よふかしのあじ   作:フェイクライター

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第二十三夜「一緒にやりませんか?」

 今日は生徒会室に集まって自主活動をしていた。

 

「もうだめ〜……嫌だもぉ……」

「そう突っ伏すな。あと5問だろ?」

 

 自主活動といっても、生徒会の活動ではなく後輩が出された課題の面倒を見ているだけなんだが。

 俺の他に、理世と同級生の男子と後輩ふたりが長机に向かって座っている。

 

「でも吼月先輩聞いてくださいよ……」

「北原が授業中に遊んでるからですよ」

「バレないと思ったんだよ! 周回するだけだったし!」

「だったらオートにして鞄に入れておくべきだな」

「そうだぞ。もっと上手くやるべきだ」

 

 プリントを前にして、机に倒れ頭から湯気を出している男子生徒、北原に横で一緒にテキストを進めている女子生徒、宮内が睨みを効かせる。

 プリントに苦悩している後輩を肴にスマホでゲームをしている同級生の男子、応野が話しかける。

 

「会長も応野先輩も甘やかさないでください」

「成績自体は問題ないんだ。あとはどう見つからずにやるかだろ」

「さすが吼月先輩! 宮内と違って物分かりがいい!」

「成績が下がらず授業の邪魔になっていない前提で、だがな」

「ぐっ–––!!」

 

 呻き声をあげた北原がきまりの悪い表情になる。

 これはゲームにハマって成績落ち始めてるな。そんなのなら、授業中にやりきって放課後や下校後にやりきればいいのに。

 

「記憶力良くなりたいな。そしたら世界史とか楽になるのに」

「なら日記でもつけてみたらどうだ」

「日記?」

「見た夢を書き起こすと記憶力上がるって話だっけ?」

 

 理世が話に入ってきて俺に尋ねた。

 

「それはちょっと危険だって話だが……普通に日記帳にでも100文字ぐらいの感想文を書けば鍛えられるぞ」

「会長もやってるんですか?」

「昔からの習慣だからな」

 

 最近はあまり書けてないから、帰ったら一度今日までの分を書ききるか。だいたいハツカかマヒルのことになりそうだな。

 

「日記か……夏休みの時の課題も楽に書けないんだよな……」

「そんなのだからダメなのよ」

「毎日じゃなくても決まった日に書くだけでも問題ないさ。日、水、金とか」

「それなら行けるかな?」

「無理でしょ」

「うるせえ! やったらあ!!」

 

 宮内が横からバカにするような眼で北原を見つめながら、テキストを進める。北原はその眼に対抗意識を燃やして再びプリントに手を出していく。

 分からない内容に答えながら俺も自分の手を動かす。

 その俺の手に視線が注がれるのがわかる。

 視線を辿ると持ち主が口を開いた。

 

「ところで」

「ん?」

 

 理世だけでなく、北原と宮内も不思議そうにこちらを見てくる。厳密にいうと俺が持っているものに視線が注がれる。

 

「なんでショウは枕なんて作ってるのよ」

「だって眠いし」

「眠いしで普通は枕を学校に持ってこないし! ましてや作らないのよ!!」

「自分の体に合うのは手作りなんだよ」

 

 別にいいじゃん。眠いし。

 こっちは夜更かし気味なんだよ。

 

「ほれ、北原か宮内使ってみるか?」

「じゃあ俺が」

「ダメ。北原が使ったら寝るでしょ」

 

 未完成品だが中身をしっかりと入ったお手製の枕を掴もうとする北原から宮内が奪い取る。

 そのままテキストを退けて枕を置くと、宮内がダイブした。

 

「ふわぁ〜〜やわらか〜〜……ぐぅーーー」

 

 そして瞳を閉じた。

 なんだ宮内も夜更かししてるのか?

