よふかしのあじ   作:フェイクライター

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第十三夜「ゲームバーって店」

 俺とハツカは準備を終えたあと、夜の街に繰り出した。歩調を揃えて進んでいく。

 

「なあハツカ」

「なに?」

「昨日の3人って大丈夫なのか? 構ってあげないと死んじゃわない?」

「ウサギじゃないんだよ?」

「側から見てたら十分そう思えるんだぞ」

「ふぅん。そういう風に躾けてるからね。でも、大丈夫。今日はちょっとした仕事をお願いしてるから、気にしなくてもいいよ」

「……仕事ねぇ」

 

 どんなのだろう? そう頭に疑問が浮ぶ。

 そうした所で『そういえば』とおおかたの予想はつけた。

 

「以前言ってた探偵のことか?」

「そっ、相手は吸血鬼(僕たち)について詳しいみたいだからね。他の眷属たちと協力して弱点の抹消したり、相手の視察をしたりね」

 

 相手は不死である吸血鬼を殺せる探偵だ。

 しかし、命の危機がそばにあるのに、ハツカはこうして俺と遊んでいる。余裕があると考えるべきか。俺を相手にしないと不味いと考えているだけか。

 

「どちらにしろ大変だな。ハツカたちも」

「……」

「ん? どうした」

「別に」

 

 ジロッとした視線が俺の顔を這ったが、目線の主は顔を背けた。

 

「にしても探偵ね。名前は知ってるのか?」

「名前は(ウグイス)アンコ。私立探偵らしいよ」

「鶯アンコ、ねぇ。知らない探偵だな」

「ハハッ、まるで探偵の知り合いが居るみたいな言い草だね」

「コナン君は知ってるよ」

 

 隣で笑うハツカをよそに考え込む。

 わざわざ敵対の意思を見せていることを考えれば、殺し殺されになる事は相手も想定しているだろう。ならば、この名前はアナグラム? それとも共通項からの変換か?

 いや、それが分かったところで意味はない。

 必要なのは行動原理の取得だ。

 

「うぐいすあんこ……っと、……検索しても直ぐには出てこないか」

 

 スマホで検索してみるがその名前は上がってこない。

 居場所が割れたら襲われかねないし、簡単には上がってこないのかもしれない。

 意味がないと分かると、アプリを閉じる。

 

「そういえば連絡っと……」

 

 理世からも、他の誰からも来ていないのを確認してスマホをポケットにしまう。しまったところで、ハツカが足を止めた。それに合わせて俺も止まる。

 

「着いたよ」

 

 たどり着いた店を眺める。暗い夜闇の中にはっきりと存在を主張するその店は、言い表しにくいがあまり知らない雰囲気だ。光が灯る『CLEAR』の文字がこの店の看板なのだろう。玄関先には数種類の綺麗な花が飾られていた。

 

「怪しい店?」

「ちょっとした飲み屋だよ」

「……いわゆるバーってやつ?」

 

 ハツカは『うん』と肯首する。

 

「酒がメインだけど、料理も楽しめるから行きつけのお店なんだよね」

「そうなのか。てっきり、そっちは居酒屋のテリトリーなんだと」

「ここはそれだけじゃないんだけどね。ま、入ってみれば分かるよ」

「ちょ、おれ入れるの?」

 

 ドアを開くと、鈴の音が響く。

 入った最初の印象は、明るいと綺麗だった。

 子供ながらに考えるバーは、薄暗い店の中でクラシック音楽が流れて入りずらい場所みたいなところだ。いや、ほかの男子とかからすればそこがカッコいいのかもしれない。

 そのイメージとは真逆に、快活な雰囲気で、照明もしっかりと灯っているここは、窮屈な場所では無いと直感させる。

 ざっと辺りを見渡すと、店内にいる人たちすべてが、楽しそうに酒や料理に手を出しながら話をしている。しかし、決して騒がしいわけでもなく落ち着きも同居している。

 

「…………?」

 

 なぜか一瞬、全員の視線がこちらに注がれた気がした。

 俺というよりは、ハツカにだ。

 

「ほら行くよ」

「う、うん」

 

 カウンターが空いていたので、ハツカに手を引かれるまま並んで席に座る。

 それと同時に俺たちの目の前に一人の男性が立った。

 

