よふかしのあじ   作:フェイクライター

82 / 146
第七十四夜「死亡届」

「どうしてなんだ……?」

 

 僕はどうして独りでショウくんのベッドに座っているんだろうか。全身の神経が取り出されたかのように力が入らない四肢を、目だけ動かして眺めている。

 瞳が止まったのは僕の右手。離れようとしたショウくんの手を掴もうと伸ばした手だ––––––

 

 

 

 まず突き飛ばされる理由が分からなかった。

 呆然としていれば、ショウくんは罪悪感で押し潰されそうになっていて僕から目を背ける為に俯いた、ように思えた。

 俯く一瞬、僕の目に映った彼の顔は酷いものだった。頭を押さえて苦痛に歪んで、目は虚としていて焦点が定まっておらず、口元は吐瀉物を吐き出さないよう微かに膨れ、歯が唇に食い込むほど硬く閉じられている。

 誰からどう見ても異常だ。

 いつもの症状以上だった。

 ズリッと擦る音がして、足元に目線を合わせれば一歩、後退っていた。

 頭を回すことすら困難な痛みは全身に心へ服従することを促す。また一歩、また一歩と僕から距離を置く。

 

「ごめん、ちがっ。ハッカはわる、く…な……」

 

 呂律も回らなくなって、千鳥足で離れている。

 僕から離れるたびに外灯に照らされた光の領域に足を踏み入れていく。だというのに、次第に彼自身が溶けて消えてしまうような危うい希薄さがあって僕はどうしようもなく不安になった。

 どうして僕の前から消えようとするの?

 

「なんで? ねえ!」

 

 口にしたかどうかは覚えていない。

 気づいた時にはショウくんの目の前に僕は立っていて、逃げ出しそうな手を強引に掴み取っていた。

 

「そんな酷い顔をして、何を溜め込んでるの? 言ってくれなきゃ分からないよ!」

 

 逃しちゃいけない。逃したらこの子がどうなるか想像もつかなかったから。

 ショウくんの顔があがる。

 再び彼の表情が光の中で露わになる。

 

「……凄いね、ハツカは」

「は?」

 

 向けられた視線は虚なものではなく純粋な尊敬や憧憬といった、まるで子供が大人の背を見るような極々ありふれたもの。

 しかし、その輝きもすぐに消え去った。

 思わず脱力してしまった僕の手から、ショウくんの手が逃げ出した。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい」

 

 必死に謝りながら光の中を走り去り、闇の中へとその身を投げた。慌ただしく鳴る足音も次第に薄れていく。

 

「……なんで?」

 

 僕はただ呆然と立ち尽くすしかなかった。

 その後はどう道のりだったかは覚えていないが、ショウくんの自宅に帰っていた。確か鍵はしまっていたからスリ抜けは使った気がする。

 

「ショウくん」

 

 まるで僕が神崎と同じ存在だと思われたとすら感じてしまう。

 拒絶された実感に僕は自信を無くしていた。

 

「吸血鬼の名が泣いてるよ」

 

 吸血鬼なんて関係ないと分かっている。

 けれど、愚痴でも溢していないと心が保たないのだとも僕は理解していた。

 

「なんで僕まで……」

 

 でしゃばりすぎただろうか。

 友達だと言うのに、神崎や……もしかしたら、彼の両親と謎の老婆に向ける瞳と同じモノを向けられてしまったことに強い損失感が湧いて来る。

 今までかなりいい調子で仲を深めていたと思っていた。頭を撫でてるし、唇が触れたら動揺もしてくれた。少なくとも、良い関係ではあった。

 勘違いだったのか。

 少なくとも、危険な奴らと同列に扱われることが僕にはどうしようもなく辛かった。

 

「どうしよう」

 

 どうにかして捕まえて、誤解を解かなきゃいけない。電話をかけても出ないだろうから、まず彼を探すのは後だ。

 その前にまず彼はなぜ僕に怯えたのかを知らなきゃいけない。でなければ、見つけてもあの綺麗な笑顔を歪ませるだけだ。

 

 なぜだろうか––––頭を捻り、唸り声を漏らす。ゆっくりと瞼を下ろして、思考だけに専念する。

 神崎に殴られている所を見られたからだとしても、殴られるだけで済ます子ではないと僕は知っている。逆に強かな一面を……いや、あの怯えようだ。神崎相手では通常の頭を回転を発揮できないかもしれない。

 弱みを見せたことが原因?

