よふかしのあじ   作:フェイクライター

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第八十三夜「前提」

 背後から向けられるのは、矢のように鋭利で断続的に放たれる視線だった。目の前の絵画が本物か確かめる鑑定士を想起させる真剣な眼差しを浴びながら、俺は掃除機を床の上に滑らせる。

 ハツカの家で掃除していた時も思ったことがある。大した音もなく、軽く立てた足音で消える程度の吸引・排気音は家族で暮らしている人にとって、波が立たない過ごしやすい一時をくれる。遠慮を知らない騒音は周りからの目を集めて、苛立ちの原因になるからだ。かく言う俺も、団地暮らしなのでなるべく静かな––––俺のくだらない話はいい。

 言いたいのは、なんであれ無駄に自分へ突撃してくる波は鬱陶しいということだ。

 

「なんだよ、岡村」

「いえ! なにも!」

 

 岡村は顔をブルンブルンと振る。シュシュで一本になっていた黒髪は、今では解かれ綺麗に宙を舞い、それらに隠れて見にくいが頬がほんのりと赤くなっていた。

 

「誘ったのはそっちだろ」

「いやまぁ……そうだけどさ……!」

 

 夜空から見れば、数ある住宅街のうちのひとつ。小森の駅から徒歩十分の距離にある小さな庭と畑を持つ赤い屋根を被る一軒家がある。つまり岡村家に俺は来ていた。

 駅に近いのはとてもありがたかった。今日の夜は、神崎対策で服の買い出しをするために駅でハツカと待ち合わせをしていたからだ。

 さて、経緯を要約して語れば『今日もうち一人で困ってるんだ』『知ってる、だから行っていいか?』『来てください』と簡素な流れで、岡村家へとやって来た。

 途中、食材がないらしくショッピングセンターによって一緒に買い物をした。今日のお望みは揚げ物らしく、それに合わせて料理を作る。

 

「二階建てだと広いな。掃除のやりがいがある」

 

 俺は掃除機のダストボックスの中に溜まったゴミをゴミ袋に捨てて、厨房に立つ。冷蔵庫から鰹のタタキ、水菜や玉ねぎなどの野菜を取り出しめいると、背後から岡村の声が飛んでくる。

 

「そう言ってくれると助かる。家族で暮らすなら良いけど、アタシひとりには広すぎる」

「たまになら良いもんじゃない?」

「誰にも何も言われないの最高だけどさ」

 

 彼女はソファの背もたれに顔を乗せながら首を動かす。リビングの一角にはコンビニ弁当やカップ麺の容器、プロテインの袋などが押し込まれたゴミ袋が置かれていた。

 リビングに足を踏み入れた時は絶句した。足の踏み場がないという言葉通りの光景が広がっていて、別世界に来たような気分にすらなった。

 30分かけてようやくマトモな状態に戻った。

 

「掃除とか苦手なんだよな……」

「やり方さえ覚えれば簡単だよ。今は料理や整理整頓の仕方の本とかあるしね。明日からは一緒にやってみようか」

「明日……」

「流石に迷惑だったか?」

「迷惑じゃない! でもせっかくの日曜日なのにいいのか?」

「家事をするのは休みだろうが変わらないからな。岡村がいいなら手伝うし。夜は用事があるから19半時以降は断るけど」

 

 スマホの時計を見れば、今は18時前。リビングの片付けも終わったし、岡村が食べてる間に他の部屋の掃除と風呂の湯を張る。この流れが1番スムーズに進むだろう。

 スカートのポケットにスマホを仕舞い、数秒だけ岡村に目を向けると微笑んで頷いた。

 

「そっか。なら、毎日来てよ」

「毎日か、いいぞ。たっぷり飼い殺しにしてやる」

「かいごろっ!?」

「冗談だ。でも、俺の味が恋しくなって親に当たるなよ?」

「相変わらず自信たっぷりだな」

「俺の料理は美味しいらしいからな。一応無理な日ができたら前日までには言うよ」

 

 手を洗いながら答えて、調理を再開する。下味のタレに鰹を漬け込んだり、水を張った鍋に手で千切ったキャベツを入れる。そんな様子をソファから見ながら、岡村が訊ねてくる。

 

「色々買ってたけど、何を作るの?」

「希望に応えて鰹の揚げ焼き。あとはサラダとスープ」

「簡単な……もの、だよな?」

「どんな器具があるか分からなかったし、基本的な道具さえあれば作れるものにしたよ。ノンフライヤーがあるって分かってれば他の物も考えたけど。珍しいな、コレを買ってるって」

