今日は記憶が吹っ飛んでいる。
路地裏で待っていた奏斗先輩とエマの下に車椅子を届け自宅に送った後、ようやく帰った自宅から登校を始めた。
そこからは殆ど覚えていない。
理由は眠気だろう。
日曜日から今に至るまでの睡眠時間は4時間だけ。
仁湖さんに比べれば……マシかもしれないが、街中を駆け回ったり吸血鬼とバトルしたり肉体に蓄積した疲労は、1週間眠りこけても良いのではないかと思えるものだ。
初めて授業中に眠ったかもしれない。
ただ、ノートを見れば、教師の口頭だけの知識をメモする欄にしっかりと書き込みがあるので、無意識に授業自体は聞いていたのかもしれない。あらかじめ教科書や便覧を見て、ノートを作っておく派なので、板書の必要がなかったのも幸いしたのかもしれない。
不確かな1日を過ごし、ある程度体力が回復した頃には空には星々が瞬いていた。
「よっす、奏斗先輩」
ハツカへの宣言通りに市民公園に来た俺は、体育館のメインアリーナを車椅子で駆けていた奏斗先輩がコートから出てきた所で声をかけた。クラブチームの仲間に一言告げてこちらにやってきた。
「精が出ますね」
「もうすぐ大会だしな」
「ご活躍期待してますよ、先輩」
車椅子を漕ぎながら俺を見る視線は訝しげだ。しかし、昨日までの気怠げな眼ではなく、生気に満ちた冴えた眼をしている。
「……なんで名前呼びになってんの?」
「朝から呼んでたじゃないですか……」
「敬語も気持ち悪いからやめろっつったろ」
「ソレ、ここでも通るんですね」
なら、と口調を以前と同じくして『尊敬しただけですよ』と返せば、より目を細めてくる。
実際吸血鬼に捕まることなく日の出までやり通したし、吸血鬼に自ら歩み寄ろうとしたことも俺からすればとても凄い勇気がいることで、尊敬に値したのだ。
軽く口を交えながら外へ出ることにした。自動ドアを通り、人気の少ない場所に移って青いタイルが敷き詰められた壁に背を預ける。
「それで、今日は学校に行かずに家でエマとイチャコラしてたの?」
「イチャコラ言うな!! い、一緒に寝ただけだよ……」
「やっぱりイチャコラじゃないか」
実を言うと、奏斗先輩は今日学校に行っていない。
自宅に送り届けた時に出迎えてくれた両親たちに『今日は疲れたから明日から学校に行ってて良い?』と奏斗先輩は切り出したのだ。今までであれば、ついに学校に行くことまで嫌になってしまったのかと思われていただろうが、今日のゲームを超えて精神的に前に進んだ奏斗先輩は負の一面は持ち合わせていなかった。
また前進するための小休憩。
両親もなにかが変わったことを悟ったようで何も聞かずに『分かった』と頷いていた。
「まさかエマが窓から
「血を吸われると思ったのか?」
「いや、そこは心配してねぇよ。ただ親にバレたら不味いだろ」
「どう不味いんだ?」
「それは……アレが……これで……」
俺の切り返しに慌てる奏斗先輩は言い淀む。
その時夜風が首を撫でるように吹けば、奏斗先輩は自然と首筋に手を添えた。首筋には絆創膏が貼られており、その下にはきっとハツカに吸血された痕があるのだろう。
「ハツカに吸われたの気持ち良かった?」
「………」
答えはしないが、不満そうに膨れた顔が雄弁と語っていた。
吸血は生きる為に必要な食事という訳ではなく、子供を作るためのまぐわいでもある。吸血に痛みと快感を伴うのはまぐわいの一面からだろうと俺は予測している––––と言う話は置いておいて、
まぐわいである以上、好きな人にやって貰いたいと願うのが本心だろう。
《恋をして眷属になる》という吸血鬼の性質を知っているなら尚更。
「エマに吸われたいって思っちゃった?」
「うっせぇよ……」
「いいんじゃない? 一時の快楽を求めてしまうのも人間らしいと思うよ」
「エマに吸われたら俺は吸血鬼になるんだよ!」
こう返してくるあたり、ちゃんと人間として生きたいという芯は変わっていないようだった。
それよりも俺は、吸われれば吸血鬼になると確信しているあたりが本当に凄いと思った。
恋をしている人はそれを自覚するのだろうか? ならば、理世に対して自覚していない俺はやはり恋はしてないということになる。