「やぁ、いらっしゃい蘿蔔ちゃん」

「ちゃん……」

「マスター、僕はいつものを頼むよ。彼には……」

「オレンジジュースをお願いします」

「分かりました」

 

 白いYシャツに黒いベストでガタイのいい壮年の男性だ–––––この服装からすると。

 

「もしかしてバーテンダーさん?」

「そうだよ。そして俺がここのマスターだ。––––えっ子供?」

 

 似合うな、良い、そんなことを思った俺を、数秒固まったマスターがジロジロと見てくる。

 まぁ、そうだよな。

 ハツカと身長は大差ないが、ハツカはこの店に通っていて問題ないのは分かっているけど、俺はまったくの初対面だ。疑うのが当然。驚くのは当たり前。

 というか、ハツカのやつ、どうやって身分とか証明してるんだろうな……。

 

「やっぱり俺が来るのはいなかったですか?」

「いいや、構わないさ。ここは皆んなが入ってこられる場所。例えそれが子供でも。楽しんでくれよ、坊や。あ、年齢確認だけはするからね」

「もちろん。分かっていますよ」

 

 気の良さそうな笑みを浮かべて俺の入店を許可するマスター。

 

「はい、シュウくん」

「ありがとう」

 

 俺は近場にあったメニュー表をハツカから手に取った。

 

「ほんとだ。色んな料理がある……うぅ……うん、チキンステーキで」

「おっ、ガツンと食うね。ちょっと待っていてくれよ」

「はい」

 

 マスターが奥にある厨房らしき場所へ消えていく。

 

「ハツカは頼まないのか?」

「うん。僕にとっての料理は隣にあるしね」

 

 舐め上げるような視線に身体を震わせて、首筋を撫でる。

 俺はメインディッシュなのか。良いのか、悪いのか……いや確実に良い扱いなのは分かるのだが、なんというか、素直に喜ぶべきなのか変わらない表現だ。

 

 マスターは厨房にメニューを伝え終えると、自分はハツカか頼んだ酒の準備を進めていく。3種類のお酒を大きめのグラスと手持ちが長いスプーンでかき混ぜていき、スポイトのようなものでなにか赤い液体を垂らした。

 滅多に見ることのない光景に目を奪われる。

 しかし、ジッと見るのも悪い気がするので、ちょろちょろ目を動かしながらテキパキとした仕事ぶりを眺めていた。

 

「そんな気を遣わなくても見たければ見ればいいさ。酒も料理も出てくる前だって美味しいんだから。ね、マスター」

「ああ、じっくり見惚れてくれよ」

「分かりました」

 

 ハツカとマスターに言われ、今度は堂々とソレを眺めた。

 

「マンハッタンです」

「ありがと」

 

 体感数秒、実時間だと3分ほどでその酒は出来上がった。差し出されたのは紅褐色の飲み物。この場だとカクテルという部類の物なのだろうか。

 ハツカはそれに口をつけて、満足気に口角を上げる。

 

「坊やには、はい、オレンジジュース」

「ありがとうございます」

 

 続けてマスターから差し出されたジュースを、会釈してから口をつける。

 

「やっぱりこの店に子供が来る事は少ないんですよね」

「まあね、バーってこともあって小さくても高校2年生とかだし。そういえば君は何歳なの?」

「14歳ですね」

「へえ14……え? 14!?」

「? ええ」

「って事は、中学生?」

「そうですね。いま中2ですから」

「……」

 

 俺の年齢を聞いたからか、マスターが呆然としてハツカへ視線を移す。

 

「蘿蔔ちゃん。流石に中学生は犯罪臭がするよ?」

「アハハ、でもそれくらいが刺激的だよ」

「……?」

 

 犬歯を見せながら笑うハツカと戸惑うマスターを見ながら、意味がわからず首を傾げてしまう。

 そんな俺に、唸りながらマスターが別の疑問を投げかけた。

 

「しかし、中2……中学生か。ん? ということはキミ、マヒルくんの友達かい?」

「真昼? マヒ……ああ。マヒルって(セキ) マヒルですか?」

「そうそう、そのマヒルくんだ」

「ふぅん」

 

 その問いになぜかハツカも反応し、俺を見る。

 

「えっと……俺、夕マヒルとはあまり関わってないんですよ。同じクラスにもなった事ないですし」

 

