よふかしのあじ   作:フェイクライター

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 コトヤマ様が病気になったと聞いて心配しましたが、風邪だったそうでひとまず安心しました。いや、風邪も不味いですけど。
 急な気温変化がある時期ですので、みなさま体調にはお気をつけてください。

 序盤はライダー要素濃いめです。


第二十九夜「ダンチ」

「このデザインのやつ……1話の怪人かな」

 

 今日は日課として、蘿蔔ハツカ()はテレビを眺めている。

 画面に映るのは、黒いゴリラのような巨体の怪人–––スマッシュと、その怪人に殴りかかる茶髪の青年–––万丈龍我だ。ただし、万丈の方も純粋な人間ではないので怪人といえるだろう。

 

『うおおおお!!』

 

 蒼いボトルを振りながら怪人に果敢に攻める万丈だが、強化個体なのか怪人のカウンターパンチで後方に停められていたトラックまで吹き飛ばされる。ガンッ!と大きな金属音が響く。

 

「……」

『こいつ、前より強くなってやがる……!』

『だったら勝利の法則を探すしかないな』

 

 見始めた番組を楽しく観ている。恐らくは吼月くんが好きな作品で、タイトルはビルドというようだ。

 よく続くね、このシリーズ。

 元々、吼月くんとの話題作りの為に見始めたものだが、これが案外面白い。吼月くんが遊びに来たりするし、飼ってる子達の相手で中々進められていないが、暇があれば観てみようと考える程度には。

 ドリル型の武器を手に持ちスマッシュへと肉薄する万丈の下に、この作品の主役、トレンチコートを着た青年––––天才物理学者こと桐生戦兎が駆けつける。

 敵と対峙しながら水色と赤色、2つのボトル型のアイテムを取り出して、カシャカシャと音を立てながら振る。振り終えるとボトルのフタを同時に回す。腰に巻いた実験器具のようなバックルに装填する。

 しかし––––

 

《海賊!》《消防車!》

 

『ベストマッチじゃない』

『ハアッ?』

「えぇ……」

 

 万丈と僕の考えがマッチする。いや、戦いながら変えなさいよ……。

 選んだアイテムがお気に召さないようで、すぐさま取り替える。次に選んだのは、取り出してた赤色のボトルとチェンジした白色のボトル。バックルに挿し込むと、流れる特殊音声と共に戦兎が発狂。

 

《ハリネズミ!》《消防車!》

 

『《ベストマッチ!》来たぁぁぁ!!』

 

 ハイテンションで叫びながらバックルの右側についたハンドルを勢いよく回していく。

 僕はその代わり様を眺めている。

 物を製造するような機械音を放ちながら、戦兎の周りを白と赤の2種類のパイプが展開され彼の前後にふたつのアーマーを形成する。

 

『変身ッ!』

 

 構えを取ると戦兎がそのアーマーに挟み込まれた。

 装着が完了し、煙を放つ。

 そうして戦兎はメカニックでカッコいい白と赤の異形の戦士––––ビルドへと姿を変えたのだ。

 

《レスキュー剣山! ファイヤーヘッジホッグ! イェーイ!!》

 

「なんでハリネズミと消防車?」

 

 この組み合わせに何か意味があるのだろうか、なんて事を考えていると、ピコンと僕のスマホから電子音が鳴る。

 

 タイミングわっる……。

 

 この時間帯に僕に連絡を入れてくるとしたら、一人ぐらいだろう。

 スマホを開いて画面を見てみると、ラインのアイコンに赤丸で《1》と表示されていた。吼月くんからメッセージが届いていたのだ。

 内容は、夜更けに逢いに来るとのこと。

 僕たちはいつ会う、どこで会うといった取り決めはしていない。あるのは漠然と《必ず会おう》といった暗黙の了解だけだ。

 だから『分かったよ。また連絡してね』と返信を打つ。

 

「……」

 

 僕はスタンプで『早く逢いたいな』と猫が微笑みかけるスタンプを続けて送った。

 どちらもすぐに既読になったが、後者の方には反応がない。

 

「なにか反応しなよ」

 

 一人相撲をしているみたいじゃないか。

 愚痴りながら僕は再び目線をテレビへと移した。

 

「今の現状をどうにかしないといけないよね」

 