「……待て、お前何で知ってる? 俺は蘿蔔さん?に吸われたこと言ってないよな!」
「ん? 俺がそうなるように仕向けたからな」
「吼月、お前さ……探偵さんもこともだけど先に言えよ!」
「先に言ったら利用しないしだろ」
「そりゃそうだろ。あの人のおかげで助かったのは事実だから俺は感謝してるけど、エマは探偵さんに当てがった二人をかなり心配してたんだぞ」
「なんだっけ。鶯さんと戦ったふたりにも『付き合わせてごめんなさい』しに行ったんだっけ?」
「聞けば片目抉られたらしいじゃん……」
「あぁ……眼は痛いな……」
「痛いどころじゃないんだよ。嫌だな……吸血鬼でも痛いよな……」
俺の想定通り–––いや、それ以上に–––鶯さんが強かったらしいとはいえ、奏斗先輩の人間としての未来を奪うことを前提に動き、このゲームに乗った時点でどんな攻撃をされても仕方ない。『自分たちは大丈夫』『無事でいられる』なんて甘い考えで参加していたなら、底が知れているのではないだろうか。
それならそれで構わないけれど、なんて考えていると、自動ドアが開く音がした。
「こんな所にいた!」
ドアを潜り抜けてきたのはエマだった。
「あれ? もう終わったのか?」
「うん! 許してくれたよ!」
「本当か〜?」
「嘘ついても意味ないでしょ!?」
俺が軽く煽ってみれば、大きなリアクションで返してくるエマ。
こっちもこっちで、明るくなったというか、初めて会った時のよそよそしさがなくなっている。憑き物が落ちたと言うのに相応しい代わりようだ。
「けどなんで中から……?」
「ふふふっ、むふふ……」
ニヤニヤと笑いながら後手に隠していたモノを俺たちに見せてくる。
その手には奏斗先輩の好物であるメロンパンが入った袋が3つ握られていた。うちふたつを奏斗先輩と俺に手渡してくる。
「はい、どーぞ!」
「サンキュー!」
「ありがとう……? なんで俺まで?」
好物を渡されて笑顔になる奏斗先輩と対照的に、俺は目の前に突き出されたメロンパンを受け取りはするが、なぜ自分の分まで買ってもらえたのだろうかと首を傾げた。
「なんでって、私たちの為に色々動いてくれたわけじゃん? そのお礼!」
なるほど、社交辞令的なやつか。
「ありがとう、俺も好きなんだ。甘すぎるけど美味しいよね」
「甘すぎるは余計だ。撤回しろ吼月」
「そうだそうだ!」
「……ふたりはコーヒーに角砂糖を何個入れてる?」
「5個」
「8個」
「やっぱりふたりが甘党なだけでは!? 素直にカフェオレ飲みなよ!?」
8個なんてもうそれ、中身ドロドロだろ。
俺とエマで奏斗先輩を挟む形で壁にもたれながら甘党御用達のメロンパンの封を開けて、俺も少しずつ食べていく。
やっぱり甘い。とはいえ、嫌わけではなくここまで甘いと逆に癖になってきて、ふと思い出した時に食べたくなるタイプだ。
メロンパンに扇状の凹みができたあたりで奏斗先輩が俺に呟いた。
「俺も吼月には感謝してるよ」
「?」
「吼月のおかげでエマにちゃんと話せたわけだし、今もこうして人間で居られるのも……一応、お前のおかげだ。探偵さんのこととか言いたいことあるけどさ、ありがとう」
そうではない。
あくまで俺は––––とその感謝を否定しようとするが、
「あとさ……悪かったな」
より理解できない話を展開されてしまう。
奏斗先輩になにか気に触ることをされたか思い出してみるが、やはりそんな節はない。そうなれば自然と聞き返してしまうのが普通だろう。
「それこそなんだよ? なんかあったっけ……?」
「ほら、学校で吼月に怒鳴っちまっただろ。お前に言っても仕方ないのにさ」
示された過去の出来事にそんな事もあったなと思い出す。あの時は奏斗先輩からすれば吸血鬼に対して怖い一面だけ見てしまうのも無理はなかったし、その事について俺は理解していたつもりだ。あくまでつもりだが。
「あぁ〜なんで平然としてられるんだよ!ってやつだな。構わんってあんなの」
あっけらかんと笑って心配無用だとしてみれば、奏斗先輩もそこまで気に病むことではないと分かってくれたらしい。
しかし、その話を止める気もないようだった。
「俺はさ、蘿蔔さんのこと突然やってきて腕を切り落としたって印象に考えがもってかれて怖がっちゃったけどさ……そうだよな。そうだもんな、蘿蔔さんは吼月を助けたんだもんな。俺も黒い吸血鬼から助けられてよく分かったよ」