 というよりかは、夜守コウと同じで、どう関わるか困るタイプなんだよなぁ……アイツらは人との関わりに何もなさすぎるというか。俺とはまた違った仮面をつけたタイプ。

 平坦すぎるんだよな。

 まるででこぼこのない、アスファルトで舗装された道のように。脇道に草すら生えない荒野のように。

 近頃は、付き合う人付き合わない人を選び始めており、人間味というべきものが出てきたように思える。実際に会って確かめた訳ではないので、本当にいい方向へ進んでいるかは分からないが。

 

「俺としてはマスターが、夕マヒルのことを知ってる方が驚きですよ」

「店の外に花が飾ってあっただろ? あの花は、マヒルくんがいつも持ってきてくれるんだ」

「そういえば夕マヒルの家は花屋でしたね」

「関わってないっていう割には知ってるんだ」

「夕マヒルは学校では有名だし」

 

 いっても、俺が詳しく知ったのはつい最近だ。

 夜守コウについて調べるにあって洗う必要があった人物だからだ。

 

「夕マヒルもこの店に来るんですか?」

「そうだね、花屋の手伝い以外だとたまにかな。来る時は食事ついでに……あ、もちろん酒は出してないよ? で、アレで遊んだりしてるよ」

 

 俺たちがいるカウンターの傍を指し示しす。そこには大きなスクリーンがあり、その前にはなにやら大きな機材が設置されていた。

 その前に二人の大人が立っていた。ちょうどショットガンの偽物を機材に設けられたホルダーの中に入れるところだった。

 

「アレは?」

「クレー射撃のゲームさ。ほら、ゲーセンとかにあるシュータウェイみたいな奴だよ」

 

 遊んだことないから分からないが、クレー射撃自体はオリンピックなど大会が放送されていたことがあるので知っている。

 

「でもゲームバーって店、以前摘発されてませんでしたっけ?」

「よく知ってるねそんなこと……アレは著作権などが絡んでたから捕まったけど、これは機材からゲームまで自作だから問題ないよ」

「作ったんですか!?」

「それは初耳ですよ」

「あれ? 蘿蔔ちゃんにも言ってなかったっけ? あのゲームは、うちの弟が専門学校で教師をしてて生徒と一緒に作ったんだ。で、置き場所ないし、学校ではやれないから使わないかって」

「そこまで聞くとゲームそのものよりも作った人たちの方が気になるな」

 

 しかし、自作ゲームか。

 グルーブでワイワイと長い時間をかけて作ったのだろうか。

 

「料理が来るまで時間あるから、遊んでおくといいよ」

「……」

 

 と、言われてどうしたものかと悩んでしまう。

 

「坊やはゲームは苦手だったかな?」

「いや……」

 

 あまりやったことがないのは事実だが、出来ないか、苦手かと言われたら違うと言い切れる。言葉が詰まったのはそこでは無い。

 

「ハツカがやるなら、やる」

「え、僕?」

 

 俺の答えに予想していなかったと言わんばかりのハツカ。

 

「ああ。アレ、スコア制だろ? 100点取るゲームで、ひとりでずっと100点取ってても面白くないし」

「すっごい自信」

「ま、実際出来ますから」

 

 この手の遊びはタイミングと角度さえ合わせれば簡単なのだ。

 

「それに、せっかく2人分あるんだから一緒にやろうぜ」

「だってさ、蘿蔔ちゃん。お誘いだよ」

「まっ、これを知ってて連れてきた訳だしね。いいよ、一緒に遊んであげる」

 

 短く息を吐くようにハツカが了承する。

 そうして、まず俺が腰を上げた。

 マスターの話では、カウンターに置いてあるカード––––支払いの時に使うバーコードが印字されたモノ–––を機材に読み込ませれば動くようなので、その手順に従う。

 

「難易度は……ナイトメアでいいだろ」

 

 機材のモニターでゲームの設定を行い、ヘッドホンをつければいよいよスタートだ。

 1ステージ目の準備完了ボタンを押す。

 そんな時にハツカから声がかけられたので、そちらを向く。

 

「シュウくん、本当にできるの?」

「もちろん。そうでなければ言わないよ……このぐらい––––!」

 

 シュッ––––

 

 青々と下がった芝と快晴の空を映した画面の端。その左端からひとつ、右端からふたつ皿が宙へ飛び立つ。

 緩急が激しい皿の動きを、俺は振り返りざまに捉えて、バンッ! バンッ! バンッ! と正確に撃ち抜いた。

 

「おお、やるね」

「ハツカの番だぞ」

「……よっと」

 

 今度はハツカが席を立ち、機材の前で銃を構える。そして、数秒後、俺と同じ枚数の皿が画面端から射出された。

 

「ッ––––!!」

 

 バンバンバン!