 

「ねた!?」

「早すぎだろ」

「……ほい!」

 

 理世と応野が一瞬で眠りについた宮内に驚くなか、北原がその首筋に冷たいペットボトルを当たる。

 

「うひゃっ!?」

 

 宮内は上擦った声で悲鳴を上げると顔をあげた。

 身体を震わせて飛び起きた宮内は、首に手を当てて辺りを見渡し正気を取り戻す。

 

「ハッ……! わたしはなにを」

「ショウ。それ没収ね」

「断る」

 

 お手製の枕は生徒会室で使用禁止になり、そのあと後輩ふたりの課題が終わるまで俺たちは面倒を見たのだった。

 

 

 

 

「じゃ、わたし先あがるから」

「お疲れ」

「……お疲れ様です理世さん」

「お疲れみんな」

 

 理世さんが手を振って笑いながら生徒会室を出ていく。

 

「俺も片付いたし帰るわ」

「おう。じゃあな吼月」

「……会長、お疲れさまです」

「また明日な」

 

 吼月さんも軽い足取りで退室していく。

 

「「「…………」」」

 

 それを見届けた私たちの間に沈黙が流れる。

 宮内()と北原、そして応野先輩の目線が合う。

 

「どう思います?」

 

 私が沈黙を破って切り出した。

 

「いつも通り、な気がするけどな……」

「でも前だったらふたりで帰ってましたよ」

「それだって校門までだって吼月たち言ってたしな」

 

 吼月さんと理世さんはフッたフラれたの関係だ。一週間くらい前に吼月さんは理世さんの告白を断ったのだ。私たちとしては意味分かんなかったし、それを受け入れて仲良くしてるふたりはもっと訳分からなかった。

 でもあの二人のことだから、私たちが首を突っ込むことじゃないって言うだろう。口を出せずに居たのだが。

 

「吼月先輩って学校で寝るような人じゃないですよね?」

「それが最近ガッツリ寝ててな」

「え。そうだったんですか」

「昼放課の時にうとうとし始めて丸々睡眠に使ってる。律儀に予令の三分前には起きてるけどな」

 

 応野先輩曰く、それだけしか変化はないとのこと。だけど、そのタイミングが理世さんをフッた直後からだと言う。

 

「倉賀野先輩フッて不眠症になったとか?」

「それなら付き合ってるでしょ」

「だよなあ。そこら辺、吼月先輩なら後腐れなくキッパリ断るだろうし。自分がやったことで傷つくなんてな……」

「考えられないと言うか、一番縁の遠いやつというか」

 

 そこは私も共感する。理世さんならともかく、吼月さんは立場的にも性格的にもそのあたりは気にしないイメージだ。翌日は流石に気不味い雰囲気はあったが、週が明けてからは元通りになっていた。

 

「他の生徒から悪口を言われたとか?」

 

 上級生の夜守先輩は、告白を断ったあと校舎裏で文句を言われ、不登校になっている。あ、知ってるのは吼月さんから報告を受けた先生経由です。

 もしかしたら吼月さんも––––

 

「『俺が決めたことだ』ぐらい言って圧倒しそうだけどな」

「会長だしね……」

 

 吼月さんならやんわりと躱すか、それでも噛みついてくるなら叩き潰してくれるから気にしないだろう。

 

「俺たちが考えても仕方ないだろ」

「けど、元はと言えば私たちの所為だし」

「それは、そうだが……」

 

 思い返すのは9月の終わり。

 

『倉賀野先輩と吼月先輩って付き合ってるんですよね』

『え?』

 

 ことの始まりは北原が無遠慮にして、当然のことを口にしたのがきっかけだった。

 ふたりの事は一年生の間でも話題になる事が多かった。

 理世さんは容姿端麗で成績優秀。文武両道を地で行き、決してそれに驕ることはなく前向きな人柄は、数回会話しただけのわたしでも惹かれるものがあった。

 なんとなく『ああ、この人モテるんだろうな』と思ったのを覚えてる。

 

 吼月さんも似たような評判ではあるが、理世さんとは違い『モテる』といった好意ではなく、『凄い』といった尊敬の念が勝つ。

 

 そんな2人だが、告白される事はまずない。

 理世さんと吼月さんの関係性のせいだ。

 

『私たちは別にそんな関係じゃないけど』

 

 鈴を転がすようなという表現にピッタリな声が、呆気に取られた音色を出した。

 その言葉を信じられず私と北原が瞬きを繰り返す。

 

『またまた冗談を』

『そうですよ。あんなイチャイチャして』

 

 心当たりがないようでポカンと過去を思い浮かべている。

 

『この間なんてイヤホンひとつずつ使って一緒にスマホ見てたじゃないですか』

『ショウが風都探偵を見れてなかったからよ』

『だとしても普通付き合ってもいない異性と片耳イヤホンなんてしないんですよ』

『弟ともするけど』

『家族は別ですよ!?』

 