 いや、彼が初めて弱みを吐露したのが僕なのだから、今更拒絶するとは考えにくい。

 やはり、記憶を勝手に覗いたことが原因か。

 過去のことをグチグチ言われるのが嫌いな彼のことだから、トラウマレベルの過去を掘り起こされるのは回避したかったのかも。慌てて母親のことを知っていると言ってしまったのが痛かったか。

 

「くそ……ん?」

 

 苦渋を噛み締めながら、目を開けるとそこには般若がいた。

 

「ぬおおおおお!?––––痛っ!?」

 

 いきなり目の前に鬼の形相が現れて、飛び退くように後ろに身体を下げれば、仕方なし……壁に後頭部を激突させる。

 痛みが走った患部を手で宥める僕に般若は「大丈夫?」と言わんばかりにこちらを覗き込んでくる。

 

「う、うん」

「シッ」

 

 首を傾げると般若は僕の唇にそっと右の人差し指で触れて、口を開くのを阻止する。流れで唇を摘まれた僕の口はアヒルのようになる。

 そうして、僕を黙らせると般若が次に取った行動は……屈んでベッドの下を弄ることだった。

 腕を入れること数秒、何かを剥ぎ取る音がした。握った手を僕の目の前に持ってきて、ゆっくりと開く。掌に乗せられていたのは、小型スピーカーのような物。

 スピーカーを見て、頭の中ですぐに思い浮かんだのは。

 

––––盗聴器?

 

 般若はグシャリと力を込めてスピーカーを握り潰す。

 そして、立ち上がると次は勉強机の裏、キッチン、居間、玄関などなど家の中を巡って同様のモノを破壊していく。

 

「フッ!」

 

 最後の一個を握りつぶして、般若はようやく口を開いた。

 

「流石にやりすぎよ。もう喋っていいわ」

「う、うん……でもそれ」

「さっきの男が仕掛けたんでしょうね」

「何でそこまで」

 

 親友の息子とはいえここまで来ると立派なストーカーだ。さっきの独り言も聞かれたかもと考えると薄気味悪くてゾッとする。

 

「誰が自分の知り合いの周りに吸血鬼が居て欲しいと思うの?」

「……キミも吸血鬼じゃないのかい」

「吸血鬼が吸血鬼を好きとは限らない。それは貴方だって自覚したんじゃないかしら」

 

 僕は押し黙ってしまう。

 吸血鬼が嫌いな吸血鬼……きっとキクちゃんの眷属たちを指しているのだ。

 

「ショウくんにこっぴどく振られて意気消沈しちゃってる蘿蔔は、これからどうするつもり?」

「振られてないけど!? ……ないよ」

「……調子狂うわね」

「ほっときなよ」

 

 仮面に遮られても良さそうなのによく通る声だ。苛立ちを吐き捨てれば、般若は呆れながらため息をついた。

 自分でも驚くぐらいにダメージを受けている。

 でも、川に落ちた木の葉が川の流れに逆らえないように、口から出た言葉は戻らない。

 僕としたことが選択を誤るなんて。

 

「貴方はどこまでショウくんのことを知ってるの?」

「……」

「安心しなさい。少なくとも、私は貴方より彼の事情に詳しいから」

「……記憶を失ってから母親に襲われるまでと、知らない老婆に虐待された辺りだけ」

「母親に襲われた? ……ああ、そう」

 

