よふかしのあじ   作:フェイクライター

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第七十九夜「所有物」

 ガタン……ゴトン……

 規則的に思えて、本当は不規則な振動が体を揺さぶる。一段強い揺れがやってくると、自分を押さえつけてくる周囲のものと纏めてメトロノームのように左右に倒れる。

 ガタン…ゴトン……ガタン……ゴトン

 吊り革は掴まっているし、体幹だってある方だと自負している吼月ショウ()だが、パンパンに積み込まれた人間の密度には圧倒されてしまう。以前八百屋のおばちゃんに貰ったミカンが詰め込まれた段ボール箱を思い出したが、そちらの方がまだゆとりがあった。

 なんせあちらは基本的に同じ大きさの球で、こちらは大小様々な形を持った人間で、よっこらせと人を押し込んだ電車の中だ。

 ガタンゴトン……ガタンゴトン……

 以前コンサートの行列で人が圧殺される事故があったと聞くが、体験していると頷くほかない。

 しかも感じる視線が多く、余計にストレスが貯まる。

 そんな地獄もそろそろ終わる。

 

『次は––––』

 

 電車の中に響くアナウンスが、目的地の名前を告げる。

 乱立する人の壁をなんとか掻い潜りながら出口の扉の前までやってくると、ちょうどキィィと金属音を鳴らしながら電車が減速して–––––ホームに停車した。

 素早く踏み出して進み、改札口を通り抜けて、駅の外に立つ。

 

「ふぅ……うっ!」

 

 張り詰めた身体の力が抜けると、胃の中から迫り上がってくる物を感じて必死に押さえ込む。

 不特定多数の見ず知らずの誰かと体を寄せ合うというのは、中々どうして不愉快だった。朝早くというわけでもないが、やはり休日だから人は多かった。

 

「電車は苦手だな。修学旅行もこうなのかな……ふわぁ……」

 

 初めて乗ったが心地よくない。まさか遊ぶ前にどっと疲れてしまうとは情けないが、移動しながら日差しを浴びればリラックスできて、疲労ごと眠気も取れるだろう。

 空に燦然と輝く太陽様を見上げるため手庇を作って顔をあげる。

 

「天気はいいんだがな」

 

 どことなく息苦しさがあった。

 駅から徒歩数分の場所に目的地はある。看板が見えてきたのでスマホに表示していた地図を消して、小走りに駆け寄る。

 現れたのは大型アミューズメント施設。今までの俺なら縁のない場所だった。スマホでラインを起動して『着いたよ』とだけメッセージを送ってから集合場所に向かう。

 自動ドアに映る自分の姿を見て、(僕はハツカ様のペットです)と心の中で呟いた。

 中に入って感じたのは、煩い、に間違いなかった。

 

「ツラ……」

 

 幾ら10時前とはいえ、さすが遊び場。見渡せば必ず人がいる。

 

「色々あるんだな」

 

 出入り口近くにあるエスカレーターに乗って1階を眺めていると、部屋に引き詰められたクレーンゲームなどの筐体の多さに驚く。電車で鮨詰めになった人間たちにも勝るとも劣らない数ほどあった。

 これならどれだけの人が来ても問題ないだろうなと考えていると、2階についた。

 軽く首を振れば、ロビーの周りに10人の男女が屯していた。会話をしたり、スマホを見たりと様々だが一様に俺と歳の近いグループ……応野や都雉、以前バレーを一緒にやった飯井垣。マヒルとよく遊んでいたらしい森や小野さん、世木さんといった面子がいる。

 その中で面倒なのは皆川くんと真鍋くんか。アイツらがマヒルの悪口言ってる核なんだよなぁ……面倒なことにならなきゃいいけど。

 数えれば俺含めて男子7人、女子4人といった内訳だ。

 その中に当然、理世もいた。

 そこへ脚を進めて、彼らに声をかける。

 