止めさせればいいものを俺はまるで続く言葉を待っているかのように、『ああ、そうだな』と短く返した。
思い出すのは、夜空を背に笑うハツカ。
「あの時はどうして吼月は笑ってられるんだって思ったけど、アレだけカッコよければ笑っちゃうよな。な、エマ」
「本当だよね! サッと現れてヒーローみたいだったよね!」
その言葉に口の中から飛び出してしまいそうになるナニカを抑えるようにメロンパンを頬張って、
「だから、悪かったな。吼月の好きな
途端に甘い過ぎるメロンパンの味が全く感じなくなってしまった。胸の内にかかっていたモヤモヤも分からなくなり、完全に無の状態になってしまった。
そうだ、ハツカはかっこいい。
ハツカは化け物ではない。
ハツカはヒトも化け物も関係なく助けてくれた
「吼月? おーい、吼月どうしたんだ?」
「これはね〜……好きな人を褒められて嬉しがってますねぇ〜〜」
「吼月も人並みにそんな反応するんだな」
「中学生の初心な照れ可愛いなぁ。一枚撮っとこ」
無の中にいる間だけは、外野が口にしている言葉がまるで文字化けしたかのように意味のある形を成さないでいた。
少しして、息を忘れていた俺が無から舞い戻った時には、メロンパンを押し込んだ口が酷く歪んでいるのが分かった。なにより–––それを自覚すると、胸の中にあったはずのモヤモヤが空気洗浄機にかけられたようにスポンと消えてしまっていた。
結局、あのモヤモヤはなんだったんだろうか。
「……悪い、今何言ってた?」
「いいのいいの。気にしないで」
「なんかスッゴイニヤニヤしてるけど……」
エマのニヤリとした笑みにも疑問を持つが、口にしないならそれで良いだろう。
何かを思い出したように奏斗先輩がエマに問いかける。
「そういえばあの黒い吸血鬼には認めてもらえたのか?」
「う〜ん、それが誰も知らないんだよねあの吸血鬼。吸血鬼なのかもよく分かんなかったけど、私も仲間の吸血鬼たちも見たことないって」
「ええ……もしかしたらまた狙われるかもしれないのか?」
「大丈夫だろ。アンタらが吸血鬼の意思も尊重している限り」
「破る気なんてないけどさ、もう少し話してみたいよな」
よほど怖かったのだろう。
顔が引き攣り声が震える奏斗先輩だが、何がの琴線となるのか理解しているようで、
「というか、蘿蔔さんに血吸われたけどエマが考えてた交渉が通ったってことでいいのか? 上手いこと吸血に興味持たされただけな気がするけど」
「大丈夫だよ」
断言したエマが、奏斗先輩に
「必ず眷属にしたいなら期限なんて作らずに奏斗くんが納得するまで吸血鬼の良さをアピールした方がいいでしょ? わざわざ期限を作ったってことは最悪人間のままでも良いって暗に言ってるじゃないかな」
「恋なんていつ冷めるか分からないモノを放置していざ吸ったら、眷属にできませんでした、なんて可能性もあるわけだから認めたと解釈していいだろ」
士季は俺の血を浴びたこともあってこちらの意図は既に理解している。吸血鬼としての自信も含めての解答だろう。
小さく頷いていると、エマがなにやら俺を睨みつけていた。
「は? 冷ませないけど? なるとしても私の眷属ですけど?」
「エマとしては冷めた方がいいだろ」
「分かってないね吼月くん。眷属にするならこの子がいいなぁ〜って思ってた相手が違う人に血を吸われて眷属になってたら悲しいじゃん! 泣くほど眷属にしたくなくても、なるとしたら私の眷属であって欲しいし! 蘿蔔さんや午鳥さんに取られたら寝取られでBSSなの!」
「寝取られでBSS……」
聞きなれない単語–––寝取られは一応調べたので知っている–––に俺は首を傾げて訊き返した。
「BSSってなに……?」
「…………」
問いかけにエマはハッと我に返り、目線をものすごい速度で180度回転させた。風を切る速さで目を逸らされては追求しずらい。
とはいえ意味がわからなければ、エマの考えも分からない。
なので、今度は奏斗先輩に訊ねてみると。
「BSSってなに……?」
「僕の方が先に好きだったのに、でBSS。つまり、ちょっとエッチな言葉だ!」
