よふかしのあじ   作:フェイクライター

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第十一夜「僕好み」

 蘿蔔ハツカ曰く、今の俺は美味しくない状態、らしい。

 俺は蘿蔔ハツカの餌である。

 実が熟すのは満足した時。

 俺の今日の目的は、吸血鬼と蘿蔔ハツカについて聞くこと。まな板の上でそれなりに手を施されたはずだが、彼が望むほどではないようだ。

 故にまだ俺の血を吸わない。

 俺もまだ帰らない。

 

 彼は俺の問いに答えてくれるだろうか。

 

「それで教えて欲しいんだが」

「ああ……待って、奥に行こうか」

「?」

 

 彼に従い、一階降りてとある部屋へと向かう。なぜ賃貸の家の部屋の中に下へと続く階段があるのかは聞かなかった。

 

 そこにあったのは、寝室。

 

「なんで?」

「僕が寝るからだけど?」

「ほんとマイペースだなアンタ!!!」

「なんか苛立ってる?」

「……ッ、別の意味でな!」

 

 痛くなる頭を叩いていると、蘿蔔ハツカはベッドに身を投げる。ふかふかのベッドが沈み込み、押し込まれた力の分だけ反発する。

 

「お話、聴こうか––––」

 

 返ってくる力を利用して、彼が起き上がる。

 

「……」

「なんでも言ってごらん」

 

 なんでも、と言われてもこちらからは話しかけられない。

 苛立っているのは分かるけど、それはなんとなくだ。夜空を見上げて、群青の中にある宝石を見て興奮するのとはまた違う。

 本心でムカついているのは分かるけど、容易く纏まってくれない。もう少し時間が欲しい。

 

「はぁ……」

 

 苛立ち始めたのは久利原たちの奉仕を見てからだ。

 ならば、そこを辿ればいい。聞きたいことが聞けない今は、やるべきことを優先しよう。

 

「あ、あの……」

 

 知的好奇心を満たすことに比べれば些細な事だが、それでも普通に生きてた人にとって、この願いは羞恥心が湧いてくる。

 

「……なぁ、俺もやっていいか」

「ん?」

「その、ほら……アレだよ」

「なに?」

「蘿蔔ハツカへの……奉仕、だよ……」

 

 自分で言ってて顔が赤くなるのが分かる。

 いま俺の顔を見たら、

 

「イチゴみたいだよ、可愛い」

 

 微笑ましいものでも見たように、彼はクスクスと声を漏らす。

 なんとかしてニヤついた顔を止めてやりたい。

 

「いいよ、ほら––––」

 

 彼がスッと綺麗な右脚を差し出す。

 

「僕の物になるってことを教えてあげる」

 

 屋内だから、その脚を隠すものを何も身につけていない。彼女––––じゃない、彼の持つ白は何よりも透き通っている。

 多分、この家に置いてある陶芸品が比べ物にならないほど、1番美しい。

 ……人の脚をマジマジと見てしまうのはいけない。

 自ずと目を逸らしてしまう。

 男の脚に見惚れてしまう自分も嫌だし、男の脚だからと嫌と思ってしまう自分も好かない。とても面倒くさい。

 

「フフッ––––いい顔」

 

 透過で俺を弄んでいた時よりも楽しそうな笑顔。

 手のひらの上で転がされているようでなんか嫌だ。

 

「なにをすれば良い?」

 

 しかし、何事も経験。

 やってみれば思いの外楽しく、西園寺たちのことが理解できるかもしれない。

 

「そうだね、マッサージでもしてもらおうかな」

「畏まりました。我が女王」

 

 蘿蔔ハツカの爪先の前に、仰々しく跪く。

 

「結構ノリノリだね、ショウくん。発音は独特だけど」

「なんとでも言うがいい」

 

 これから先の人生で、このタイミングほど適した機会はまず無い。

 後悔したくなかったのだ。

 というか、さらりと女王であること認めたぞ。この吸血鬼(ヒト)

 

「なら一人称は私で、僕のことはハツカ様って呼んでみようか」

「……なんとでもってそういうわけでは」

「コラ、私語は謹む」

「わ、分かりました……ハツカ様」

 

 さて、どうしようか。

 俺にマッサージの経験などない。なんだったら、親の肩揉みすらやったことないんだぞ。

 

