よふかしのあじ   作:フェイクライター

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第十夜「吸血鬼の本」

 宇津木美幸に居間へ通された俺は、置かれていたソファに座った。

 なぜかは分からないが、そのソファは一つしかなかった。それが気になっていた俺に美幸は『問題ないよ』とだけ言い残して、この部屋を出ていった。

 女王様だから、眷属たちは自身の後ろに立たせたままなのだろうか?

 だとしても、やはりひとつ足りない。

 

「……にしても凄いな」

 

 ひとりになって、改めてこの部屋を見渡す。

 大きい部屋だった。さっきの騒々しさが一転して静寂に変わったからか、余計にガランとしている。僕もいくつかの部屋を渡ってきたが、あまり見たことない広さ。

 あの人数で生活を共有する時間があるなら丁度いいだろう。

 

「風呂に入ってる間は暇だよな」

 

 きっとモテる吸血鬼だから美容は大切にしているし、その分だけ待つ時間は長くなる。シャワーを浴びるだけなら十数分だろうが、風呂に浸かるから数十分は待つことになる。

 手持ち無沙汰だ。

 

「少し物色させてもらおうかな」

 

 ソファから立ち上がる。

 手をつけさせてもらうのは、ここに通されて最初に目についたソファの後ろにある棚に置かれている陶芸品や、部屋の一角に設けられた書斎だ。

 これらの所有者は恐らく蘿蔔ハツカ。

 眷属3人には『帰ってくれないか』と口にしていたあたり、実家として暮らしているのは蘿蔔ハツカだけなのだろう。

 壺なども置かれているが、陶芸品の類は眷属からの貢物なのかもしれない。

 部屋にある物は所有者の人柄や趣味を知る手掛かりになりやすい。

 その代表例は本。

 書斎の中に入る。

 

「よし」

 

 僕は手が綺麗なのを確認してから、本棚の中から一冊だけ抜き取る。

 

「絶対可愛いモテ大人女子……大人なのに女子?」

 

 言葉遊びの類だろうか。パラパラと読んで、その中身を暗記する。

 

「なんか落ち着いた服装だな」

 

 本棚に戻して別の本を読み出す。

 蘿蔔ハツカの趣向は幅広かった。『M◯RU』というファッション雑誌や植物図鑑、音楽に関する物など、様々なジャンルに関する本が置かれている。

 コーヒーの淹れ方や吸血鬼についての本もあった。

 

「なんで吸血鬼が吸血鬼の本を持ってるんだ……?」

 

 こんなオカルト染みたものより、自分達の方が多少なりとも信憑性があるだろうに。

 疑問が湧いてくるだけで、蘿蔔ハツカに近づいている気がしない。ここまで多いと、どれが1番好みなのかは分からないのだ。

 実際、好みではないのかもしれない。相手を堕とすための努力としてコレらを持っている可能性もある。

 モテやすい吸血鬼でも、こういった努力をするんだなと思う。

 善いことだ。

 

「……?」

 

 そんな中で僕が目を引く物があった。

 手に取った本には、こう銘が打たれていた。

 

 

–––––【帝王学】

 

 

 

 僕もこの分野に関しては手を出したことがない。

 

「アレだよな、リーダーシップ云々でよく言われる」

 

 せいぜい三鏡という考え方を知っているぐらい。

 身なりを大切にしろ。過去から学べ。人の忠告は心に受け止めろとか、そんな感じ。

 割とあたりまえのことを言ってるもののはず。

 

 しかし、なぜこんな物があるのだろうか?

 女王様然とした振る舞いになにか関係があるのだろうか?

 趣味? それとも人間を堕とすため?

 自分を引っ張ってくれるような存在が好きな人の為に学んでいるのか?