 般若は頷いて、僕の話を咀嚼する。

 数回首を振ってから「分かったわ」と言うと、僕の前に立って見下ろした。怨嗟と義憤に満ちた顔が僕を睨みつけ、容赦なく僕の意識を持っていく。

 

「もっと知りたい? ショウくんのこと」

 

 僕は首を振ることが出来なかった。

 本音を言えばどんな手段でもショウくんについて知りたかった。けれど、本人以外から訊くことが正しいのか今の僕には分からなくなっていた。

 勝手に知ってしまえば、余計に拗れるだけではないかという不安が僕の胸で疼く。

 

「あの子が気にしてるのは過去に指をさして何か言う事。知る事自体は問題ないわよ」

「……そうだね」

 

 胸のざわめきを抑え込みながら般若の語り口に耳を傾ける。

 

「あの子はね。まだ死んだままなのよ」

 

 語り口は汚水でも飲まされたかのように苦々しかった。

 

 

 

 

 静かな夜だった。

 それは私が好きな夜で、部屋の明かりもつかないまま虚空をゆったりと見つめていた。唯一の光は口先で煌々と燃え、芳ばしい香りを白煙と一緒に立ち昇らせるタバコの火だけだ。

 

––––このままでは手詰まりだ。別の手段があるとはいえ個々の消滅ができるのなら、やはりそちらが手堅い。

 

 蘿蔔ハツカに弱点のことを見破られてしまったのは痛かった。

 キッカケ自体は自分のせいだが、あの夜以来七草周りの吸血鬼たちが弱点の排除に乗り出した。結果として、弱点の入手が出来なくなった。

 ため息代わりに口から異物を排出する。

 

 まあいい、これで決心が––––そう思った時、

 

 ピンポーン。

 

 軽快な電子音が部屋に響き渡った。

 各部屋に設けられている呼び出しベルが鳴ったらしいが、この時間帯に来る相手なんて指の一本で事足りる。最悪の場合、もっと多くなるが心配はいらないだろう。

 タバコの先端を灰皿に押し付けて火を消すと、コートを羽織って玄関まで歩き出すことにした。

 

「やれやれ……はーい」

 

 壁に手をつきながら全身で盾を作るようにドアを開けると、思った通りの少年が愛想笑いを浮かべながら立っていた。

 

「こんばんは、鶯さん」

「あー……こんばんは」

 

 吼月ショウ。

 夜守コウくんと同じ学校に通う異端の少年。それは吸血鬼と共に夜を過ごしている意味でもあるし、彼の生い立ちとしての意味を含んでいる。

 昨日の今日で来たのか。

 本気で家事代行サービスをやるつもりなのだろうかと、怪訝な表情で吼月くんを見つめながらじっくりと観察する。

 服装はマトモ。メイド服と比べたら何でもマトモになりそうだが、今回は制服姿のままだった。首筋には吸血痕はなく、代わりに細かな汗が滲んでいる。走ってきたのか? それに左頬を庇うように私と目線を合わせている。特に傷もないし腫れてもいない。

 観察しているだけでは先に進まないと判断して、仕方なく口を開いた。

 

「それで……なんで来たのかな?」

「様子を見に来ました」

「よし、ならもういいな。帰れ」

「それと––––」

 

 吼月くんは言いづらそうに唇を合わせると、目線を落としてから言う。

 

「親から逃げてきました」

 

 私の視線が彼から逃げ出した。

 ホッと息をついて部屋の中への道を開ける。

 

「ん?」

「だったら、部屋の掃除でもしてくれ」

「……ありがとうございます」

 

 心臓から絞り出すように呟いた彼は年相応の心許ない存在に見えた。

 吼月くんを中へ通して、明かりをつける。事務所を引き払う時に残しておいた掃除用具が置かれたクローゼットの場所を告げると、彼は黙々と作業に取り掛かった。

 私はここの主人として椅子でふんぞり返ることにした。肘掛けに腕を置いて、脚を組みながら吼月くんの仕事ぶりを見る。

 雑巾を手にして、ベッドルームの床を徹底的に磨き始めた。

 この掃除自体に意味はない。サービスとして、三日に一度は清掃担当の人が綺麗にしてくれる。ただ、今は彼に仕事を振ってでも嫌な沈黙が訪れるのを避けたかった。

 