 必ず会うべき––––彼はそう認識しているようだが、これはあくまで僕に会いたいという訳ではない。

 信頼し合うためのゲームの土俵を作るために会いに来ているようなもの。

 もし代替品があれば、もし他の吸血鬼から学ぼうと彼の気持ちが変わってしまえば、吼月くんを眷属に出来なくなる。

 悔しすぎる。

 吸血鬼の平穏のためには好みの吸血鬼についていって惚れた方が手っ取り早いのだが、逆にいえば吼月くんにとって僕はその吸血鬼より劣っていたということになる。

 

「……」

 

 想像しただけで不快だ。

 彼には他の用事を挟む意思を介在させることなく、僕に逢いたい、僕と居たいと思ってもらわなくちゃいけない。

 

「いつも手が使えたら良いんだけどな」

 

 宇津木たちにしたような洗脳を施せればいいのだけど、それではいけない。

 そうは思うものの、何故いけないのかパッと口に出さない。

 

 とはいえ、しばらくは大丈夫なはずだ。

 彼が《僕》と口にする相手はこの僕だけだし、あの子供らしい顔を見せるのも現状僕だけだ。銭湯で吸血した時の顔を埋めてくる反応も、飲まれた後の火照ったような顔も好感触だった。

 あの時は純朴な子供を手のひらで転がすような背徳感と高揚感が相まって僕も興奮しかけていた。

 

「……女装させてぇ」

 

 そんな欲望を吐き出して、スマホを見下ろす。

 

 カタッ

 

「ふふっ」

 

 ベランダから聞こえてきたふわりとした着地音と、ラインのメッセージが追加されたのはほぼ同時だった。

 

 

 

 

「すぐにお持ちしますので、お待ちください」

「お願いします」

 

 フロントにある受付の中にいた男性が奥へと消えていく。

 その様子を眺めながら俺は少し前のことを思い出す。

 

「……あれで良かったかな」

 

 ハツカにいつもより会いに行くのが遅くなることを伝えたメッセージ。

 最初の返信内容はいつも通りだったが、次が厄介だった。猫スタンプで『早く逢いたいな』と送られてきた。

 思わず、えっ、と思ってしまった。

 俺を落としたいハツカのことだ。その気にさせるためについた(ノリ)だろう。

 頭では分かっているが、妙に意識してしまった。

 

––––もしかして、俺ってチョロい……?

 

 どう返すべきか迷った結果、こちらもハツカが望んだであろう『僕もだよ』という月並みな言葉を選んだ。

 

「返信しないよりはマシだ」

 

 そう納得してスマホをポケットの中にしまった。

 

「そんなことよりもだ」

 

 俺はここで買ったペットボトルを弄びながら、昨日も通ったクリーム色のタイルの通路を歩き出す。いま居るのは小森市民公園の体育館。来た理由は興味本位というのが正確だろう。

 

「さて、沙原は……」

 

 メインアリーナの方から猛々しい声が聞こえてきた。

 しかし、それに伴って聞こえてくる音はボールが弾むような音ではなく、カッと何かを打ち合う空気を裂くような音。

 見てみると、全身を藍色の防具で包んだ者たちが雄叫びをあげていた。

 

「今日は剣道なのか」

 

 空気を裂く音は竹刀を振る音だったか。

 目的とは違うものだったため、すぐに踵を返す。他に練習ができそうな場所を探そうとすると、ちょうど目の前、通路を挟んだメインアリーナの対面に小さなサブアリーナがある。

 そこに居るかな、と近寄ってみると見覚えのあるシルエットを見つけた。ひとりでコートを車椅子で駆け回り、集中力を漲らせる沙原の姿だ。

 天井の照明を浴びたボールの影がコートに筆を引くように移動する。三次元の動きを二次元に落とし込むとこんな感じなのか。

 数秒後、ボールの弾む音が響く。シュートが決まったようだった。

 バウンドするボールを沙原が取りに向かう。

 

「それじゃあ……ほいっ」

 

 手に持っていたペットボトルをサブアリーナの扉から沙原に向かって投げる。

 それを––––

 

「ッ–––!?」

 

 驚きながらも、沙原は見事キャッチしてみせた。

 やっぱり視野が広い。

 

「お見事! 流石ですね」

「お前は……吼月」

「覚えてくださったのですね。嬉しいです。沙原さん」

 

 少々大袈裟に手を叩いて、俺は破顔した表情のまま近寄る。

 

