よふかしのあじ   作:フェイクライター

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第八十一夜 ダウン

 なぜ応野秀明()は食べるのが遅いのだろう。揚げ物という頼むものが悪いのか、俺の箸の進みが悪いのか。

 どちらにせよ遊ぶ度に自分の食の遅さを痛感する。

 遊びたいことは沢山あるのに食事にばかり時間を取られるのは腹が立つ。だからと言って量を減らすと腹が空くし、細かく食べても余計に金を使うだけから嫌だった。

 今回はマシではある。

 皆川や鍋島もまだ食べているし、バッティングをやり終えて戻ってきた都雉もいる。話し相手がいるだけ、まだ無駄な時間というわけじゃない。

 因みに森は時間まで2階にあるストファイをやるらしい。俺も食べ終わったらやりに行こう。

 

「思ったより吼月のやつ普通だな」

「なにが?」

 

 会話を変えた鍋島に俺は問いかける。

 

「ほら俺たち、全部アイツがいるから勝てるなんて面白みがないんじゃないかみたいな事言ってただろ?」

「勝てないだろうからガンアクションでもやらせようって話な」

「思ったより普通に遊べてるし、バスケなら応野、サッカーなら都雉みたいに結構対抗馬がいるからバランスが崩れるってこともない」

「女子でも理世や蒼がいるし」

「だから意外に楽しいなって」

 

 鍋島の話には完全に同意だった。

 強すぎるってのは見てる分には良いけど、やり合うとつまらないが勝ってしまう。大会とかじゃない限りどちらからしても損しかない。

 

「倉賀野だけと遊ぶかと思ったけど殆ど俺たちといるもんな」

「てっきり理世と遊ぶ口実に使われたかと思ったわ」

 

 不安はあったけれど上手く行ってる。女装–––中性装?–––は流石に驚いたけど、特に問題ではない。

 そこだけはほっとしているし、倉賀野も吼月とふたりっきりの時間を作れたみたいだから良かったと心底思う。

 ただ、蘿蔔さんとゲームをしている時の吼月を見ている俺からは、吼月が本当に楽しめているかは分からない。けれど、アイツも楽しめてくれたらいいなと思う。

 そうすればきっと、

 

「これなら別にマヒルが居なくても問題ないな」

 

 嫌な話題なのに、俺は納得しかけてしまった。

 

 

 

 

 プリクラの機台の中にトレードマークのポニーテールを揺らしながら岡村が入っていく。人が入ったことを探知して、機台の天板に設けられた【使用中】を表す淡いオレンジのランプが点灯する。

 俺も後に続いて、白い機台の中へと入る。

 ドアを閉めて岡村に近寄る。ドアに鍵はついていない。外にも中にも着いていないが、男性のみで入れないのと同じように防犯上のためらしい。

 

「理世は放っておいてよかったのか?」

「メンタルもダウンしてたし、休憩は必要だろうからね。ベンチに座らせてきたし、小野さん達もいるから大丈夫だよ。それに撮り終えたら復活してるんじゃないかな」

 

 蘇ったらデッカーを一緒に見て、太◯の達人でドンブラの曲を打ってちょうど1時ぐらいだろう。

 腰ぐらいの高さにある操作盤––––そのタッチパネルを備え付けのタッチペンでタップすると暗くなっていた画面がこちらを写した。背後には淡い桃色と白の壁に身体を預け、微かに俯きながら俺を伺う岡村がいる。

 

「それで? 俺に何か相談したいことがあったんだろ?」

 

 声をかけると、岡村は下げていた顔をゆっくりと持ち上げる。

 

「お仕置きって言ってたけど……、んっ………なにやったの?」

「理世も言ってただろ? 変顔だよ。変顔3つと普通の3つずつ。ここで印刷もしたよ。変顔といってもそこまで酷いものじゃないけどな」

「どれくらい?」

「ベロバーって感じ」

 

 実際はスマホにもっと多くの秘蔵写真が保存されているのだが、それを伝えるのは禁止だ。口にしたら興味を持たれてしまいかねないからだ。

 

「……あんまり意地悪してやるなよ。理世は吼月のことが、好きなんだから……お前がその想いを利用して弄んでるように見えちゃうのは嫌だわ」

「なるほど、確かにそういう考え方もある。理世にも謝っておこう。悪かったな岡村」

 

 振り返って岡村に頭を下げると、彼女は想定外の事態が起こったと言わんばかりに狼狽えた。

 

