よふかしのあじ   作:フェイクライター

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第三十八夜「うなじ」

 一限目の授業が終わり、生徒たちが教室から流れ出た。移動教室だったので自分たちの教室に戻るためにみんな歩いている。俺もその流れに沿って部屋を後にする。

 廊下を歩き始めるとすぐに横目に綺麗な金色の髪が宙を漂っているのが分かった。

 

「おはよう、ショウ。今日は寝れてそうね」

「おはよう理世」

 

 その腰まで伸びた髪の持ち主は倉賀野 理世である。

 

「今日は2時に寝れたからな」

「それ、ちゃんと寝れたって言うの? てか、なんで?」

「ふむ……山の中に置いてけぼりにされてな」

「可哀想」

「憐れむな」

 

 1年の時からいつの間にか俺の隣にいることがあるんだ。

 去年は同じクラスだったからまだ分かる。今年はクラスだって違う。なぜさも当然のようにここにいるのだろうか。

 そんな疑問を抱いて半年が過ぎ、これが日常になっていた。

 ふたりで並んで歩いていると理世から視線が送られてきているのを感じ取った。

 

「どうした?」

「首の絆創膏、ホントに取ったのね」

「昨日から取ってただろ」

「ここ最近、ずっとしてたじゃない」

「中々深くて傷の治りが遅かったんだよ」

 

 理世から指摘されて一瞬鼓動が強くなってしまうが、口を止めることなく返答する。余計なことは言わずにありのまま。

 すると興味を失ったのか、理世は別の話題を提示してくる。

 今日の予定を立てながらクラスに戻っていると、話を切り替えて、理世はスマホの画面を俺に向けてくる。

 

「せっかくだから人波外れてどこかでゲームしない? なにか観ながら」

「場所一択じゃねえか」

 

 俺はそのスマホを手で押し返した。

 

「悪い。この後、約束あるんだ」

「また(セキ)くんのところ?」

 

 また、と言われるレベルで俺とマヒルは学校内ではよく話すようになっていた。外でもゲームセンターなど相手の都合がつかない時は遊ぶが、基本的には学校で喋ることが殆どだ。

 隣を歩きながら「朝は居なかったけどどうかな? サボりはないと思うけど」と理世が呟いた。

 

「なら昨日みたいに昼放課になにか見る?」

「ふたりのマイティを予習しておきたい」

「予習って……なら私はドンブラのオーディオコメンタリーが見たいわね。けっとうソノ2のやつ、見てないのよね」

「ジャンケンだな」

 

 ふたりで話しながら歩いていると階段の踊り場付近までやってきた。階段に足をかけた時、後ろから声がかかった。

 

「ねえ、会長」

 

 ふたりで振り向いて、相手の姿を見るとそこに立っていたのは(セキ)マヒルの親友であり、その中で唯一在学中の女子 朝井(あさい)アキラだった。

 

「やっほーアサちゃん」

「こんにちは理世ちゃん」

 

 癖っ毛がある黒い髪、四白眼と頬で微笑んでみせる少し草臥れた印象を抱かせるこの女子は、時折り実年齢を間違えているのではないかと疑いたくなる落ち着きがある。

 あの2人の親友らしいと言えるかもしれない。

 

「どうしたのかな、朝井さん」

「……少しさ、話がしたいんだけど」

「マヒルのことかな」

 

 朝井はゆっくりと肯首した。

 仲がいい相手だと聞いているがわざわざ俺を経由するということは本人には聞きづらいことだろうか。

 人の波から外れた廊下の隅で尋ねてみると、そうではないと朝井は答える。

 

「最近、会長はマヒルとよく遊んでるみたいだし、聞きたいんだけどアイツ……大丈夫?」

 

 それは俺から見たマヒルの安否。

 マヒルへの心配はよく耳にする。

 遅刻は増えるし授業中はよく寝るようになった。マヒルに限ってそんなことなかったのに。

 友達を蔑ろにして別の人と遊んでいるところを見かけた。マヒルに限ってそんなことなかったのに。

 マヒルに限ってなんだろうか。

 

「話す前にひとつ聞きたい」

「? なに?」

「なぜそんなこと俺に訊きたいのかな? 親友であるキミから訊ねた方が本音は聞けると思うけど」

 