「マジで来たのか」

「マジで来ました」

 

 沙原が向けてくる目線は訝しむものであり、そして奇々としたものだった。

 しかし、俺が昼間の去り際に、また、と口にしたことから来るかもしれないと察してはいたようだ。

 分からないのは理由ぐらいだろう。

 俺は辺りを一瞥する。

 やはりサブアリーナに居るのは沙原だけで、他に人は見当たらないしアリーナの端に置かれている荷物もひとつだけだ。

 

「今日はおひとりで練習なんですね」

「自主練だからな」

「でも大会前の練習ですよね。失礼ですが、他の人は呼ばなかったんですか?」

 

 そう訊ねると、沙原は肩を落として応える。

 

「アイツら、エンジョイ勢だから」

「ああ……沙原さんはガチ勢で熱量がダンチってことですか」

「やる気のない奴らとやっても意味ないし。ひとりの方が–––」

「?」

「楽だからな」

 

 言いかけてから口を止め、言い直した。

 バスケをしている時以外は気怠げな印象を受ける沙原だが、いまはどこか空虚な目をしていた。気づかれぬように小さくかぶりを振ってこちらを見た。

 

「人の楽しみ方はそれぞれですし」

「自分が気楽なだけが楽しいのならよそでやってほしいけどな。勝つことが目的なんだから」

「違いない」

 

 一番早いのは自分に適した所へ移ることだと思うが、わざわざ言うことじゃないだろう。

 やれるならやっている。金銭面や時間の都合など、やれない理由なんて探せばいくらでもあるのだから。

 それは沙原に限ったことじゃないようだが。

 

「しかし、なるほど……やる気があって強い相手がいればより練習し甲斐があるってことですね!」

「どうしてそうなる」

「違うの?」

「そうだが……」

「認めましたね」

 

 沙原が首を傾げるが、少し考えるように固まるとハッとして呟いた。

 

「え? お前、まさかやる気か?」

「当然!」

 

 そのために来たのだから、と胸を張ったその時に後ろからひとりの男性がやってきた。

 

「どうぞ。ご予約にあった車椅子です」

 

 持ってきたのは車椅子。通常のものとは異なりタイヤがハの字についた競技用の車椅子である。

 本来、競技用の車椅子は使う本人に合わせたオーダーメイドが一般的なのだが、これはビギナーズ用であるこの車椅子にはそういった調整は施されていない。

 それを受け取り、腰を下ろす。

 

「いやぁ〜……事前に言っておけば使わせてもらえるなんて役所も偶にはいい仕事をする」

 

 確認したところ、パラスポーツの人口を増やす目的で予約すれば誰でも使わせてくれるようだった。

 それを知った俺は病院から帰宅後すぐに予約したのだ。

 

「なんで?」

「なんでやるの? って意図ですね。理由は単純明快。新しいことだから。やってみたいことだから」

 

 慣れない座り心地に心をゾクゾクさせながら、頬杖をついて沙原と向き合う。

 

「練習なら人は多い方がいいだろう?」

「……」

「少なくとも、沙原さんの云う“エンジョイ勢”よりは動けると思うよ」

 

 目線が交わる。

 ゆっくりと意思を飛ばし合う。

 

「……はぁ」

 

 ボールが勢いよく弾む。

 何を言ってもやめないと悟ったのか、はたまた練習相手に使えるかもしらないと考えたのか、沙原はこちらにボールをパスしてきたのだ。

 

「お前、やったことは?」

「ない。けど、基礎知識は頭に入れてきました」

「情報だけでやれるほど簡単じゃないぞ」

「知ってる。だから教えてください」

「たく……さっさとやるぞ」

 

 肩で息をついてから俺とゴールの間に位置を取る沙原。

 そうこなくっちゃね!

