よふかしのあじ   作:フェイクライター

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第百三十肆夜 ミラーリング

「それでどこに遊びに行く?」

 

 街をあてもなくぶらつき始める吼月ショウ()は、手の中にある温もりを持っとそばに近づけようと引っ張る。首だけ振り向けて見てみると、突然引き寄せられたカオリが足を引っ掛けてつんのめっていた。ダサくて可愛いな、なんて卑しいことを思っていると、体勢を整えたカオリが俯いたままたずねてきた。

 周りに聞かれたくないからなのか、口元を俺の耳に寄せる。

 

「あの、さ……」

「なに?」

「貴方は本当にいいの、このまま遊んで」

「くどい」

「でも私……いつまた襲うか分からないわよ。それに仮面だってつけてるし」

「仮面はなぁ……自分から外して欲しいな」

 

 にしても、自覚あるのか。

 襲って来たら躾けるだけだからいいが、仮面は人混みの中に立つのに不向きだ。カオリが駅にやってきた時も悪目立ちして目線を集めていたし、他人から警戒され訝しまれていた。

 だから、いまも人通りをさけて路地裏を歩いている。

 コスプレをする人自体は珍しくない。しかし、いくらハロウィンが近いからといって、当日でもないのだから般若の仮面なんて怪しいものをつけた人は入店を拒否される可能性もある。

 

「そもそも何で仮面なんだよ。変装道具とか使って顔を変えろよ。スパイ映画みたいなやつでさ」

「映画の中だけよ、あんなの」

「金かければいけるだろ。それこそ、萩凛さんとかそのあたりのツテありそうだし」

「五月蝿いわね……いいじゃない。仮面の方がカッコいいんだから」

 

 あ、好きだったんだ。

 カオリは文句を続けたそうな雰囲気を身体の中に押し込むと、申し訳なさそうな声で言う。

 

「外した方がいい……?」

「いいのか」

「襲っちゃったわけだし」

「後ろ向きな理由なら断る。外すなら今日が楽しかった、また遊びたいと思った時にしろ」

 

 せっかく遊びに来たのに引け目を感じさせたまま、嫌ことをさせたまま連れ回すなんて論外だ。愚の骨頂。死を覚悟しろ。最低最悪の行為だ。

 だとしたら、俺たちが取るべき行為はひとつだけ。

 

「その仮面って手作り?」

「なわけないじゃない。買ってるわよ」

「だったら行こうか」

 

 つけている腕時計のベゼルを回してスイッチを押す。力が湧き上がり、理性が凍える。慣れ親しんだ力の感覚。突発的な変容ではない、自分自身の力。

 えっ。頓狂な声がカオリの口から落ちる。驚く彼女の足を引っ掛けて倒すと、ちょうどお姫様抱っことなる形で抱きかかえる。

 

「なっ、貴方なにを」

「そのマニアックなお店に行くんだよ。道案内はよろしくね、カオリ様」

「そうじゃなくて!」

「裸の俺を襲ったくせにお姫様扱いにも照れるのか? 贅沢なやつだな」

「人たらしに引っかかった姫なんて落伍者もいいところだわ」

 

 軽口を叩きあうと、カオリは『……分かったわよ』と諦める。

 

「安心しなよ、カオリより跳ぶのずっと上手いからさ」

「お手並み拝見ね」

 

 ふふ、と小さな笑いを聞いてから俺は夜空へ跳び上がった。

 

 

 

 

 夜風が吹き抜ける住宅街のなかで、蘿蔔ハツカ()は電柱に身を寄せて街灯に照らされる少女を見つめている。ジーンズにカレッジジャケットを身につけるボーイッシュな風体の彼女は、程よく焼けた小麦色の肌は健康的で、露出しているうなじを見る限り美味しそうな人間だった。

 ただ、僕は名も知らない彼女を見ていても食欲が湧いてこないし、僕を連れ出した尾行の主犯––––倉賀野理世は、別に血を吸わなくても生きていける存在だ。

 だから僕は電柱から顔だけ出す理世に訊ねる。

 

「……で、なんで僕まで駆り出されるわけ?」

「尾行するときは二手で行動できるようにしておくものよ」

「手慣れてるね。でも僕じゃなくて、甘凪さんとか新入りちゃんでいいと思うけど」

「見た目的に近い年代の方がいいのよ。あの子の行く先、カフェだし」

「だから僕に男の格好をさせたの?」

「そうよ。夜の逃避行みたいでいいでしょ」

 

 ニヤッと笑う理世に対して僕は肩を落として僕らの先を行く少女を見る。

 