「ほぅら、早く」

「はい」

 

 内心慌てながらも落ち着いてた体を装って、蘿蔔ハツカの冷めた足を両手で包んだ。

 稚拙なのは彼だって分かっている。

 俺がやるべきことは真摯に仕えることのみ。

 

「精一杯ハツカ様に仕えさせて頂きます」

 

 人の身体を揉むのだから、力加減は大切だよな。

 まずは普通くらいでやってみよう。

 両手で包み込んだ足裏を親指を使って揉み込んでいく。相手の足の形、表情の変化、足の動きなど彼の全身に気を配り、どう反応しているか見極める。

 

「もう少し強く揉みますね」

 

 彼には至って変化はなかったので、先ほどより強く押し込んでいく。

 すると彼から声が漏れる。

 

「……あ、んっ……」

「–––––」

 

 蘿蔔ハツカが妙に甘い声を漏らすものだから、見てはいけない気がして顔を上げず足裏ばかりを見てしまう。

 汚れひとつない足裏が目に入る。

 

「……もっと、全体的に…………」

「こうでしょうか」

「ん、そうだよ……悪くない……ひぁ……」

 

 色っぽい声を出さないでくれ。

 変に意識して、やっちゃいけない事をしているみたいに感じる。

 

「足の指、一つひとつを–––––そう、はぁ……いいよ、このまま(ふく)(はぎ)もお願い」

「分かりました」

 

 立てていた膝に、彼の踵を置いて手を脹ら脛へと伸ばす。

 柔らかい––––下手な人間の女性よりも女らしい筋肉のつき方じゃないだろうか。なのに、あの身体スペックだ。とても興味深いな吸血鬼は。

 

「最近はお疲れなのでしょうか?」

「そうだね〜〜どこかの誰かさんを連れてよく飛ぶから」

「……も、申し訳ございません」

「ハハ、冗談だよ。吸血鬼はこんなことじゃ疲れないから」

 

 意地悪そうに犬歯を見せる。

 流石吸血鬼。

 

「うっんん……にしても、結構上手だね」

「ありがとうございます」

 

 集中して作業するのと同時に、思考を分裂させ西園寺たちが言っていた『仕える楽しさ』についてまとめるが、やはり実感が湧かない。

 知識として、こういうことをするのが好きという人がいる、というのは分かった。

 しかし、楽しいが味わえない。俺の趣向が違うというのもひとつの理由だろうが、根本的になにか食い違えている。

 俺の腹の心地がすかないのは、きっと行動原理が未開だからだ。

 

「…………」

 

 知りたい。

 苛立ちの原因はそこにあるはずなのだ。

 そして、彼らの根底は、蘿蔔ハツカだ。

 

「ハツカ様」

 

 マッサージに集中したまま、名を呼ぶ。

 

「なに?」

「ひとつ、お聞きしてよろしいでしょうか」

「いいよ」

 

 許可は得た。

 なら、語り出そう。

 

「先程の3人の眷属……彼らは本当に貴方の事が好きなのですか?」

 

 俺がそう尋ねると、蘿蔔ハツカは気持ちよさそうな顔から、無の貌へ。この家に訪れた時、眷属たちに見せたあの冷たいものへと変わる。

 

「彼らは仕える事が楽しいと評していました。しかし、それでは玄関先でのあの態度が腑に落ちません」

「なにが」

 

 俺はここに引っ掛かりを覚えたのだ。

 

「最初は大好きな貴方に約束を無碍にされたがために怒りに身を焦がしたのだと思いました。そうして私は、酷いやつだな、と貴方に思いました」

「……最後の余計じゃない?」

「本音ですから」

 

 だがこの行動は、ある事を否定することになる。

 

「もし、彼らが本当に貴方に仕えることへ喜びを感じているのなら、何も言わず、あの申し出を受け入れられるはずです。主人も望みなのですから」

 

 仕える事自体を怒りで否定してしまっているのだ。

 あそこまで酔心している者達が、その相手との幸福をわざわざ手放すことをするだろうか。

 

「私は考えました。なぜ、彼らが怒ったのか」

「答えは出たの?」

「なんとなく。まず、彼らは貴方に堕とされているとは思いました」

「眷属だからね」

「ですが、彼らの想いは正常な恋慕であるようには思えません。恋慕とは人によって形の差はあれど、どれもが他者に向ける想いのはず」

 

