よふかしのあじ   作:フェイクライター

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第八十二夜「記号」

「少しの時間だけでも結構周れたな」

 

 俺は早いテンポで歩きながら伸びをする。隣には復活した理世が居て、彼女も満足気に頷いた。

 二人きりで遊ぶ時間も終わりに近づいたので、集合場所であるフードコートに向かっていた。ラインで応野に『まだフードコートにいるか?』と訊ねれば、少しだけ待って『いる。早く来て』と返ってくる。

 どうやら、俺たちが最後のようだ。

 

「この階にあるゲームは大抵できたんじゃない?」

「ああ。にしても同時にフルコン決めるのは楽しかったな」

「好きな曲を叩けるっていうのは良いものね。昔だと小森団地自治体が主催する夏祭りで本物の太鼓が叩けたらしいけど、今は自治体に入る家族の数も子供の数も減ってやらなくなったらしいのよね」

「盆踊りの?」

「盆踊りの練習の時ね。休憩時間だと自由に叩けたらしいし」

「今なら動画サイトを見ながらリアル◯鼓の達人ができたわけか」

「勿体無いわよね。珍しい行事が消えてくのは」

「そう考える人が減ってるんだろうな」

 

 この会話に混ざる者は他にいない。あるのは、整然と並ぶクレーンゲームの筐体が垂れ流す音だけだ。岡村たちが居ないのにはちょっとした訳がある。

 

「岡村、大丈夫かな?」

「大丈夫でしょ。知恵熱みたいなもんだし」

「そういう類のものなのか? 5人でプリクラ撮った時ぶっ倒れたけど」

「近寄りすぎたからね」

「流石に暑かったか……結局昼前までやったうえに、アイツ動きっぱなしだったしな。スポドリ買っていってやろうかな」

「……」

 

 約束通り理世を引き摺って向かったバッティングセンターが終わると、せっかくだから5人でプリクラを撮ることになった。発案者は小野さんである。

 

「何処からどう見ても女子の軍勢にしか見えないわよね。ね、ショウちゃん?」

「やめろ……岡村にも気付かれそうなんだから……」

「知ってる」

「……なんで?」

「私がSNSの写真を見せたから」

「貴様……ッ!!」

「フフッ! ただでは起きないってね。お返しよ!」

「お返しは俺のセリフだと思うだけど」

 

 タイミング的に逆だと思う。変顔させた後に伝える暇なんてなかったから、朝の待ち時間の時にでも伝えたんだろう。岡村が俺だと断定していなかったあたり、理世のオススメ店員というふれこみをしたんだ。

 別に構わないが、店に迷惑をかけそうになるのだけはやめて欲しい。

 

「蒼がいつもの服装ならもっと女子度の濃い空間になったのに」

「へぇ、いつもとは違うのか。パンツスタイルのイメージしかないな。……にしても、男だけで撮れないっていうのも勿体無いよな。イラストやら文字とかで話の種を作るには持ってこいなのに」

「男女問わず全員がショウみたいに純粋なら良いんだけどね」

「子供っぽいって馬鹿にしてないか? いや、子供だけどさ」

「だってショウは知らぬ間に背後に立たれたり、他人がプリクラやってるのに無理やり割り込んで一緒に映ろうとしてきたりするとか考えつかないでしょ」

「盗撮はともかく、他人が使ってるのに横入りする意味って何……?」

「ナンパ。それ防止のためにエリアで区切られてるんだから」

「ああ……なるほど……」

 

 路地裏でメイド服姿の俺に声をかけてきた怪しい男たちのことを思い出す。確かに不審者らしき風貌の彼らなら女欲しさに割り込むのも納得できる。

 

「でもやっぱりアイツらともやりたかったな」

「なに? そんなに嵌ったの?」

「いいや。でも、女子よりも男子同士でわやわや楽しみたいってのはあるんだよな。大所帯ではしゃぐってこと自体初めてだし」

「……そう。何か他にわちゃわちゃ出来る物あったかしら」

「ビリヤード?」

「そんな大人数で出来ないわよ。ここはボウリングがベターだけど……待ち時間は四十分ね」

 

 もっと大人数で遊べるアトラクションを考えていると、頭上にフードコートの看板が現れた。お昼時のピークから時間が経っているので、席からあぶれた人もいない。

 俺たちはスムーズに集合場所に行けば、テーブルには飯井垣と応野、皆川、鍋島と都雉が食べ終えた席に着いていた。しかし、彼らを取り巻く空気が悪い。

 