 

「……これだけじゃ分からないな」

 

 いま分からないことに手を出しても意味がないか。

 ひとまず、読むだけ読んで––––

 

「––––戻ってきたか」

 

 その前に、足音が聞こえた。

 一対の足音に遅れて三対の足音が、床を伝ってくる。

 僕は取り出した本を元に戻して、ソファに座ろうとする。

 

「ショウくん、寛いで––––……なんで立ってるの?」

「悪い。なんで1個しかないんだろうなあって考えてたら。つい、な」

 

 風呂帰りの4人が突っ立ったままの俺を見ている。彼らがやってくる実感が出てきた途端、本当に座っていいのかと疑問を思い出して座れなかった。

 頷く蘿蔔ハツカは、頭に被ったタオルを残った僅かな水滴と共に取り去る。仕草だけでも艶めかしい彼は本当に男なのか疑いたくなる。

 

「そのソファに座ればいいよ。僕には別のがあるから」

「別の?」

 

 心当たりを探すように目を動かすが、そんなものはひとつもない。

 蘿蔔ハツカはそんな俺を見て妖しく笑う。

 

「ほらみんな、いつもの」

「はい!!」

 

 蘿蔔ハツカは、宇津木にタオルを渡してから手を鳴らす。

 すると、後ろに控える眷属たちが一斉に動き出す。

 デコ出しおっさんはスリッパを脱いで綺麗な四つん這い状態となる。腰もしっかり入っており、吸血鬼であることを差し引いてもビクともしなさそうだ。

 他の女性ふたりは厨房に消えて–––––宇津木は別の場所を経由してから––––すぐに戻ってきた。それぞれの両手には、フルーツやクッキーなどが盛られた大きな皿がある。

 指示を出した蘿蔔ハツカ本人は、

 

「よいしょ……うん、いい座り心地」

「ハツカ様」

「あ〜〜ん」

 

 四つん這いになったおっさんの背中に座って、女性たちから食べ物を口に運ばれている。流れがとてもスムーズでみんな、動きが板についている。

 蘿蔔ハツカが『みんなできて偉いぞ〜〜』と褒めれば、3人とも至福の時を噛み締める。

 

「…………」

「クッキー美味しいね……ん? もぐもぐ……ショウくん、ちゃんとソファに座りなよ。お行儀悪いよ」

「この状況で座れるわけねぇえだろうが……」

 

 食べながら喋るのも行儀悪いだろ。

 

「なんでそんなことやってるの……?」

「君がこの子達と遊んであげてって言ったんじゃないか」

 

 俺が知ってる遊びと違う……。

 

「いつもこうなの?」

「まさかあ! いつもはソファ(そこ)が僕の場所だよ。今日は君が座るから椅子になってもらっただけ!」

「うん……そっかぁ……」

 

 平然と人間家具をやらせて、自然に受け入れてる人なんて初めて見たので脳の処理が追いついていない。おっさんは息遣い荒いし、女性ふたりは見惚れてるし。

 現代社会でこんな光景を見ることになるなんてなぁ……。

 俺のせいなのかなぁ?

 

「偏見だと言って欲しいのだが、吸血鬼って、みんなこうなの……?」

「むぐむぐ、う〜〜ん、どうだろう。でも僕は常識的だよ? 僕の仲間には好きな相手がいる人を狙って堕とすのが好きな吸血鬼(ヒト)もいるし、学生が自分に対して好意を抱くのが好きな教師だったいる。至って普通だよ」

「全部アウト! スリーアウトだ!!」

 

 この光景を見せて【常識的】と豪語できるあたり、やっぱりこの吸血鬼(ヒト)やばいわ。しかも、それと同等の癖が出てくるとは思わなかった。

 本当に常識的なのかもしれない。

 見ると、蘿蔔ハツカは凄くニコニコしてる。

 

「俺は貴方の1番の笑顔をこうやって見ることになるとは思わなかったよ……」

 

 思わず眉間を摘んで唸る。

 

「少年!!」

「––––ッ、なに……?」

 

 おっさんが突然俺に意識を向けてきたのでビクリとしてしまう。

 

「……ハツカ様がいい笑顔とは、本当か?」

「え? ……」

「ふふ」

 

 尋ねられたことを確認するように、蘿蔔ハツカの顔をもう一度見る。

 

「いい笑顔だよ。驚くほどに」

 

