自分はゴジュウジャーが大好きです!!
あの後、
理世のご両親も住んでいるのだろうか。
疑問に思っていると、理世が玄関の扉をあける。家の中はずいぶんと暗い。生活音は聞こえてこなくて、ひとりきりなのが伺える。大丈夫だろうか。
「じゃあ、これで」
本人は気にする素振りもなく、玄関の灯りをつけてこちらを見た。
「またな。なにかあったらちゃんと言うんだぞ」
「分かってるわよ。心配性ね」
「心配に決まってるだろ……」
「ありがと。なら、今度は一人で来てちょうだいね」
理世は微笑みかえし手を振った後、扉を閉めた。電気錠が閉まる音と扉の奥でチェーンロックがかけられる音がした。ドアには覗き窓はなく、その代わりとして上部にカメラが設けられていた。
物言わぬドアを数秒見つめてから踵を返す。
「時間取らせて悪かったな」
「いいわよ。相棒なんでしょ」
「頼ってもらえないみたいだけどな」
着いてきていたカオリは咎めることもなく俺の隣を歩き始めた。
最上階に来るまでに確認したが、非常階段前やエレベーターにも監視カメラは備え付けられている。フロント前の自動ドアも外から入る際はパスワードによって開くようになっている。セキュリティは万全だ。
理世がストーカーに怯えないのも分かる。
けれど、俺が不安なのはそこではない。理世が嘘をついているかもしれないことだ。
疑っている理由はちっぽけなこと。俺が仮面堂に向かう際ハツカを見かけたからで、ここ最近理世はハツカといることが多いらしいという憶測からだ。加えて店先で理世と話していた時、後ろめたさを感じている様子だった。
別に会っていること自体は問題じゃない。いや、二人きりであっているのは俺からするとかなりの問題だが。理世が謎の吸血鬼に襲われたことが一番の問題だ。
もし、謎の吸血鬼が神崎の息のかかった者で、ハツカを監禁し殺そうとしていたら……想像するだけで、吐き気がする。
「大丈夫?」
「問題ないよ」
凹凸のない綺麗な肌色をした顔が不安気に傾いていた。均一に平された仮面の奥にある口が動いているのを意識すると、自分の首筋に自然と指を当ててしまう。
もし、カオリが理世の血を吸ってくれたら、何かわかるかも知らないのに。自分の疑いの真偽がハッキリするのに。
「……蘿蔔ハツカから連絡は?」
「まだ来てない」
このマンションに着くまで計10回ラインにメッセージを入れたが、一向に既読にならない。最初のメッセージから1時間は経過している。反応のないチャット画面を見ていると、動悸が酷くなり荒い息が噛み締める口から溢れる。
「ねえ」
緊張から強張った声でカオリが俺に呼びかけた時、
ピコン。
チャット画面にメッセージが追加された。
もちろん俺は新しいメッセージを発信していないから、付けられるとしたら相手側のみ。ハツカからだ!!
読むと、どうやら仮面堂のそばにいたのは個人的な理由があったからだそうだ。メッセージの次には仮面堂内で時葉とふたりで肩を寄せて笑っているハツカの写真が送られてきた。
近い……近いな……!
写真の背景を見ると、確かに仮面堂の中に飾られていた古今東西、様々な仮面が映り込んでいた。
「良かった……良かった」
「大丈夫そう、なのね?」
「とりあえずは」
これなら安心だ。
そう思うけれど無理やり書かされてる。あるいは他の誰かが打ったものかもしれない。疑念を打ち払うため、通話ボタンに指を伸ばし–––一瞬だけ躊躇ってから–––押した。
数回のコール後、ハツカと繋がった。
「やあ、ショウ」
「……は、ハツカ? 久しぶり」
「う、うん〜。でぇ、どうしたのさ、寂しくなっちゃった?」
ムカつく……!
こっちがどれだけ心配したと思ってんだ。
でも、電話越しのハツカの声からは焦燥も怯えも感じられない。それどころか、リラックスしているようにすら思える。気の抜けた荒い息。以前ナズナさんにマッサージをしってもらったときの甘い声に近い。
「何やってるの」
「えっとね……そう、マッサージをしてもらってるの」
「またナズナさん?」
「べつのところー」
「そうかよ」
「あっ。拗ねた」
うるさいな。
ゴタゴタがありすぎてマッサージの勉強も出来てないから、いま名も知らない指圧師と変わったところで太刀打ちできないけど、ハツカを気持ちよくするのは俺であってほしい。
「そうそう。今度プレゼント贈ってあげるからさ、楽しみにしててよね」
「なんで?」
「僕のことを好きになった記念、かな」
「……チッ、アイツら」
それじゃ、ね。
そういってハツカは電話を切った。プーツーと空虚な電子音がスマホから鳴り続ける中で、自分の心には充足感があった。数日聞かなかっただけで、ハツカの声がここまで心に沁みる音になっているとは。
「蘿蔔ハツカ、大丈夫だったのね」
「……うん!」
俺は俺のやるべきことをやろう。
ハツカが楽しく暮らせるように。
☆
プープーと電子音が鳴り渡る。
ああ、いなくなってしまった。
ショウ……ショウ……!