 この反応は確かに付き合ってない人のものだ。

 親密なのに、付き合ってはいないという歪な関係。近すぎて恋しているという感情に発展していないのかもしれない。

 わたしと北原は憂うため息をついてしまう。

 

『いつまでもその調子じゃ、会長を誰かに取られても知りませんよ』

『取れるの?』

『……』

 

 謙虚で自信過剰になる事はない理世さんだが、事実に関してはかなり素直に言ってくる。

 吼月さんを理世さん以外の誰かが奪うシーンを想像してみるが、私には思い浮かばなかった。北原も同じようで頑張って他の人が吼月さんと付き合うイメージをするが唸ってばかりいる。

 妄想でも勝つことができないことに屈辱を覚えていると、ガラガラと音を立てて生徒会室の扉が開く。

 入ってきたのは応野先輩だけだった。

 それはおかしいことだった。

 

『……ショウは?』

『PC室のエアコンを直した後に、柔道部の奴らにわっしょいされてった』

『なんで……』

『百人組手をして欲しいらしい』

『うちの柔道部の二十人しかいないじゃない』

『全員五回ずつトライするんだろ』

 

 先に戻っててくれ、と言われたそうでひとりで戻ってきたようだ。

 応野先輩は扉を閉めると理世さんを見た。

 

『それでそっちは面白そうな話してたけど』

『盗み聞きは感心しないわよ』

『聞こえたんだから仕方ないだろー。それで倉賀野と吼月がどうしたって?』

『付き合ってないんですって』

『はあ……? アレで?』

 

 理解できず、棘のある淡白な驚きのまま応野先輩は、面白そうなものを見つけた目を向ける。

 

『さっさと告白しろよ』

『だから私たちは恋人とかの関係じゃなくて』

『だとしてもいつまでもそんな関係だといつか気づいた時に後悔するぞ』

『…………』

『そうですよ! 倉賀野先輩も早くコクっちゃいましょうよ!』

 

 押され気味になる理世さんが首を傾げ、考え込む。それを見た私たちは駆り立てるように或いは冷やかすようにそう責め立てた。

 

『理世先輩が告白したら会長も喜びますよ!』

『……そう』

 

 そこで理世さんが折れて、私たちから目線を逸らした。

 

『わたしが告白したらショウはどんな顔をするかな』

 

 楽しそうに少しだけ口角を上げて頷く。その顔はどこか人並みの女性として笑っているようにも見えた。

 わたしたちはその微笑みに喜びを感じた。

 しかし––––

 

「結果はあの通り……」

「思い返すとかなりウザい絡みしてるな俺ら」

 

 皆同意するように深く頷いた。

 学生間ではかなり恋愛沙汰は良くも悪くも盛り上がる。自分も面白がって囃し立てるように告白を迫っていた。

 どうにかしてもう一度仲良くして欲しい。

 

「仲の良い人に仲介して復縁させるとかはどうでしょう」

「倉賀野先輩はともかく吼月先輩は誰にするんだよ」

「それは……」

「吼月と仲良い友達って誰だ?」

 

 吼月さんはこの手の話題になると詰まってしまう。

 友達はいるし常日頃から誰かが横にいるイメージはあるけど、一緒にいる相手が理世さん以外に思い浮かばない。

 

「最近だとマヒルか? なんかよく喋ってるし」

「良いじゃないですか。(セキ)先輩なら上手くやってくれそうですし」

「いや……どうだろ。倉賀野と仲良いかって言われると疑問があるし、今のマヒルはな」

「ああ。マヒル先輩、なんか友達と仲違いしたんでしたっけ」

「仲違いというか周りの奴らがやっかみつけてるだけだけどな……それを考えなくても今のマヒルは付き合い悪いし」

 

 理世先輩と夕先輩が仲良いという話も聞いたことがないし、そもそも吼月さんも夕先輩はフルネーム呼びするくらい遠い関係じゃなかったっけ。

 

「そうだ! 夜守先輩の様子を見に行く体でふたりっきりにすれば」

「確実にふたりが嫌がるだろ。てか夜守に悪いわ……とりあえずアイツらがどう思ってるか知らないとな」

「なにか案でも?」

「直接聞けばいいだろ。吼月なんだから」

「「確かに」」

 