「あ!? いや……っ!? アタシじゃなくて!」

「でも、岡村は理世にお仕置きする俺を見たくなかったんだろ? 不快に思わせたなら謝るよ」

「ふかぃ……とぉかじゃなくて……いやまぁあってんんっ……」

「なに悶絶してるんだよ?」

 

 何でもないです………と岡村は口を押さえながら目を逸らす。なぜ呻いているのか俺には理解できなかった。まるで本能が理性とは真逆の言葉を口にしたことを顔を赤くして恥じているようだが、彼女の言い分は最もだし不快なモノを見たら誰だって嫌だろう。

 例え俺なんかが殴られていてもハツカは気分が悪くなった。

 暴力や害意はやっている本人達の刹那的な欲求を満たすだけで、周りにとっては不快の対象にしかならない。

 やった事ぐらいは内緒にするべきだったか。

 

「……その話は置いておいてさ。吼月ってさ、女装好きなのか?」

 

 岡村はこちらを探る視線を止めずに尋ねてきた。ジロッと頭から足先までねっとりと見つめる視線が俺の身体を這い、ロングスカートからはみ出る足首あたりで停滞する。

 焦ったいなと思いつつ、アイスブレーキングだと考えて澱みなく、過不足なく答える。

 

「女装は嫌いだよ。でも、負けちゃったんだから仕方ないよね」

 

 流石に女装をしてると常にハツカに縛られてる気がして嬉しいとは答えられなかった。

 

「ふぅん……負けたら仕方ないんだ」

「賭けだったからね。自分たちで決めたルールを度外視にしたら信頼どころか信用だって無くなっちゃうし」

「じゃあアタシが勝ってもしてくれるのか……? 興味本位で聞いてみるけどさ」

「やって欲しいことがあるんだ」

「まぁ……」

「言ってごらん?」

 

 操作盤にもたれかかり、脚を組む。スカートを摘むと、捲れ上がって脹脛まで露出する。特別に襟も引っ張って首筋と胸元を軽く見せつける。首周りを晒したことに意味はない–––岡村は人間だし–––けど、この方が色っぽいしハツカっぽいなと思ったのだ。

 脚を見せたのは多分、容姿では顔の次に魅力がある場所だからだ。キョウコさんも俺の脚を見てウットリとしていたので間違いないだろう。

 効果は覿面で、岡村の顔は熟したトマトのように真っ赤になっていた。

 

「その……そのさ……もし勝ったら一ヶ月間アタシが言った通りの服装で過ごして欲しいなぁ〜〜なんて……」

「…………なんだね。キミも男の娘好きかね?」

 

 彼女の願いに肩を落とすように呟いた。ほんの僅かな落胆も感じさせない程度の吐露。

 俺の周りに女装をさせたがる輩が多いことへの呆れもそうだが、それよりも本音での話し合いにならない岡村と俺への不信感だ。

 

「アタシのユニフォームとか着て欲しいんだよねぇ。あとはメイド服とかさ。知ってるか? 理世から聞いたんだけど《ゔぁんぷ》ってメイド喫茶に新しく入った子らしくて、それが吼月にすっごく似てて可愛いんだよ! 今度居たら接客して欲しいんだよなぁ」

「そ、そうか……まぁ勝ったらやってやるぞ………?」

 

 うっとりとしながら夢想するのは構わないが、そのメイドに会うことは2度とない。本人である俺が言うのだから間違いない。

 

「にしてもお前、自分の服を俺に着させるつもりか?」

「それだって蘿蔔って人の服なんだろう?」

「確かにそうだが」

 

 ハツカは男だし、女の岡村とはまた別だ。女性達でも事情があったり、面白がって異性装をさせる人達もいる–––《ゔぁんぷ》もそう–––だが、並べて自分が着ないものに限るという前提がある。

 けれど、岡村はその前提がない。

 

「でも嫌だろ。男が自分の服を着るなんて」

「そう? アタシは別になんとも思わないけど」

 

 真っ直ぐ見つめてくる岡村に嘘の気配を感じれなかった俺は曖昧に頷いて納得する。

 俺の女装姿が見たいのか、自分の服を着せて女装する男を見て楽しみたいのか。どちらでも変わりはないが、後者の方が悪質的で嗜虐的な考え方だ。もし彼女がそうなら、俺は加虐愛好家を引き寄せるフェロモンでも出しているのかもしれない。クソみたいな性質で嫌になる。

