雪の中のナズナちゃんかわいい! ちょっと嬉し泣きしそうになって頬が赤い顔がいい! そして、47日の正体はフジテレビの24年度放送アニメ発表会らしいですね!やはり2期か?
帰宅すると、出迎えたのはいつもの静寂。シン……と部屋から全ての空気を抜き去ったかのように何も伝わってこない。
夜になってもハツカが起きていないことに不安を覚える。ハツカが騒ぐタイプではないのは知っているが、夜はアイツのテリトリー。テレビやタブレットから聞こえる纏りのない煩雑な声や、僕の日記を捲る紙擦れ音すら聞こえないのは少々怖い。
「ただいま……」
ドアの開閉音で容易くかき消されるほどの小さな声で帰りを告げる。居間に入るが誰もいない。その先にあるダイニングにもハツカの姿はなかった。
まだ寝ているのだろうか。
荷物をしまい、雨戸を開けてから寝室に向かう。
なるべく音を立てないように襖を動かして、中を覗けば………いた。
ベッドの上で、ハツカは眠っていた。
驚くほど無防備な寝姿を晒した彼は、掛け布団すら羽織っていなかった。だから、小さな寝息が聞こえるたびにハツカの胸がゆっくりと上下しているのが見えた。脱力した左腕がベッドからはみ出して床に向かってだらりと垂れている。
枕元にタブレットが置かれてる様子から、何か観るなり読むなりしたいるうちに寝落ちしてしまったようだ。
「綺麗だな……ホントコイツ……」
優しい寝顔をしているハツカは見惚れてしまうほど綺麗だ。
足音を立てずに近づいて彼のそばに近寄る。掛け布団で彼の身体を覆って寒さを防いだあと、ハツカの顔をもう一度見る。
手がズボンのポケットへと動いた。
取り出したスマホの写真アプリを開くと、フラッシュとシャッター音をオフにしてハツカの顔をレンズで捉える。
一枚、二枚……角度などを変えたり、頬や鼻を指で触ったりして何枚かハツカの寝顔を写真に収める。
「綺麗だ」
寝顔って無防備な分、表情を作らないから綺麗に見せることはできない。その上で美しく思えるのは、基から顔のいい彼だからこそ。生態は鬼だが、顔つきや優しさは真逆に思える。
赤鬼と青鬼のように優しい童話があるし、一概に鬼が悪と断じることは間違いなのだけれども。
「待って。寝込みで写真を撮るのは……変態じゃないか?」
黙り込む。
黙り込んで数秒だけ考えるが、指を舐めさせたりしたことを思い出し、今更だったと反省する。
その時の写真をスマホに表示する。
一心不乱に指から血を吸うハツカの姿は、背徳的で僕の背中をざわざわと揺さぶる。ただ咥えるだけじゃなくて、唇から舌がはみ出しているのも犬が骨をしゃぶっているみたいで愛らしい。
–––この唇に触れたんだよな……。
しかも、蕩けた顔してカッコいい時、ホントカッコいいからな……。ダメだ。頭がバカになってる。
カッコ良さも相まって嗜虐心というものを俺は改めて理解する。
男とか女とか関係なく––––心の片隅をくすぐられる。
「横髪とか刈り上げたりしてるし、男っぽさも十分あるんだよな……」
「うっ……んん……」
「あ」
手入れされた髪だと刈り上げても柔らかく、程よいちくちく感を堪能できてしまう。躊躇わず触っているとハツカが声を漏らしたので、手を引っ込めた。
合わせて、近づけていた顔も離す。
そのタイミングでハツカの瞼がゆっくりと開き、三回ほど瞬きを繰り返してから完全に目を覚ました。
「またキスしようとしたの?」
「第一声がそれなのやばいよ」
「でも、したかったでしょ?」
「……してないです」
想像はしたけれど。
ニヤッと微笑みながら起き上がった彼はあくびをしたあと、言った。
「おかえり」
僕は目を逸らして、一瞬笑ってから
「ただいま」
もう一度、1夜限りの同居人にそう告げた。
☆
寝室の雨戸を開けると彼は言う。
「喫茶店でワッフル買ってきたけど食べる?」
「食べる」
「ドリンクは?」
「キミの血」
「注げと!?」
手首を抑えながらショウくんは「えー、えー」とぼやきながら首を捻って、コップに自分の血を淹れる姿を思い浮かべていた。冗談に決まっているのだが、彼は時々純粋にバカな方向へ頭が舵を切る。