 朝井は慎重に言葉を選ぶように口を動かしていく。

 

「マヒルが理由(ワケ)があって友達と関係が悪化したのは、多分知ってると思うんだけど……会長とよく遊んでるってことは結構堪えてるのかなって。私にも少しだけどマヒルの悪口とかは入ってくるし」

 

 やはりよく分からんな。朝井もそうだが、沙原にしろ止岐花にしろ、なんで直接話し合えば一番進展するのに他人を経由するんだろう。

 少なくとも話し合った俺と理世は進めている。

 

「俺のこと負の象徴みたいに思ってない?」

「サスペンス物で『あ、事件起きるな』ってセオリーみたい感じかな……」

「ショウ、あなた探偵(死神)だったの?」

「さすがに死神じゃなくて孤島に向かう時の船ぐらいだよ」

「帰りに爆破されるじゃないか!?」

「コナンくんと金田一のゲームにそんなカットあったわね……」

「なにその地獄みたいなゲーム」

 

 コントのような流れに会話を任せながら、朝井の視点からの俺を考える。

 俺と居ると自分が悪い事態に陥ってると強く認識してしまうのか? だから本音を話してくれないのか?

 俺が関わるとなにか不穏なことに巻きこまれていると思われるのか? だからみんな本人に気を遣って俺に?

 

「わかった。なら、おいで。朝井さん」

 

 俺は微笑んでから、抑えたくなる頭の痛みを内心の吐息に変えた。

 朝井を手招いて、もう片方の手でポケットから取り出したモノを弄ぶ。

 

「鍵……?」

 

 首を傾げながら朝井が階段をのぼる俺の後に続く足音が聞こえた。

 

 

 

「それじゃ、またな」

「またね」

 

 別れ際にふたりは手を振って、クラスへの道から逸れて朝井アキラ()と会長は2階の廊下を歩く。弄ばれる鍵の擦れる金属音を聞きながら、彼の後に続いていると、頭上に部屋を示すプレートが現れる。

 生徒会室と書かれたその部屋の前にはひとりの生徒が先にやってきていた。

 

「おはようショウ」

 

 そこに居たのは夕マヒル。私の友人が立っていた。

 

「おはようマヒル。今日も重役出勤だな」

「真っ当に来てるお前がおかしいんだよ! ……あれ、なんでアキラも一緒なんだ?」

 

 楽しそうに話すふたりに気を取られていると、マヒルが私の存在をようやく認識した。

 一瞬、どう誤魔化そうか迷ったが会長の聞き返しを思い出して察する。

 心配なら自分の口で伝えろということなのだろう。

 

 私は、会長に話したことを包み隠すことなくマヒルに伝えた––––

 

「そっか」

 

 伝え終えると、照れ臭くなって目を逸らした。なにもやましい事はないのだが自身の気持ちを伝えるとほんの少し恥ずかしくなる。

 横目でマヒルを見ると嬉しそうに笑っている。その笑みは作ったものではないように私には思えた。

 

「心配してくれてたんだな」

「友達で幼馴染だし、背を押した責任もあるしね」

「ありがとなアキラ」

「マヒルも朝井も仲睦まじくて良いことだ」

 

 心配だったのは本当だ。

 だからこそ、私はマヒルが元気に話しているだけなのを見れてホッとしている。

 目の前の扉の鍵が開く音がすると、会長は生徒会室の扉を開けた。

 

「ほら、入りなよ」

「いいの?」

「いいさ。ここの家主は俺だからな」

 

 会長に促されて生徒会室に入る。簡素な長机を挟むようにして置かれているパイプ椅子に私とマヒルは並んで腰をかける。

 

「お菓子食う?」

「いらないです……」

 

 生徒会室といっても教室より狭い普通の小部屋。私は学校なのにテレビやお茶菓子が置かれている事に疑問を抱く。

 

「それでキクさんとはどうなってるんだ?」

「うぅ〜ん…絶賛片想い継続中かな〜……とほほ」

「焦らすねマヒルの女」

「片想いならマヒルの女じゃないでしょ」

 

 それともうひとつ尋ねたいことが生まれ、会長が鍵を掛け直すために背を向けるのを確認するとマヒルにそっと耳打ちする。

 

