろうとして、声がまだ飛んできているのを認める。

 

『あとさ、蘿蔔さんとは––––』

「悪いが、そろそろ待ち合わせの場所に着くから切るぞ」

『お、おい!』

 

 ぷつりと、士季を突き放すようにして電話を終えた。

 こちらからかけておいて失礼なのは重々承知だが、あまり今はハツカのことを考えたくない。

 考えてしまえば、俺が何をしたいのか分からなくなる。

 ハツカに倣えば今の関係も全て丸く収まると思っていた。俺が手に入れると踏ん切りをつければ三人と上手くやっていける。それこそ吸血鬼の力でも使って––––ふと、クラスメイトの言葉を思い出す。

 

『温度差ですぐに別れそうだな』

 

 温度差があったらいけないのかよ。

 人にはそれぞれ波がある。良い時と、悪い時。同一の存在でもないのに、常々波長が合うなんてことがあるのか?

 あるんだろうな。

 じゃなきゃ理世と一年以上いやしない。

 あれ、なんで理世なんだ?

 

「……とりあえず、後回しだな」

 

 見つめるのは立ち入り禁止のテープと柵が張り巡らされた廃ビルだった。俺がこの手で取り壊しへの踏み切らせた建物で、柵には近々解体作業を始める旨が記された看板がかけられていた。看板はおおよそ柵の中心にかけられていたが、俺の目線より高い。

 柵から数歩退り、助走をつけて跳び上がった。

 走り高跳びの要領で柵の上を背中スレスレで跳び抜けて、空中で体を一捻りし両脚で着地した。地面にマットがあるわけでもなく足裏からジンワリと全身に痺れが広がった。長時間正座したときを思い出す。

 痺れを抱えたまま廃ビルの中へ入っていくと、瓦礫などはそのままで荒涼とした様をしていた。一段と冷え込んだ気がする。

 

「先生! 岡村先生いますか?」

 

 声を張り上げながら中を練り歩く。

 積み重なった瓦礫の周りを回る。

 スマホには岡村先生のラインが登録されている。今朝、蒼のラインから俺のアカウントを送信したのだ。チャット画面には俺が先生の夫婦写真を持っていること、どこで何時に会うかのやりとりが残っている。

 到着したことを追記して、着信音が鳴るか耳を澄ませる。

 数秒遅れで音がした。

 

「……!」

「こっちを見ないでくれ。私の目に入らないでくれ」

 

 それは瓦礫の山の向こう側に足を踏み入れたタイミングでもあった。

 横目に、瓦礫に腰を下ろす小汚く草臥れたワイシャツ姿の老人の背中があった。それは昨晩おれが目撃した人物に違いなく、声も弱々しいが授業中に聞いた声だった。ただし覇気が全くなく、生きているとは思えない姿だった。

 理性が働いている内に、腕時計のベゼルを回して半吸血鬼化(ドープアップ)する。痛みと共に視界がより晴れやかになった。暗闇の中でも物事の輪郭がハッキリとする。

 

「ひとまず、話にあった品です」

 

 懐から取り出した岡村老夫妻の写真を、手裏剣のように投げて岡村先生の足元に滑らせた。少し立ち上がって拾わなければいけない場所で止まった写真を見て、目論見通り身体を起こして荒い息遣いをしながら岡村先生は写真を摘み上げた。

 

「ッ––––」

 

 けれど、すぐに写真を手放してしまう。

 それどころかゆらゆらと落ちる写真と共に膝から崩れ落ちて咽び泣く。

 

「うっ……ぅぅ……なぜだ。なんでこんな事に……!」

「岡村先生」

「やめろっ。来るなッ」

 

 思い出の品に触れて立つことすらままならない先生は、唾液と胃液の混ざった苦痛の産物を口から垂らして俺を制止する。けれど、俺は足を止めずに先生の背後に立つと首元に指を添える。

 そこに鼓動はなく、脈はなく。

 間違いなく–––––岡村先生は吸血鬼だった。

 

「離れろッ! キミを襲いかねない!」

 

 常人ではありえない速度で、衝動的に身体を反転させて俺に掴み掛かろうとする岡村先生は、意思に反して本能がそうさせたと読み取らざるおえない悲痛な顔つきだった。

 けれど、安心してくれ。

 知ってさえいれば俺はやられない。

 地面に叩きつけられたのは俺ではなく、岡村先生の方だった。

 

「––––ガッ!」

 