「親と一悶着あった所を蘿蔔に見られでもしたか?」

「……流石ですね。正解ですよ」

「逃げ出してきたのが本当とはね」

 

 親から逃げてきた––––肉親だが義父扱いである葛樹琢磨のことなのか、父の友人である神崎和也のことなのか。ネームとしては蘿蔔も当て嵌まるが、この際どうでもいい。

 大事なのは家族関連で問題があったうえ、その場面を蘿蔔に見られたなどあって奴を頼ることも出来なかった結果、今に至るということなのだろう。

 私が彼の過去を調べたことは既に知っている。

 だからこそ、私を頼ったのだろう。

 

「別にウチじゃなくても、公園の遊具にでも隠れておけば良かったじゃないか」

「警察に見つかるとまた厄介なことになりますし……以前団地の近くでパトカーがバカみたいに来てたことあったので」

 

 制服姿のまま行く宛もなかったところ、唯一吼月くんの過去について知っている私を頼ったのか。妥当ではあるな。その気になれば、私は留守番を頼んで外に出ればいい。

 彼は手を抜くことはせず、ベッドの下も余すことなく綺麗にしていく。

 ゆっくりと時間は過ぎていき、やがて床のフローリングも、窓も、ベッドのシーツさえも綺麗に整えられた。流石に彼もバスルームまでは入らなかった。

 

「……ふむ」

 

 ここからどうするべきか。

 嫁いびりする姑の如く、ダメ出ししてやろうと窓のそばまで近寄って窓枠に指を這わせる。微かな埃も逃さぬように人差し指を滑らせて、その腹を確認。

 うん。文句のつけようもないくらい綺麗だ。

 ちくしょう。自分でやるより綺麗にされてるの悔しいな。

 

「この後はどうなさいますか?」

 

 蘿蔔への接待で慣れているのか、主人に対する丁寧な所作で彼は尋ねてくる。

 食事も外で済ませてしまったし、ゴミ出しもない。事務所を構えていた時なら書類の整理などもあったのだが、ホテルに移り住む際にその辺りも全て捨ててしまった。

 椅子に座って頭を悩ませた果てに、私は逆に彼に訊ねる。

 

「蘿蔔にはいつも何をやっているんだ」

「先ほどのようにお部屋の掃除をしたり、お菓子を食べさせたり。あと一応……足のマッサージなどを」

「なら、マッサージをしてくれ」

「よろしいのですか?」

「なんだね? 私の脚を触れて、興奮しそうなのかい?」

「……違います」

 

 吼月ショウの情欲めいた話はあまり聞かない。

 付き合っている女がいる。そんな話は聞いたものの、実際は恋仲ではないことも、彼自身がフッたことも知っている。しかも、年頃の男の子にしては色欲––––夜守くんで言えば、巨乳が居るとツイツイ目で追ってしまうなど–––––がまったくない。

 今の彼は少し頬が赤くなっている。

 気分がほぐれるのは良いことだが、流石に踏み込みすぎたかな? まあ、ちょうど良い仕返し……ぐらいに思っておこう。

 

「それじゃ、よろしく」

 

 組んでいた右脚を私の下に跪いた吼月くんに向ける。焦燥感と情欲を捏ねくり合わせたような表情をする彼の鼻頭を、爪先で弄れば彼は嫌がる素振りも見せず「んかりました」と言って私の足を持つ。

 これから目の前の少年に脚へ奉仕させ、見下ろしている事実に背徳感を強く背中をくすぐる。自分が微かな興奮に湧ているのも分かった。

 

「それでは始めさせていてだきます」

 