 吼月さんなら嘘をつかない。

 いま理世さんについてどう思っているか聞けば必ず答えてくれる。

 

「それで誰が聞くんですか」

「……同級生の俺しかないだろ。ちょうどいいし誘ってみるか」

 

 応野先輩がスマホを取り出すと操作し始める。

 

「吼月とラインするの初めてだな」

 

 それを私たちは黙って見守った。

 

 

 

 

 学校から帰宅したあと、夜の帳が下りたころを見計らいハツカの家を訪れた。

 

「はい、ハツカ様」

「あ〜ん」

 

 食べたい物を考えてくれと頼んでいた結果、クッキーになったので、タヌキの型からくり抜いたチョコクッキーを作ってみた。

 クッキーを盛り付けた皿からひとつ掴み、ハツカの口へと運んでいく。

 

「どうでしょうか?」

「しっとりしててチョコの味もしっかりしてる。見た目もキラキラして可愛いね……でもなんでタヌキ?」

「元のレシピがタヌキだったのと……あとタイクーンですから」

「ショウくんって徳川が好きなの?」

「『最も多くの人間を喜ばせたものが、最も大きく栄える』って言葉は参考になりますが概ね普通です。それに僕の中ではちょっと意味が違いますし」

 

 分からないネタを深く踏み込んでも仕方がないので、ハツカは風を流すように納得した。

 

「口の部分の透明なのは飴?」

「細かく砕いた飴を焼く前のクッキーの口に入れると溶けて蓋みたいになるんです。

「それをふたつ重ねると中のホッピングシュガーが出てこなくなると。ステンドグラスクッキーというやつだね。もぐもぐ」

 

 シャカシャカとクッキーを振って心地よい音を立てた後、ハツカは自分の口の中へと入れていく。

 美しい白い歯を僕が作ったクッキーで微かながら黒く汚れる。それだけじゃなく、舌や唾液すらチョコ色に染まっているのを見るとなんというか凄く来るものがある。

 僕の首筋をいつも噛んでいる歯を自分の手で汚していることになんとも言えない興奮を覚える。僕が作ったものに彩られているのだから、実質ハツカの口はもう僕のものなのかもしれない。

 西園寺たちがいなくて良かった。アイツらが居たらこの感情を見抜かれていたかもしれない。

 

「……そういえば」

 

 下校中に来たラインのことを思い出す。

 

「ハツカ様ってバスケは興味ありますか?」

「興味はないけど、どうしたの」

「ないならいいんだ」

「どうしてか言ってくれなきゃ僕は決められないよ」

 

 質問を返しながらその訳を訊いてくるハツカ。

 好きじゃない事に誘う形になってしまうのは残念だけど–––そう前置きしながら続ける。

 

「同級生から今度バスケしないかと誘われまして。それで……」

「それで?」

「ハツカ様、一緒にやりませんか?」

「なんで?」

 

 僕がこういう言い方している時点で、気づいているだろうにわざわざ言わせるのはハツカらしいというか。

 

「……僕がハツカ様と一緒にやりたいから、です」

「ふふっ、いいよ」

 

 僕が《ハツカ》とバスケをしたいと口にしたのがお気に召したのか、イタズラ好きの子供のような可愛い笑顔を浮かべる。

 

「いいんですか?」

「興味がないのと、やりたくないは別でしょ。久しぶりに体を動かしたいし」

 

 それに、と続けるハツカはどこか嬉しそうに。

 

「君から誘ってくれるのは初めてだしね」

 

 思い返してみると確かにそうだ。今まではハツカから『どこか行きたい?』と聞かれてから提案する事しかなかった。

 そう理解すると良いなと思った。

 

「楽しみだよ、ハツカと遊ぶの」

「そう?」

「ああ、俺は強い奴とやる方が楽しめるからな!」

「口調」

「ごめんって。でも勝負事になると俺って口調の方がノリやすいんだよ」

 

 ハツカと勝負したい。

 勝ちたい。

 

「でも、その友達は良いって言ってるの?」

「外付けの理由は穴埋めで来て欲しいだけだそうなので。増える分には問題ないですよ––––送信」

 

 スマホを取り出して応野にラインを送る。

 これで幸福に変わる。

 

 だろう。




 ドンブラザーズ最終回良かった……
 
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