 おっさんの角度だと蘿蔔ハツカの顔見えないもんな。

 

「そうか––––」

「おっさあああああん!?!?」

 

 おっさんは天に召された。

 

「こら、力抜けてるよ」

「ハッ……! すみませんハツカ様!!」

 

 まるで精神が身体からすり抜けたように脱力して、整っていた四つん這いが乱れるが、蘿蔔ハツカが背を叩くと蘇った。

 

「おぉふ、わっかんねぇ……」

 

 おっさんたちは楽しんでいるし問題はなさそうだ。

 

 

 

–––––これも、空白()けたままにしてはならない。

 

 

 

 知的好奇心が疼く。

 しかし、ここに来た第一目的を忘れてはいけない。

 俺が招かれたのは吸血鬼と蘿蔔ハツカについて知るためだ。それを捨てて、優先順位を変えてはいけない。

 

「それじゃあ、吸血鬼についてだね」

「うん。教えてほしい」

 

 蘿蔔ハツカの方から切り出してくれたおかげで、思考を切り替えられた。

 

「まず、キミに伝えなければいけないのは、僕ら吸血鬼は自分達についての知識があまりないんだ」

「えっ……ああ……」

 

 本棚に置かれていた吸血鬼関連の書物はそういうわけか。

 

「自分達への興味とか湧かないのか?」

「どうだろうね。ある吸血鬼(ヒト)はあるだろうけど、大抵の吸血鬼はそんなこと気にしない」

「そうか」

「すんなり受け入れるんだね。悪態をつかれるかと思ったけど」

「……いや、振り返れば分かることだった」

 

【人類に似ていて、より生命力の高い生き物の研究】なんて大それたことをすることは、吸血鬼の活動の仕方からして難しいだろう。大掛かりなことをしようものなら、自分達の存在の秘匿にも影響が出てくる。

 吸血鬼が吸血鬼だけの研究施設を作って、完全に情報の漏洩を防ぐなんて無理難題だ。

 資金源は? 土地の確保は? 研究材料は?

 どこから来るというのだ。

 しかも、どう広めればいい。

 本としてか? それでは数多ある書物の中に埋もれるだけだ。

 

「なら、実感からはどうだ? 俺の血は美味しいって言ってただろ? 下拵えしたとも言ってたし」

「それも良く分かっていないんだ。実感––––というよりは本能や経験からになるけど、吸血鬼になって日が経つと自然と分かってくる。

 人の心が満たされている……充足感があると言ってもいいかな。どんなものであれ感情が昂るほど、濃いほど味が良くなるら

 

 だから、1日の締めくくりである夜に人間の血を吸うのが一番美味しいと語る。

 

「けど、なぜその方が味が良くなるのか、どう作用して美味しくなるのか。なにが原因で不味くなるのか、それすら僕ら吸血鬼は知らないんだ」

「…………」

 

 自分達のことを全く理解できない。

 そのことについて––––俺はどう思っている?

 なにも分からなくて残念なのか。

 それとも無為な時間を過ごしたことへの呆れなのか。

 

「吸血鬼は【生きること】以外に何もしない。だから、本当はみんな何も知らないんだ」

「…………」

 

 多分、俺はなんでだろうと思ってる。

 

「……話の方向を変えるか。吸血鬼はなにが出来る?」

「吸血鬼ができることか。そうだね、驚異的な身体能力もそうだけど……ショウくん、なにか投げられるものある?」

「え。ああ……財布でいいか?」

「なんでも良いよ、それを僕に投げてみて」

 

 クイクイと指で自分を指す。

 

「……? 分かった」

 

 ズボンの後ろポケットから財布を取り出して、蘿蔔ハツカへ放り投げる。

 彼はそれを取るような素振りすらなく、ただ眺めている。自分は飛んでくる物体から目を逸らさない。

 

「あぶっ––––」

 

 顔に当たる。そう思った時–––––

 

「は?」

 

 すり抜けた。

 財布は霧に投げ込まれたかのように、蘿蔔ハツカの身体を通り抜けたのだ。硬い床の上で一回跳ねてから財布は止まった。

 

