よふかしのあじ   作:フェイクライター

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 いつのまにか15巻出てた……木刀持って友達追いかけるのは不味いですよコウくん!?
 それはさておき、キクさんがマヒルくんを好きになったと気づいた時とナズナちゃんがコウくんに発破かけた時、両方とも『ドキッ……』って演出入ってたけど、なにか意味あるのかな?
 次吸われたら吸血鬼になるのかい?


第二十六夜「年頃」

「–––––」

「おーい、ショウくん?」

「だーめだこりゃ。同点になって賢者タイムに入ってやがる……なんで賢者タイムしてんだコイツ……」

 

 俺とハツカ、応野の3人は体育館の通路を歩いている。少し俺が先を行き、そのあとから着いてくる形で2人が何やら言っている。

 試合が終わり、今日のバスケの練習は解散となった。東代たちは片付けをするからと言って、俺たちを先に返してくれた。実際はもう少しだけ自分達主導でバスケがしたいだかのようだが。

 結果としては最終スコアは同点の引き分けなのだが––––

 

「一度も蘿蔔さん抜けなかったからな」

「ッ」

「あっ、はねた」

「打ち上がったばかりの魚かよ」

 

 確かに結果は同点。俺とハツカの得点数も、俺が3ポイントライン外から打つことが多かったため等しいものになった。しかし、俺がその3ポイントシュートを打つことが多くなった理由の大きな理由がハツカを突破出来なかったからだ。

 あの手この手で出し抜こうと試みたが、悉く塞がれてしまった。

 

「こっちからすれば蘿蔔さんたちのレベルに合わせないといけなくて大変だったわ」

 

 しかし、ハツカは全力を出していない。

 吸血鬼の本領を発揮せずこの実力とは思わなかった。一度くらいはなんとか抜けるだろうとタカを括っていたのだが、と肩を落としていたのである。

 以前、吸血鬼同士でバスケをしたことがあると言っていたが、どんな異次元バスケが繰り広げられていたのだろうか。エンドラインから直接ゴールへボールを叩き込んだりしていたりして……。

 もうダメだ。

 負けた––いや、負けてないけど–––イメージが強すぎて、やってらんないわ。

 

「飯買ってくる」

「また? ほんと好きだね」

「あんだけ動けば腹減りますし。じゃあ俺、メロンパン買うか」

「メロンパンが売ってるのか。俺もそれにしようかな」

「自販機にしてはここのメロンパン美味しいぞ。……あれ……あっ財布ロッカーの中だわ……」

「俺が買ってくるぞ」

 

 俺は財布を取り出してそう告げる。

 

「悪いな、後で返す」

 

 すまんな、と両手を合わせるポーズを取る応野。金の貸し借りに関してキッチリしてるからそこも好くところなんだけどな。

 

「蘿蔔さんは?」と応野が言った。

「僕は用意があるからいいよ」とハツカは答えた。

 

 視線を俺––––厳密に言えば俺の首筋–––に這わせてくる。確かに吸血用肉体(血液パック)がここいるけど、そんなに視線を向けるな。俺はハツカの眼差しに盛り付けられた刺身の照りを見るような卑しさを感じ取る。舌舐めずりをしているのではないかと疑いたくなる。

 

「あの袋の中に入ってたんですか? ……結構少食なんですね?」

 

 吸血鬼のことを知らない応野は、ハツカが持参してきたスポーツバッグの中に食べ物が入っているのだと想像したのだろう。思い出したハツカのバックの大きさでは、それほど胃が満たされる飯は入れられない。

 飯が俺だなんて知ったら応野はどんな反応をするだろうか。

 

「……販売機どこ?」

「ここの道を曲がらずにまっすぐ行けばジムがあって、そこの正面にあるぞ」

「分かった。じゃあ先に着替えてくれ」

 

 俺がそう言うと、ふたりは頷いて歩いて行った。

 

 

 

 