 さて、その話は置いておいて––––このままでは本来の目的と違った会話だけで終わってしまいそうだ。

 大きく狙いから外れると思った俺は、無理やりに話の路線を正すことにした。

 

「それで? 本音は?」

 

 岡村が「え?」と溢した後、すぐに罰の悪い表情になっていく。

 

「エレベーターで俺に話しかける直前、どこか辛そうだった。その相談じゃないのか? 考えられるとしたら部活動があるが、今年は絶好調だって理世から聞いたし、去年みたいなオーバーワークや不眠症でもないから違う。

 だとしたら岡村先生のことだと俺は睨んでるが、どうだ?」

「ンッ……ッ」

 

 俺の指摘に岡村がグッと唇を噛む。

 

「体育の岡村先生は岡村の祖父だったろ。今月の初めからずっと休みで、俺たちの体育は今も女子と合同でバレーボール……来月からはバドミントンらしいけど、そこはどうでもいい。体調不良だって聞いたが、岡村先生は大丈夫なのか?」

「……どうなんだろうね」

 

 曖昧に笑ってみせる岡村の姿が余計に心配になる。

 

「どうなんだろうって……いや、そりゃ俺は医者じゃないけどさ、吐口ぐらいにならなってやれるぞ」

「吐口ね……」

 

 嘆息してから岡村は話し出す。

 

「そうだね。吼月の言う通り、おじいちゃんは体調不良で引きこもりっぱなし。しかもウチって珍しく祖父からアタシまで同じ家に住んでて自宅があるっていうのに、わざわざ格安ホテルを借りてそこにずっといるよ」

 

 じめぇっとした陰鬱な口調で語る岡村の声色は、聞いている俺の五臓六腑に深く染み込む。この暖色の空間が泥で塗りたくられたように冷たく思えた。

 他人の相談を聞く時は相手のテンションに合わせて表情や声色を作るといいとされているが、暗すぎても相手の口を塞いでしまう。程よい、岡村が話しやすいトーンで聞き返す。

 

「そうか、そいつは気がかりだな。先生のこと心配か?」

「当たり前だろ。家族なんだし」

「そうか、それは良い事だ。家族仲が良好で体が悪いのに一人になってるのか?」

「訳わかんないでしょ? 本人は一時的なものだって言ってるんだけどさ」

「会いには行ってるのか?」

「無理。両親は主張中だし、アタシも今日が偶々オフだっただけで基本的に部活動が忙しくて会えてない。本人も会いたがってないけど、メールでのやりとりはしてるから、とりあえずは大丈夫だとは思う」

「最後にメールをやりとりしたのはいつ?」

「昨日の夜」

 

 メールが打てるだけの体力があるなら一先ずは問題ないのだろうか。それとも電話ではなくメールしか打てないと悲観的に捉えるべきか。

 安全策ならやはり最悪を想定すべきだ。

 俺は「よし!」と手を叩いて身体を起こす。

 

「だったら今から会いに行こう」

「……あ、え」

「だから今から先生の所に行くんだよ」

 

 彼女の溢した声を困惑だと思った俺は繰り返す。

 悪いことではないはずだし、悩みがあるまま遊ぶよりは終わらせてから楽しんだ方が心地よいだろう。だというのに、岡村は俺から目線を逸らして何か言いたそうに唇を指で揉む。

 

「いや、でも今はみんなで遊んでるんだよ?」

「遊びならまた募ればいつでも出来るよ。それよりも背負って笑ってる岡村よりも何もなく笑顔な岡村で居て欲しい」

 

 現状優先すべきは憂いを晴らすことだ。でなければ、岡村がわざわざ俺と個室に入ってふたりきりの状況を作るはずがない。

 

「それに少し顔を見てくるだけだ。そしたらすぐに戻って来て小野さん達とも遊べる。その為のチケットだろ?」

 

 このタイミングでふたりだけになるなら、小野さん達と居ても気分が晴れないか、楽しく振る舞えないのどちらかだ。息抜きの為に遊んでいるはずなのにかえってストレスになっているなら、大惨事一歩手前まで来ている。

 なら、逃すべきではないと俺は考えている。

 しかし、本人はそう思っていないようで少し声を大きくして反論してくる。

 

「お前さ、分かってないだろ。アタシたちだけで遊んでるわけじゃないだんぞ? 勝手に抜け出したら空気が悪くなる」

「今を辛く思ってる人たちに後ろ指させる連中は、大抵自分が恵まれてることが分かってないだけだから気にしなくていいよ。特にアイツらみたいに今が楽しい奴らはね」

「でも理世だっているんだぞ?」

「理世との埋め合わせも今度するよ」

 

 よく分からない。別にオバサンみたいに死んだわけでも、これから死ぬわけでもない–––交通事故などの不幸は兎も角–––のに、何故そうも繰り返し会える奴らの事ばかりに気を遣うのだろう?