「父さんが健康診断で引っかかってさ。それ以来、お母さんが健康のためにノンフライヤーを使ってるんだよね。油も使わないから片付けが楽みたいだし。アタシとしてはサクサク感が少なくてあんまりだけど」

「なら、霧吹きにサラダ油を入れて食材に吹きかければいい。どうせ、普通のやり方より全然油は使わないし、美味しくもなるからオススメ」

「へえー……吼月の家にもあるのか?」

「ないよ。俺は別に健康とか気にしないし」

「そうなんだ」

 

 話している間にも調理は進み、岡村は話が途切れても興味深そうにこちらを見ている。料理は待つ時間が1番楽しいから理解できる。待った分の楽しさ以上の美味しさを感じさせられたら良いなと思いながら、丁寧に作っていく。

 そうしていつしか食卓の椅子に着いた岡村の前にホカホカの料理が並んだ。

 白米を主食として、宣言通り鰹の揚げ焼きに、トマトと水菜、玉ねぎで作ったサラダに余っていたリンゴのドレッシングをかけた副菜。最後にレタスと溶き卵を使った鶏がらスープ。

 

「おぉ〜〜ホントに料理だ。どれどれまずは……」

 

 岡村は並んだ料理に目を輝かせて、箸を躊躇いなく伸ばした。挟んだのは鰹の揚げ焼きで、軽く狐色の衣がついた赤身に真っ白な歯を食い込ませる。サクッと衣が裂ける心地よい音が俺まで聞こえてくる。

 一口を噛み締めるように食べる岡村の頬は緩んでいて、贔屓目に見なくても美味しく食べてもらえているのだと分かった。

 

「美味しい!」

「それは良かった」

 

 俺の返答を聞き終わる前に岡村は次々に箸を伸ばす。好き嫌いもない食べ盛りな女子アスリートは、胃袋と筋肉を満たすために喰らいつく。その全てを美味しそうに平らげてくれるので、こっちの心まで満たされる。

 

「吼月は食べなくていいのか?」

「いいよ。他人の金で料理が作れるだけでも楽しいのに、美味しそうに食べてくれる岡村が見れるだけで嬉しいから」

 

 岡村はまた照れながら、茶碗を大きく傾けて白米をかきこむ。

 ハツカに作るのもいいんだけど、そこはやはり吸血鬼。俺との付き合いの為に食べてくれるのと、実益・欲求それぞれを満たして食べてくれるのでは、後ろめたさや作った側としての気分では後者の方がやはり嬉しい。

 口にしたら、また細かいことを考えてるとハツカからツッコミを入れられそうだから言わない。

 

「吼月って本当になんでも出来るんだな」

 

 箸休めにそばに置いたお茶を飲んだ岡村が言う。

 

「岡村が言うならきっとそうなんだろうな。でも、俺はただ人よりやる機会に恵まれてるだけだよ。掃除と同じで、岡村も一緒に練習すれば同じぐらいになる」

「料理も教えてくれるのか?」

「岡村がやりたいっていうなら俺は手を貸すよ。明日の朝、何を作りたい?」

「……卵焼き」

「分かった。やりやすい卵焼き器とフライ返しがあったから一緒にやってみようか。せっかくなら2種類作ろうか」

「普通のとだし巻き?」

「普通の方には小ネギとか入れてね」

「いいねそれ!」

 

 明日の予定を話し合った後、掃除機を片手に俺はリビングにあるドアのひとつを開ける。ドアの先には明かりのついていない通路があって、そこには2階に続く階段と4つの扉があった。

 

「岡村と両親の部屋が2階だったな?」

「おじいちゃんの部屋がそこの右奥の部屋。他は物置部屋になってるから」

「分かった。食べ終わったら呼んでくれ」

「お願いします。……一応言っておくけど、アタシの部屋には入らないように」

「片付ける必要があるなら、明日にでも岡村にやってもらうよ」

 

 岡村へ軽く手を振った手でドアを閉める。

 

「……よし」

 

 そばにあった照明の電源ボタンを押して明かりをつける。掃除機を持ったまま、お爺ちゃんの部屋–––つまり岡村先生の部屋の前に立つ。

 家に邪魔した理由はふたつ。岡村蒼の世話がしたかったのと、岡村先生に何があったかを軽く調べるためだ。

 