 荒療治だが、痛みは一瞬だ。

 反転した身体。その胸ぐらを掴んで地面に叩きつけると、小さなクレーターが生まれコンクリートの破片が宙を舞う。突然襲った背中の痛みで岡村先生の口があんぐりと開いた。

 そこに俺は新たに懐から取り出した試験管–––時葉たちに分けた血入りのものと同じ物–––をその中に突っ込んだ。トロリと垂れ、真っ黒な咥内に流れ込んだ血液の量に合わせて、岡村先生の肌の色艶がすぐさま回復していく。

 

「…………え? あ、うまい?」

 

 正気を取り戻しながら素っ頓狂な呟きをする先生に安堵しつつ、いつも通りカッコつける。

 

「俺の血の旨さは万人共通らしいな」

「……血?」

「落ち着いたんだし、座って話でもしましょうよ」

 

 手を退けて先に瓦礫に腰を下ろすと、岡村先生は不思議そうな顔つきで俺の隣に座った。

 

「えっと……なんだ? ありがとう、吼月くん……?」

 

 状況が飲み込めていない先生は流れで頭を下げてくるので、すぐに直させて話を始める。

 

「色々話してあげたいことはありますが、先に確認します。貴方は奥さんが死んだ後に……厳密に言うと九月末ぐらいに誰かに恋をしましたか?」

「こ、恋––––!?」

「ふざけているのではありません。真剣な話です」

「そ、そうなのか……?」

 

 吸血鬼に変貌した事、血を摂取したことで間抜けな表情も老けた印象すら感じさせない成熟したものになっている。改めて見ると久利原に似てるなこの人。

 先生はどこか悔やむような態度を示しながら心境を吐露する。

 

「恋か……してたかも、しれんな」

「そうですか」

「恥ずかしながら妻が殺されてから抜け殻みたいになってしまったな。息子夫婦は愛想を尽かしてなのか蒼を置いて、出張に行ってしまうし、蒼にも心配をかけたくなくて外に刺激を求めた。

 何日かぶらついて酒に浸っているときに、ある女性に出会った。

 とりわけ美しいわけでも醜態な訳でもなく、ただただいい女性だった。歳もそこまで離れているわけでもなく、登山だとか趣味の話も噛み合ってよく話すようになったのが九月の半ばだ。

 妻を失った反動で……いや、妻を言い訳にするわけにはいかんな。おそらく自分はいつのまにかその女性に心を惹かれていたんだ。

 けれどあるとき––––」

 

 抱きしめられ、痛みが走った。

 

 岡村先生は困惑したように呟いた。

 間違いなく吸血の瞬間だ。

 

「……それからだ。他人を見るたびにその中にある何かを貪り食いたくなる衝動に襲われるようになったのは。さっきのことを考えると、血が飲みたくなったんだな」

「吸血鬼、か」

 

 俺が呟くと、岡村先生は頭を抱えながら今の状況が現実なのか確かめるために皺やシミのない手のひらで自身の頬を叩いた。

 

「痛いっ!」

「……そりゃ痛いでしょうよ」

「だがね、吸血鬼だなんて都市伝説を簡単に信じられるかな」

「事実先生がなってるじゃないですか」

「そうだが……いやでも……」

 

 口をまごつかせながらこの話題をやめる判断をした先生は静かに、でも確かに現状を受け入れることにした。

 

「確認したいのですが、先生が惚れた女性はこの人でしたか?」

 

 一枚の写真を映したスマホを先生の前に出すと、覗き込むようにそれを見て首を傾げた。

 

「誰だい、この美人?」

「……いえ、この人でないなら良いんです」

 

 さげたスマホの写真を見つめる。星見キクの姿が収められたもので、ひとまず完全に白になったことを胸の中で喜んだ。認めたくないが、顔は良いのは事実だからな。

 俺の様子を眺めながらひとまず傍に置くことにしたらしい先生は、立ち上がって夫婦写真のそばに歩み寄る。

 

「にしても散々だよ。人を見るだけで襲いたくなるし、家には帰れなくなるし……変な人には追いかけられて余計に物は壊すし、戻ってみたらホテルでキミが事件に巻き込まれてるし。

 やはり想いはブレてはいけないのかもしれないね。不幸を呼んでしまう」

「なんでですか?」

「一途に愛すると決めたからだよ。死んだからとはいえ、胸の穴が塞がらない内に早計な判断で身の振り方を決めるのは良くない。強い感情の反動……みたいなものかな?」

「壊れた物は塞ぎようもないですよ」

「…………キミの考え方も分かるけどね」

 

 岡村先生は共感とも憐れみとも取れる横顔を覗かせる。

 なにか引っかかる。

 さっきの会話が妙に、

 

 意を決した顔で膝を折った先生は刃物でも触るように写真を摘み上げた。今度は悪寒に襲われる事なく持てたのを見て、ハツカの時もそうだが、血には様々な意味で吸血鬼を安定させる効力があるようだと確認できた。

 

 変な人に追われて?