「なにやってるんだ……あいつら……?」

 

 応野たちの姿が見えてくるが、テーブルに座る奴らの雰囲気が悪い。会話はしているが、楽しくないのが離れた俺たちにもすぐに分かった。

 理世が『……やっぱりこうなるわけね』と呟く。喜ばしくない状況なのは間違いない。俺は耳を澄ませて彼らの会話を聞き取ることにした。

 

「俺らのこと馬鹿にしすぎだよな、仲良くしてたのも自分のためとか」

「あそこまでして人気者になりたかったとかマヒルの方が馬鹿だよな。滑稽ってやつ?」

「それだわ。間違いない」

 

 皆川と鍋島の声と曖昧に頷く応野の呟き。飯井垣と都雉は目線を外して、ファストフード店を眺めている。

 なんでコイツら、遊びの場であけっぴろげに不快になる話をしてるんだ?

 理解ができなかった。嫌いな人同士で話すならともかく飯井垣は露骨に関わりたくない顔をしているし、公共の場で言う悪口は自分の立場を悪くするだけに思えた。

 実際に話していい相手の分別が出来ていないから雰囲気が悪くなっている。

 

「早く来いってそういうことか」

 

 助け舟がいち早く欲しいためのメッセージだったのだ。

 応野も辟易としているのだろう。

 

「やってやるか」

 

 俺は足音を消しながら皆川と鍋島の背後に近づく。絶えずマヒルへの陰口をやめないふたりは、迫り来る俺の気配にも、鬱陶しそうに耳に透明な壁を作る都雉と飯井垣の機嫌にも気づかない。

 まるで自分の世界に閉じこもっているようにも見えて、他人の心と接することが出来ていない。

 こういう人間にはなりたくないな、と思うと同時に、俺も二人と同類なんだろうと心に陰が生まれる。それは戯言だ。今は翳りなんて気にする必要はなく、ガバっと踏み出すだけ、

 

「よっ」

「おわわぁ!?」

 

 ふたりの肩に腕を回して囁いてやれば、彼らの喉は大きく震え、声は建物から飛び出さんばかりの大声量。ニシシと笑ってやりたい気持ちを抑えようとして……結局抑えられなかった。

 見下ろすふたりの顔は俺と対照的に歪な笑みを頬に刻む。

 

「く、吼月……? 聞いてたのか?」

 

 おずおずと訊ねてくる皆川に俺は笑ったまま返す。

 

「そんなことよりさ、2階に格ゲーがあるらしいからやろうぜ」

 

 焦燥感と安堵が入り混じって表情筋が死にかけるふたりを見てまた笑いそうになった。

 

 

 音もなく近づいてきた吼月に驚いたのは、皆川と鍋島だけでなく応野秀明()もだった。ふたりが卑しい笑顔をしていたのもあって、吼月が悪霊を捕まえる幽霊に見えた。コイツなら這い寄る貞子さんも後ろから抱きついて背骨を折れるのではないだろうか。

 

「え? なんでいきなり?」

「皆川と鍋島は格ゲーが強いと聞いた」

 

 吼月が振り返った先にいる人物は予測済みで、見ればやはり倉賀野がいた。彼女は軽く手を振って視線に応える。倉賀野は俺たちともよく遊ぶので、内情を吼月が聞くとしたら倉賀野しかいない。

 事実、皆川たちは森に次いで格闘系のゲームが上手い。俺とバスケをした時と同じように強い奴と戦いのだ。それを知ったふたりは『いいぜ』と立ち上がる。

 

「それで応野たちも来るか?」

「俺はアイス食ってから行くよ」

 

 俺は首を横に振る。その一言に続いて都雉が『俺もー』と間伸びした声で呟いた。

 飯井垣だけは『俺はやってから買おうかな』と立ち上がった。

 

「また後で来てくれよ。あ、集合時間伸ばしていい?」

「なら、30分ぐらい伸ばすか」

「そうなると2時か。そうだ。休憩が終わったらボウリングやりたいんだけど、みんなはどう?」

「いいんじゃね? アイスの持ち込みとかできるし」

「皆川たちは?」

「問題ないぞ。予約はやっとけよ」

「へーい、岡村たちにもボウリング場前に集まってって連絡しておくわ」

 