 でもあの3人は違う。

 

「私から見ると、3人が貴方への感情を向けてるようには、感じない」

 

 これは俺の特有の穿った見方だ。

 いつも通りの不信感。

 

「彼らはまるで【蘿蔔ハツカに仕えている自分が好き】であるように思えます」

 

 他者に向かっているようで、本当の行き先は自分の中。

 宇津木がご褒美目当てで俺の所に最後まで残ったのも、久利原が蘿蔔ハツカの宛のない笑顔で魂が抜けかけたのも、彼らが蘿蔔ハツカを語り尽くしたのも、まるで、彼らはそれが自分の価値のように振舞っている。

 曇った鏡のような幸せ。

 独りよがりの幸福。

 

「これはあくまで想像です」

 

 本当はそうではないかもしれない。

 怒ったのだってそこまで仕事人ではないだけだろうし、蘿蔔ハツカのことが純粋に好きなのかもしれない。

 だから、根底を知る必要がある。

 

「教えていただきたい。貴方は彼らをどのようにして、恋させたのか」

 

 見上げた彼は笑っている。

 

「そして、貴方は、俺をどう堕とすつもりなのですか?」

 

 より卑しく嗤う。

 

「そんなの簡単だよ」

 

 絶対という自負に満ちた顔は、どこか癪に触る。

 

「僕は他の吸血鬼(みんな)より優しくないから。

 要は僕のことを【好き】だって脳みそに勘違いさせればいいだけ。ぼくがいないと生きていけない精神状態にして、言いつけを守ればご褒美を、破ればお仕置きをする。

 そもそも、恋愛感情は洗脳のようなものだしね」

「…………」

「だから、僕の眷属はみんな幸せそうだよ」

 

 崇拝や信仰とは違う。その一線を越えた依存。

 他者に向ける感情で、自分を保つために好きである。

 

 だから、彼らの中に蘿蔔ハツカという存在はあっても、見ているのは自分なのか。

 

 楽しい。

 蘿蔔ハツカに仕える自分が好きだから。

 怒り。

 自分の好きな、蘿蔔ハツカを仕える自分のために。

 

 好きにさせられている。

 

「それがハツカ様の恋の定義?」

「そうだよ。実際、みんな不幸にはなってないだろ? 楽しく僕と遊んでる」

「でも、そこにいるのは誰なの? 吸血鬼? ペット? 人形?」

 

 君はなんなの、蘿蔔ハツカ。

 

「吸血鬼だよ。強いていうなら……ペットの、かな」

 

 僕に信頼を見せつけた貴方の意思はそんな力づくのものなの?

 信頼は出来るのに、恋と捻じ曲がっちゃうの?

 嘘をつかず、無知であることを口にできる誠実さがあるのに?

 

「……」

 

 疑問は尽きないけれど。

 なぜ、彼らの感情が自分の中に向いているように見えたのかは。

 

「なにか不満かな」

「私もああなるのでしょうか」

「うん、君もあの子たちみたいに僕に飼われるんだ」

 

 蘿蔔ハツカは酷く穏やかな顔で肯定する。

 

「問題はないだろう? ちゃんとみんな、僕を信頼しきっているんだから。自分には絶対に僕が必要、って」

 

––––やはり、そうか。

 

 なんとなく、苛立った理由が分かった気がする。

 

「そうですか」

()ッ––––!」

 

 脚を揉む力が強まり、蘿蔔ハツカが顔を歪ませる。

 

「なに」

「ちょっとした、イタズラです」

 

 ニヤっと嗤う。

 彼の笑みを返すように。

 

「もう、大丈夫」

 

 俺が苛立った理由は、多分、彼らが蘿蔔ハツカを見れていなかったから。そして、このまま彼の思い通りに堕とされたら、俺も蘿蔔ハツカを見れなくなるから。

 その姿は––––

 

「なんとなく、似てると思いました」

「……?」

「昨日、お話しましたよね。告白を断ったと」

「ん、ああ……言ってたね」

「その後、仲直り……とは違いますが、告白を無かったことにしようと話しました」

「そんな馬鹿なことしたんだ」

「ええ、馬鹿ですよね。ですが、必要だった……相手もそれを望んでいましたから」

 