「エッチじゃないし!!」
「エッチなんだ……」
「だ、か、ら、違うってぇ!!」
必死に否定しようとするエマが面白いのか奏斗先輩がくすくすと笑っている。
そういうシチュエーションね。
そうか。俺は吸血鬼したくないことを念頭に話していたが、その先の誰の眷属になるか、例えば『午鳥に最悪取られるぞ』と発破かけたら、エマもすんなり動いた可能性があるのか。
今度はこの考え方も持つとしよう。
そう考えたあたりで、俺は思い出したかのように不思議に思っていたことを奏斗先輩に訊ねた。
「そういえば俺、先輩から急に『エマの場所知らないか』って電話かかってきて驚いたんだよな。あんなにビクついてたのにどういう風の吹き回しなんだろうって」
怒鳴られた翌日にそんな電話がかかってくるから驚くのも当然だろう。あと三日四日はかかると思っていたので嬉しい誤算だった。
「えっと、それはだな……学校の先生に話を聞いてもらって、あっもちろん吸血鬼のことは言ってないぞ! ただ背を押してもらったんだ」
俺は思わず、『へぇ』と凄く感心を込めて呟いた。あの状況の奏斗先輩が自分から打ち明けることはないから、その先生が自分から訊ねに行ったのだろう。
周りが見えたうえでちゃんと接することができるいい教師だ。
となれば、誰なのかが問題だ。
「どんな人?」
「
エマと俺がその教師について求めれば、少し迷った素ぶりを見せながらも答えてくれる。
「定時制の平田ニコっていう教師で……初めて会ったのに優しくしてくれたんだ。やりたいことを認めてくれるいい人だよ」
その名を耳にした俺とエマは数秒固まったあと、軽く吹き出してしまった。あはは、と笑う俺たちを見て奏斗先輩は話す内容がすっ飛んだかのように間の抜けた顔で呆然としてしまう。
「なに? どうした!?」
「いやそうか。ニコ先生か、ふふふ……うふふ……」
「そっか、平田先生ってあそこの定時制で働いてるんだもんね」
「え? お前ら知り合い?」
そこまで分かればあとは簡単。
「ということは……平田先生も吸血鬼?」
ピンポーンと効果音が鳴りそうな雰囲気でエマが指を鳴らした。
なんと奇妙な縁だろうか。
吸血鬼が、吸血鬼との関係に悩む青年の背中を押すことになった。しかし、そのことをニコ先生は何も知らずに–––善意か使命感かは分からないけれど–––確かに奏斗先輩を助けた。
彼女の『これでも教師だからね。子供の悩みと向き合うことに対価を求めるつもりはないからね』という言葉が嘘ではないと分かり、ニヤッと笑ってしまう。奢ると言ったのに逆に奢ってくれたりしたので、常識のある大人なのは元々知っているだけども。
本人が知ったらかなり頭抱えそうだな。
「いやいやいやいや……多すぎだろ! この街!」
「あはは本当だな〜ここまで来るとクラスメイトが吸血鬼だったりしてね!」
「流石にそれはない……とは言い切れないな」
「ま、昼間の学校にいるわけないけどね。私だって屋内で1、2時間しか居られないのに……」
「今度からは夜に一緒に居ような」
「そうだね! これからのためにもね」
《これから》を考え笑い合うふたりに尊さを覚えるが、彼らの中には微かな不安も見え隠れする。士季たちに認められなければ、一年後には吸血鬼にさせられる。おおよその現状は変わっていないけれど、少なくとも《選び取れる現状》には変わっている。
するしかない、という一択ではなく、するために、という二択になった。
「何はともあれ–––」
不安はあれども、きっと善い道が増えたと願いたい。
中身がなくなった袋を綺麗に畳んでポケットの中に入れて、少し歩いてからふたりに向き直る。
彼らが俺を見つめた。
「君たちは吸血鬼相手に生き方を勝ち取った。否定する者も沢山いるだろうが、少なくともこの一年は君たちの生き方は肯定される。それが続くかはキミら次第だが……俺から言えるとしたらただひとつ」
今後の彼らに似合う言葉はなにかと模索した時、思いついたのはこの言葉だった。
「夢に向かって飛べ、かな」
スポーツマンになる夢も、大切な相手と居たい夢もどちらも手にできるように。
心の底から願ってみせるから、頑張ってくれ。
「それじゃそろそろ行くか」
「……行くってどこに?」