 吼月くんと一旦別れたあと、僕は応野くんと共に更衣室へ戻った。ガラガラと横開きのドアが小さく音を立てた。

 見渡す限り僕たち以外に人は居ないようだった。

 空っぽの更衣室にニ対の足音がよく響く。

 100円ロッカーの鍵を挿して、くるりと回すと100円硬貨が鍵穴の下に設けられた排出口から出てくると同時に扉が開錠される。

 扉を開けて手を中に入れてタオルとコールドスプレーを取り出す。コールドスプレーでタオルを軽く冷やしてから、かいた汗を拭っていく。

 こうしないと汗を拭いた後でも、身体の中に熱がこもってまた汗が出てくるから嫌なんだよね。

 でも、吼月くんとバスケをするのは楽しかったし、代わりとしては丁度いいかな。

 

「準備いいですね」

「これくらいは普通じゃない?」

「この時期に冷汗スプレーを持ってくる人はそういない気が……寒くないんですか?」

「うん。特に寒いって感じないし」

 

 応野くんは頷いて自分のロッカーに手を伸ばす。ロッカーの中身を探りながら彼は口を開いた。

 

「……蘿蔔さんと吼月ってどういう関係なんですか?」

 

 僕の顔を見ずに応野くんが聞いてくる。

 元々吼月くんが彼に呼ばれた理由––––フッた女の子との仲はどうなっているのか––––のことを考えると至極当然の質問だろう。

 

「どうって?」

「いや……女装してる男性と仲良さそうにしてるって気になりません? しかも夜だけって言われたらなおさら」

「特にないよ。いまは歳の離れたお友達。強いて言うなら相談相手かな?」

「いまは、なんですね……」

 

 かなり癪だけど。

 

「蘿蔔さん、なにか悩みでもあるんですか」

「なんで僕が悩んでる前提なの」

 

 そう思うものの、応野くんが見ている吼月ショウという人物は––––

 

「てっきりアイツがまた変に関わったのかと」

「変な出会いだったのは否定しない」

 

 吼月くんは人助けが趣味みたいな人だと(セキ)くんからも聞いている。今の時代には珍しい性格だと思う。

 実際は真逆で、吼月くんが自殺しかけて僕が助けたのだけど。

 

「……え? 吼月に悩みがあるんですか?」

「誰にでも悩みのひとつやふたつはあると思うけど」

「……そうですね。蘿蔔さんはいつぐらいから吼月の相談に乗ってるんですか?」

 

 本人から直接問題ない、と言われたのにまだ探ってくるなんて随分と信用されてないんだね。少しばかり吼月くんに憐れみを向けてしまう。

 致命的な欠点はあるけど社交性がない訳ではない。バスケしてた時も応野くんや他の子たちと楽しそうに話せてたから、良好な関係を築ける程度には持ち合わせている。

 

「今月の初めだけど」

「初め……わぁ、うわぁ……」

 

 顔を抑えるようにして呻き声を断続的に上げ始める。

 ……なんとなくだけど、読めてきたな。

 

「なにかあったの?」

「……実はですね」

 

 悪ノリで倉賀野ちゃんに告白するように言い迫ったこと。その結果、フラれてしまい2人の関係が変わってしまったこと。ぎこちない雰囲気が週明けからは全くしなくなって不自然なこと。発端が自分達にあるため負い目を感じていること。

 なるほど––––と、僕は相槌を打ってみせた。

 

「結末がそれだと、どうしても嫌な気分にはどうしてもなってしまうよね。でも、恋バナは人が浮かれやすくて囃し立てちゃうのも分かるし、決断したのはその倉賀野ちゃんであって、君たちが無理矢理やらせた訳ではないんでしょ?

 だったら、そっと見守る方が健全だよ。悪いと思うなら倉賀野ちゃんに直接謝る……まあこれも互いに気を遣わせちゃうからオススメしないけど」

「そぉっすけど」

「それに安心していいと思うよ」

 

 パタンとロッカーの扉を閉めて、彼に顔を向ける形でそばにあった長椅子に座る。

 

「僕と一緒にいてその子のことを考えるぐらいにはショウくんも倉賀野ちゃんのことを考えてるから」

「本当ですか?」

「ホントだよ」

 

 ベッドの上に押さえつけられて、血を吸われているにも関わらず僕ではなく倉賀野さんという子を思い浮かべているあたり、この子の比重が吼月くんの心の中で大きいのは間違いない。