「あの子はなんなの」

「岡村蒼。ショウの彼女兼ペット」

「ふーん」

「……露骨に嫌な顔するじゃない」

 

 首だけ回してこちらを向く理世は呆れた様子で呟いた。

 僕自身、思ったよりも腹の奥がイガイガする。

 

「別にペットを飼うのはいいんだよ。でも、僕以外のものを好きと公然と言うのは腹が立つ」

「吸血鬼って何でもかんでも自分に注目を集めないと気が済まないのかしら。自信過剰で卑しいわね」

「キミも半分そうだろ」

「ざんねーん。私は人間でも、吸血鬼でもありません。その全てを包括し、超越した存在よ」

「キミも変わらないよ」

 

 自信過剰なのはどっちなのやら。

 まず、つけ回す理由がわからない。単純な嫉妬からの行動に思えない。それに岡村蒼も吼月くんの家である小森団地とは異なる方向に進んでいるし、駅に向かっているわけでもない。

 家を取り囲む塀や柵の中にすり抜けて身を隠しながらその後を追う。

 

「ただのペットなんだろ。つけ回す理由はなんなんだい」

「蒼がショウを薬で眠らせて襲ってる」

「作り話?」

「いいや。何度かやってるみたいよ。実際ショウ用に調整されてた薬を持っていた」

 

 聞くと、吸血鬼になれる特異な肉体である関係で、普通の薬では何かしら細胞などによって効果が抑制されるらしく、人間の医者が処方したものでは眠りにつくことはないのだという。

 語られるにつれて、僕は腑に落ちた。

 ショウが病院で看護師からも気味悪がられていたのは、本来なら効いてくるはずの薬の影響が出てこなかったからなのもあったのではないか、と。

 

「でも、今のショウは吸血鬼の力をコントロールしてるよ」

「別の生物にすぐ変化できる細胞が完全に人間と同じものだと思ってるの?」

「それは……そうだけど」

「だから、もしショウに効く薬を作れるとしたら吸血鬼のことを熟知した上で、ショウというイレギュラーを認知している者以外居ないわ」

「つまり、これから彼女が会う相手も吸血鬼かもしれないってこと?」

「しかも、なかなか悪どい吸血鬼なのは間違いないでしょうね。手口によっては星見キクなんかよりもずっと……最低なやつ」

 

 星見キクよりも最低な吸血鬼(やつ)

 

 本当にそうだろうか?

 

 探偵さんや神崎を思い出す。

 僕が知る吸血鬼殺したちは、ショウの人柄や過去を知った後に半吸血鬼の存在を認めている。ショウは行きすぎることがあるとはいえ、悪人ではないのは確かだ。

 けれど、もし肯定材料を持たず、吸血鬼になれる人間がいたと知ったら問答無用で殺しに行くかもしれない。蒼ちゃんを経由しているのは、自分の正体を知られずにショウを殺すためかもしれない。

 あの二人以外にも厄介者がいると思うと憂鬱だが、あくまで仮定の話だ。

 僕らにはまったく科学的な根拠がない。

 ショウを解剖したわけでもないし、詳しい人から説明を受けたわけでもない。

 なのになぜ、理世がここまで本気にしているのか分からない。

 ねえ、と僕が声をかける前に理世は葡萄色の瞳をこちらに向けた。彼女はすでに人間ではなく、そして吸血鬼とも違う異質な存在に変わっていた。

 

「というわけで、私は先にあの子が行くであろう店に先に入るから引き継ぎよろしく」

「は? なんで僕が」

「うまくいったらショウを好き放題するためのオモチャが手に入るわよ」

「……チッ」

「店の場所はラインで送っておくから、また店でね。じゃあね〜、ハツカくん」

 

 ショウと違って感情豊かな笑みを浮かべたまま消えていった。

 アイツぅ……!

 いつか絶対僕のペットにしてやる……!

 ショウと同じ、にやけ面が気に食わない。

 けど、彼女のいうオモチャは魅力的だ。睡眠薬自体が欲しいわけではないが、薬の調合者の知識は有益だ。うまくたらしこめば、筋肉弛緩剤のようなショウや理世の意識を保ったままお人形にできる薬が手に入るかもしれない。

 手にはならなくてもどちらでもいい。

 ショウは僕のものだ。

 スマホがかすかに震えたのを感じつつ、尾行を続ける。時折理世からのメッセージを確認すると、目的の店の周辺写真が送られてきた。木々で囲まれた秘密基地の様態だ。

 そうして、少し離れた位置から見張り続けて十数分。写真と同じ見た目をしているが、自分の目で見ると暗い雰囲気なのもあって想像以上に鬱蒼とした店構えをした。街灯が店への通り道を照らしているが、安心感などまるでなく、かえって化け物の口の中を見ているようだった。敷かれている石畳にオレンジ色の街灯が浴びせられ、まるでイボのある舌のようだ。