「少しぐらいヒントが有ればいいが」

 

 体調不良といいながら病院にも行かず態々ホテルに篭っているあたり、普通では考えつかない事情があると考えていい。

 早速部屋に入って明かりをつけると、まず目に入ってきたのは仏壇だった。仏壇の中には実年齢よりも若々しい老婦の写真が入った小さな写真立てが置かれていた。見た目からして40歳後半から50歳前半ぐらいに見えるが、岡村先生の年齢が65歳なのを考えると本当はもっと歳を食っているのだろう。

 仏壇の前に敷かれた座布団の上に正座して手を合わせる。黙祷して数秒後、立ち上がる。

 家族が居ないから分からないけど、これで良かったのだろうか。

 

「さて、掃除をするか」

 

 掃除機の電源を入れてフローリングの上を滑らせる。部屋中を見渡しても特に散らかっている様子はなく、掃除をする必要もあまり無さそうだった。

 そのお陰で掃除よりも手がかりを探すことを重点的に行えた。

 とはいえ––––

 

「ないな……」

 

 仏壇以外で目立つのは俺の背よりも一回り以上大きい本棚。それが2つ。敷き詰められているのは、保健体育系の分厚い参考書に、小説やエッセイ本、それに家族写真が入ったファイルなど。ファイルを見る限り、先生夫妻は仲が良く、日常的に外出してソフトボールやゴルフのクラブに通っていたようだった。家族仲も良くみんなで旅行している写真もあった。

 ただ写真には日付が印字されているが、8月頭辺りからは夫婦の写真は入っていなかった。古いものから最新のものまで中身をスマホで撮影する。

 

「にしてもここまで健康的な御老人だと、亡くなった理由があまり想像できないな。理不尽に出会したのかな……」

 

 祖母が亡くなった時、岡村は悲しかったのかな。家族が亡くなる感覚は俺には想像できないけど、普通は素直に悲しめるものなのかな。俺の同情のような憐れみとは違った純粋な気持ち。

 

「悪い事したな……」

 

 俺は持っていたファイルをすぐに戻して、最後のファイルを抜き出して開く。

 岡村先生も辛いだろう。もしかしたら心を癒すための傷心旅行かもしれない。身内が亡くなったということなら、学校側が生徒に事情をぼかして伝えたのも納得がいく。

 

「うん? 岡村が可愛い服着てる」

 

 横道に逸れるが……見ていて少し意外だったのは、家族の集合写真の岡村蒼の服装。可愛い系の服装を着てよそよそしくピースサインをしていた。なんとなく着心地が悪そうだった。

 

「岡村も水玉のスカートとか履くんだな」

 

 今まで制服姿か体操服、ユニフォーム姿のどれかしか見たことなかったから驚いた。岡村は王子様系の凛々しい顔つきのお陰で、ハツカと同じくどちらも似合うタイプなんだと思った。

 

「もう何もなさそうだな」

 

 他を探しても、ラジカセやボトルシップなどがあるばかりで、日記帳のような先生がここを出る前の様子が分かるものはない。

 あとは岡村から詳しい話を聞き出すしかない。

 掃除も終えたので、ここ部屋から出ることにした。

 他の物置部屋の清掃を経て、2階にある岡村の部屋を除く両親の部屋と書斎の掃除を終えた頃に1階から声がかかった。どうやら岡村が飯を食べ終えたようだ。

 食器の片付けをやっているとすぐに19時になっていた。

 

「じゃ、また明日。よろしくな」

「……うん、また明日」

 

 玄関で岡村に手を振って一時の別れを告げた。

 そうして夜へと歩き出して、人や車の少ない道を行く。周りにいる人の気配を感知しやすいように、なるべく人通りの少ない道を歩きたかった。

 ボンヤリと前を見ていると、視界の端に誰かの姿が入り込んできた。

 

「俺?」

 

 顎をあげてソイツを見つめると、不機嫌そうな顔でもう一人の俺が見下ろしてくる。正体は丁字路に設けられたカーブミラーだった。

 

「男の娘、か」

 

 自分の姿や表情を含めても対峙しているのは間違いなく女性だ。まだ子供だからか、骨格の違いもあまり当てにならず余計に異性に見えた。

 夜だと微かな光でも自分が濃くなる。

 ハッキリと見えてしまえるほどにミラーに僕が映っている。

 ハツカはいつまで僕のことを1番好みと言ってくれるんだろう。せめて、容姿ぐらいハツカの1番で居たい。

 夜だろうが昼だろうが関係なく、ハツカの大好きで居たい。

 