「やあ、おはよう」

「おお、吼月。おそいぞ」

「ごめんな。朝にちょっと寄らなきゃいけないところがあってさ。それに時間には間に合ってるだろ? ……応野?」

「いや、おま」

 

 声に反応したのは、俺を誘った張本人である応野だ。

 しかし、彼はこちらに振り向いたのはいいものの、声の主と想像していた相手の姿が噛み合わないようで2回、3回と目を擦る。目元が微かに赤くなると、今度は顔が引き攣り出した。

 応野に続いて、他のメンツも俺の方を見て、応野と同様の反応を見せる。

 唯一違ったのは、理世だけだった。

 

「おはよう、ショウ。可愛い服ね、似合ってるわよ」

「ありがとう、アイツに伝えておくよ。理世はデニムジャケットとスキニーか。動きやすそうだし似合ってるよ」

「お褒めの言葉頂戴するわ。このスキニー柔らかいから好みなのよね」

「……………ハァア!?」

 

 二言ほど俺たちが交わすと、周りに居た同級生の驚きの声がロビー全体の喧騒をかき消した。

 感謝するよ、感性普通の人たち。驚いてくれないと自分の性別について問い直さないといけなくなる。

 なんせ今の俺の姿は、黒のレースシャツの上に紺のテーラードベストを羽織って、下は–––ハツカ曰くジェンダーレス仕様の–––黒のロングスカート……つまり、中性的に見える風貌なのだ。

 

「会長かわいい!」

「えっと……吼月って、いや、すげ……ええ?」

「会長はそっちタイプだったの……?」

「理世ちゃんは受け入れすきじゃない!? なんで!?」

 

 皆川くんや森といった男子はもちろん、小野さんや世木さんたち女子も慌てふためく。たぶん上だけなら特に言われないが、どうしてもスカートを履いていると女装していると思われてしまうのだろう。俺もなんとなくスカートは女性か女装、コスプレが好きな人がやるイメージだ。

 けれど、流石にロビーで騒いでいると周りにいる他の人たちに迷惑がかかる。

 

「ほらほらみんな!」

 

 理世がパチンッ!と手を鳴らしてみせれば一瞬で静まり返る。

 

「ショウの服装に驚くよりさっさと遊ぼうよ。その為に来たんだろ?」

「まあ、確かにそうだな」

 

 全員が我に帰えると渋々といった様子で理世の言葉に従い、各々販売機に並んで入場用のチケットを購入する。買い終わって、店員に渡すとQRコードのついたリストバンドと交換になった。

 なんでも退場、再入場の時に必要になるらしく無くすと面倒なことになるらしい。しかも、屋内のアトラクションだけでなくボーリングなどの予約もスマホとQRコードを使って行うらしい。

 

「予約だけならグループのひとりがやれば良いだけでいいがな」

「へぇ、そうなのか」

「ホントに何も知らないんだな。会長ってあんまり遊んだことないのか?」

「お恥ずかしながら皆川の言う通り、行く機会はないな。だから、みんなから呼んでもらえて嬉しいよ」

「そっか……良かった」

「そうだ。飯井垣たち、別に学校じゃないんだから会長呼びじゃなくていいぞ」

「ほんじゃ、吼月」

「吼月くんはなんで女装してるの?」

「小野さ、俺のセリフ取るなよ」

琥太郎(こたろう)は細かいこと気にするねえ」

「小野さんは豪速球すぎかな」

 

 気にならない道理がないのは先ほども言った通りだが、目を配れば男女問わず奇異の視線を向けてくる。好奇心混じり、怪訝な視線混じり、様々であまり好ましくないが、エレベーターを待ちながら慣れるしかない。

 

「蘿蔔さんか?」

「応野はわかっちまうか、正解だよ」

「お前さ……」

 

 俺の返事にため息を溢す応野と同時に、他の面子––––主に女子––––が、一斉に理世へ顔を向けた。中にはご愁傷様と言わんばかりに両手を合わせる者さえいる。

 