エマが首を傾げて俺に問いかける。
「エマ、キミたちがやらなきゃいけないのは謝罪だけではないだろ?」
ハッとした顔は、まさかまさかと驚きの色が差した。
☆
吼月くんたちが笑い合ってるのを遠くから
「ようやくひと段落だ……」
「お疲れ様」
「いやホントですよ……」
僕の隣で士季くんが地面にへこたれて大きなため息をつく。数十秒は続いたため息からはここ一ヶ月間の疲れが一気に放出されているのが分かる。
自分の眷属が昼間に無理して出歩いたり、吸血鬼を知った人間を眷属にしたくないと言い出したり、自分たちと敵対したり。更には探偵に頼った……いや頼らされてしまったんだ。
士季くんがどれだけ頭を抱えたか想像できる範囲外だろう。
「ホント今回はどうなるかと思ったわ」
「でもエマもみんなも欠けなくて良かった……」
それでも安堵の笑みを浮かべる士季くんに、僕もつられてわらってしまう。
「にしても、よくあの2人許してくれたね」
あのふたりというのは、もちろん探偵さんと対峙した吸血鬼たちのことだ。特に探偵さんに目をやられたという筋肉くん–––名前知らないからね–––は本当によく許してくれたと思うよ。
士季くんはポケットに手を入れながら答えた。
「蘿蔔さんは
「一応それはあのロン毛くんを見つける前に聞いたよ」
「なんかその時に……『恨むなら吼月ショウにしなさい。彼女たちも騙されてるだけなんだから』ってこんな紙を」
ポケットから取り出した紙を受け取り広げてみると、それはここ二日間のラインのトーク画面をコピーしたものだった。アカウントはエマちゃんと吼月くんだ。僕のラインに登録してあるアカウントと同じだから間違いない。
見ればメッセージや写真で作戦内容が送られていた。しかし、その中に探偵や鶯アンコの文字はひとつもない。電話をした履歴もない。
口頭で伝えたのかもしれないが––––今度は僕が頭を抱えた。
「なので隆間たちは今度、吼月を引っ叩かせて欲しいって言ってましたね」
「……吸血鬼が殴ったら死ぬって」
「いや……死ねますかね、アイツ……」
「???」
その返しに思わず首を傾げた。歯切れの悪い口を動かす士季くんが、どう切り出すか探すように小さく唸る。
見かねたように誰かが士季くんの中の疑惑を形にした。
「ハーちゃん、あの子は……吼月くんって何者?」
そう問いかけてきたのは萩凛さんだった。
彼女の意図が見えず、普通に『人間でしょ?』と答えようとしたが今朝の広場でのことを思い出す。吼月くんが突然現れ、士季くんを殴り飛ばしたあの瞬間を。
「あの後、何があったの?」
質問を答えないまま返してしまうが、こちらだって答えを持っていないのだ。
その事を察したふたりが口を揃えてこう言った。
「吼月は吸血鬼になった」
「は?」
初めに自分の耳を疑った。
次に僕は彼らの口を疑い、目を疑った。
何を言っているんだとしか思えなかった。
普通に考えれば、僕以外の吸血鬼–––あの謎の吸血鬼とか–––に恋をして眷属になったと考えるのが妥当だけど。
首を動かしてエマちゃんたちと談笑している吼月くんを見る。
「人間だよね」
「ええ、今は人間に戻ってるわね」
「吸血鬼になった? 人間に戻ってる? なにそれ……??」
「俺たちも訊きたいんですよ……」
「私と白山くんなんて首の骨折られたのよ? だから彼の血を吸わせて」
「……どうしよっかな」
僕らの理解の範疇を超えた話に困惑し続けるしか無かった。
「少なくとも吼月は
「……そんなこと」
「聞いた事ないな」
突然声がした方角に僕らは意識を向けた。街路樹に隠れるように息を潜めていた存在にようやく気がついた。
「鶯アンコ……!!」
現れたのは探偵、鶯アンコだった。
彼女は僕らと対峙し、鋭く視線をぶつけてくる。かと思ったが、その視線は僕らをすり抜けて背後に向けられていた。
「来てくださったんですね、鶯さん」
振り向いてみれば、指で作った狐を鳴かしながら微笑みを湛える
「キツネ……」
士季くんが溢した一言に僕はこう思うしかなかった。
また化かすつもりか。
面白い! 面白すぎたよギーツ!!
多くは語るまい……ただ良かったよ!!
でもコレ冬映画とかvシネどうなるんですかね……?