 理世は元の関係に戻りたいと願った。

 口で確認した訳ではないけれど、表情や態度からしてそうとしか考えられなかったし、口にした後の図星を突かれたような反応が真実であることを教えてくれる。

 

––––そんなもの御為ごかしだ。

 

「けど、それが本当に相手のためだったのか。今でも分かりません……自分のためだったのかもしれない」

 

 理世もそう思っていると押し付けて、身勝手に行動した。彼らが俺に蘿蔔ハツカのことについて好き勝手に語ったように。

 願い事が必ずしも本音ではない。妥協案であることも存在する。

 

「それが嫌だった」

 

 自分を保つために相手に頼ろうとする。

 自分も同じではないか–––––と。

 理世を見ずに、自分に目を向けていた。だから、俺は不必要なほど心的ダメージを負っていた。

 もしかしたら、蘿蔔ハツカに出会う前に湧いた衝動も理世の告白をちゃんと返せなかったことへの身勝手が原因かもしれない。

 

「あの吸血鬼(ヒト)たちを見ていると、そう突きつけられてる気がしたんだ」

 

 なんとも身勝手な苛立ちだろうか。

 同族嫌悪より最低だ。

 

「ふぅ……」

 

 だから–––––もう、問題ない。

 言語化できた今は、なんら支障はない。

 

「ハツカ」

「ハツッ–––……えっ、なんで?」

「親しくなるための印さ」

 

 突然、呼び名を変えたからかハツカは驚く。

 

「俺がハツカと呼びたい」

「––––いや、だからって呼び捨てはないでしょ!?」

「だってハツカを見て『くん』と呼ぶのも、『ちゃん』と呼ぶのも違うし、様は対等じゃないから嫌だ。それに元々不要なモノはつけない主義だ」

「ならせめて、さん付けでいいよね!?」

「お前さ、忘れるなよ? 俺たちはあくまで敵対者だ。敵に敬称はつけない」

 

 西園寺たちと同じ道を辿るつもりなどない。コイツの恋愛哲学を聴いて、余計に湧いてきたぜ。

 

 信頼させ切ってやる。

 

「それに……今は、敵対者(そんな奴)が自分に服従してると思うと、興奮するでしょ?」

「……」

 

 マッサージを再開しながら上目遣いで見る俺の視線と、彼の視線が交わる。

 沈黙し、数秒俺を見た後に。

 

「フッ、確かに」

 

 ハツカは鼻で笑い、そして『でも』と紡いだ。

 

「?」

「こっちの方が僕好みだ!」

「––––––グェッ!?」

 

 マッサージをしていた右脚が突然伸びてくる。喉を突かれ、肺の中の空気を無理やり吐き出す。

 ハツカは、伸ばした脚の指で俺の服を掴んで天へと掲げた。

 

「–––––––!?!?」

 

 足の指から離された身体は宙に放り投げられた。

 俺は『なんか最近よく跳ぶな……』と思いながらハツカを飛び越え、数秒滞空してからベッドに墜落する。

 

「いでぇ!!」

 

 ベッドの上で軽くバウンドする。

 1回、2回と弾む身体は、仰向けで大の字状態となる。かなりの衝撃が全身に奔る。

 

「–––––この!」

「させない」

 

 反抗心が叫びとなる。

 しかし、行動を起こす前に俺の上にハツカが乗り掛かる。

 女王の澄んだ瞳が目の前に来る。

 

「ッ!?」

「顔真っ赤だよ」

「………! 力入らない……っ!」

 

 なんとか抜け出そうとするが、ハツカは身体に上手く乗り掛かって俺が力を入れられないように巧みに手脚を動かす。

 多分、真上から見れば今の俺は、潰れたカエルみたいになっているのだろう。

 

「無駄だよ。力比べじゃ人間に勝ち目なんてないのに、こうも完璧に組み敷かれたらどうやったって逃げられない」

「…………」

「それじゃあ、お仕置きだね」

「お、お仕置きって……!?」

「僕に生意気な口を叩いたんだ。そんな悪い事をする子はちゃんと教育しないとね」

「べ、別に俺は悪いことなんてしてないだろ!」

「敵とはいえ、いま君は僕に仕えてるんだよ。それなのに主人を『お前』呼ばわりなんて、悪いこと以外のなにものでもないよね?」

「……ぐっ」

 