 黙って見ていると、岡村蒼がその中に呑み込まれた。

 喉が鳴った。

 

「これ、僕も行くべきなの……?」

 

 理世がいるならわざわざ僕まで行く必要はあるのだろうか。それこそ複数人で中と外を張り込んでいたほうが、後々追いやすいのではないだろうか。

 けれど、理世は僕も入ってこいと言っていた。

 素直に言うとめんどくさい。

 それでも怖がって入ってこなかったなんて揶揄われるのも癪だ。

 

「……よし」

 

 意気込んだところで電柱の影から身を乗り出したところで、慣れ親しんだ声が、僕の耳に届いてきた。

 

「あれ、ここって喫茶店があるところ?」

「あら、知ってるの」

「俺の彼女がよく来てるみたい」

 

 道の反対側から聞こえてきたのはショウの声と、情報屋を名乗る般若の女の声だった。

 慌てて再び身を隠す。

 どうしてあのふたりが一緒に街をぶらついているのだろうか。

 しかも、手を繋いで。

 

「……むかつく」

 

 ほうほう。

 流石は半吸血鬼。女に手を出すのが早いらしい。

 聞き耳を立てると、般若が小さくため息をついたのが聞こえた。

 

「まあいいわ。用があるのはその裏側だもの」

「裏……?」

「そう。そこにお店があるのよ」

「なら早く行こうか」

 

 ふたりは喫茶店の前に来ることなく、手前の十字路を曲がっていく。

 自然とその足取りを気づかれないように注意を払いながら辿り始める。般若が言う通り、喫茶店の裏にも小道があり中に入れるようになっていた。

 般若に引っ張られるようにしてショウも店の中に消えていく。

 

「っ––––」

 

 見えてしまった。

 ショウの首筋にふたつの孔があることに。

 

 どうすればいい?

 

 中に入って問い詰めてやりたい気持ちもあれば、二人の関係がなんなのか確かめる行為自体が辱めを受けているようにすら思える。腹の中で無数の針が飛び回っているかのような不快感を覚えながら、見張ることを選んだのだった。

 

 

 

 

「これは……これは……」

 

 カオリが案内してくれた店を見渡して溢れた想いは感嘆でもあり、驚愕でもあった。老舗の時計屋に行くと店の中に壁時計が星のように散りばめられているように、この店では無数の仮面がはりつけられていた。カオリが持つのとは違う般若の仮面から、以前借りた檻のような鉄仮面。獅子踊りのライオンの仮面や鹿の仮面。天狗のお面のような言い伝えや民謡を模ったものまでなんでもあった。顔が無数にはりつけられていると、すごく居心地が悪い。

 無数の目が、ある。

 

「いらっしゃい」

 

 声をかけてくれたのは綺麗に蓄えられた口髭が特徴的な紳士服姿の男性だった。

 

「こんばんは、マスター。繁盛してる?」

「いやはや、微々たるものですね。いろんな場所を転々としていると、客も遠のいてしまいますし……貴女のようなコアな方々が支えてくださるおかげです」

「マスターの手先は器用だし」

「お褒めに預かり光栄です」

 

 長い付き合いのようでカオリは店主らしい男性に近づいて仲良く話していた。

 俺は芽があると思った。関係性がどうであれ、親しく話すことができる相手がカオリにいることに良い兆しを見出した。

 そして、僕は一点だけ安心できるものに目をやりながら、時折横目で二人を見ていると、店主と目があった。

 

「どうも」

「……これはこれは」

 

 店主はそれこそ天狗とでも出会ったのような顔で俺を見ていた。

 

「……お気持ちが変わられたのですか?」

「そういうわけでは」

「ですが、その子の首筋にあるのは貴女の牙の痕では」

「違いますよ。俺、いろんな吸血鬼と関係持ってるんで。いけないですか?」

 

 嘘ではない。ハツカを始め、時葉たちにも血を吸わせているし、萩凛さんたちにも吸われたし、ニコ先生にも吸わせた。恐らくこの世で最も吸血鬼と関係を持った男ナンバーワンが俺である。

 

「それとも、子供の入店はお断りですか?」

 

 正面に立ち、店主を見上げる。

 彼は熟考したのち、笑いながら首を横に振った。

 