 本当は岡村先生のことなんてどうでもいいのだろうか?

 

「だからね、一緒に行こう? 俺は岡村にもちゃんと笑ってて欲しいよ」

 

 もう一押ししてみても、言いたいことが言えないような顔をする岡村。それどころか俺に対して不快感すら覚えているように唇を歪ませている。

 そして諦めたように嘆息。

 

「前から聞こうと思ってたんだけどさ。吼月は笑顔のことをなんだと思ってるの?」

「天晴れって感じかな。翳りがなくて純粋に今が幸せで仕方ない、やるべきことが終わった後にカレーを食べた時の気持ち? まぁ、そんなところ」

 

 やはり頭の中で思い浮かぶのは、雲ひとつない快晴の青空で輝く天辺の太陽だろう。月がゆったりとした平穏な幸せなら、太陽は本人しか実感できない幸せの最高潮。

 他の光を塗りつぶすほどに輝くことができたら、そこから先はもう大丈夫だ。

 

「それがどうしたのさ?」

「だったらアタシのことも見てよ」

 

 やはり意味がわからない。ハツカ的な考えをするなら、きっと俺が自分で答えを見つけなければいけないのだけれど、苦しんでるはず岡村が遠回しに伝える意味が分からない。

 ジッと岡村の目を見ながら首を傾げる。

 お爺ちゃんこと岡村先生のことはちゃんと心配してる。けれど、本人が距離を取っているとはいえ自分の遊びを優先している。

 俺に相談するほど考え込んではいる。けれど、抜け出して心配を解消したいわけでもない。

 この違和感を上手く繋がるとしたら––––

 

『サスペンス物で『あ、事件起きるな』ってセオリーみたい感じかな……』

『でも、皆川や応野たちは穴埋めだと思ってる気がするけどな』

『アタシたちだけで遊んでるわけじゃないだんぞ?』

 

 そりゃ、そうか。今遊んでる面子は、予定が合わなかったり自分たちより大好きな優先するマヒルを不当に責めるような連中だもんな。マヒルは別にアイツらを接待するためのNPCではないのに、簡単に悪口だけ言える連中だもんな。

 

「そうだな、悪かった。今はとりあえず楽しもう」

「吼月……」

 

 俺の言葉にホッと肩の荷を下ろす岡村の姿を見て、これが正解だったのだと胸の中で嬉しくなる。踏み外さずに済んだ。

 どういう理由で岡村がこっちを優先したかは分からないが、少なくとも確執を産んで学校生活が面倒になるのは避けたいのだろう。岡村はマヒルと違って、アイツらと離れて暮らす手段がない。

 

「ほら、タッチペン」

「お……おう」

 

 岡村の手を引っ張って俺の横に立たせる。ようやくプリクラの撮り始める。

 

「吼月は猫とかの方が可愛いんじゃないか? あ、熊みたいにモフモフにするのもいいかもな」

「俺が男だってことを思い出してくれ。だったら、岡村にも犬耳つけてやる」

「なんか描こうよ。星……だとありきたりかな」

「ありきたりでも楽しい思い出なら充分十分! とりあえずやってこうよ」

「ならメイドっぽいポーズを取ってよ。萌え萌えビーム書くからさ」

「言わないぞ……?」

「何をだよ」

 

 遊びに転じると先ほどの暗さは何処へやら。柔らかな笑みを浮かべながら会話を弾ませる岡村は、心配事とは無縁にしか思えない。

 一息ついてはずなのに、違和感が拭えなくて気持ち悪い。

 そうして撮り終えてプリクラの機台の外に出る。小さな枠に収められた俺たちをスマホの裏に貼り付ける岡村は、じっくりと眺めながら言う。

 

「やっぱり吼月って可愛いよな」

「……岡村も俺のことを愛玩具みたいに見てるのか?」

「んっ!? そんなことないよ、人間相手に……」

「本当かぁ?」

「なんだよ? こっち見るな」

 

 顔を背中で庇う岡村の表情を覗こうとすると、スマホが振動する。

 理世か応野からのラインだろうか。すぐに取り出して画面を見てみると見慣れない番号からの電話だった。

 