それだけ
素直な反応を返されると駄犬感があって首をつけたくなる。
メイド服を着せて、首輪をつけて、僕の眷属としてずっと––––
「今日はメイド服、着てくれないの?」
「1着しかないからな。それだって乾かしてるし」
「あったら着てくれるんだ」
「言葉の綾だと気づけ、馬鹿」
口を尖られせてぷいっとそっぽを向くが、強く否定するのはメイド姿で僕に奉仕する姿を想像したからに他ならない。
その恥じらいは大事だ。
羞恥心が無くなるのは、僕の眷属になってからが望ましい。環境的な理由がない状況で女装を躊躇ってしまうのは一般的な男の感性であり、今までの自分とのギャップで恥じらうのが僕の心をくすぐる。
「ほら、食うならあっちに来いよ」
「はーい」
なにやらズボンのポケットから丸めたゴミを取り出して屑籠の中に放り捨てる。そのまま襖を開ける。
「俺の分作った後に温め直すからテーブルで待っててくれ」
「分かった」
ベッドから抜け出して、彼と共にダイニングへ向かう。
たっぷりと寝たから冴える頭がよく回る。朝では飲むのを躊躇った血も半吸血鬼状態でなければ問題ないし、過ぎ去った事である以上下手に触らず傷を埋め、癒す薬として僕と過ごしゆっくりと籠絡させる。
澄み切った思考が明確な指針を打ちだし、道を示してくれた。
「……」
ジッと彼を観察する。
制服姿のままエプロンを羽織ったショウくんがフライパンなどの道具を取り出し始める。朝にも思ったが、流れるように手慣れた動作だ。どこにどの道具が置いてあるかキチンと覚えている。
完全に主夫の姿だった。
「あのさ」
ショウくんがふりかえって口を動かす。
「なに?」
「そんなにメイド服、着て欲しいのかよ」
「分かる?」
「だってお前、欲望に忠実な時ほど眼が猫みたいだし」
「僕のそんな眼してるの!?」
「鏡に映るなら直接見せてやりたいぐらいだ」
澄み切った思考の中には当然の如く私欲が混ざっていた。
テーブルに腰をかけたあと、自分の猫のような眼を想像する。
目尻が上向きで夜中を徘徊する猫のように黒目が大きく、眉が細長くシャープでカッコいい猫のような眼––––あれ、
「それいつもの僕の眼じゃない?」
「自惚れるなよ。さっきのお前はもっとニヤニヤといじらしい目をしてた。悪魔の耳でもつけるのがちょうどいい」
「小悪魔ちゃんってこと?」
「なんでそんなに着て欲しいんだよ」
当然のように流されてしまった。
代わりに問いかけが返ってきた。ショウくんは冷蔵庫の中に顔を入れている。ワッフルを中にしまったとしても探すには時間がかかり過ぎているので、恐らく顔を見られたくないから突っ込んでいるのだろう。
理由がどうであれ恥ずかしがるのだから、隠したって意味ないのに可愛い奴だな。
「だってメイドとして仕えれ続ければ、僕以外にキミの視界に入るものはいなくなるだろ?」
僕の言葉に彼の身体が僅かに跳ねた。頭隠して尻隠さずとはよく言ったもので、どれだけ隠そうとしても本心は漏れてしまう。
メイドになって僕のモノになるということは、昨晩のように椅子にされたり苦渋を飲んで僕に好き勝手されることを意味する。ペットとしての素質が元々あった上に、ガッツリ支配されることを楽しめるよう刷り込んだのだ。
「それだけはダメだ。絶対にならない!」
夜なのを無視して吠えるショウくんだが、僕には全く届かない。
現にショウくんの左手が自分の背中に伸びて、僕が座っていた場所をさすっているからだ。あの時の感触を確かめるように手がゆっくりと動いている。
ニヤつきが収まらない。
「なんで? 昨日あんなに僕の尻の感触を楽しんでたのに。あ、また椅子になれって命令されたくてツンケンしてるんだ」
「ちっがう!! 黙れ能天気!」
「だったらなんで背中を触ってるの?」
「……? っ!?」
無意識にやっていたらしい。
自分の欲求に驚愕したショウくんは反射的に飛び跳ねて、後頭部を冷蔵庫の棚にぶつける。
『ぐぎゅぅー』と情けない声を漏らして、膝から崩れ落ちた。
なんとも不甲斐ない。なんとも愛らしい。
