01
基山天という「選ばれた人間」の能力は、『■■の■■を■■ものにする能力』という、制御と使い方、解釈によっては最強にも成り得る能力である。
そもそもとして、基山天という人間の性格は寡黙で冷静な、現代で言う所の『陰キャ』と言う存在である。
影が薄い彼にとっては、その能力は実にぴったりなものであった。
「…」
舞台『職員室』。
職員室にて、一人の青年と一人の少女が、対峙する。
何のマークも無い黒色のスポーツティーシャツの上に黒色のパーカー、黒色のカーゴパンツという全身黒コーデの青年が基山天。
女子高生の制服の上に鼠色のパーカーを着ている少女が園儀迫。
互いに、動かない。もう5秒、時間は立っているのに、喋らないし動かない。
静寂が続く。不動が続く。不穏な空気が、続いている。
だが、その静寂を、少女が破った。
「あの…」
「…なんだ」
少女―――もとい、園儀の小さな言葉に、青年――もとい、天は短い言葉で返した。
冷や汗一つ欠いていない天に対し、園儀は冷や汗をかいていた。
いや、園儀のその反応が普通なのだ。
突如のバトル。本人達の意思によっては殺し合いへと発展するこのバトルで、冷や汗一つかかずに冷静で居る天がおかしいだけである。
「その…降参って、ありでしたよね…」
「…そうだな。」
「なら…私が降参すれば」
「それは、悪手だろ」
園儀が言い切る前に、それは悪手だろと、天が断言した。
びくっ、と園儀の体が小さく震えた。
無表情で、それでいて冷たく低い声で自分の提案を否定された事に驚いてしまったのだろう。
だが、そんな事を一切気にせずに天は続けた。
「俺たちの行動は監視カメラで見られている。そして、あの大砲の女は俺たちに『期待している』などと言っていた。つまり、期待外れと判断されるような行動を起こせば処分される可能性がある。最悪の場合、俺とアンタの両方が処分されるのも考えられる。そう考えれば、必然的に俺たちは戦わなければならない。」
「…そう、なんだ…」
「…あぁ。だが、殺し合いをする必要は無いんだ。ただ少し、戦えば良いというだけだ」
「…分かった。それじゃあ―――ヤろう」
ニィ――と、先程までの全てがまるで嘘だっかのように消え失せて、園儀は狂気的な笑みを浮かべた。
身を屈め、地面を蹴って驚異的な速度で直進してくる。
あまりにも単調だが、しかし迅雷の如き速さでの特攻だ。それをまともに喰らえば、大抵の人間は押し倒され、そのまま相手に乗られて、好き勝手にされてしまう。
故に躱す。左足は地面に着けたままで、体の半身、もとい右側だけを下がらせ、体が横になるようにして、その特攻を躱す。
だが、そのままで居れば次の攻撃を食らう可能性が高い。
事実として、攻撃を躱された彼女は、壁に激突する寸前で体の向きを変えて壁に足を付けていた。
グググッ――と、力を込めているのが目に見えて分かる。壁をバネにして、またもや特攻してくる事が予測出来る。
だが、予測が出来ても実際に動けなければ意味が無い。だからこそ、予測が出来たその瞬間には動かない。相手が動いたその瞬間に動いて、攻撃を躱す。
バンッ! と、まるで弾丸が放たれたかのような轟音を響かせ、狂犬は突っ込んできた。
速い。やはり、異常と言える程に、速い。
天は足に力を込めて飛び上がり、その攻撃を躱すと同時に彼女の背中を踏んで、土台代わりにして先程まで彼女が居た場所へと跳ぶ。
その最中、心の中で彼女の能力を予測する。
(…これで二回目の攻撃だが、そのどれもが単調で、しかし強力なものばかり…何より本人の雰囲気、表情から考えるに…『狂化する能力』か、それに近しいもの…なら)
対処は簡単だな―――嘯くように、ぽつりと呟く。
彼女の対処は、思った以上に簡単な事だ。そう、天は確信した。
先程、“足で”ではあるが天は彼女に触れる事が出来た。
天の“能力”であれば、触れたその時点が天の勝利が確定する。それ程までに、天の能力は強力なものなのだ。
しかし、それはあくまでも触れる事が出来ればの話し。狂化(予測)の能力であれば、触れるのは困難を極める。
狂化しているという事は、身体能力も向上しているという事に繋がる。そうでなければ、あんな獣のような無茶苦茶な動きは出来ない筈だから。
「…諦めるか」
「あ♡ 諦めてくれるんだ〜? ありがたいなぁー」
「あぁ―――細かく動くのは、諦める。素直に」殴ることにするよ―――殺意を包み隠さず放ち、天は狂犬に突っ込んだ。
狂犬は恍惚とした表情を浮かべた。それは、愚直にも単調な攻撃を仕掛けた彼を嘲笑ったからのものか。それとも、そんな彼を沈めた後にヤる事を想像してのものか。
それは分からないし、なんであるなら分かりたくもない事実だろう。
ギリギリと、拳を握り締めて振り翳す。
天には喧嘩の経験など無いし、戦闘の経験もまた無い。つまりは、相手を殴るのに適した力の込め方も知らないし、どこに打ち込んだ方が良いのかも分からないという事だ。
力を込めすぎた一撃は、その腕に負担が掛るのだ。
だが、彼はそれを知らない。知らない故に、遠慮なく拳を振るえるのだ。
―――だが、そんな単調な攻撃を、彼女が見切れない訳が無かった。
彼女はその攻撃をひらりと躱し、後ろから彼の首を掴み、そのまま押し倒して彼の背中に馬乗りとなった。
「あはっ…捕まっちゃったね…」
「…あぁ」
「このまま、どうなっちゃうんだろうねぇ〜…?」
「…あぁ」もう終わったよ
「え…?」
ぺた、と彼女の足首に天の手が添えられた。
その瞬間―――フッ、と彼女の“存在”が“消え失せた”。
天に伸し掛かっていた重たい感覚が無くなり、体が軽くなる。
ふぅ、と小さく息を吐いて、天は立ち上がる。パタパタと、服についた汚れを手で叩いて払い、自分の能力の強さを確認する。
「…確かに強い。だが、まだまだ検証の余地有り、って所か。優利は…大丈夫か」
そんな事を言って、彼は黒服に連行され、職員室から出た。
戦いの所為で、何もかもが無くなった職員室から、去っていった。
「狂犬」
園儀迫さん
あなたの能力は「相手を殺すまで暴れ続ける能力」です。
「穏人」
基山天さん
あなたの能力は「物体の存在を無いものにする能力」です。