「面白いほど良い反応してくれるね」

 

 良い反応とはなんだ。

 こんなの見せられたら誰だって固まってしまうだろ。

 

「吸血鬼はものをすり抜けられる。他には、コレとか」

「すげっ、爪が伸びたり縮んだりしてる……」

 

 仕草に使った人差し指の爪が鋭く延びては元に戻る。

 

「近くで見ていい?」

「いいよ」

「おお……!」

 

 人間とは異なる身体の仕組みに興味が惹かれる。

 その指を掴もうとする手が空を切る。蘿蔔ハツカの指をすり抜けたのだ。

 

「フフッ」

「この!」

 

 出来ることなら解剖して、原理原則を解き明かしたい。

 というかコイツら、こんなことができるのに自分達に興味湧かないとかおかしくないか?

 

「くそっ、マジで触らねえ……!」

「まっ、出来ることはこんなものかな」

 

 透過で俺を弄んだ蘿蔔ハツカは、それを解除する。

 周りの眷属から痛い視線が刺さるが気にする必要はない。

 ただただ気になるのだ。

 

「俺がビルから落ちた時に急に現れたのはこれ?」

「そうだね。見つけた時には落ちかけてたから、ビルの壁をすり抜けて先回りしたんだ」

「便利だな……」

 

 物理攻撃しか基本ない世界で透過は強すぎる。

 

「ハァハァ……これは、その……アレか? 異能とかそんな感じの? 特殊な細胞……吸血鬼細胞?–––とかが本人の意思を汲み取って発現するタイプの」

「そんなファンタジーなモノじゃないよ」

「吸血鬼がすでにファンタジーなんだよ……まぁ、化け物にも神にもなれる奇跡の細胞で……ってことではないわけか」

 

 流石に面倒なことになるヤバい方向へ突っ込まれると俺も困るが。

 

「……そういえば、ここに来る前、言わなきゃいけないことがあるって言ってたけど、それは?」

「ああ––––吸血鬼化についてなんだけどね。これにもうひとつルールがある」

「ルール? 掟とは別の?」

「掟ではなく縛り(・・)。吸血鬼になれるのは、初めて血を吸われた日から1年の間だけ。それまでにならなければ、不適合。もう一生吸血鬼にはなれない」

「例外は?」

「ない」

 

 つまり、俺の戦いはこの1年にかかっているという訳だ。

 

「良いな、その方が面白い」

 

 あと1ヶ月早ければ、9月スタートだったのだが。

 それでも一年という括りがあるのはいい。ダラダラやっていても、成長できないし意味はないのだから。

 

「楽しみにしていなよ、君が僕に堕ちる1年なんだから」

「そちらこそ」

 

 2人して笑う。

 威圧的に漏れる。

 そこから更に吸血鬼についての話が続き、

 

「これで一通りの話はしたかな」

 

 ひと段落すると、ハツカはなにかある?と態度で訴えてくる。

 

「………」

 

 吸血鬼についての情報はある程度同等になった。まだ出していない引き出しはあるだろうが、また別の機会にしよう。

 

 なら次に得るべきモノは––––

 

 俺の目線が蘿蔔ハツカから外れる。

 

「ねえ––––おっさん」

 

 自然と俺はおっさんの眼前に座り込み、目線を合わせる。

 

「おっさん」

 

 二度目でこちらの声が届いた。

 

「なんだ?」

「コラ、勝手に喋っちゃだめでしょ」

「蘿蔔ハツカは黙ってて、俺が喋ってる」

「ッ」

 

 おっさんを制止する蘿蔔ハツカに文句をつけたからか、彼はムスッとした態度になる。

 

「貴方のお名前なんて言うの?」

「なんで俺が教えないと–––」

 

 楽しいひと時を俺が邪魔したからか、敵意が表れる。

 ……蘿蔔ハツカと同じような敵対心だが、あの殺意とは別種で、しかも弱いな。なら、少し話を合わせて。

 