 彼は掃除の時と同様に黙々と足ツボを押していく。

 適度な力加減で刺激されるので、痛気持ちいいという好感触。マッサージにはあまり詳しくないが、かなり上手だと思った。

 これのためだけに呼びつけてもいいかもしれない。

 

「あ"っ、んんっ……!」

「喘がないでください」

「想定より気持ちよくてな……なんだ、興奮したのかい?」

「くすぐりますよ?」

「足裏は弱いからやめてくれ……」

 

 眼を逸らすこともなく吼月くんは私の足裏に集中する。軽く指の腹が足裏を撫でるので、声を漏らしかけてしまう。

 

「くふっ–––!?」

「ふふ」

「たく……」

 

 私は口を抑えながら、彼を見下ろす。

 

––––それにしても……

 

 いつもの吼月くんならば、『頼むなら俺ではなくナズナさんにしてください』と文句の一つぐらい言いそうなのだが、簡単に従うあたり、かなり精神にきてるようだ。

 

「どうでしょうか?」

「ちょうどいいよ。足の裏が終わったらふくらはぎも頼む」

「分かりました」

「……」

 

 尋ねるか迷ってしまうが、私はしばらく考えたのちに訊くことにした。これはあくまで裏取をかねての行為である。

 

「頼ってきたのは君の過去を私が調べたからだろう?」

「……そうですね。優しさに漬け込んでしまったことには謝ります」

「なら、昨日はぐらかされてしまったから答えて欲しいのだが……キミは本当にあの葛樹ショウでいいのか?」

 

 吼月くんは目線を変えないまま呟く。

 

「【あの】というのが何を指すかは分かりませんが、死んでるはずの葛樹ショウであれば、合ってますよ」

「……そうか」

 

 私はコートから一枚の写真を取り出して、彼に向ける。

 そこにはかなり幼い少年が笑っている。小学一年生の頃の吼月ショウ––––いや、葛樹ショウの姿が映っていた。顔立ちも似ていて、写真の少年が成長したら吼月くんのようになるだろうと想像できるほど、似ていた。

 

「養子であるはずのキミと事故で亡くなったはずの葛樹琢磨の息子が、異様に似てることが気になっていた。他人の空似なのか、はたまた……」

 

 一拍置いて、深く呼吸をしてから言う。

 

「辿り着いた真相は、キミは親に殺されたままにされた。違うかい?」

「ええ。その通りですよ」

 

 吼月くんは顔色を変えずに頷いた。

 

「自分は一度死にました。けど、息を吹き返した。多分自分の異様な力が原因なんでしょうけど、その時には既に死亡届が出ていて……オジサンはそれを訂正しなかった。後のことも知ってるんですよね?」

「まあ、一応な。キミは遊園地で捨てられて、施設に送られた。葛樹……分かりづらいな。もうクズノキでいいか? 過去のキミのことは」

「別に何でもいいですよ」

「クズノキが死んだ場所が東京で、キミが捨てられたのが名古屋の遊園地。この事を考えれば、親戚の家にでもたらい回しにされた事ぐらい察しはつく。事実、名古屋にはキミの母親である葛樹真那(まの)の弟が暮らしている」

 

 再び頷く彼を見て、自分の嫌な予想が合ってしまったことに胸が苦しむ。

 どこの頭のネジが緩めば、自分の子供を死んだままにして捨てれるようになるのか聞いてみたいものだ。

 少なくとも、家族から興味をもられないというのは自分の存在すら揺らぎかねない。本来であれば心の拠り所であるはずの場所から除け者にされる寂しさも、視界すら入らない苦しさも私には痛いほど分かる。

 私も、父親の不倫によって母親が病んでからは、朝帰りをしても気付かれないことがあった。その時は思わず泣いて叫んだ。

 辛かった。

 

「口にするか迷うが、ハッキリ言ってキミの家族はクソだな。……辛くなかったか?」

「……」

 