「なんで私の方を見るのよ」

「いや、だって取られちゃったのかなって」

「取られてないから」

 

 取られた取られてないといった謎の大騒ぎをしているのを傍からただ眺めていると、脇に結構強めな肘打ちが数回叩き込まれる。

 俺は痛がるふりをして、応野に言う。

 

「い、痛かったぞ……応野……」

「だったら弁明しろよ。誤解されてんぞ」

 

 弁明することなんてあるのか––––そう首を捻りかけたが、この服装を見て理世に矛先が向くとしたらひとつだろう。

 

「別に好きとか、付き合ってる相手じゃないぞ?」

「あ、そうなの?」

「ただの友人だよ」

「普通の友達に女装させられるなんてことないと思うけどな〜」

「てか、蘿蔔さんも女装男子だぞ」

「相手もそうなの!!」

「なんでちょっと嬉しそうなんだよ」

 

 眼を弧にしながら追求してくる小野さんに割り込む形で応野が援護してくれるが、余計に食いつきが良くなる。指を忙しなく動かしながらジリジリと近寄ってくきて、身に危険を感じた俺はタイミングよくやってきたエレベーターの中へと避難する。

 当然、彼女も俺を追いかけようとしてくるが、

 

「その人とはどんな関係なのかもっと詳しく教えてよぉ」

「こら、およせ」

「痛ッ! ふにゅ……」

 

 声と共に振り下ろされた褐色の手刀が目に映った。

 ニカニカと笑う小野さんを押しつぶす一撃が脳天へと炸裂する。頭部から煙を立ち昇らせる彼女は、わざとらしく声を漏らしながら膝から崩れ落ちた。

 俺は振り下ろされた手刀の持ち主に視線を動かす。

 

「酷いよ、(あおい)ちゃあ!」

「ありがとう岡村」

「こっちこそ悪かったね、吼月。優花(ゆか)は色恋沙汰が好物なんだ」

 

 蹲る小野さんの頭を抑え込み、ポニーテールを揺らしているのは岡村蒼という別のクラスの女子だ。背中まで垂れる髪を青いシュシュで一本に纏めたポニーテールと、シュッとしたいかにもなスポーツマン体型が心地よいほど噛み合っている。

 係り自体は少ないが、生徒会での部活動の備品チェックなどで時々顔を合わせる間柄だ。

 小野さんを御している岡村を皮切りに全員がエレベーターの中へ流れ込む。押し潰されそうだが、それなりにゆとりは取られるので電車よりは精神的にもマシだった。

 

「あのさ……吼月」

「どうしたんだ?」

「あ、いや……」

 

 流れで俺のそばに来た岡村が暗い声を潜めて話しかけてくる。浮ついた様子の声ではないから思わず首を傾げるが、彼女は一瞬目を逸らしてから、

 

「本当に恋人……ではないんだよね?」

 

 と、仄かに熱の入った声で聞いてきた。

 

「……? お前もかい」

「どうせショウのことだから、賭けにでも負けたんじゃないの?」

 

 俺の隣を陣取った理世が、こちらの顔を覗き込みながらぶっきらぼうに事実を言い当てる。辟易した様子すら見せない彼女は、問い詰められている俺を見て楽しんでいる節すらあった。

 

「ねえ、ショウ。どんな風に負けちゃったの」

「別に負けではないさ。だって俺、似合ってるんだから」

「……若干、蘿蔔さんに似てきたわね?」

 

 本当のところは8対2で総合的には勝っているんだと付け加えたいが、この姿を見る限り、疑わしいとしか言いようがないだろう。

『蘿蔔さんもいい趣味してるわ。ちゃんとショウの脚の良さが』と呟きながら、理世は俺の女装姿をスマホで撮っている。

 その様子に応野はため息をつき、小野さんは理世に倣って『分かる。あ、タイツ履いてるじゃん!』と写真を撮り始め、飯井垣や岡村は目を点にしながら驚いている。

「だからって男としての尊厳まで捨てるなよ」と応野の肩を叩きながら、森くんが俺に言う。

 

「捨てはしなさ。せっかくなら両取りしてやろうと思ってね。どう、森くん。俺、可愛い?」

「…………そりゃ」

 

 大所帯なのでエレベーターの中で振り向くことも出来ず、肯定の意で色濃く顔を染めた森くんは負け惜しみを言うように声を絞り出す。その顔を見ていると、背中がサワサワする。

 なんだろう。近い言葉だと、楽しい、になるのか?