 そう言って吼月はスマホを取り出して、皆川たちを連れ去っていく。すれ違った倉賀野の肩を叩いて『じゃ、俺は行くから』と言って、倉賀野は『はいはい』と頷く。その様は表面的な意味だけじゃなく、深い所まで理解しあってる仲のいい熟年夫婦のように映る。

 皆川と鍋島の背中がエレベーターに飲み込まれたのを確認して、俺は肩から力を抜いた。

 

「サンキュー吼月……」

「男子を侍らせてる女子にしか見えんな。俺もあんな可愛い子が欲しいな」

「ノーサンキュー吼月……」

「いい趣味してるわよね、蘿蔔さん」

 

 先ほどまで皆川が温めていた椅子に倉賀野が腰をかける。吼月が言っていた通り蘿蔔さんとは仲がいく、二人とも吼月の女装を好んでいるみたいなので案外似た者同士なのかもしれない。

 

「にしても、良かったわね。タイミングばっちりで」

「ホントだよ……愚痴に付き合う時ほど面倒なことはない」

「その割にアンタは乗り気だったように思うけど」

「っ……」

「フフフッ」

「おい都雉……!」

 

 倉賀野の一言が耳を痛めつけ、心に刺さる。顔を顰めずにはいられなくて、横で見ていた都雉が吹き出すように嗤う。

 恨めしそうに都雉を睨みつけると、倉賀野が肩をすくめて言う。

 

「嫌だったら別の話題にでも変えればよかったじゃない」

「できたら苦労しねえよ」

「そりゃね。けど、するつもりもないものね」

「……チッ」

 

 滑稽な者を見るような弧を描く眼をしている。ニヤニヤと笑っている。言い返してやりたいけれど、耳が痛いのが彼女が正しい証拠だ。

 

「嫌よね。仲が良いと思ったら、相手からするとそうでもないっていうのは」

「さすがフラれた女は違うな」

「そうね。過信しすぎるのも良くないわ」

 

 嫌味を言ったつもりなのに逃げずにこちらを見て頷く倉賀野の姿は、逞しくて人として立派だと思った。

 だから、反発しか出来ない自分が情けなくて、卑しくて、嫌な気持ちで胸がはち切れそうになる。

 

「でも、応野もそうでしょ? 勝手に期待して、勝手に裏切られた気になってる。自分を省みることもしないでね」

「……マヒルが勝手に離れただけだろ」

「相手の予定も考えないで来ること前提で、女子を誘う札にしてるのは貴方たちだったわよね」

 

 ぶつけるべきではない不快感を押し殺そうとして眉を顰める。倉賀野はまた肩を落として、ゆっくりと艶めかな唇を動かす。

 言うことはなんとなく想像できた。

 

「さて聞くけど、なんで応野は––––」

 

 

 

 

「皆川くんたちってマヒルのことが好きなの?」

「は?」

 

 ふたりの縮こまった声はゲームの筐体から流れる《YOU WIN》という音声ですぐに搔き消える。髑髏武者を女刑事が踏みつける場面を映す画面から目線を外して、筐体の向こう側を覗き込めば、皆川と鍋島もこちらを怪訝な表情で覗き込んでいた。

 何を言い出すんだコイツは––––と言わんばかりの正気を疑う瞳が俺に向く。

 

「え、違うの? 森と飯井垣は?」

「俺に振るなよ」

「……えぇ……う〜〜ん……なんて言えばいいのやら」

 

 隣の筐体でプレイしている森は–––来たら既にやっていたので横の席をもらった––––きっぱりと拒絶し、飯井垣は他のメンツを見渡しながら曖昧に笑う。

 俺は首を傾げながら更に問いかける。

 

「なんで悪口なんて言ってるの……?」

「いや……そりゃ……」

「嫌いだから、なぁ」

「二人の場合は蛙化現象ってやつだろ」

「だったらマヒルなんて忘れちゃいなよ。その方が絶対に楽だよ。せっかくみんなで楽しいことしてるのに、嫌いな奴のことを考えるなんて勿体無いし」

 

 嫌っていると言うならそれでいいが、態々悪口陰口を叩く理由が分からない。加えて、俺が忘れてしまえと言えば、皆川たち3人は渋い顔をして受け入れようとしない。

 ……あれか? ツンデレってやつか?