ショウくんは冷蔵庫から顔を出すと、ケーキボックスをキッチンのワークトップに置くと恨めしそうに僕を見つめる。
「ドMだって明言してたくせに今更恥ずかしがってるの〜?」
「ッ! 恥ずかしがってなんて」
「あっ、そっかあ。自分から言っておくことで本当に落ちた時の言い訳に使うつもりだったのか」
「は!? 違えし、俺はハツカに弄られるのを楽しんでいて」
(バカみたいな話だな……)
傷口に塩をぬる会話をしているけれど、特に不快感を露わにしていない。負けん気と羞恥心を原動力にして僕の話に付き合っている。
仕草も表情も全て観察して結論づけたわけだが、内に秘めている感情のことを考えると早計に過ぎる。
アレだけの過去があって傷に触れる行為をすれば、隠すことのできないレベルの忌避感が出る。あの他人を突き放す衝動が現れる。危険を告げるサイン。
このサインを目安にしてはいけない。
最低ラインだと弁えておかなければ。
「ホント、ハツカは僕を弄ぶの好きだよね」
ショウくんが愚痴を溢すので、一瞬で気を張ってしまう。声の張りがなく、くぐもった低い声で言うものだからラインを見誤ってしまったかと冷や汗が背中を流れる。
一度こちらに目線を向けたあと、すぐに床に落とす。
「……嫌だった?」
「嫌か、はまぁ……好んでしようとは思わないよ。けど、久利原たちだって楽しそうにしてるし、楽しみが増えることは悪くないから。それに–––」
前髪で瞳が隠れて表情からはなにも窺えない。
しかし、次第に晴れていく声に安心し始める自分がいる。
「ハツカは他の奴らとは違って、ちゃんと僕の大事な一線を守ってくれる。そう思いたいから」
言い切った彼は、恥ずかしさなどまるでない純粋な幼子の笑みを浮かべている。
燦々と人を照らす太陽を想起させる笑みを向けられると、その少年の一喜一憂を肴に楽しんでいた僕が小さく思えてしまう。じんわりと脂汗が背中で滲む。
一旦、雲に隠れてくれと言ってやりたい。
手を当てられないほど顔が熱くなって、頬を細々と爪で掻くことしかできなかった。
「どうしたの? 恥ずかしがってる?」
「キミじゃあるまいし。ほら、こっち来て」
僕が手招きすれば、ショウくんは警戒することなく近寄りだした。目の前まで来たので、今度は背を低くするように促す。
「膝立ちになって」
「え?」
「ほら」
ここまで来たら察してもいいが、鈍い彼は何をされるのか全く気付かない。
ちょうど頭のてっぺんが目線の下に来た。
頭の中央で渦を巻くつむじがはっきりと見える。つむじを覆うようにして彼の頭に手を置くと、軽くショウくんの体の力が抜けた。
滑らかな髪の毛の流れに従って撫でていく。頭部のツボなどを意識しながら指や手のひらに力を伝えていくと、だらしない声が漏れる。
「ふにゅー……」
「ふふっ」
間違いなくショウくんの声なのだが、余りにも緩み切った放心の息だったので思わず笑みが溢れてしまう。顔を覗いてみると、目を細めて気持ちよさそうだ。
気持ちいいのは彼だけではない。
猫や犬を撫でていると、人間も気持ちよくなる。愛情ホルモンであるオキシトシンが分泌されるのが理由らしいが、今の僕も同じことが起きている。
まるで小動物、あるいは自分の子供に癒されているようだ。
子供なんて作ったことないけど。いや、人間的な意味でね? 眷属は三人いるし。
「どう? 気持ちいい?」
「うん……気持ちいい……」
頭が撫でられてこそばゆくなったのか、身体をくねらせる。ムズムズという擬音が彼の周りを漂っているみたいだ。
一動作すべてが小動物じみていて、愛着がどんどん湧く。
癒された流れで僕は言う。
「嫌な事があったら、ちゃんと嫌って言ってね。僕も知らず知らずのうちに虎の尾を踏んじゃうかもしれないしさ」
「吸血鬼だったら全部見破ってよ」
「吸血鬼はエスパーじゃないんだよ。血を飲まなきゃ相手の心は分からないんだから」
「十分超能力なんだよな……でも、分かった」
そう言って、ショウくんは床に膝を擦りながら僕へと這い寄ってくる。背中に手を回してきて、顔は僕の下腹部に埋める様は側から見れば、事案にしか思えない。