 

 

 吼月とかいう中学生がやってきた。

 断っても自分だけで勝手に練習し出しそうだったので、俺の練習に組み込んだ。パスやドリブルなどの基礎練–––ふたりでやるものを選んだ–––をしてから、沙原奏斗()とコイツはいま1対1のゲームをしている。

 

 自主練の時にフルコートで遊ぶの久しぶりだな。

 

 自分で言うだけはありしっかり動けるようで、方向転換する時の体重のかけ方や、車椅子を漕ぐ(プッシュ)する時には望んだ移動距離に合わせて力を入れている。

 使い方も素人にしては出来ている。

 

「行け……ッ!」

 

 基礎知識を入れてきたというのも本当のようだった。

 ドリブルで攻め込んだ吼月はレイアップシュートを打つ。ボールがリングに吸い込まれるように落ちた。

 俺がボールを拾う。

 

「今日初めて知ったんですけど、車椅子バスケってダブルドリブルないんですね」

「2プッシュ以内なら何回でもドリブルし直せるからな」

「3回漕いだからやるとトラベリングなんでしたね」

「そうだな。だから––––」

 

 俺は自分の前にボールを投げ、バウンドさせてから拾い直す。

 基本の動きだが、これなら距離も稼げてトラベリングの回避にも繋げられる。その分、隙も多いのだが。

 俺の前に吼月が割り込んでくる。

 

「よし! とめっ、あああああああ!!」

「ああぁ……」

 

 しかし、動かすことに慣れてきたためか調子に乗って勢いをつけすぎた。吼月の車椅子は俺の前で止まることなく取りすぎていった。

 

「くそめ!」

 

 吼月が床に足を突き立てるようにしてブレーキをかける。

 キィィィ、と音を立てながらサブアリーナの壁面ギリギリで車椅子を止まった。ホッとしたように「セーフ……」と言葉と共に焦りを漏らした。

 

「沙原さん、ブレーキはやっぱり必要ですよ」

「ルールだからな……仕方ない」

 

 安全面からそこに突っ込みたくなる気持ちも分からなくないため、俺も苦笑いを浮かべてしまう。

 

「よっと」

「ああああ!!」

 

 その間に俺がひょいっとシュートを決めると、吼月が指をさして声を張り上げる。叫びはするものの自分のミスなので、何か文句を言うわけでもなく拳を自分の太ももに振り下ろした。

 リアクション大きいなコイツ……。

 

「もう一回……お願いします……!」

「いいぞ。よっと」

 

 コイツの強さは驚異的ではある。

 いくら俺が練習や筋トレで疲れているとはいえ、初めて1時間のうちに俺から点を取れるぐらいになっている。身体能力が高いのもあるが、それよりも基礎練で俺の言うことをちゃんと聞いて実践してくれたのが大きい。

 俺が鍛えれば、よい練習材料になりそうだった。

 ゲームを再開しようとしたその時、ジジジッ、とサウンドが鳴った。

 音がした方へ目を向わせる。あるのは俺が持ってきていた荷物で、その上に置いていたスマホからアラームが鳴っていたのだ。

 

「俺だわ」

「もうそんなに経ったのか」

 

 吼月が自身の腕時計をポケットから取り出して言った。体感よりずっと時間が進んでいたようだった。

 もう少しで親が迎えに来る時間になると話して、今日は解散することにした。

 荷物のそばにまで近寄って片付けを始める。

 

「今日はメロンパン売ってるかな」

「まだ売り切れだったぞ」

「はぁ〜〜……ちっ。昨日も売り切れてたんだよな……」

「俺が買って売り切れたからな」

「テメェかよ!」

「二つあって欲しかったな〜」

「欲張りすぎたボケ。あと、そこは三つにしろや」

「ふたつ買いたかったんですよ。三つあったところで他の人が食べるかもしれないでしょ」

 

 そんな他愛無い雑談をしながらサブアリーナの片付けを済まして、俺たちは体育館の出口に向かう。

 

「返却です」

「分かりました。ここにサインを」

「はい」

 

 フロントで借りていた車椅子を返したと吼月がこちらへやって来る。

 

「明日も来るから」

「また来るのか?」

「1日だけで習得できるなんて思ってませんよ」

「……勝手に来い」

「ああ、俺はただバスケをやりにくるだけだからな」

 

 小さく手を振って、別れを告げて背を向ける。

 

「では、機会があれば」

 

 別れ際、吼月がスマホを見た。

 それにつられて俺も自分のスマホを覗いてしまう。

 

「…………帰るか」

 

 俺はスマホをしまって駐車場まで車椅子を漕ぎ始めた。




 ハツカ様が見ていたのは、仮面ライダービルドの8話『メモリーが語りはじめる』です。ネタバレ無しで書くのって案外難しい……。
 なんやかんだ男の子な所もあるハツカ様ならヒーロー作品も好きそうなのでぶち込みました。
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