 

「おい、森」

「いやだってさぁ……付き合いなかったら女にしか見えないだろ……そういう応野はどうなんだよ」

「………………」

「お前もじゃねえかよ」

「んふふ。これでもハツカが選んだ服だからな」

 

 森くんや応野を見ていると、まるでハツカに照れさせられた自分を見ているようだ。

『他人の振り見て我が振り直せ』ではないけど、相手に見られると少し情けないというか、相手のペースに呑まれそうになるのは避けるべきかな。見栄を張ってる時にハツカに照れさせられたら、ポーカーフェイスを維持できるように頑張ろう。

 ピコーンと電子音が響いて、目的の階層についたことを知らせてくれる。

 

「する〜と上に来たけど、なにやるの?」

「サッカーとかバスケか……兎に角空いてるものから潰してく」

「お天道様が真上にいる前後なら確実に人が少なくなるけど、ここって天井がガラス張りだから、昼間だと日差しがちょっとね……」

「今日は日差し強めだからな。肌を気にする人にはNGってわけか」

「日焼け止め塗れば良くないか?」

「琥太郎は分かってないね……薬だけじゃ全ては防げないものなのだよ。誰もが蒼みたいな肌になりたいんじゃないんだから」

「唐突にアタシをディスるのやめてくんない?」

「俺は岡村の薄小麦色の肌好きだぞ。健康的な快活元気っ子って感じで、岡村に合ってて凄くいい」

「そうか? 好きって言われると照れるな……く、吼月もかわいいよ」

「ありがとう」

 

 今度は赤くなっている岡村の顔を見て、背筋がサワサワする。

 

「でも1番いいのはやっぱり理世ちゃんだよ〜〜、海に遊びに行った時、日焼け止め塗ってないのに全く焼けないんだもん! まったくどうなっているんだね、君の肌は!」

「私の肌は無敵だからね」

「あい変わらず餅肌ぁ〜」

「本当だ。柔らか」

「待って、優花も蒼もつまむのはやめて」

 

 戯れあっている女子たちを男子勢が引き連れて、最上階のフロアに入る。

 森くん達が言った通り、サッカーやバスケ、テニスといった色々なコートが敷き詰められた遊戯場になっていた。奥を見ればアーチェリーやバッティングセンターも設置されていて、充実っぷりに圧倒される。

 

「ここだけで1日潰せそうなんだけど」

「時間制限あるから思いの外全部回れるぞ」

「譲り合わなきゃいけないしね」

「ちょうどバスケのコートが空いたみたいだな」

 

 応野の視線を辿れば、数人の大人が別の場所に移動しようとしていた。次に使う人はいないようなので、敷居代わりのネットを潜る。

 俺たちはコートの周りに置かれたベンチに荷物を置いてから、チームを決めようと円陣を組みながら全員が拳を握る。

 

 

「納得いきません!」

 

 目の前にいる男に睨みつけるようにして、デスクの天板を両手で強く叩く男は神崎和也だ。相対しているのは、周りに置かれている物に比べて一回り大きいデスクに見合った革製の椅子に腰をかける男––––ここ、大未栄(おおみえ)弁護士事務所の所長、大未栄 幸治(ゆきじ)だ。

 所長とこの事務所で1番の弁護士の衝突に、私も、所長室の外で仕事をしているであろう他の所員たちも冷や汗を背筋に垂れ流している。

 

「だがね……」

 

