第一夜 ナイトダイブ
ポツリ。ポツリ。
真っ赤な血が落ちて、弾ける。その雫はナニを内包しているのか。
視界が真っ黒に染まっている。狂おしいと思わせる事しか知らない黒々とした景色。
ポツリ……ポツリ……
首筋が濡れている。
生暖かく乱れるように身体中が火照る。それでいて、突き刺す風が神経を引きちぎるかのようで凄く忌まわしい。
噛みつかれる感触が身体を刺激して、脳を
快か。不快か。
それすらも分からなくなっていく。
ただ、睨みつける視線を返すように、天蓋の割れ目から満天に咲く月華が光り射す。
––––綺麗だ。
そんなことを考えていると、脳に言葉が反芻する。
『さぁ、キミの
あぁ––––……
☆
夢を見ている時は黒に堕ちるような、浸っている感覚になる。
幕が降りて、演者たちが軒並み退出して観客達もいなくなった後の
気を張らずとも良い、この黒の時間だけは何物にも変え難い。
しかし幕はいつか、必ず開く。
「…………」
けれども、今日は目醒めが早い。
いつもは快哉の吐息で起床するはずなのに。
––––僕は
気分が悪い。気力が出ない。
人の心地はその日の眠りに関係するというが、そのことを身に染みて感じている。
「いま、なんじぃ……」
寝返りを打つような形でベットの側に置いた目覚まし時計のボタンを押す。
画面が緑色の蛍光色に発光する。目には優しい色のはずだが、それでも寝起きの瞳には刺激が強い。
たまらず目を擦る。
「……おふっ」
時間は丑三つ刻に迫る頃。
こんな時間に起きるのは生まれて初めてだった。
夜遅くに親という存在に連れ出されたことなんてありはしないし、夜更けに出かけるような知り合いもいないので、当然と云えば当然なのだが。
寝直すためにもう一度掛け布団を被る。
「––––」
寝れない。
目を瞑っても眠れる気配すら感じない。
明日のこと––––いや、もう日を跨いでいるのだから、今日なのだが––––を考えれば、本来は寝直すのが良いはずなのだが、どうにも寝付けない。
もし今日が土曜日であるならば、このまま起きておくのも悪くはないだろうが、案の定、今日は金曜日だ。
今週最後の学校である。
本当にタイミングが悪い。
「仕方ない、か……」
寝ようと目を瞑れば、
そうなってしまえば、もう睡眠どころではなくなる。
なんともならないのなら、いっそのこと起きてしまおう。起きて身体を動かせば、眠りにつく事ぐらいできるかもしれない。
そう思い、ベッドから立ち上がって部屋の照明のスイッチロープに手を伸ばす。
「……明るい」
掴もうとしたところで手が止まる。
月明かりだろうか。月光がカーテンの隙間から部屋に差し込み、室内を照らし出す。
夜に起きたことがない自分にとって、月明かりは物の輪郭をはっきりと映し出すほど輝いているのだと初めて知ることであり、驚きであった。
初めて起きた夜。
少しだけの好奇が僕を動かした。
せっかくなら外に出てみよう、と。
それを咎める者は
「えっと……どうしようかな……」
流石に寝巻きのまま外に出るわけにはいかないので、クローゼットを開いて服を選ぶ。
別に人と会う訳でもなく、目的がある訳でもないのだが、月の光に当てられたからなのか、少しカッコつけた服を選んだ。
(どうせ、演劇部の奴らに渡す前にチェックしないといけなかったしな……)
そんな趣向が僕の中にあったことに驚いた。
改造が施された、一眼見ただけだとスーツとも見間違えそうな学ランに袖を通す。ついでとばかりに、黒色のハットを被る。
そうして––––
「……」
初めて、夜への扉を開いた。
初めての世界に、一歩踏み出したのであった。
閉じる玄関の扉の音が、深更にはよく響く。
思わず辺りを見渡してしまうほどに音が透き通る。
「……ふぅ」
流石に他の部屋の明かりもない時間帯のため、問題はなさそうだ。
共同住宅を出て、小森団地の道の中央に立つ。
「すぅ〜〜……はぁ〜〜……」
残暑もある程度落ち着いてきた9月終わり。明日でもう10月だ。
日頃に冬へと近づいて行っているのだと実感させる冷たい外気が肌に刺さる。夜の空気を肺いっぱいに吸い込んで、その匂いと味を楽しむ。
辺りを見渡すと、部屋と同様に明るく感じる。
夜は思ったほど黒ではない。暗すぎないし、静かすぎる訳でもない。
「でもなんか、違う」
悪くない。
味わったことのない色々なものが、風に乗って身体中を染み込んでくる。
「良い……」
初めてのことに身体がハイテンポになって、早速僕の身は目的を忘れかけてしまう。
この気味合いまま、ひとまず辺りを
『ニャー』
「ニャー!」
歩道を我が物顔で歩く猫に手を振ったり、猫語で喋ったり。
「ーー……」
「おっさん、こんなところで寝ちゃダメだよ」
「グピィ……」
「マジかよ」
ベンチに寝転がって酔い潰れてる中年のおっさんに、本人のものであろう地面に落ちていたスーツを被せたり。
「よっと!」
車道の白い区画線をはみ出さないように歩いてみたり。
暗くもなく、完全なる静寂ではないけれど、ここに立つ色は僕だけだ。
うん、まるで僕だけが居る、僕だけが動ける止まった世界のように入ったような錯覚。
「……真実はいつも一つ!!」
高鳴る胸の内に従うように叫んでみたものの、咄嗟に恥ずかしくなって辺りを見渡す。
なにをやっているんだか。
そんなことを気にするくらいなら、こんな無意味なことやらなければいいだけなのに。
しかし、言葉が返ってくることに安心する。
起きている人は、少ない。というよりいない。当たり前だ、こんな時間に外出してるなんて気が狂っているとしか思えない。
「はは、特大ブーメランだな」
ここまで変わって感じるのは何故だろうか?