「僕の境遇なんてアイツには関係ないよな……」

 

 その為にも今日は取っ掛かりを手に入れなきゃ。

 

 

 

 

 また、明日。

 明日も……ある。

 胸が高鳴る感覚と襟を後ろから引っ張られる感覚。罪悪感から来るふたつの想いが襲いかかってきて、なんとも我ながら気色悪く、鼻から肺にかけての空気の通りが悪い。

 ごめんね、お爺ちゃん。

 お爺ちゃんより遊ぶことを優先しちゃって。

 鼻からスッと酸素がやって来たのを感じると、岡村蒼(アタシ)は玄関からリビングに戻って、中を見渡す。

 埃一つもなくなって、ゴミも袋にまとめられた綺麗な部屋に様変わりしたリビング。吼月が掃除してくれた部屋。吼月が(ウチ)にやってきた事実そのもの。

 

「ふふははは」

 

 聞いたところによると、理世も吼月と遊ぶのは今日が初めてだったらしい。つまり、吼月を1番最初に家に招いたのは–––少なくとも学校内では–––アタシが初めてだ。

 振った首を真っ直ぐに前に向けてリビングの奥にあるドアへ歩き出す。ドアを抜けたそばにある階段で2階に上がり自室に入る。照明の電源をつければ朝と変わらない、掃除される前のリビングと大差ない有様が広がっている。

 主に写真が原因だが。

 足元に落ちている写真を見る。

 吼月の姿が切り抜かれた写真と紫陽花柄のワンピースが切り抜かれた写真がひとつずつ落ちていて、拾い上げたアタシはそれぞれを重ね合わせる。自分好みに着飾るのは楽しい。絵を描く時に好きなキャラに自分の好きな服を着せるようなものだ。

 

「また明日も可愛くして来てくれないかな……」

 

 見つかるのは不味いから、散乱していた写真や教科書などをある程度元の場所に戻して、まだ人様に見てもらえる程度にする。写真は自分の机の鍵をかけられる引き出しの中に押し込んだ。

 これぐらいでいいだろう–––そう区切りをつけたアタシは、部屋の隅に置かれたクローゼットの扉を両手で開く。両開きのクローゼットの中から眼に飛び込んでくるのは、数々のレディースの服。キャミソールワンピースやギアショーツなどなど。その服で出来たカーテンを掻き分けて、身を潜ませる服を取り出した。

 着ているものを全て脱ぐ。

 そして取り出したニットセーターの上にノーカラージャケットを着込んで、ダークネイビーのチノパンツに脚を通す。最後に長めの髪を頭に被ったビーニーの中に入れる。

 

「うん、それらしい」

 

 鏡の前に立って呟くと、同時に脱いだスカートの中に入れていたスマホから着信を告げるバイブ音が鳴る。脱いだ物を洗濯籠の中に入れながらスマホを抜きとり画面を見る。

 ラインでメッセージが届いていた。送り主は小野優花だ。『今日楽しかったね』。グループラインに届いたありふれたコメントに目を通しながら部屋を出て、階段を降る。

 アタシが見たすぐあと、コメントの既読数がひとつ増えた。世木(よぎ)(よろず)も見ているようだ。

 

『そうだね。今日も楽しかったね』

『マヒルくんが抜けて面白さ半減してたけど、今日は色々と面白かったね』

『確かにねー、まさか本当に吼月くんが来るなんて思わなかったけど』

『分かる。吼月くんって遊んでるイメージ無いもん』

『言い過ぎじゃない? 吼月だって遊びはするでしょ』

『でもさ、殆ど人助けか生徒会のどっちかしかしてないじゃん。まー……多分、理世ちゃんの前ではいつも普通に笑ってるみたいよね。理世ちゃん弄ってる時とか、ちゃんと子供っぽいんだなって思ったもん』

 

 理世以外の他人に聞くとしたら、生徒教師関係なく自信ありげに不敵に笑う、というのが吼月の笑顔という総評になるだろう。ちゃんとニヤニヤとした、悪ガキ然とした表情も出来ることに驚いたし、それをいつも見ているのであろう理世に狡いなと思ってしまった。