 所長は歳の割によく生えている髪を触りながら、予想通りに想定以上の食い下がりを見せる神崎さんの威嚇を意に介さない。それどころか、少し呆れてすらいる。

 

「キミが納得いかなくても、悪いのはキミの方なんだよ」

「わたしは!」

「子供を殴ることが正しいとでも言うつもりか」

 

 その一言に神崎さんがグッと唇を噛んで黙り込む。

 騒動の発端は、彼が贔屓にしている友人の息子である吼月ショウに暴行を加えたことから始まる。何が起爆剤になったかは分からないが、一緒に遊ぶべきではない相手と夜を過ごしていると、『誤解』したのが原因だ。

 そう、誤解。

 これがまた厄介なもので–––––

 

「君の沸点がよく乱高下するのは知っているが、だからと言って、子供の話を聞かずに殴り飛ばす弁護士が……大人が居ていいと思うのか?」

 

 所長が懐から再び(・・)取り出したのは彼のスマホ。

 そこには神崎さんが吼月ショウに暴行を加える始まりから終わりまでの音源が入っている。

 十数分近く殴られた音声が続くので、私も右耳から左耳に聞き流そうにも聞くに耐えないものだった。それが何個も届いているらしいから、全部聞けば耳にタコができるだろう。

 

「さっきも言ったが、これを聞いた時は心底驚いたよ。これまで好き勝手やっていたが一線を守っていたキミが、易々と飛び越えるとはね……これが口外されることはキミにも、私たちにも大きな被害が出る。神崎くんが有名になりすぎた弊害かな」

 

 神崎和也、調べればすぐに名前と写真がヒットするレベルで有名な弁護士。最近はテレビにも出始めているので、余計に人の目に晒されることが多い。

 そんな彼が児童虐待をしていると世間にバレたら大変なことになる。最悪この事務所潰れたりするのかな、と私はぼんやりと大した危機感もなく思っている。

 

「だが、吼月くんもそれは望んでいない。口外しない代わりにとある条件を出してきた」

「……それが彼への接触と私の単独行動の禁止ですか」

「その為にこの子がキミの監視係となる」

「大未栄弥恵(やえ)です。よろしくお願いします」

 

 私は姿勢を正して、神崎さんに軽く会釈する。

 

「孫娘だ。これから吼月くんに会う時はこの子と一緒か単独で行かせるといい」

 

 神崎さんも同じだけの深さの礼を返してくれるが、内心では納得していないようだ。所長もそれを見抜いていて、神崎さんに更に追撃をかける。

 

「そろそろ腰を据える時が来たというわけだ。せっかくテレビにも出て広報活動だって好調、もう少し落ち着きを見せたらどうだね。何事にも、例えそれがキミの嫌いな家族関係でも」

 

 歯が砕けているのかと錯覚するほど強く噛んだ音がした。

 

「少なくとも、彼は君の所有物でもなければ不満を発散させる吐口でもないよ」

「…………」

 

 神崎さんは目を閉じてから一度呼吸をすると、張っていた肩の力がげっそりと抜ける。そうして、『分かりました、失礼します』とだけ言って所長室を去っていった。

 

「……神崎さんってもう少し大人な印象でした」

「十分大人だよ。ただ」

「家族のことになるとどうしても蘭花(らんか)のことをね」

「こんにちは、朝霧さん」

「どうも弥恵ちゃん」

 

 入れ替わるようにして所長室にやって来たのは朝霧日和(ひよ)。神崎さんとは5つ違いの女性だが、今の流れからして昔馴染みのようだ。

 

「その……よろしければ、蘭花さん?という方についてお聞きしても?」

「訊くと言っても、言えるのはひとつだけ……殺された妹さんなの。少なくとも人としては」

 

 肩を落としながら彼女は言う。

 

「分からなくて良いのよ。でも、気をつけなさい……鬼に噛まれないようにね」

 

 彼女が言うとおり、よく分からなかった。

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