 

「吼月もマヒルの友達なんだろ? よく言えるなそんなこと」

 

 考え込む俺に森が訊ねてくる。他の3人に比べてマヒルへの感情がフラットな彼は何食わぬ顔でゲームを攻略しているが、俺は『も』と口にしたことを聴き逃さない。

 

「皆川たちが嫌いなのと俺が好きなことは無関係じゃん。それに皆川がさっき『あそこまでして人気者になりたかったとか馬鹿みたい』って言ったけど、それならやっぱり捨てて置くのが一番効くと思うよ。みんなからの価値がないって証明だもの。やるなら徹底的にだ」

 

 そもそもマヒルが他人と居たのは寂しさを隠すためで、人気者になったのは副産物に過ぎない。大勢の人で満たされていた以前のマヒルならともかく、人気者という結果を捨て星見キク独りで満たされている今のマヒルに効くとは思えないけれど、コイツらの頭の中では有効だと思わせた方がいい。

 現に皆川と鍋島は『なるほどなぁ……』と呟きながら小さく頷いている。

 隣で森も一度だけ大きく頷いた。

 

「間違いないな。にしても、意外だな」

「服装が?」

「……そうじゃない。悪口とか絶対に止める奴だと思ってたからさ」

「不平不満を言うこと自体はガス抜きにも良いしな。流石に物を取ったり直接被害を出し始めたら動くけど。ただ、楽しい雰囲気をぶち壊すのはどうかと思うよ」

 

 チラリと皆川、鍋島と順に目線を巡らせれば、ふたりは脳に釘を叩き込まれたような苦笑いを浮かべる。

 

「自覚してるんだったら別の話題に変えなさいな。もし、マヒルとまた遊びたいなら繋いでやるから」

 

 今度は飯井垣に目を向ければ、ショボンとした顔つきとペタンとした金髪が相まってまるで雨に濡れた犬だ。

 

––––なぜコイツらは、目的もないのに好きにも嫌いにも振り切れないのだろうか?

 

「ま、てな訳でマヒルのことは忘れてちゃんと遊ぼうぜ」

「分かったよ。もう一戦だ。絶対に叩き潰してやる」

「いいね、もう一度足蹴にしてやるぜ」

 

 俺の疑問など他愛のない小言だ。口にする必要なんてない。画面に向き直り、ランダムボタンをポチッと押した。

 ランダムで決まった自分のキャラは道着を着ていて、そのキャラの数メートル先に二振り刀を持った骸骨を思わせる落武者がいる。先ほどと同じキャラ。どうやら皆川は武者が好きらしい。

 分かる。刀と鎧武者ってカッコいいよね。

 ゴングが鳴り渡りゲームスタート! 画面だけを見つめて、自分と相手のキャラの動作とフレーム数を思い出しながらジョイコンを的確に傾け、ボタンをタイミングよく押して皆川の攻撃をキャンセルする。

 

「うぅんんっ! くっそ!? 全然攻撃できねえ!!」

「ははっ、やっば。全部割り込まれてんじゃん」

「皆川〜〜、吼月のやつは足元弱いから払ってから浮かせたあとに、10連コンボ決めてから着地狩りのハメ技でパーフェクトいけるぞ」

「森みたいに出来たら苦労はしない!!」

「おお、やってるな」

「応野か。アイス食べ終わったんだな。……都雉は?」

「ここ限定のアイスが何種類かあって、それ全部食べるって。因みに倉賀野も一緒に制覇に乗り出したぞ」

 

 鎧武者を地面に落とさずに体力を削り切れるか試していると、応野だけがやってきた。理世も上手く行ったようだ。都雉と理世が一緒にアイスを食べている姿を想像すると、なんか腹が立って、技の回転速度が増していく。

 そして、数秒後再び《YOU WIN》という太文字をなぞるように音声が流れる。

 

「吼月、俺とやろうぜ」

「次は負けないからな森ィ!」

 

 森から視線を移して皆川を見れば、投げ返されるのは恨めしそうに見つめる瞳だ。

 

「くっそぉ……この女子みてぇな男に負けるなんてぇ……」

「関係ないだろそこは!?」

 

 皆川がため息をつく。

 

「にしても、何がいいわけ? 女装男子なんて。お前ホモなの? なぁ応野、結構仲良いんだろ? 吼月と女装男子って」

「倉賀野と同じぐらいには仲良いんじゃね」

「そうなるとちょっと気持ち悪い感じはするよなぁ」

 