「いいえ。ようこそ、仮面堂へ」

 

 安直だけど、ここまで似合った店も中々ない。

 

「では、なんとお呼びすればよろしいでしょうか?」

「吼月です。吼える月で、くづきです」

「いいお名前ですね」

「ありがとうございます」

 

 見ず知らずの誰かに褒められた程度で傷つきはしない。

 

「それで今日はどのようなご用件で?」

「コイツと夜遊びするので、もう少し人混みの中にいける仮面が欲しいと思いまして。買っていいですか」

「待って、貴女が選ぶの?」

「選ばせてくれないの?」

 

 不服そうなカオリに訊ね返せば、ぐぬぬと唸りをかすかにあげて首を縦にふる。

 よし! 勝った!

 

「なら、あの無地の仮面をください」

 

 俺が指で差し示した場所に二人の目線が向かう。

 そこにあったのまるで鏡のように澄んだ赤子の肌色をした仮面だった。なにも意匠がなく、目や口といったものすらない。恐らくマネキンよりも無個性な仮面だった。けど、近づいてみれば俺の顔を映し出している。

 

「いい?」

「逆に動きづらいでしょ」

「般若や鉄仮面よりは断然いいですよ。柔らかい印象になりますし。目の周りは特殊な素材で視界を確保できるようにしていますので、歩行に支障が出ることもありません」

「……分かったわよ」

 

 カオリが了承すると、店主は頷きながら一度店の奥に引っ込む。ガサゴソと引っ張り出す音や、何かを叩く甲高い音がする。十数分してからまた顔を出した時には両手に一つの箱を持っていた。

 

「こちらがご所望の、無垢の仮面です」

 

 名前あるんだ、と思っていると店主が中身を取り出してカオリに手渡した。

 

「……」

「着用をいつもの場所で」

「分かっています」

 

 今度はカオリが店の奥に–––店主が入ったのとは違う扉だが–––消えていった。仮面をつけるのにはどれだけの時間がいるのだろうか。外で待っていてもいいだろうか。

 

「落ち着かないですか?」

 

 心の揺れを感じとったかのように店主がカウンターを出て、店の中に入りながら俺を見据えて言う。

 

「えっ。あ、あはは……すみません、目が気になってしまって」

 

 笑みを取り繕いながら俺は小さく頭を下げた。

 店主は『気にすることはありません』と言いながら、店全体に宿っている顔立ちを楽しむ。

 

「確かに、顔にあるものは余すことなく怖さを孕んでいますからね」

「怒りだとか嫌悪とか、嫉妬とか……ですか?」

「そうですね。皺を寄せた額は不快ですし、睨む瞳は当然怖い。歪んだ口元は嘲る人の歪みそのもの。逆に、緩んだ口は穏やかな気分にさせてくれます。丸く煌びやかな瞳は喜びそのものですし、綺麗な額は優しく接してあげたくなるエネルギーがあります」

 

 確かに皺を寄せて怒る人々は見ていても心が重くなる。鋭い視線を浴びるのは落ち着かない。嘲笑は耳を塞ぎたくなる。

 嫌だな。

 ここにいたくない。

 

「だからこそ、そのすべてを取り除いた顔で相手に接することは相手にすべてを委ねることを意味します」

 

 店主は言う。

 

「選んだ仮面によってその人が分かるんだよ。自分のものを選ぶ人、誰かのものを選ぶ人……それぞれが抱えてる欲がわかる。

 そして、キミは彼女を無視して支配しようとしているんだ」

 

 違っているかな? といたずら好きの子供のような嘲る顔がこちらに向く。

 

「吼月くんが無垢の仮面をあの人につけさせたのは、何故ですか?」

 

 無数の目が僕を監視する。

 僕の些細な心のカビを見落とすまいと厳しい視線が全身を刺す。

 その中で俺は変わらない答えを出す。

 

「そうだよ。俺の目的にとってアイツの意思は関係ない。アイツがさっさと家族に会いにいって問題を解決してくれたらそれでいい、アイツの事情なんて関係ないんだよ」

 

 尋問に答えるように、胸を張って語り出す。

 

「でも、意思を度外視にして解決したところでハッピーエンドにはならないと知った。だからこそ、俺はカオリをモノにする」

 

 鏡のような仮面は相手の意思を無くすのではない。

 見つめているのは自分自身だ。

 

「あれが子供(無垢)の仮面だって言うなら、俺は大人の仮面をかぶってやるよ。子供が大人を必要として大人が子供に応えることを普遍でありますようにと願いを込めて、純粋に心を開いてくれるように、見つめてくる眼に答えられる自分であるかと問いかけるために」

 

 だからこそ!