 にしては––––

 

「……? どうかしたんです?」

「倉賀野ちゃんとショウくんって仲良いんだよね?」

「そりゃまあ。フッた理由が分からないくらいには」

 

 不信感について相談してきた時、倉賀野さんの告白をフッたことについては微塵も負い目を感じてなかったんだよな。弱っていた理由も、明確に理由を説明できない衝動的で生理的な嫌悪感から来るような物に対して悩んでいたのだし。

 自分の不信感で傷つけたことを悔いているだけ。

 

「アイツら自分達でベストマッチだってずっと言ってますし。いや言ってるのは倉賀野だけか?」

 

《恋人》や《好きな人》という言葉を使わずに《ベストマッチ》という単語を強調している辺り、仲が良い以上のことを求めていないとも取れる。仲のいい男女だが、恋人にはなりたくないから「俺たち友達だよな」と予防線を張るようなものだ。

 だとしたら、なぜ告白するつもりになったのだろう。

 流されて仕方なく? 突発的な行動? 実は以前から好きだった?

 あげ始めたらキリがないので僕は思考を中断してスカートを穿く。

 

「最近はどうなの?」

「以前とあまり変わらない……けど、前よりは一緒にいることが減った気がしますね」

「ふぅん。それなら、ショウくんが言ってた通り、目につかない所でなにかやってるんだと思うよ」

「ですね……本当ならいいんですけど」

 

 どこか遠い目をした応野くんを見て、僕は以前吼月くんが話していたことを思い出す。

 

「気になったんだけどさ。聞いていいかな?」

「なんですか」

「なんでショウくんだったの? 倉賀野ちゃんに聴きに行くのが君たちとしては自然じゃない?」

「……聞けないですよ。自分達のせいでもあるのに」

「そっか。踏み込みすぎて関係を壊したくはないしね」

 

 僕がそう訊ねると、応野くんは押し黙りながら頷いた。

 

「吼月くんとは仲良くないの?」

「そういうわけじゃ、ないですけど……」

 

 応野くんはふたりが問題ないと仲直りしてから首を突っ込んだ。

 仲直りする前はぎこちない雰囲気だった事を知った上で関わってきているのなら、吼月くんに触って欲しくない後ろめたさがあることぐらい察せられるはずなのに。

 

「仲は良いですよ。ええ。アイツも友達だって言ってくれますし。ただ……遊んだりとかはしないですね」

 

 遊ぼうと、誘われたことがないと吼月くんは僕に話してくれた。それに吼月くんが口にする友達の考え方が一般的なものと同じではないのは考えなくても分かる。

 だとしたら、吼月くんと応野くんはただのクラスメイトで学校の生徒会の同じ役員というだけで、特別深い関わりがあるわけではない。

 なのになぜ、吼月くんから聞こうとするのだろうか。

 

「らしいね。ショウくんも言ってたよ。君たちぐらいの年頃なら仲良いなら外で遊ぶことぐらいしそうだけど」

「……吼月はそのことでも悩んでたんですか」

「さあ? 気になるなら本人に聞いたらどうかな」

 

 僕はわざと茶を濁すような返答をした。

 あの時の論点は、人と遊んだことがないから一緒にいた時にどうやって感情の発露をさせればいいか分からない、という話だった。吼月くんの口ぶりからは寂しさは感じられなかった––––気取っ(化かし)ているだけかもしれない––––が、ちょうどいいので利用させてもらう。

 

「お節介って訳じゃなくて、ショウくんの人間関係を知りたいだけだから話さなくてもいいよ。ただ彼の相談役として教えてくれたら嬉しいな。あの子の嫌いな所も聞かせて欲しい。今は僕たち以外誰もいないし、僕を頼って欲しいな」

「……子供扱いしないでください」

「そうだね。だからキミの考えを聞かせて」

 

 応野くんは顔をロッカーの中に入れるようにして隠し、僕に背を向けたまま再び沈黙する。僕は念押しする形で「ショウくんが来たらすぐに教えるから」と口にした。

 すると、少ししてから応野くんは話し始めてくれた。

 