やはり、こんな馬鹿げたことをやっていても咎められないという夜という時間の寛大さによる錯覚だろうか。それとも『ここが僕の世界だ』と、『これが僕の自由だ』と思わせる不自然な多幸感によるものだろうか。
多分、この不自然さの由縁はなにかが欠けているからだ。
そのナニかは分からない。
「はぁ……」
そんなことを考えながら歩き回っていると、街にある雑居ビルにまで辿り着いた。
漆黒のパーカーを羽織った女性が少年を誑かし遊んでいるだの、時折人の喘ぎ声にも似た物音が聞こえるや、ビルから数人が飛び立ったという動画配信者だったら直ぐにでも飛びつきそうなネタが満載な建物。
周りも街灯が数個あるだけで、それらしい雰囲気だ。
……それが本当ならおじさんにでも伝えたほうが良いかもしれない。
「……やめておこう」
スマホが入ったポケットに視線を下ろすが、そんな意味のないことをしたところでこの時間を無駄にするだけだ。
下ろした視線を上げて、ビルの屋上を仰ぐ。
「はは、はぁ……」
でも、入るぐらいなら。
そう思って、僕の脚はそのビルへと向かった。
☆
吼月ショウは優等生である、そうだ。
優等生の真意はよく分からないが、少なくとも他の学生からは教師陣からはそう思われているようだ。
理由は幾つか浮かぶ。
勉強は常に首位をキープしている。
運動もしっかり熟せる。
クラスメイトとの関係性も悪くない。
行事にも積極的に参加しているし、委員会もやっている。例えば生徒会とかだ。
それに揉め事の解決も行なっている。
この辺りだろう。
一眼見れば、まぁ、順風満帆な生活。
良好、なのだろう。
––––本当か?
けど、意味が無い。
『行動は自らのイメージを映す鏡である』
ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテの言葉、らしい。ゲーテの著書自体を読んだことないから実の意味は知らない。
素直に言葉通りに受け取るとするならば、
それは正しいのだろうか。
僕が起こす結果行動にはなんのイメージも、価値も、意味もない。ただ、それが求められているから受動的にそれを行っているだけ。
【
あるいは……過ごすための【
僕は返しとして告げられる感謝に。
『サンキュー!』
『吼月さん、ありがとう』
とてつもない虚無感を感じる。
何故だろうか?
感謝とは、厚情を受けた人物がそれらを施してくれた贈り主に向けて示す、ありがたいという気持ちやその感情を表すポジティブな反応である。
辞書くんもそう言っている。
きっといいもののはずだ。
それは自分も理解している。
けれども考えてしまうのだ。
––––こっちの時間は無駄に消費されただけで、利が何もない。
––––お前たちは何を求めてるんだ。
––––お前らに言われた所でなんも価値ないだろ。
––––お前らもこんなことになんで時間を使うんだ、意味がないだろう。
『どうせ、そんなこと、思ってない癖に』
それは相手に対してたのか、自分に対してなのか、理解ができない。
君たちの、僕の真意はどこにある?
その証明はどこにある?