「俺はコレから君たちの友達になるかもしれないんだよ? なら、仲良くしたいじゃん」

「……」

「同じモノを好きになる者同士、仲良くしよ?」

 

 おっさんの視線が上に、蘿蔔ハツカに向いた。それは他の眷属も同じだった。

 彼らは数刻、そうした後に。

 

「君はハツカ様の眷属になる、ということだな」

「そうだね」

 

 無垢に微笑む。

 

「良い選択だ、少年」

「––––、でしょ」

 

 俺と蘿蔔ハツカの関係の一端を理解したおっさんは、俺に対する警戒心が肩の力と共に緩める。

 賭けに関しては言及していないので、眷属達はただ俺たちは吸血鬼とその見習いという解釈なのだろう。それはこちらとしても都合がいい。

 

久利原(くりはら) (ごう)だ」

 

 久利原豪か、記憶。

 

「そちらの貴女は?」

「えっ、アタシ!?」

「うん」

 

 今度は茶髪の女性に同じ話題を振る。

 

「アタシは香澄。時葉(ときは) 香澄(かすみ)だよ」

「そっか、教えてくれてありがとう! では、俺も–––––……蘿蔔ハツカの眷属候補(・・)、吼える月と書いて吼月……俺の名前は吼月ショウ。今後ともよろしく」

 

 丁寧に頭を垂れて、笑顔を飾る。

 彼らは玄関先で向けてきた牙の片鱗すら無くして『よろしく』と僕を受け入れてくれた。

 

––––さあ、警戒は解いた。

 

「俺に教えて欲しいんだけど」

「なんだ吼月くん」

「楽しい?」

「ああ、もちろん!」

「なんで?」

 

 おっさんの顔に瞳を近づける。

 この男の変化の片鱗を見逃さないように。

 どんな特徴も見逃さないように。

 

「教えて」

 

 おっさんの表情が瞬きほどの間だが崩れた。

 が、それもすぐに戻った。

 

「ハツカ様の役に立っていると実感できるからだ」

「でも、これ全然遊びじゃないよね。なのに楽しいの?」

「君は子供だから分からないのだ。ハツカ様に仕えるという幸福が……!」

「子供だと分からないの?」

「ああ……これは大人だから分かる尊さなのだ。自分よりも大きな存在を支えることができる幸せ、それを教えてくれたハツカ様に身をもって––––(中略)––––故にそこには自身の証明が––––(凄く中略)––––なにより、ハツカ様の存在を重みとしてお尻を感じることができる……これを愉しいと言わずとしてなんというか!!」

「ほら、身体が揺れてるよ」

「すみません!!」

「ハハッそっか、久利原はそんなに蘿蔔ハツカ様へ何かをすることが好きなんだね」

 

 熱はあるのはなんとなく分かる。

 しかし、実感が湧いてこない。

 大袈裟にでも首を傾げたくなる。

 

「宇津木や時葉は? 蘿蔔ハツカ様にどんな想いを抱いてるの? 蘿蔔ハツカ様のどんなところが好きになったの?」

 

 なら、もっと情報がいる。

 彼らの心に落ちるような声色で伝える。

 

「もっと教えて、みんな。俺が蘿蔔ハツカ様を好きになるように」

 

 それはきっと、君たちが蘿蔔ハツカに尽くすことでもあるんだよ。

 

「蘿蔔ハツカ様もそれでいいですか?」

 

 彼は少し沈黙してから、興味なさそうに頷いた。

 

「みんな、教えて」

 

 こうして、彼らは口を滑らかに動かした。

 

「教えよう!!」

 

 

 

 

 賭けのことは告げていないが、俺が蘿蔔ハツカの眷属候補であること––––まぁ負けたら実際そうなので、ひとつの未来だ––––を知った西園寺たちは蘿蔔ハツカについて饒舌に語る。

 まるで酔うように。好き勝手に述べる。

 

「まだまだ語り尽くさないが……分かったかな、吼月くん」

 

 3人を代表して久利原が尋ねる。

 