背中に手のひらが這って、思わず笑い声が溢れそうになる。
彼の頭を撫でて、平静を保つ。愛らしいものは精神安定剤だ。
今まで以上に気を許してくれたのだと、すぐに分かった。
「ハツカも気持ちよさそう」
「僕? そうだね。やっぱり可愛いものを撫でると癒されるよね」
「お前にとって僕はペット扱いなんだね」
ショウくんは不愉快だと言わんばかりに口を尖らせる。
最低限、人間の立ち位置で扱われたいようだ。当然の感覚だろう。僕としては幼子の感覚で扱っていたのだが、どうして間違われるんだろう。
確かに首輪をつけてあげたいと思うが、あくまで僕の目の届く範囲にずっといて、今みたいに傷つくことなく癒し癒されの関係になりたいだけなのに。
もちろん眷属としてね。
「ペットが嫌なら僕を落としてみなよ。それが僕らのゲームだろ?」
言い返せなくなったショウくんは暫く黙ったあと、「分かった」と呟く。埋めていた顔を軽く上げて、細めた眼が僕を射抜いた。口許は不敵に笑ってる。
「だったら今日は僕の勝ちだね」
「なんで?」
「だってハツカ、思いっきり照れ隠しじゃん。証拠にほら、汗ダラダラ」
背中に回していた手を戻して、掌を僕に向けてくる。
見てみれば数滴、雫が付着している。それは間違いなく僕の汗だったので、また顔が赤くなってしまう。
「室温は寒いくらいなのにどうして汗かいてるの? 汗っかきではなかったよね? やっぱりさっき褒められて照れたんじゃないの?」
「……」
「ねえ?」
落とす標的に照れさせられたことで、僕は強い敗北感を覚える。
「ねえ、言って。僕に褒められて照れちゃったって」
「……い、嫌だ」
「じゃあ、血、抜きね」
「なっ–––!?」
大きく反応したのは悪手だった。
毎日飲みたいほどに美味しい血なのは大手を振って認めるが、だからと言って毎日飲まなくても僕らは生きていける。だというのに反応してしまったから、取り上げられたくないと思われてしまった。もう後戻りはできない。
ニヤニヤと楽しんでいる彼は絶対に血を飲ませないだろう。
僕が言わない限り、ずっと躱し続ける。彼にとって血を飲まれるのはあくまでゲームの一環でしかないのだから。
それだけはダメだ。
「どうする?」
「……くぅ……」
観念して項垂れた僕は物憂げに口を開く。
「て、照れました」
「WhoとWhyをつけなさい」
「……僕はショウくんに褒められて照れました」
「録音完了」
言い切った僕に、にまぁと笑うショウくんの手にはスマホが握られていた。それが目に入った瞬間、全身の気という気が頬に集まって赤くなり、抑えが効かない猛りを解き放つ。
「キミィィーーー!!」
「あはははっ!! はははーーー!!」
笑い声をあげながらショウくんがスマホと一緒に宙を舞った。
☆
「たく……良い加減、化かすのやめてよ」
結果として、ショウくんは録音はしていなかった。ただ僕にスマホを見せて誤解させただけなのだ。
はやとちりして、声を荒げた僕を観てずっと楽しそうにしていた。自分が笑いながら、指で作った狐も笑わせている姿を見れば、心底愉快だったとすぐに理解できる。
この子がドッキリ好きなのを忘れないように心に刻んでおこう。
「ごめんね。モジモジと恥じらうハツカは珍しいから」
「珍しいからやられちゃ、こっちの身が保たないんだけど?」
「可愛いからってメイド服を着させられるこっちの心も保たないんだけど?」
「ぐぅっ!」
ショウくんは箸を動かして、冷しゃぶを取りながらそう言った。
僕の心に一直線に飛んできた矢が勢いよく突き刺さる。ぐうの音も出なかった。僕とショウくんはどこかしら考え方が似ているのかもしれない。
「メイド服を着て欲しいなら、あと二着は持ってきてよね。じゃないとサイクルを作れないからさ」
「制服が1着だけじゃ流石に無理か。それより着てくれるんだ」
「ハツカと二人きりなら良いって言ったしね。それはまた今度ということで、食べよ」
僕らの目の前にはいくつか皿が並んでいる。