 

 続け様に裂けるような電子音が耳朶を打つ。射出されたのとほぼ同タイミングで、画面内の皿が弾けた。

 

「ざっ–––と、こんなもんだよ」

「流石……!」

 

 やはり吸血鬼というべきか。いやハツカが凄いのか? 

 どちらにしろ凄いことには変わりない。

 やっぱり、良い––––

 

「張り合いがある」

 

 思わずニヤッと笑ってしまう。

 

「ハツカ、勝負しようぜ」

「スコア対決?」

「そ。賭け事なしの純粋な勝負!」

「元からそういうゲームだよ」

「いいだろ。こういうのはハッキリとしておきたいタイプなんだ」

 

 それに俺、こうやって純粋に遊ぶの初めてなんだよな。

 

「さて、始めますか!」

 

 完了ボタンを押して、俺はハツカのように射出された瞬間を狙う––––

 

 

 錫の音を掻き消すように、乾いた裂帛音が響く。

 

 

 

「あぁ……クッソ。引き分けか……」

「まっ仕方ないよね」

「そういうもんだしな〜」

 

 吼月くんが頬杖をつく。

 料理が来るまで、彼に付き合い蘿蔔ハツカ()も遊びに興じた。この手の娯楽に手を出す事は中々無いけれど、誰かとこうした遊びをするのは楽しい。

 勝負の内容は引き分け。

 僕は吸血鬼だし、人間用に作られたゲームで外す事はないが、それでも吼月くんも宣言する通りに上手だったため決着はつかなかった。

 どちらかがミスするまで続けても良かったが、それをするには時間が足りなかった。

 

「次は確実に勝ち負けがわかるやつにしようぜ」

「マリカとか?」

「ハツカってマリカやるんだな……」

 

 だったら、今度七草さんのところに行って、一緒に四人プレイもいいかもしれない。七草さんのところコントローラ四つあったかな?

 どっちにしろ次は僕が勝つけど。

 

「あと少しかな?」

 

 吼月くんが腹を摩る。ゲームが思いの外サクサクと進んでしまったため、まだ料理は来ていない。

 

 昨日気絶してから何も口にしてないから仕方ないか。

 

 にしても––––

 

「なんだよ?」

「なんでもないよ」

「……そうには、ん?」

 

 何やら奇怪な電子音声と共に、彼のズボンのポケットが震えた。

 

「あっごめん。電話だわ」

 

 そういって、吼月くんは化粧室の方へと姿を消した。

 

「ん……」

 

 僕の目的を洗い直そう。

 現状、僕の目的は吼月ショウを堕とすことな訳だが––––おそらく、あっちは僕のことを意識している。しかし、それはあくまで敵対者として、あるいは友達としてだ。恋人のそれではない。

 僕の身体を見て恥ずかしがったりなど、一般的な反応がないわけでは無いから完全に脈なしというわけではないが、押せてないのが現状だ。

 なにより、あの口調。初めに会った時は僕だったのに、今では俺になったままである。

 明らかに線を引かれてしまっている。

 

「どうしたものか……」

 

 まず、ここは崩していきたい。

 でなければ、吼月くんが堕ちるときの引っ掛かりとして邪魔なものになりかねない。

 しかし、吼月くんのことあまり知らないんだよな。

 直接聞くのが吉か? それとも飼ってる子達にでも偵察させるか? 彼はどうせ学校にも行くって言うだろうし、ここらで昼間に動かせる子でも作っておくか?

 

「あの––––」

 

 僕が考えに耽っていると、後ろから声をかけられた。

 どこかで聞き覚えのあった声。

 振り返った先にいたのは、

 

「ハツカさん、でしたよね」

「君は確か–––」

 

 先ほどマスターとの話題に上がった少年。

 

「夕くんだったね」

 

 僕のグループの仲間、星見キクの眷属候補。

 夕 マヒル本人であった。

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