「う〜〜ん……良く分かんないや!」

 

 あまり良いことは聞かなかった。

 

「仕方ない。君は練度が足りないからな……また今度教えてあげよう」

「お願いするね」

「ああ!」

 

 もっと彼らがハツカに恋焦がれた過去のことが聴きたかった。彼らは蘿蔔ハツカを褒めるだけで、4人の内面を見ることができなかった。

 どんなことをしてきて、どんな想いを抱いているのか。

 どうして蘿蔔ハツカを信頼()しきるに至ったのか。

 自分の中に、知識としてすら落とし込められなかった。

 

 彼らが大きな感情を抱いているのは、彩られた声の数々で把握できた。しかし、それが蘿蔔ハツカに対する真の感情なのかが分からないのだ。

 

「–––––」

 

 なんとなく自分が苛立っているのが分かる。彼らと話しているとなぜか歯痒い気持ちになるのだ。

 彼らの根底にある蘿蔔ハツカの姿を目で追うと、相手もこちらを見ていた。

 

 壁にかかった時計の音が鳴る。

 

「もうすぐ朝だね」

「ですね。ハツカ様、そろそろ私達も帰ります」

「うん、またね。楽しかったよ」

 

 蘿蔔ハツカの言葉に眷属たちは笑顔になる。

 最後は思いの外すんなり帰った。

 もう少しごねるかと思った。

 一緒に遊ぶことができたからか、夢心地で彼らはこの家を後にした。

 

「俺も帰るか」

 

 財布を回収して、俺も続き玄関へ。

 つけていた腕時計を見る。

 あと1時間もすれば夜明けだ。

 

「そういえば、蘿蔔ハツカ––––」

「なにーー?」

 

 忘れ事がひとつ。

 

「今日は飲まないのか? 俺の血」

 

 服を着崩してから襟を引っ張り、首を露出させる。

 契約として、教えてくれた情報の対価として、それを差し出す。

 

「……キミ」

 

 集中が伝わってくる。

 蘿蔔ハツカのぐるりと渦巻く瞳が俺の首を覗き、ふらついた足取りで近寄ってくる。

 

––––えっ、なに怖い。

 

 妙な迫力がある。

 

「ねぇ……!」

「なに!? ()ってぇ!?」

「首を簡単に露出させないで……次やったら、飲み干すよ」

「わ、分かった」

 

 慌てて服を元に戻す。

 蘿蔔ハツカも呼吸を深くして、平静を保つ。

 

「最近の中学生はなんの躊躇もなく首を晒しすぎだよ。せめてジャージは上まで閉めるとかさ……」

「お、おう」

 

 俺はジャージじゃないんだが。

 

「忠告するけど、君の首は刺激が強い。そんな首がふらふら〜〜って漂ってたら知らない人に襲われても文句は言えないんだ。というより君が悪い」

「襲った本人から言われると、なんかこう……凄く来るものがあるね」

 

 吸血鬼独特の感性なのか、栄養のある血を見つけるための器官があるのだろうか。

 蘿蔔ハツカは顔を意図的に背けながらなにか呟いている。

 

「美味しい血を持ってる子はみんなこうなのかな……」

「……?」

 

 俺は自分の血が美味しい自覚はないからなんともいえないが。

 今度手首切って飲んでみるか。

 

「でもいいのか? このままパクって行かなくて」

「飲ませてもらうよ。でも––––」

 

 物足りなさそうに、彼は言う。

 

「君、まだ満足してないでしょ」

 

 少し、声が詰まらせてから。

 

「…………ああ」

 

 そうだ、俺はまだ知りたいよ。

 

「美味しくしてくれよ」

 

 この不審な苛立ちを。




 ハツカ様、眷属達との関係性明かさずに恋愛するかと考えたら、コウくんに自分の恋愛哲学を聞かせた上で堕とせる宣言してるから……
 当然見せるよね!

(まぁ、3人を残るようにしたショウが1番悪い)

※ハツカ様の眷属のひとりの名前と職種が判明しましたので更新しました。
西園寺→久利原
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