 問いかけても、吼月くんはピンと来ていない様子で首を捻った。まるで、知恵のない人に質問を投げかけて苦笑いを浮かべられてしまった時のようなお互いの食い違いが、目の前で顕になっていた。

 

「よく分からないです。家でも学校でも殴られるか無視されるかですし、『なんで?』とすら思えないほど日常化してたので」

 

 辛くないはあり得ない。恐怖は生命の本能的な部分なのだから。当時の吼月くんは間違いなく恐怖やストレスを感じていたはずだ。

 しかし、幼いほど外部からの刺激に対する許容量が小さく、事態を正しくを捉えることができない。さらに、許容値に近づくほど脳へのダメージも大きくなり、後の生活への悪影響も及ぼすことになる。トラウマなどがいい例だろう。

 幼児への強姦や虐待がタブーとなっているのは、この許容値を容易く超える刺激を与えてしまうからだ。

 そして彼の幼少期は正しく、過負荷そのものだ。

 

「施設に引き取られた後は短期間だが学校にも通っていたんだったな」

「ええ。もっとも、俺の特異性に気づいた子から殴られるか、仲間はずれにするか……総じて『化け物』扱いです。殴ってもすぐに治るので、階段から突き落とされたり、サンドバッグにもされてました。先生も同様でした」

「知ってる。そのイジメの対象が施設の子達全体に広がったのも聞いている」

「施設の子は帰る場所も同じで周りから見ても一つのグループとして見られますからね。だから、他の子達も化け物扱いで暴力を振るわれたりして……施設でも目の敵になりました」

「よく頑張ったな」

 

 月並みだが、私にはそう言うしかなかった。

 少なくとも暴力に走っていたら、ここに彼は居なかっただろうから。

 

「いいえ。怪人はやられることが務めですから」

 

 寂しさも辛さも見せずに淡々と言ってのける吼月くんは、やはり他人とはかけ離れた価値観を形成しているように思えた。

 それは彼には悪いが、私にとって吉報にも思えた。

 

「そんな折に、俺を引き取る人がいるって話が出てきたんです」

 

 口を閉じ区切った彼は、息を吸う。

 そして、この先を私に聞くか聞かないかの選択肢をその眼で迫った。

 当然、私の選択はひとつだけだった。

 

「私は知っている––––」

 

 

 

 

「この中に里親として引き取った人達との日常が書かれているわ」

 

 そう言って、般若が蘿蔔ハツカ()に手渡したのは手帳だった。

 その手帳はショウくんの勉強机の引き出しの中にあったもの。神崎が取り出しては恨めしそうに見つめていた手帳であった。

 

「引き取った人達っていうのはご老人?」

「そうよ。年金生活と里親制度の支援金で遊び歩いてた人達」

 

 その中にショウくんの目を焼いた老婆もいる。

 つまり、彼にとっての辛い日常が記された一冊である。

 開く前に周りを見てみれば、表題には丸みを帯びた可愛らしい文字で『かんさつにっき』と記されている。しかし、本当に目が行くのはタイトルなどではなく、表紙にべったりと染みついた黒い液体であった。

 

「……血?」

 

 息を呑みながら、意を決してページを捲った。




ああ、ポストカードの吸血鬼メンバーで花火やってる絵めちゃくちゃいい〜〜!! なんでニコ先生はカメラ担当してるの……映ってよ……

と、遂に最終巻をガッチャ!したので本編バレがない程度で荒れます。

ニコ先生は変態だったし、あっくんはいい感じに思春期の男だし!ラブくんは相変わらずLGだし!セリちゃんの意見にはマジ同意だし!カブラさんはきも……面白え女だし!!
なにより◯◯◯服姿のコウくん! いい……良い……清澄さんに見られるのもいい……

 最後の四コ……八コマ漫画もとても良かった
 あとポストカード的からして春には一度、夜守君に会わずにニコ先生たちと花見しに来たの……? ナズナちゃん…?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。