「あの女の人のこと会長に話したの?」

「え、うん。話してるけど」

「いいの? あの人も吸血鬼なんでしょ。バレたらどうするの?」

「大丈夫だぞ。ショウも吸血鬼と一緒にいるからさ」

「は?」

 

 自然と会長を見ていた。

 少し眠たそうにあくびを押し殺す姿に私は連想する。眠気、最近の学校での居眠り。原因は夜更かしで、その根底にいるのは吸血鬼の存在。

 納得したくなかったが、出来てしまう自分が悲しい。

 それもこれも隣にいるマヒルや七草ナズナ、なによりコウのせいだ。

 

「え、じゃなに? 会長も吸血鬼になるの?」

「なる気ないんだとさ」

「ならないの!?」

「どうした、いきなり吸血鬼の話で盛り上がり出して」

「さも当然のように受け止めてる……」

 

 吸血鬼の存在を認めているのを見るとマヒルの発言は本当らしい。

 

「でも吸血鬼にならないんだったら会長は殺されちゃうんじゃ……」

 

 長机を挟んだ向こう側に座る会長を見る。

 コウから聞いた吸血鬼の一年ルール。それを越して吸血鬼になれなかったものは脅威とみなされて殺害対象となるらしい。

 

「だから絶賛恋愛勝負中さ。ノーマルエンドが吸血鬼化で、バッドエンドが死亡なわけだ」

「ハッピーエンドは?」

「吸血鬼が俺に惚れたと信じられる世界」

 

 堂々と口にする会長は微笑んでいる。

「またそんな変な事を言って……」とマヒルが隣で溢していたので、初めからこの考え方なのは間違いないようだ。

 見たことがないニヤっとした笑みに変えた会長は話を変えた。

 

「さて、焦らされ続けるマヒルは今日どんな話を聞かせてくれるのかな?」

「それがな。この間、キクさんの家に行ったんだ」

「そこまでの関係になったんだ」

「ああ」

 

 横で語り始めるマヒルの口調はとても真剣だった。

 私もその言葉に耳を傾ける。

 誰とでも仲良くしていたマヒルに初めて出来たであろう––––きっとコウや私よりも大事な––––相手。その吸血鬼(ヒト)とどんな恋愛をしていたのか興味があった。

 

「そこでうなじを見た」

「……ほう」

「ーーーー」

 

 のだが、マヒルが続けた言葉に私は首を傾げた。

 え? うなじ?

 うなじってアレだよね。首の後ろの部分の。

 

「キクさんが住んでるのはとあるホテルで、そこにはキッチンがあってさ。部屋の間取りの関係で料理してる時はキクさんが俺に背を向ける形になるだけど、その時にさ! 見えるんだよ、うなじが!」

「うん」

「……うん?」

 

 ふたりで相槌を返すが、私はイマイチ内容が飲み込めずにいた。困惑によって生まれたズレに興奮したマヒルは気づかない。

 

「普段はうなじとか見えないわけだよ。けど、料理してると動くわけで、その髪が揺れるんだ。その時にチラッと見えるのよ。なんかそれがすっごく魅力的でさ」

 

 分かるだろ? マヒルが情熱的な目線でそう訴えかけてくる。

 けれども私に全くもって理解できなかった。

 素直に言おう。キモい。

 うなじなんてただの首の後ろでしかない。吸血鬼ならまだしも人間がそんなところに夢中になるなんてあるのか?

 助けを求めるように会長へ視線を流す。

 

「うなじ……うなじね……。……ああ」

 

 会長も初めは理解できていない様子だったが、自身の首の後ろに手を当てて少し考え込むと共感の息を漏らした。

 

 分かったのか……。

 

 悩み続ける私は未だに星見キクさんのうなじについて語っているマヒルの目を盗み、スマホを弄り出す。

 開くのはライン。宛先は目の前の男。

 2年生になって初めて同じクラスになって、関わりが出来た時に『縁ができたな』と貰ったライン。学校の行事ぐらいでしか互いに出番がなかったラインをここで久しぶりに使う。

 

『なんか分かったみたいだけど、どういうこと? 全然分からない』

 

 送信。すぐに会長が一瞬だけ私に目配せした。

 どうやらメッセージに気がついたようだ。

 会長はマヒルと顔を合わせて頷きを返しながら手を長机の下に入れた。

 私のスマホが震えた。

 

『興奮してるんだよ』

 

 どういうこと……?