「元々アイツが中学になった時に小森に越してきた転校生だったから他の奴らより遊ぶ機会が少なかったってのもあるけど…………ほらアイツ、人助けが好きじゃないですか。そのことは知ってますよね?」

「そうだね。聞いてるよ」

 

 本心から好いているかは疑問があるけど。

 あと今さらっと新しい情報が出てきたね。吼月くん、転校生だったんだ。

 

「アイツを誘って遊んでる時にもし人助けなんてされたら時間も潰れるじゃないですか。それに俺たちと遊んでるのに他の関係ない人に目が行かれたら嫌なんですよ」

「妬いてるの?」

「違いますよ!」

「けどそうだね。その光景は想像出来るな」

 

 以前、園田という女性を化かすことになった発端も、学校で都雉という生徒が暗い顔をしていたからだ。僕も応野くんが持つ懸念については共感することはできる。

 しかし、理解はできない。

 

「だけどこの世の中、毎日毎朝毎晩、目につくほどゴロゴロと不幸が転がっている訳じゃないんだ。一度くらい誘ってからでも良いんじゃないかな?」

「…………でも……」

 

 言葉に詰まった応野くんに僕は「でも? 別の不安があるの?」と心配している口調で次の句を促す。

 

「別に吼月が嫌って訳じゃないんです。……ただ、アイツってなんでも出来るんですよ。今日も凄かったでしょ?」

「そうだね。僕の張り合えるぐらいだもの」

 

 吸血鬼だから人よりも運動神経が優れていてうまく立ち回れていたから全て防げたけど、もし僕が人間だったらどうなっていただろうか。それもあって彼とのゲームはより楽しかったけど。

 

「……もし一緒に遊んで、楽しいって思われなかったら……長続きしないですよ。俺だって遊んで疲れるだけとか絶対嫌ですし。今回は蘿蔔さんが居たから吼月は楽しそうでしたけど、俺1人だったらと思うと」

「自信がない?」

「……はい」

 

 なるほどね。

 ……今の中学生って誰も彼もがこんな風に悩んでるの?

 

「重く考えすぎ、とは言わないけどね。相手と一緒に楽しむというのは簡単なようでかなり難しいことだし」

 

 彼の悩みを肯定した事で肩の力が抜けているのが見ているだけでも分かった。

 

「でもショウくん相手なら大丈夫だよ」

「なんでそう言い切れるんですか?」

「だってあの子、人の家に遊びに行ったのもこの間が初めてだって行ってたし」

「え?」

 

 鳩が豆鉄砲を打ったのを見たような驚きの表情を見せる。

 当然の反応だろう。14歳になって人の家に遊びに行くのが初めての子供なんてこの街にどのくらいいるのだろうか。

 

「人と遊ぶのに疲れる主な原因は慣れなんだ」

「慣れ、ですか」

「うん。何度も遊んでいたらいつかは新鮮味が薄れてくる。楽しかったはずなのにいつのまにか気乗りしなくなって、やる気も失せてくる。こんなはずじゃなかったのにと、自分の中ですれ違いが起こる」

 

 だから人の心はいつか他者()といる楽しさよりも人付き合いの煩わしさに負ける。

 例えば、社会に出る前に仕事を選ぶ時が来たとして『楽しさ』か『やり甲斐』かどちらを重要とするか。楽しさというのは自分の感情であるが故に飽きがくる。やり甲斐は他者への貢献なので使命感が生まれ、飽きが来ることはない。

 大人はやり甲斐のある好きな仕事を選ぶように子供へ促す。慣れて、飽きてしまえば業務に支障が出るから。

 それは遊びも同じ。

 

「けど、ショウくんはいつも目を輝かせるよ。それこそ生まれたての子供みたいに、なんでも新鮮に映ってるんだ」

 

 そんな子供らしいところが可愛らしくて僕っ子モード吼月くんの良いところなのだけど。

 

「だから、君と遊ぶ事も楽しんでくれる。君といる事も新しいことのはずよ」

「…………」

「僕が保証する」

 