「……えぇ……悪い」

「どうぞどうぞ」

 

 出るか迷うが応えることにした。番号からして詐欺などのものではない考えたからだ。

 俺が『もしもし』と尋ねれば『吼月ショウくんですね』と女性の声が聞こえてきた。

 

大未栄(おおみえ)弥恵(やえ)。キミの願い通りに神崎さんの監視役になった者ですが、吼月くんはいま何処でなにをしているんですか?」

「……信じるとでも?」

「ですよね。ですので」

「私だ。吼月くん……今回はウチの職員が迷惑をかけたね。今のは私の孫娘だ」

 

 女性から入れ替わって、初老の男性の声が聞こえてきた。今日の朝も話した相手であり、神崎が所属する弁護士事務所の所長の声だった。

 なら、直接所長の電話でかけてくれば一目瞭然だというのに、相当こちらを下に見てるのが分かる。

 

「なるほど。本当のようですね」

「ああ、また娘と代わる」

 

 スマホが引き出す音が大未栄の娘の声に早変わりする。

 

「そういうわけです。吼月くんの条件は呑んだ形にしたけれど、神崎さんが中々言うことをきかなくて」

「で、とりあえず今俺が何をしてるか教えて釘を打てと」

「話が早いですね」

「アンタらの仕事でしょうが……はぁ、今回だけですよ」

 

 肩をすくめながら答えて露骨な反応を電話越しにこれでもかと伝えるが、相手は何も思う事がないようで『神崎さんのラインにお願いします』と事務的に反応するだけ。一応こっちは暴行を受けたのに、まるで感情のない機械のようだ。俺が言うのもなんだが、壊れてるのか。

 そして、思ったよりもクソだ。

 もうひとつ鍵を打った方がいいかもしれない。

 

「とりあえず、バスケやってる時を送ってやればいいだろ」

 

 パパパと写真だけを送りつけてアプリを閉じようとする。フリックする直前の指が止まるが、それと同時に岡村を俺は見ていた。

 

「電話終わったのか?」

「そっちは終わった。なあ、岡村」

「なんだ?」

「俺たちって連絡先を交換してなかったよな」

「……まぁ、そうだね。わざわざ連絡しなくてもあの時とかはそっちから来てくれたし」

 

 俺は岡村の連絡先を持っていなかった。係りが少ないし、連絡を取る必要がある間柄でもないので仕方ない。

 けれど、なにか吐き出したい時には必要だろう。

 嫌な事があったらしたら直ぐに受け止められるようにしておこう。

 

「なら、交換しようか」

「うん! そうしようか!」

 

 妙にはしゃぎ出す岡村を見て笑みが溢れそうになる。俺なんかの連絡先を知れるだけでここまで嬉しく思うなんて理解ができなくて逆に笑えてしまう。

 

「そりゃ顔だけじゃ分からないか」

「ん? 何か言った?」

「いい笑顔だなって」

「お前誰にでもそう言うのやめとけよ」

「でも、いい笑顔なのは間違いないんだよ。岡村の笑顔、俺は大好きだし。ほら、一緒に写真撮ろ」

 

 岡村のそばに近づけてスマホを頭上に掲げると、その開いた脇に彼女が右腕を入れて引き寄せてくる。驚きの隠しながら俺も岡村の傍に腕を回すと、擦りつくほどの距離になる。

 俺は不快感はないが、岡村はどうだろうか?

 特に離れないから問題はないようだ。

 シャッターを切り、写し取られたお互いの顔は笑みしかない。笑ってはいるが、彼女の赤々とした顔色は湯気を噴き出して弾けそうなほどだ。

 その写真をラインで送り、『これからもよろしく』と呟く。コメントにはすぐに既読がついて『アタシもこれからよろしく!』と岡村が返信してくる。

 

「それじゃ」

「待って吼月」

「なに?」

「もし理世が復活してなかったらさ、バッセンに行かない?」

「お、勝負か? 良いぞ。でも、そろそろ理世も叩き起こした方がいいかもな。謝らないといけないし」

 

 そうして、俺はもう一度送った写真を見つめる。

 笑顔だが、その原因が分からない。表情や声でしか相手の言動を信じれないのは、俺が相手の気持ちが分からないっていうのもあるかもしれない。

 ここも直すべきなんだろう。

 人と向き合うためには必要なことなんだ。

 

 ただ、ここまで分かりやすく照れてくれると凄く良い。

 なんとなく、凄くいいのだ。

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