 余計理解できず唸っていると、会長から更なる返信が来る。

 

『マヒルの興奮はチラリズム?と同じ原理だと思う。

 うなじも下着も本来であれば見えない部分に位置するけど、それが偶然見えてしまった。隠れた、隠された場所って書いた方がいいかな。うなじを見たマヒルは《キクさんの見ちゃいけないところ見えちゃった……》となってる。

 隠されたものを覗きたがるのは人の(さが)だろうしね。

 今回はシチュエーションも込みでの話だろうけど』

 

 長文が送られてきて、読み終えた時にはどっと目が疲れた。

 つまりなに? うなじはパ、パンチラ……とかと同じってことなの?

 未だ実感が湧かない私に追伸が届いた。

 

『同性だと分かりにくいから、水泳の時のコウを想像するのがイイと思うぞ』

 

 コウの裸か。今年もそうだけど、プールは男女同じ日にやってて近くで観れてたんだよね。腹筋とか割れてはなかったが、程よく筋肉もついていて、引き締まっていた覚えがある。小学生の頃は気にしなかったけど、やっぱり男の子の身体なんだなと思った。

 イケナイものを見てしまった気がして、すぐに目を逸らしたけど。

 

「––––それでな。……どうしたんだよアキラ、大丈夫か? 顔赤いけど」

「あ!? いや、別に何もないけど!!」

「何もないわけない反応だけど……」

「なんもない!」

 

 言い終えるよりも早く私は物凄い勢いで顔を背けた。

 普段は見えないコウの腹筋とかその他諸々。隠れた場所を見てしまう興奮を私は理解してしまった。

 

––––み、認めたくない!!

 

 こんな形で分かってしまうなんて!

 目に映った会長の顔は相変わらず笑みを湛えていた。『ニコッ』というよりは『ニマニマ』といったもの。

 

 あ、あの人、私が照れてるのを見て楽しんでるのか–––ッ!!

 というかなんでコウって名指ししてきたのさ!

 

 愉悦に浸るような笑みを私たちに向けながら、会長は途切れたマヒルの会話に口を挟んだ。

 

「うなじが見えてしまったなら仕方ない」

「だろ!」

「……なにが、だろなんだよ」

 

 強く否定できない自分が悲しい。

 

「しかもキクさんがマヒルの為に料理してるってシチュエーションだ」

「そうそう! 髪が揺れ動いてるのもさ、俺の為に頑張って作ってくれてるんだな〜て考えたらなんか……もう……ああぁ……嬉しくて!」

「愛されてるんだな」

「ふへへ」

「–––––」

 

 私とは違う意味で頬を赤らめるマヒルは嬉しさのあまり顔を両手で覆っている。醸し出す雰囲気はさくらちゃんがコウの好きなところを話していた時のモノと似ている。

 またスマホに視線を落とした。

 

『もしかしてコレ、惚気話?』

『もしかしなくてもノロケだぞ』

 

 気がつけば私は背けていた顔をマヒルに向け直していた。

 

「……どうした、アキラ?」

「アンタたち。まさかいっつもこんな話してるの?」

「「そうだが」」

「ええ……」

 

 息ぴったり合うほど仲良くなっているふたり。

 惚気話をしてる本人はともかく、ただ聞いてるだけの会長はなんで楽しんでいるんだろう。

 

「ねえ、会長。面白い? この話?」

「俺がいる前でよく言えるな!?」

「面白いよ。初々しい話は聞いてて楽しいし」

「ならいいけど」

 

 マヒルはいい相手を見つけたかもね。こんな純粋に惚気話を楽しんで聞いてくれる人ってそう居ないと思うし。

 

「朝井も聴きたくなったらまた呼ぶけど?」

「お断りします」

「聞くだけはタダだぜ」

「今日だけで私はもうお腹がいっぱいで甘々なの!」

「朝井って甘々とか言うんだ」

「アキラも女だしな」

「なんなのさアンタら!?」

 

 ガヤガヤと3人で喋り出す。

 私が本当に朝の2時に起きて学校へ行っているのかとか。最近、コウに会ったのかなど、そんな他愛もない世間話で短い休憩時間を使い潰す。

 ああ、楽しい。

 コウがいればもっと楽しいかもしれない。

 