 そのせいで物を壊すはめになった?

 巻いてきたのか?

 

「そういえば、その女性の名前って」

「ああ、星見––––」

「……」

 

 岡村先生が名前を告げようとした瞬間、炸裂音と数秒遅れの破裂音がした。炸裂音は渇いた鉛の匂いと共にあって、破裂音は先生の身体の中身を俺の足元にばら撒いた。

 最後まで名前を告げることなく、先生は地面に倒れ伏した。

 声が静寂を壊し続ける。

 

「吼月くん! それから離れてッ!」

 

 その声は暴力的なもので、幾度と俺の体に拳を、蹴りを振るってきた男のものだった。なにより受け入れ難いのはいつもと変わらず俺を庇護しようと優しさも十二分に含んでいることだ。

 あまりにも、

 あまりにも度し難い!

 

「いきなり撃つ奴があるかよッ!!」

 

 俺は吐き捨てて、岡村先生とともに力の限り飛び上がった。

 

 

 

 

「ふん、ふーん」

 

 ソファで寝ぼける蒼の隣で鼻歌を歌いながら折り紙の続きを折っている。

 テーブルにはもうひとつ、紙で作られた作品が置かれている。

 蒼のとろんとした阿呆な顔つきで、でも思い他人を害したい凶悪さも滲んだ歪な笑顔をそのまま映し取った像だ。専用のシートを使ってるから紙像かな。特殊な紙をとある液体を吹きかけることでその形状で固定させる発明品。

 長年の発明品のひとつ。

 いやあ、吸血鬼様々だね。

 その像の下には岡村蒼と彫られた金縁のラベルが置かれているから余計に彫刻感が出ている。

 

「さて、この子も遊び倒したし次の子を探すかな」

 

 次はもうすでに決まってるんだけどね。

 

「家族共々楽しめたよ。ありがとね蒼ちゃん」

 

 感謝を告げたとき、ちょうど折り紙を作り終えた。

 炎の漢字を折り紙で作ってみたのだ。え?どうやったって? ノンノン、天才に理屈を聞くのは野暮だよ。だって出来ちゃうんだもん。

 

「……あ」

 

 眺めているとどうも字体のバランスがミリ単位でズレているのが分かってしまった。失敗だ。これではいけない。誤差はあってはいけないのだ。誤差は失敗の素。売り物ではなくプライドである以上は、突き詰めなければいけない。

 とはいえ、失敗作にも相応しいの終わり方を用意するのが僕だ。成功作でも同じだけど。

 せっかくだから切り絵にして捨ててあげよう。

 ハサミを探すために立ち上がるのと同じタイミングでスマホに電話がかかってきた。

 

「もしもしマスター?」

『やあ、星見さん』

 

 【Tucked-away】のマスターからの連絡だった。

 仮装していない僕を知ってる数少ない人。

 

「どうしたの、そろそろ来る頃だと思った? 残念だけどまだいけないよ、これからハサミで処理をしなくちゃいけないんだ」

『貴方、ついていないでしょ』

「ついてても流石の僕でもそれはしないよ!?」

『冗談はともかく、先ほど岡止(おかとめ)さんという方から伝言がありました。吸血鬼殺しが吸血鬼を唆して同仕打ちさせようとしてるから気をつけて、とのことです。怖いですね』

「怖いねえ……」

 

 空返事をしながら僕はリビングやキッチンでハサミを探す。

 

「気をつけておくよ。そうだ、今日は強めの焼酎が飲みたい。日本の酒って美味しいよね」

『アルトの良い物も取り寄せてありますが』

「いいの。故郷の味もいいけど、せっかく日本にいるんだから。それと良い型が手に入ったからあげるね」

『分かりました。楽しみにしてお待ちしてます』

 

 電話を終えて、キッチンバサミを片手にソファに戻る。

 

「あとは盛大に終わりに向けて爆発かな。芸術ってそういうものだよね」

 

 楽しみで笑みが止まらない。

 




今日のゴジュウジャー……あのえっと、ヴィラン兄が主役弟に求婚してヴィランボスがメインロボを強姦して子供を作った……?
闇鍋かなにか……?

やめてよ。
また吠がはぐれ一匹になっちまうよ……
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