見下ろせば1番そばにあるのは、ショウくんが買ってきてくれた大きめのワッフルだ。それぞれ買ってきたらしい。そばには白い湯気をふんわりと立ち昇らせているコーヒー。
ワッフルはオーブンで温め直したばっかりなので、香ばしい生地の香りが漂ってくる。その上には真っ白で、眼と鼻に濃厚だと訴えかけてくるバニラジェラートが乗っている。
僕はワッフルの熱で微かに溶け出したジェラートを、切り分けたワッフルの上に乗せて口の運ぶ。ジェラートの濃厚なミルクの香りと、ワッフルのバターのいい香りが口の中で広がっていく。噛んだワッフル生地は、上側がしっとりとバニラの味も含んでいて、下側はサクッと歯応えのある感触。一度に二度美味しい。
「おいしいね、このワッフルとジェラート」
「それはよかった」
「どこの店?」
「近くのショッピングセンターにある店。夜遅くまでやってるみたいだし、今度は直接行ってみたら? ハツカの友達の桔梗セリとあっくんさんも来てたし」
「セリちゃんが行く店か。なら安心かも。今度一緒に行こうか。焼きたても食べたいし、他の味も見てみたい」
美味しいから、僕はゆっくりと食べる。
食の進みが緩やかなのは目の前で夕食を取っているショウくんのスピードに合わせているからでもある。
ショウくんの前には、白米、冷しゃぶ、お吸い物、朝作った和物が置かれている。彩りも落ち着いていて質素にも見えるが、十分楽しめる食事だ。
それでも、僕の方が早く食べ終わってしまう。
速度を合わせるようにコーヒーカップを手に取った。
「ひとつ、聞きたいんだけどさ」
「なに?」
「桔梗セリってさ、ドM?」
「ぶ、え? ドM?」
予想外の発言に口に含んだコーヒーが吹き出しそうになる。慌てて手で放出を防いで、ショウくんに訝しんだ表情を向ける。
僕の顔から心の内を読み取った彼は相槌を打つ。
「違うんだな」
「うん。そんな話聞いたことないし。あっくんならまだ分かるけど……それに吸血鬼で被虐趣味を持ってる人はごく僅かだよ?」
「人間でもそうだが。でも、久利原達だっているだろ?」
「あの子達はずっと僕の眷属だからね。ずっと親にべったりな眷属は珍しいんだよ。普通の吸血鬼は、人間の頃の記憶を失っていくにつれて親離れしていくから、そんな癖は自ずと捨てて逆に狩る側に回ってくよ」
「じゃないと子を作れないからか?」
「それもある。けど、吸血鬼の
「ゲームね」
落ち着くためにもう一度コーヒーを啜る。コクのあるハッキリとした味わいが甘いワッフルと相性がいい。バターの香りとは違う香ばしさが鼻腔をくすぐると、自然と身体が暖かく、心は鎮まっていく。
「ところで、セリちゃんはどんなことを?」
「言わない」
「えー……誰にも言わないからさ!」
「だめ。人に漏らすことじゃない」
ショウくんはため息をつきながら「理世を問い詰めてみるか……」と溢すと。箸で塩昆布と和えたミニトマトを取ると、口の中でぶっつんと潰した。
「そうだ。枕元にタブレットが置かれていたけど、なに見てたの?」
「ジオウを見てたよ」
「なぜビルドをやめたの……?」
「小説も読んだしせっかくならね」
「ビルド走り切ってからの方がいいよ。ジオウとビルドの映画もあるし」
「なら、そっちの方がいいか」
本当はキミの心の支えを知りたいんだよ。
そう言えたらいいのだが、僕はショウくんの過去を知っていないはずなので出まかせを吐いた。
「そういえばさ、ジオウの話の中で主人公も改変する時あるじゃん? 余命僅かな少年を助けられる医師を父親に紹介したりさ。でも、事故で亡くなった女性は助けなかったりする。あれは単純にまだ助けられる人ともう亡くなってる人の違いでいいよね」
「うん。というより、当事者に選択の余地があるかないかだね。父親は本来、ちゃんと医師を探せば息子を助けられたのに、敵に騙されて時間を浪費した結果息子が助からなくなった。選択の機会を奪われたから改変された時間を元に戻した上で、より良い結果になるよう主人公は助言した。
事故は理不尽だけど相手を罰して受け入れるしかない」
「だから、代わりに時間を取り戻して前に進ませようって話だもんね」