 僕は彼に微笑んだ。「別に普通に今まで通り過ごすだけで良いなら遊ぼうなんてしなくていい」とも告げた。

 応野くんも少し嬉しそうにして、心の中に落とし込むように深く頷いた。そしてどこかを見つめるように顔をあげた。

 

「そうですね……自分なりにやってみます。少なくとも嘘をつかない吼月なら『いても楽しくない(・・・・・・・・)』なんて思わないだろうし」

「だね。頑張って」

「はい」

 

 ––––その言葉は誰に向かっているのだろうか。

 心寂しさを含んだ彼の声は、少なくとも吼月くんに向けたものではない。それだけが僕には分かった。

 そして、吼月くんの嘘を知っている僕には、応野くんの嬉しそうな声も空々しく聞こえた。

 

「…………」

「どうしたの?」

「いえ、相談乗ってもらって悪いな……って」

「いいよ」

 

 夕くんはあまり吼月くんと関わりが無いようだったし、ある程度近い人から意見も聞きたかったので特に問題はなかった。

 

「……俺も聞きたいことあるんですけどいいですか?」

「うん。答えられる範囲でなら」

「でしたら」

 

 彼は恐る恐る口を開いた。

 

「蘿蔔さんってなんで女装を始めたんですか?」

 

 そう訊ねられた瞬間。

 

『綺麗だよ––––』

 

「–––––」

 

 ザーーとノイズが脳裏を走り、それが視界に侵食してくる。一瞬立ちくらみが起き、足がおぼつかなくなる。

 なんだ? 誰だ? 

 聞き慣れた声が頭の中で反響する。

 

「おい、応野」

 

 応野くんの質問に間を置かず、横から声が飛んできた。僕は意識を取り戻すと同時に声がした方向から、ひとつの影が僕らの目の前を通っていく。

 その影を応野くんが両手で受け止める。

 

「メロンパン、それで良いよな」

 

 飛び込んできた影の正体は大きめのメロンパン。そのパンを投げたのは吼月くんであった。

 しまった。さっきの頭痛で吼月くんが戻ってきたことに気づかなかった。

 

「そうこれだ。サンキュ……で、吼月はなんだ。メロンパンじゃないのか?」

「試しに買ってみたんだクリームパン」

 

 更衣室に入ってきた吼月くんが指で摘んだクリームパンの袋を左右に揺らす。ゆらゆらと揺れる袋には特製クリームパンの文字が。

 

「吼月は知ってるのか? 蘿蔔さんが女装してる理由」

「知る訳ないだろ。そんなもん知って何になるんだよ」

「……だって気になるだろ」

「楽しい、それでいいだろ。それよりもさ––––」

 

 吼月は僕と応野くんの間に割って入るように立って、着替え始めた。そのまま、応野くんと別れるまで絶えず吼月くんは喋り続けた。

 

 

 僕含めて3人とも着替え終えると、そのまま解散する事になった。

 

「ありがとね。応野くん」

「こちらこそ助かりました」

「……じゃっ、またな」

「ああ! じゃあな」

 

 体育館の前で応野くんと別れて吼月くんと一緒に歩いて行く。体育館にやってくる時に使った道ではなく別の道を進んでいた。体育館とグラウンドを挟むように南側には花壇のある道が、北側には大きな池に架けられた橋がある。

 僕たち2人はその橋を歩いている。

 今は夜なため月明かりのみ照らされた池だが、話によると昼間は鯉が泳いでいる様子がハッキリと見えるらしい。今は人間と同じくお眠なのか池の底でぷかぷかと浮かんで寝ているのだろ。

 

「楽しかったかいショウくん?」

「ハツカのおかげで楽しかったよ」

「昨日はあんなに嫌そうだったのに」

「ハハっ、応野とバスケするのは楽しかったけどな。ただ終わったことにケチつけられるのって嫌じゃない? こっちは終わったって言ってるのに」

「間違いないね」

「さすが当事者の吸血鬼」

 

 雲ひとつない嬉しそうな顔が池に映る。

 応野くんも僕らを狙う探偵さんも過ぎたことに手を出してくるという意味では同じだし、良い気持ちではないのは凄く理解できた。

 