「は〜〜い、よく会話できましたね〜〜」
耳元で神経を逆撫でする声が聞こえてくる。でも癇に障る声が心地よくて思わず『ありがとうございます』と返してしまう。
どこの誰なのか分からない。
けれど匂いからして吸血鬼なのは間違いない。
おそらく女。
「まあ吼月と楽し気に会話できたのは僕の薬のおかげなんだけどね」
謎の吸血鬼は僕のスマホを操作しながら言う。
ショウのことを知ってる?
ただ僕のスマホから情報を得ただけか?
考えをまとめたいのに頭が回らない。
「でも一箇所、うまく喋れなかったところあったよね」
「え」
「何をしてるかって聞かれた時だよ」
ムカつく声が底のない低い声になる。誰かの吐息が耳から離れて、代わりに
「……き、み」
「もしかして助けを求めるつもりだったのかな? ダメだよ。そんなことしたら……キミの眷属がどうなっても知らないよ?」
謎の吸血鬼の顔が退き、代わりに服を着ていない女性が僕の前に置かれた。その女性は僕の眷属……
そうして吸血鬼は時葉の後ろに陣取ると、すり抜けで腕を時葉の頭に通した。
それだけで奴が何を言いたいのか分かってしまう。
「指示にも従えない子にはお仕置きをしなくちゃね」
「待って! 謝るから」
吸血鬼は残念そうに腕を下ろしてから言う。
「なら今からキミを蹴るから『吼月ショウなんて嫌い』って、『疫病神』って言おうか」
「……は?」
「大丈夫大丈夫。僕の薬と痛みがあれば、キミはすぐに吼月ショウを嫌いになれる」
意味がわからなくて、頭の中に巣食う吐き気がする幸福感すら薄まっていく。
「なに……言ってるんだよ」
「あ〜〜、キミ知らないんだぁ。あの人、ハルさん以外の友達づきあいクソほど下手だったしなぁ……」
ハルさん?
どこかで聞いた名前––––疑問に思うが、反撃も言い返すこともできない。時葉が敵の手中に収まっている以上、手が出せない。
「キミが生きるためにはもうそれしかない。だから僕がキミを助けてあげるよ」
にこやかにいう謎の吸血鬼。
「分かるようにいいなよ」
「別に分からなくていいよ。僕はね、キミを助けたいんだ。作ってしまったものとして」
吸血鬼が今度は僕の後ろに回り込む。吸血鬼は抜け目なく別の吸血鬼が時葉のそばに立つ。そして、僕の前には別の女が–––どうやら人間のようだが––––立ち、ストレッチの効かないスーツパンツのまま脚を大きく後ろに振りかぶった。
何を蹴るのか分かってしまう。
また、やられる。
ヒッ、と上擦った声を漏らして後ろに下がろうとするが、両手に注射器を持った女吸血鬼が僕を押さえつける。
そして、ついに身体を貫くような激痛が走ると、ちくりと右の首筋に針が食い込むと痛みが快感に変わっていく。
「ショウなんて……大っ嫌い」
言いたくない言葉なのに、とても嬉しい気持ちになる。
今度は左の首筋を針が貫いて体に異物が入ってくる。
すると、夢見心地の憎悪の中で僕は停止する。
……
………
…………
☆
ドォンッ!!