「その後が描かれてないからなんとも言えないけどね。あと、下手に交通事故で亡くなった人を助けると『他の人はどうなんだ』ってやっかみつけられるし」
ショウくんは冷しゃぶをレタスに包んで、ポン酢に二回潜らせると口の中に頬張った。シャキシャキとレタスの葉音がこちらまでやってきて、気味の良い音が耳朶を打つ。
こちらの目線に気づいたショウくんが嬉しそうにしながら「最後の食べる?」と訊ねてきたので、僕は肯首した。
豚の冷しゃぶを一枚、レタスに包む。
「ポン酢はつける?」
「お願い」
「食べさせてあげようか?」
「食べさせて」
「分かった」
ポン酢を入れた小皿も持って、こちらにまで回り込んでくる。
そして一度冷しゃぶにポン酢をつけると、「はい、ハツカ様」と開いた僕の口の中へ箸を入れる。唾液を引きながら箸だけが、するりと口から脱出する。
この子、もう躊躇いなくハツカ様と呼ぶようになったな。あとは常習化するだけだ。
噛めばレタスのシャキッとした歯応えを楽しみ、その中にある豚肉はしっとり柔らかく、ポン酢もよく絡んでいて食べ応えがあった。
最後の一枚なのが心苦しい。
飲み込んで喉が動くと、ショウくんは微笑んで言う。
「それでは最後にメインディッシュを」
絆創膏が貼られた首筋とは、逆の方を僕に差し出した。
「良いのかい? 歯を磨いてないけれど」
「歯を磨くのは食事の後でしょう。ハツカ様が餌の心配なんてする必要はないんですよ」
「良い心がけだね。それじゃあ、おねだりして」
「おねだっ……」
突然振られた話に戸惑いながら、嫌だと言わないのは彼には僕の餌だという自覚が強いからに他ならない。
どうなだるか迷っていると、ショウくんは一瞬、僕の唇に見惚れた。それと同時に何を言うか決まったようだ。
「愛玩用の僕の血で、ハツカ様の嫋やかな唇を汚させてください」
小動物と見間違えそうになる潤んだ瞳がこちらを覗く。
僕は喜色満面に溢れた顔になりながら、肩と胴を掴んだ。口をあんぐりと開く。舌を這わせて首筋を濡らせば、彼の身体が細かく痙攣するのが伝わってくる。昂りが大きいほど血の味は美味しくなる。
痙攣が最大限、大きくなるまで舐めると、気持ちよさを噛み殺すようにしてショウくんが言う。
「は、はしたないですよ……ハツカ様……」
「卑しいのが好きなんだろ?」
「……」
「どっちなの?」
「……はい」
「大好きでしょ」
「大好きです」
いやらしい笑みが抑えられなくなって、僕は遂に牙を突き立てる。
「いただきます」
ピンポーン
「「え」」
想定外の異音に口が止まった。昂っていた情念が冷え出した。
呼びベルが鳴ったようだが、このタイミングでやってくるなんて空気が読めないにも程がある。神様がこれを仕組んだのなら殴ってやりたいぐらいだ。
「誰か来る予定あったの?」
「いいや、全く。誰だろ?」
ショウくんが玄関に向かっていく。お預けを食らって僕の喉が悶々としている僕も、気を紛らわせる為に立ち上がると一緒に歩く。
彼も残火に身体を熱らせて、首筋を手で拭うと僕のねっとりとした唾液をまじまじと見つめている。
制服のズボンのポケットに入っていたハンカチで唾液を拭き取る。どこか名残惜しそうにしているのは僕としては高得点の機微だ。
玄関までやったきて、ショウくんが覗き穴から外を見る。
「誰だ。……」
赤くなっていた顔が落ち着いて白くなり、次第に病的なまでに青白くなっていく。
どうしたのか気になって仕方がない。
「誰がいたの?」
そう問い掛ければ、彼は声を震わせながら言った。
「なんで、
僕の声は届いていなかった。
キングオージャー最終回良かったですね!
超絶怒涛究極完全体キングオージャーもopバッグでの超合体でカッコよかったし、ロボ戦等身大戦それぞれのフィニッシュも美しかった! それに『二次創作などみんなの中で物語を紡いでいってね』エンドなのに、早速宇蟲王ギラやりだすし、二次殺しの痒いところまで手が届く公式さまだぜ…。
あまり語りすぎると見てない人のネタバレになるのでここまでとして……
Vシネ、なんでハルカ&ヒメノvsリタ&ソノザの構図になってるんです?