 他人の感性はそれぞれだが、このご時世で公言するにはちょっと爆破範囲が広すぎるな……と考えながら、暗くなった画面に映る自分の目が威嚇をするように鋭く尖っていることに気が付いた。

 

「ハツカは凄く似合ってるし問題ないよ。てか、今だと十分スタンダードな考え方だろ? ましてや友達として過ごすぐらい訳ないじゃん」

「でも女装男子ってことは少なくても、女子としても見てるってことだろ? 今はともかくハタチ超えてムダ毛が濃くなったり、老いて女っぽく無くなったら嫌いになったりするじゃねえの?」

「確かにいつまでも男の娘ではいられないわな。よくて高校生ぐらいじゃね? 逆に女ならボーイッシュでいつまでも片付けれるけど」

「……皆川と飯井垣のくせに賢いことを……!!」

「鍋島表に出ろや」

 

 真っ暗な液晶に映る自分が遠くで歪んでいる。一瞬前の迫力がある目つきは崩れ落ちて、悲しく歪んで見えた。そんなことはない。表情だけは笑っている。

 

「そうかもな」

 

 皆川の言葉は事実だと思う。彼らは俺から見たハツカのことを言っているが–––俺はハツカを男としても好いているが–––ハツカからはどうだろうか。同性愛はともかく、ハツカはあくまで俺が【男の娘】になることを気に入っている。その良さは有限で、いつかは暴発してしまう爆弾だ。

 いつか、ハツカは俺に価値を見出さなくなる。回避するには吸血鬼になるしかない。

 その事が思った以上に嫌だった––––コイツら他人の嫌な事を絶え間なく言わなきゃ生きていけないのか?––––ダメだ、暗い雰囲気になったら自分の言葉すら守れない愚か者になる。目を瞑り、心の中で頬を両手で殴って意識を切り替える。

 

「俺はハツカが男だってちゃんと理解してるし、老いても仲良いよ。少なくとも俺は、お前らみたいに女装男子(記号)じゃなくてハツカ()として見てるから」

「……あ、悪い」

 

 ショボンとした皆川を見て、初めから言わない方がいいと思うよ、と付け加えた。

 ハツカも俺を見てくれているのだろうか。見てくれていると想いたくて、顔が強張っていた。

 

「そうだ、お前らに聞きたいことがあったんだ」

 

 話題を書き換えるため全員が俺を見て、応野が目を細めて言う。

 

「……なんだ?」

「保健体育で習うやつとか、自家発電とかって何か思い当たることある?」

 

 驚いたことに全員に心当たりがあり、盛大に噴き出した。そこでちょうどスマホのタイマーが鳴り、時計を見れば集合時間の十分前になっていた。

 

 

 ガタン……ゴトン……

 ガタン……ゴトン……………

 

 ボウリングを5ゲームほど遊んだ後、ダーツやバリアードなどを2チームに分かれて楽しんだ。中弛みもあったけれど、それなりに楽しかった。また理世と遊びに行きたいな。

 理世の機嫌がよければ応野や森、岡村を誘ってもいいかもしれない。

 

「それじゃ、またな」

「また月曜日に。夜更かしし過ぎるなよ〜」

 

 排気音と共に開いたドアから出ていく応野や皆川たちに手を振って、潜めた声で別れを告げる。

 17時ぐらいになったところでお開きになった。門限があったり、家族などとの用事があったりでその時間が限度だったようだ。飯井垣や小野さん、世木さんは一緒の車で帰り、森と都雉は近場にゲーセンがあるらしく施設前で別れた。

 理世も少し前に降りた。

 

『私はここで降りるから』

『なんでここ? 実家からも遠くないか?』

 

 そう尋ねれば、理世は笑いながら言う。

 

『人と会う約束をしてるのよ』

『……男?』

『違うわよ、JKよ。女子女子。共通の趣味があって、ここで落ち合うことにしてるのよ。それじゃまたね』

 

 俺の疑問が心底嬉しかったのか喜色満面の笑みを浮かべて下車した。

 そうして、今降りたのが応野たち3人。

 

「今日は楽しかったか?」

「うん、楽しかったよ」

 

 つまり、電車に残ったのは岡村と俺だけだ。

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