伸びてきた手を反射的に払ってしまうような歪な感情。
「ごめん……わかん、ないや……」
その解の無い感情が膨れた昨日。
決壊したダムから少しずつ水が垂れるような感覚で口から溢れてしまった言葉に、曇った顔で目の前の女子が背を向けて去っていった。
溜まらず伸ばしてしまった手は届かない。
感謝も、好意も、価値も、意味も。
よく分からない。
けど、きっと––––––
「これと同じなんだろうな」
雑居ビルにしては磨かれた手摺が顔を映す。手摺に手をやりながら、雑居ビルの屋上を歩いていく。
「僕の顔を映すぐらいなら、この街でも映せばいいのに」
この雑居ビルには何も無かった。
所々綺麗な場所があったり、数個ドアが綺麗に整えられていたりしたが、今は人が居るような気配もなかった。住人に会えれば面白いとでも思えただろうか。
眠れるような体験ができたろうか。
––––眠れないのはやっぱり……無頓着に断ったせいかな……
このことを考えないために外に出てきたのを忘れてはいけない。意識をそっちに持っていけば余計に気が滅入ってしまう。
起こってしまったことについて後悔し続けることほど無駄な事はない。
屋上に座り込み、スマホを取り出す。
空虚ではあるが、何もやらないよりはマシだ。
「眩しっ」
見ているのは眠る方法。
不眠症の人たちが集まる掲示板を開く。
悩みの種でもある告白については……振ってしまったものはもうどうしようもないので、フィーリングで勝負するべきだろう。
さて、同種の者たちが見つけた解決策は–––––
『家族や信頼できる人に相談する』こと……
寝てるんだよなぁ……起きてねぇよなぁ……てか、いねぇなあ……
「他にはないのか……?」
【酒飲まないと寝れねー 無職(25)】
【恋人と話すと良いよね…… 学生(21)】
【ドカ食い気絶部だ! ドカ食いして酒飲兵衛して倒れましょう! 派遣(34)】
【不眠にも悩みにも酒ッス! アルバイト(20)】
「大人の特権!! たく……!」
そんなに美味しいものなのかね……酒っていうのは。
「……飲んでみたいな」
試してみたくなる。
気になりはするが身体に悪いと言うし、そんな気絶するような飲み方はしてはいけない。
「帰るか……」
まだ眠たいとは思えないが、もうふらつくあてもない。
仕方がないので、帰ろうとして立ち上がった。
「あ……」
目の端に写り込んだビルの下へ、闇へと目をやった。
「てか、うぶ、ね、え………」
見下ろした先は漆黒だ。
雑居ビル同時がせめぎ合う、狭い裏路地が通る闇。雑居ビルの正面と違って全くと言いほど光がなく、まるで奈落の底に目を向けているようだ。
生唾を呑み込む。
僕の脚はまで闇から生えた腕に絡め取られたように、屋上端に立つ。
「………」
魔が差したのだろう。
振り返れば馬鹿だったと自分でも嘲笑する。
「疲れたな」
気づけば、僕はその闇に身を投げた。
身体が重力に任せて落ちていく。空を裂き、風が唸る声が耳朶を打つ。
速度が増すに従い、闇は視界の端に横伸びしていく。
やがて風は音を失い感触だけの物体へと変わる。
自分はこのまま落ちて地面に血の花を咲かせて死ぬのだろう。
こういう時は走馬灯が脳裡を奔るというがそうではないようだ。
事実、死ぬという実感は湧いてこない。
恐らくこの暗闇のおかげだ。
どこまでも続いていく暗闇は果てを感じさせない。故に永遠に堕ちるという工程を行い続けると脳が錯覚し、恐怖すら感じさせない。
眠るような感覚なんだ。
ああ、でも、確かに、落ちてるな。
早く、おわ–––––
「キミ、なにやってるの?」
「!?」
眼があった。
暗闇の中に唯一光を持つ双眸がこちらを見つめる。まるで冥界からの死者のような、その存在を認識したとき喉から胃まで手を突っ込まれたような不快感を覚えた。
次に、身体にかかる負荷の方向が変わる。
無理やりに水面から引き上げられる魚のような感覚を味わいながら、映像を逆再生するように僕の身体は上昇していく。
は?
……は?
待って、なにが起こってる?
––––僕は確かに堕ちて
そうして、天に昇っていく身体はついにビルの屋上を越えた。
その時、気がついた。
見上げた空には、綺羅星が幻想を生み出していた。極彩色で彩られたような妖しく、淡く光る
なぜ気が付かなかったのか。
そして白日の元に晒される僕を天へ招いた存在。
顕になるは、僕を星空の下へと還した存在。
「あんな所に堕ちるより、星空に
男性か、女性か。不思議な容姿をした存在。
その特出して綺麗な容姿が、満点の星空を背にすることによって、その二つは、それはもう神話の一枚絵のような美しさがあった。
衝動が襲い来る。
『綺麗』『なんだこれ』『凄い』『カッコいい』
言語野機能が不全に陥るほどに満たされたこの情動をどうすればいいのか。
あぁ、コレだけは––––––––
この衝動には…………
一応、タイミングとしては6巻第57夜の後ぐらいからのスタートです。
そのため、過去探しで外に行っているので雑居ビルにコウくんとナズナさんは居なかった訳です。
アニメ派の人が居ましたら単行本を買いましょう(提案)!
さてさて、始まった新ライダー!
悪夢に潜入するエージェント、仮面ライダーゼッツ!
絶賛見逃し配信中!
https://youtu.be/9WVd6SLqagw?feature=shared
そしてクオンの内心が明かされたり、テガソード様と人神一体した最終形態テガソードゴジュウウルフが登場し佳境に入りはじめた戦隊!
ナンバーワン戦隊だ!(下記は一話です)
https://youtu.be/3zArWZNq42A?si=o_ShC4JPqU78E3sf
さて……あと何回更新するかな?