「嫌だったら断っちゃえばいいのに」

「俺が変に理世をフッたのが原因だしな。応野たちも理世のためにやってるわけだし、無下には出来ないよ」

「そっか」

 

 元々吼月くんは傷つけた(フッた)側であることを考えて心配されること自体期待してない。とはいえ、やはり不憫だと思った。

 でも慰めをかけるのも違うので「着いてきた良かったよ」と僕は応える。昨晩、僕を誘った時には本当に不機嫌な様子だったので、笑顔で終われてよかった。

 

「ハツカは?」

 

 吼月くんが僕はどうだったかと訊ねてくる。

 

「僕も楽しかった」

「……そっか」

 

 水面に映る吼月くんの目に心苦しさが滲み出る。

 

「信じられない?」

「うん」

「素直だね」

 

 ここで俺モードになって取り繕わない辺り、少し仲が進展したとして良しとする。けど、その信じられない気持ちはどこからだろうか。

 いつもの不信感だろうか––––吼月くんは「それもある」と応える。

 

「聞いてた? 更衣室での話」

「……ごめんなさい」

「なんでキミが謝るのさ」

「聞き耳立てるのって悪いことだし」

 

 立ち止まって僕の方へと向き直った吼月くんがぺこりと頭を下げた。聞いていたのは本当に最後で、応野くんが僕の女装について訊いてきたところからのようだった。

 

「誘ったのは僕だし、そのせいでハツカに嫌な想いをさせたなら–––」

「ほい」

「いっ–––!?」

 

 ズルズルと悪い気分になっていく吼月くんのデコを弾いてみせた。真っ赤になった額を抑えながら、驚いて目を見開く。

 

「なんでぇ……?」

「暗くなってるのが悪い」

「えぇ……心配するのは普通じゃん……」

「子供が大人の心配をするなんて早いよ」

「……そうだな」

 

 せっかく楽しかったんだからそんな顔して欲しくない。

 

「少なくともショウくんとバスケをしたのは楽しかったし、キミのフォローも良かったから主人として褒めてあげる」

 

 ちょうど顎の下の高さまで下がっていた頭に手を乗せる。

 

「よしよし」

「あ、ちょっと……っ。やめっっ」

「嫌なら逃げれば良いじゃない」

「この……」

 

 あやすように頭を撫でると吼月はそれを拒否してくるが、もう一撫してあげれば悪態はつくけど逃げようともしない。

 キミみたいな年頃は、背も伸びて少し思考もまとまってランドセルを下ろす。ちょっと大人に近づいたからか、子供扱いされるのが気に入らなくなる。

 だけどキミはそのままを受け止めて、嬉しそうに目を細めるだけ。素直で可愛らしい子供。

 今まで狙ってきた獲物とは違う良さがある。

 

「なにかご褒美でもあげようか?」

 

 いまのがご褒美でも良いけど、もう少し餌付けしてみたい。

 吼月くんは撫でられたまま暫く黙考する。黙っているのは深く考えたいからか、それとも赤くなった頬を隠すして照れを見せないためだろうか。

 

「保留で」

「なんで?」

 

 まさかの回答を放ってきた吼月くんに僕は足を滑らせながら訊ねた。

 

「今は一緒にいるだけで楽しいし、本当にして欲しいことが出来たらお願いするよ。だから願いの持ち越しを要求します!」

「……仕方ないね。今回だけだよ」

「いえー!」

 

 自分の要求が呑まれた吼月くんは嬉しそうに腕を伸ばす。こういうところも子供らしいんだよね。

 

「で、これからどうする? まだ早いけど」

「そうだね……ショウくんも汗かいたよね?」

「適度には」

 

 その答えに僕は「だったら」と継いで––––

 

「行くよ」

「あ、えっ?」

 

 戸惑いながら吼月くんが僕の後に続いた。




 四月からの投稿ですが「不定期更新でもいいから完結を」という意見が多かったため、自分の都合に合わせてこれからも投稿させて頂きます。
 今までと変わらず日曜日は投稿、余裕があれば木曜日にも投稿していくつもりです。
 ただ週一投稿も無理がある場合は、1週間前までには報告します。

 軟弱者ですが、これからもよろしくお願いします。
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