 揚げ足取りされてなんでもを了承してしまったのが間違いだった。

 しかし、悪いこと–––––

 そう言われてしまうと、

 

「分かり、ました……」

 

 自然と力が抜けてしまう。

 

「そうそう、ちゃんと命令は守らないと♪

 ひとまず……今の粗相と僕への生意気な口が2回、頬をつねったこと、別の女の話をしたこと、勝手に家を探ったのを含めると」

「待て! なんで物色したの知ってる!?」

「吸血鬼の無知を話した時、妙に納得してたでしょ? それに美幸(あの子)が座らせたはずなのに立ってたのも考えれば、僕の書斎に勝手に入ったことぐらい分かるよ」

「…………ッ」

 

……マジかよ。

 

「さて、そんな君への罰は……動けなくなるまで血を吸うことにしよう!」

「はぁ!? それってころ」

「殺しなんてしないよ。せっかくの美味しい血なんだから」

「俺はドリンクサーバーじゃないんだぞ!」

「お仕置きなの、忘れてないよね?」

「ぐっ!」

 

 ゆっくりと顔が近づいてくる。

 綺麗な顔が寄ってくるもあって少々恥ずかしくなる。俺が視線を外すと、意図せず首を差し出す形になる。

 

「このお仕置きが終わったら名前呼びを認めてあげる––––……それじゃあ、頂きます♪」

「ンン––––––」

 

 突き立てられた牙から痛みと快感が流れ込む。今の状況もあってか、耳元で聴こえる吸血音が色っぽく耳朶を打つ。

 声を漏らさず噛み締める。

 叫べば、負けな気がしたのだ。

 

「…………」

 

 宣言通りに長い、長い吸血。痛みで心臓が跳ね、血がより濃く通う。身体を巡る血液がどんどん彼の物になっていく。

 これで良い。

 俺はハツカと呼びたいのだから。

 コイツに俺を見せるためには、それはまずやらなければならない。意識させなければいけない。

 迷わずハツカを見ることができれば、理世とだって曲げずに見つめられる。

 ハツカの哲学に負けなければ、見てもらえる。

 

「ぷはぁ……っ、美味しい……」

「そうか、よ……かっ、たぁ……」

 

 視界に霞がかり、意識も暗くなっていく。

 瞳を閉じる。

 

「ご馳走様、ショウくん」

 

 ベッドに身体を完全に預ける。

 それに–––––

 

「はつか、おやすみ……」

「うん」

 

 

 

 

 蘿蔔ハツカ()に押し倒された吼月(くづき)くんが、瞳を閉じた。

 彼をベッドの左側に寄せて、空いたスペースに寝転がる。

 

「……寝ちゃったか」

 

 お仕置きなのもあってテンションが上がった昨日よりも沢山飲んでしまったけど、大丈夫だろうか。

 普通に寝息出ているから問題ないだろうけど。

 

「にしても」

 

 ムカつく。

 

「僕に血を吸われてるのに他の女のことをまだ考えてるなんて」

 

 吸血鬼としても、蘿蔔ハツカとしても。僕がいるのにそんな邪念があるなんてプライドが許さない。

 必ず堕とす。

 僕のことを好きにさせてやる。

 

「はぁ……よくこの状況で寝れるね」

 

 このまま殺されてもおかしくないのに、彼は安心して寝ている。あの映像があるゆえの余裕だろうか。

 

「違うか」

「はつかぁ……」

 

 僕の名前を呼ぶ。

 自然とその頭を撫でる。

 緩み切った顔は幼く、中学生よりも下に見える。

 首輪を付けて飼いたくなるぐらいに愛らしい。性格も含めて、ほんといじめ甲斐のある顔をしている。

 

 今度は、ため息じゃない物を吐き出した。

 

「–––––おやすみ」

 

 一緒にシーツを被って、僕は朝を迎えた。




 吸血シーンって、食事なのに加えて凄い色っぽいから、もっと濃く描きたいけど難しい……
 永遠の美少年(めちゃくちゃ歳上)と一緒に寝る中学男子の構図で今年を締めます。皆様、来年も宜しくお願いします!

 一応、年始の日曜日と木曜日は休むと思います。

 良き年末を
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