 三和土に置かれたままのスニーカーを履いて外に出る。歩き慣れはじめた道を歩いていく。

 また、ピコンと着信音が鳴った。

 

『蒼ちゃんとしては今日はどんな日だったのかな?』

『楽しいって言ったじゃん』

『そうじゃなくてさぁ……好きな相手と一緒に遊べたわけじゃん? どうだったのかなって』

 

 そう聞かれると反応に困るが、ただ素直に言うならば……

 

『嬉しかったよ。でも、友達としては見てもらえてないかな……』

『そのレベルか』

 

 文字だけなのに優花の落胆が音になって聞こえてくる。

 

『実際さ、なんで好きなの?』

『萬もいいなって言ってたじゃん』

『私は図書室で眺めてるのが好きなの。で、なんでだっけ? 去年のスランプの時に助けてもらったからだっけ?』

『記録が落ちて焦っててオーバーワークの連続だったんだけど、アタシの頬引っ叩いて止めてくれて、一緒に練習方法や姿勢も考えてくれて……二ヶ月くらいかな。部活がある時はつきっきりで寄り添ってくれた』

『蒼ちゃんはそれがあって全国行けてるわけだしね。ちょろいね〜〜』

『うるさい』

 

 自分の想いが恋心と呼べるものなのかは分からなかった。今日家に来てくれただけでも嬉しかったし、吼月がアタシのために料理を作ってくれる姿を見れて腹の下あたりが疼いていた。

 けれど、恋心という名前をつけて確定させていいものなのか。萬と同じで、遠くから眺めてるのでも満足できていたのに。

 ダラリと腕を力なく下ろすして、スマホの光にやられた眼を闇に慣らして癒す。

 そのまま歩いていると目的の店が見えてくる。

 そこでラインにメッセージが追加された音がした。

 

「は?」

 

 画面には【優花が理世をグループに追加しました】と表示されていた。

 

『こんばんは。状況読み込めないんだけど』

『蒼ちゃんが吼月くんと友達になりたいみたいだからアドバイスしてあげて』

『大体分かったわ』

 

 立ち止まったアタシは渋い顔をしながら、聞こえもしないのに『余計なことを……』と吐き捨てた。アタシにはアタシの相談相手がいるのだ。

 すぐに理世からメッセージが来たが、グループラインではなく個人の方だった。

 

『こっちでいいよね?』

『……まぁ、はい』

『それで友達になる方法だけど、とりあえず前提条件として蒼はまだショウに【助けられる相手】でしかないのは分かってるよね?』

 

 吼月は間違いなくアタシのことを庇護対象としか見ていない。それは理世の言う通りだった。それを分かってるから逆手にとって、プリクラに誘ったし、家事をするという理由で家にも呼んだ。

 

『多分プリクラ撮った時にでも岡村先生のこと聞かれたでしょうけど、ショウの頭の中には【個人で関係がないのに二人きりになろうとしたら、相手は他言無用の相談をしたいんだ】という方程式がある。【自分に向く好意に気付かない】という前提もね。その他諸々で恋愛とかできない性質(たち)にされたんだけど、そこだけはお互い受け止めましょう。

 だから、少なくとも週に3日は二人きりの時間を作ろうと努力すること。助けてもらうとかじゃなくて、純粋に趣味とかで』

 

 彼女が言うには、運命的に同じ趣味を持っていたそうで、特に問題はなかったがアタシはそうもいかない。趣味を知ることはできても、共有できるほど好きになることは出来ないと思う。好きになろうとしてやったものと、やって好きになったものじゃ精神的に大きな違いがある。

 

『アタシと吼月で合う趣味って何がないか?』

『自分で探せ、と言っておく。あるとしたらそうね……異性装でも見せ合ったらどう? 蒼も好きでしょ?』

「ッ……」

 

 ズキッと胸に槍を刺されたような鋭い痛みが走る。なんで、理世がその事を知っているんだろう––––そう問いかけようとして、先に理世が追撃してきた。

 

『だって蒼は女装したショウを見た瞬間、全身がくらっとしたでしょ。所謂、一目惚れ』

 

 ああ、なるほど––––そうだ。

 腑に落ちたアタシは理世との連絡を終えて、夜の店のドアを開いた。

 

「こんばんは」

「蒼くん、いらっしゃい」

 

 近くのテーブルに腰を下ろして、夜にできた友達と目を見て語り合う。

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