超高速で地面に着地すると、道路にクレーターが生まれる。立ち昇ったコンクリートの破片と煙を手で払い除けながら、
ショウに送ってもらったあと、私はすぐに喫茶店にまで戻った。
誰かに見られることすら考えず、ただ全速力で走ってきた。けれど、戻ってくるまでに1時間半以上経過してしまっていた。
でも、戻ってきたからにはまずやるべきことがある。
首を振って周囲を見渡す。待機させていた稲城の車を見つけて駆け寄った。
「……すぅ」
車の中を見てみると、稲城がハンドルに身体を預けながら寝入っていた。あとでお仕置きが必要ね。ため息を吐きながらすり抜けで車内に入り込み、稲城に声をかける。耳元で声をかけて身体を揺さぶっても起きない。
……薬か。
稲城の背中に指を這わせる。
ぬるりと稲城の体内に入った指が脊髄をなぞる。
すると、どうだろうか。
「ギャァ!?」
「起きたわね」
「はっ……はっ……理世さま?」
「おはよう。稲城」
「え」
文字通り神経を撫でて無理やり起こされた稲城は、理性的な風貌から想像できないほど青ざめた顔で私を見ていた。
「聞きたいのだけど、何があったの」
「えっ……えっと…………なにも」
「なにも?」
「すみません。なんで寝てたのかもさっぱり……」
「そう」
となると、私がやるべきことはひとつ。
「稲城」
「えっ、は……ううっ!?」
「むっ……んっん……」
こちらに顔を向かせた稲城の唇を奪う。舌で口の中を味わい、匂いを嗅ぎ、彼女の全身を両腕で撫で回す。妖しげな色っぽい吐息が稲城の口から私の中へと流れ込んでくる。
ああ、この鼻の中の匂い。唇のざらつき。
今日使った。
身体には不自然なところはない。
この子は本物。
……見つけた。
口を離すと、蕩けきった稲城がシートに全身を預けて倒れ込む。
「り、理世さま……?」
「稲城、その服買い換えなさい。誰かが無理に着たせいでほつれてるわよ」
「はっ?」
車のドアを開けて脚を放り出す。慌てた稲城も車の外に出て、私についてくる。車の後方に行き、トランクルームを開ける。スマホのライトで中を照らして注視する。大きく変わったものはないが、ひとつだけ気になるものが入っていた。
拾い上げたそれは数枚の枯葉だった。
「稲城。最近トランクルームを開けた? 屋内ではなく外で」
「いいえ。開けてないですね」
「そう。一応言っておくと、あなたの髪にもついてたわよ。枯葉の切れ端」
「……ホントだ」
稲城が髪の中に手を入れてみて探ると、枯葉と同じ葉の切れ端が出てくる。トランクルームも凝視する稲城はひとつの考えが浮かんだようだった。
「つまり……寝ている間にこの中に押し込められていた……?」
「そういうことになるわね」
おそらく稲城が眠らされた薬は、ショウに使われていたのと同種の睡眠薬だ。けれどショウ用に作られた粉タイプとは違い、他人に噴きかけるスプレーのようなもの。キスをした時、同じ匂いもしたし唇の周りにも粉っぽさがあった。
「さてさて……私の子にもおいたをした悪い吸血鬼にはお仕置きをしないとね」
蘿蔔ハツカを取り戻す。
でなきゃ……じゃなきゃ……ショウに嫌われちゃう。
「あちゃー……ばれちゃったか」
トランクルームのバックドアを閉めて、声がした背後に目を向ける。そこにはジャケットを羽織った若々しい男装姿の女性が立っていた。背が高くすらっとした好青年といった風体。
その微笑みはどこか卑しく、下世話な微笑みで歪んでいる。
「流石は……えっと、人間だとこの場合は……そう! さすが僕の孫娘だ!」
孫娘––––やはり!!
取り繕うようにして私も微笑む。威嚇する生物的な笑み。
「あらあら、伯母さま。お初にお目にかかります。こちらのことはご存知なのですね」
「うん。大きくなったねぇ〜〜。できれば人違いであって欲しかったし、会いたくなかったよ。倉賀野理世ちゃん」
「こちらこそ、
彼女の名を呼ぶと露骨に不快な顔になる。
「………僕、別の名前で通してるんだよね」
「そうですか。それはとても嬉しい限りですね」
「酷いな」
「私としては貴方のような存在が、ショウの血筋にいること自体不愉快ですから」
「押し付けがましいね。それをお節介っていうんだよ」
血筋、といえば正しいのだろうか。
事実は分からない。
この話は又聞きなのだ。
「にしても血筋か……アレらの最後の一押しは僕がしたからねえ」
罪悪感などまるでない声色。
人を煽るためだけに存在する声帯の震えを今すぐにでも止めてやりたかったが、隙を伺うために怒りを潜めた。
すると、稲城がボソッと訊ねてくる。
「理世さま……この人は」
「なんだ、聞かせずにここに駆り出したのかい?」
くそ伯母は、親切心から、と言わんばかりの態度を示す。
「キミの親はね、吼月ショウの眷属。そして、僕は………」
そして、自嘲するように鼻で笑ってから言う。
「その
この女は潰さなければいけない。
先週未成年(人外フォーム)に酒を飲ませたばかりだったので、少しばつが悪いな……と思いながら書いてました。
好きなものは好きといいますので悪しからず。