 

 

 

 危うさを感じていた俺が流す汗を額を伝った。

 うなじ自体の良さを俺は知らないから理解できずに焦ったが、以前ハツカの髪を乾かした時に触れていたことが功を奏した。

 ハツカが長い髪をしてくれていてとても助かった。

 もしハツカが髪を短く切っていてうなじが隠れていなかったら思いつくことすらなかった。

 ありがとうハツカ。

 

「キクさんに会いたいな〜!」

「早退すれば?」

「–––その手があったか」

「……昼間に会っても意味ないのに?」

「寝てる姿見られるし」

「マヒル、キモいよ」

「な!?」

 

 やっぱり良い……。

 目の前でマヒルと朝井が楽しそうに話している。

 理世から聞いていた話でしかないけれど、小学生の頃、コウも含めてこの3人はとても仲が良かったらしい。世間一般的な仲睦まじい関係とは少し違う、気づけばそこに収まっていたという自然な繋がりらしい。

 俺が知ることができる中学生になってからは、疎遠になってしまったがこうしてまた縁が戻り始めてる。

 だから––––

 

「コウはズルイよな〜。学校行かずに朝は寝て、夜には好きな人の所に会いに行けるんだから」

「それにコウは七草ナズナの家で寝泊まりしてたしね」

「ハァ!? まじで!!?」

「うん。私は途中で起きたけどコウは夢心地で私に『行ってらっしゃい』って言ってからまたグッすり」

「……なんでアキラも一緒に寝てんの?」

「雨が降ってたから仕方なく……いつの間にか寝落ちしてた……」

「あんな不健康な生き方してるから」

「マヒルにだけは言われたくないんだけど!?」

 

 ここにいるのが俺じゃダメなんだよな。

 

「……」

「どう思うよショウ!」

 

 突然振られた話に惑うことなく返答する。

 

「朝井の生活は驚きだよ」

「そんな、そんなことないでしょ……!?」

「胸を当てて聴くのです。すれば分かることでしょう」

「なんで神父みたいに言ってるの」

「でも聞いて欲しい。普通、深夜に中学生がひとりで出歩いてたら補導されるんですよ」

「確かに。そこを見るとマヒルやコウより朝井の方がよっぽど不良だな。ふたりには保護者(吸血鬼)がいるし」

「え、うそ……」

 

 陽の威光が背を照らすマヒルと冷静にツッコむ朝井。そのやり取りを見て思わず笑ってしまう。息を吐くような小さなものだが、俺は尊い想いが詰まったものだ。

 笑い終えた俺は二人に尋ねた。

 

「ふたり、いや三人はさ、これから吸血鬼になる、その友達になるって関係だけど、これからもずっと親友かい?」

 

 意図が分からなかったのか、一度ふたりで視線を交えさせる。

 そして首を捻ってから、まずマヒルが答えた。

 

「どうだろ、先のことは漠然としてしか考えられないけど、アキラやコウとは一緒にいるイメージかな。悪いことは起きないと思う」

「高校とか、大学とかまでは一緒にいるってなんか自然に考えてたなぁ」

「俺とコウは普通の高校には通えないだろうけどな」

「なにそれ。私だけ除け者にする気?」

「違うって! ただ、どうしてもそうなるだろ!?」

「はいはい。私だけ老けますよーだ」

 

 不貞腐すように顔を膨らませる朝井を宥めるようにマヒルが取り繕うと必死になる。そこには険悪な雰囲気などなくて、戯れ付くような仲良しふたりが色々と言い合っている。

 この様子なら、もし、この先で吸血鬼になろうとならなかろうと、きっとこの二人とコウなら大丈夫だろう。

 

「大丈夫にしてみせよう」

 

 瞼を下ろさず、二人を見ながら目を閉じる。

 閉じるのは心の目だ。

 上がってきた胃液をもう一度飲み下しながら、そんな空想で心を切り替える。

 

「まあ、頑張りなさいよ。吸血鬼候補さん」

「おう」

 

 吸血鬼と知っても普通に暮らしてる人間がいて。

 本音を伝えて笑い合ってるふたりがいる。

 ならば沙原たちだって問題はない。道はあのふたり次第だ。

 

「そうだ、マヒル–––––––」

 

 終わりを告げる鐘が鳴る。

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