 俺は天に指を伸ばす。

 

「俺が! カオリの……いや、全存在の人生の楽しみナンバーワンになってやる!」

 

 寸劇じみた言い回しだが、何度でも吐いてやろう。

 俺は俺が好きな自分で居続けよう。

 

「ふふふっ……ははっふふふ……!」

 

 店主は笑いながらサムズアップをする。

 

「キミ、面白い子だね。吸血鬼を誑かすのもわかる気がするよ」

「誑かすって言い方やめてくれませんか? 全員に本気ですよ」

「それって特別な人がいないってことでしょ」

「違いますよ。ハツカっていう大切な人が一番上にいて、その上で向かってから全員とも向き合うだけですよ」

 

 好きなのハツカだし。

 無垢の仮面だってハツカにつけてやりたいし。

 店主が言うように他人を支配していい気になったとしても、ハツカを支配しなきゃ満たされない。

 

「……疲れない?」

「疲れる!」

 

 現在進行形で色々やってるから疲れてるしな!!

 

「けど、それが俺のしたいことだ」

 

 チラリと俺は外を見るが、すぐに店主が声をかけてくるから視線を切る。

 

「子供らしい大言壮語だねえ。キミのこと、好きだよ」

「……どうも」

「なんで引くの」

「いや、会ったばかりの人に言われても釈然としないし……」

「だったら、今後もウチをご贔屓に」

 

 店主は近づいてきて俺の手を取ると、手のひらに何かを置いた。見てみるとそこには店のカードらしきものと、何かの鍵があった。

 

「これ、なんなんですか……?」

「無垢の仮面って身につけるのに」

 

 店主が言いかけたところで、足音が聞こえてきた。無垢の仮面に付け替えたカオリだ。目や鼻といった本来あるべきパーツがすべて剥ぎ取られた顔。仮面をつけたと思わせる繋ぎ目は見当たらない。ただひとつ、首に選んだ覚えのない輪っかがあった。ぷらぷらと揺れるそれは首輪だった。

 

「あの……この首周りのやつ、なんなんですか?」

 

 首輪だった。

 思わず喉を鳴らしてしまう。

 

「その鍵を使ってつけて鍵をかけてあげて」

 

 俺は思わず店主を睨みつけた。何を考えているのか分からない微笑みの裏を読み解こうとくまなく見つめるが、なにひとつ掴めない。

 

「……さっきの問答いりました!?」

「私としてはいい貰い手が見つかって嬉しいよ」

 

 それはどちらのことを指すのだろうか。

 

「……変えるか?」

「いいわよ」

「なら、首出せ」

「ん? ……こう?」

 

 俺もカオリも気まずい雰囲気になりながらも、差し出させた首輪と仮面の連結部を、一瞬だけ発動させた半吸血鬼の力で切り裂いた。そばにあったゴミ箱に首輪を投げ捨てる。

 どうも、とカオリは首周りを触りながら言う。

 店主は少し驚いた様子を見せていた。したり顔を崩せて満足する。

 

「で、さっきの話、本気で言ってる?」

「聞こえてたか」

「結構しっかりと」

「俺がお節介で本気じゃなかったことがあるか」

「そうね」

「あっ、でも自分のものですって紋章が描きやすそうだなとは思ってたよ」

「……このっ、このっ」

 

 俺はもう一度、外を見る。

 

「俺は本気だよ、ハツカ。俺はお前が一番好きだから」

 

 そばにいる彼に、彼にだけ聞こえるように。

 

 

「……アイツ」

 

 ショウが入った店の扉の真横。木目の壁に背中を預けながら鼻で笑ってしまう。

 また化かされた。

 偶然だったとしても、僕のことを目ざとく感じ取ってくれる。

 

「戻るか」

 

 夜に溶け込むように歩き始めた。

 

 

 

「それでですね、ショウがもうたっぷりと––––」

 

 蒼が向かい合う相手に惚気話をする。

 甘ったるくて聞いているだけで脳が溶けそうな行為の数々が羅列されるが、葛樹理世()にとってはどうでも良かった。お互いに触れ合うだとか、想いを吐露し合うだとか、そんなものは一年間でたっぷりとしてきたのだ。

 ショウが好いているわけでもない相手に目くじらを立てている暇はない。

 それよりも、問題はその向かい側に座る相手。

 

 

 吸血鬼を知っていて、ショウの異常性を分かっている存在。

 いるとしたら、ひとりしかいない。

 

 

 

 

 ねえ、伯母さま。

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