5秒の間も穏やかに   作:全智一皆

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怪物

■  ■

 勝負に勝った天達は、魅音というマジシャンのような少女によって導かれた結果、小休止となりチャイナドレスを着こなす女性、ヤンが作った中華料理をありつく事が出来るという褒美を受け取る事となった。

 負けたチームはペナルティとして、女性達はバニーガールコスチュームを着て給仕をしなければならない。男性達は端で水だけを与えられた。

 啓と霧崎、天は遠慮なく出された料理に食いついた。

「アンタ達よく食えるな…食欲なんかねーよ、あたしは」

「俺もだ。食う気にはなれん」

「次、いつ食べられるか分からないからね」

「俺も白柳に同意だな」

「……」

 啓の発言に、天もまた同意した。

 デスゲームにも似たこの場所では、いつ食べ物を食べる事が出来るのかも分からない。飲み物もまた然り。

 最悪の場合、餓死する可能性もあるのだ。

 その事を考えれば、食べられる内に食べていた方が良いのだ。

 だが、食べながらであろうとも、天は自分の能力や味方の能力、敵の能力について考えていた。

 まず、唯一の幼馴染である優利の『身体能力を5倍にする能力』。

 実に単純で、しかしとても強力なものではある。

 だが、それは本来ならば上手く扱えるものではない。

 今の今まで普通であった筈の身体能力が、突如として5倍にまで引き上げられてしまっている。

 脳がそれに追い付けず、最初はまともに歩くことすら出来ない筈なのだ。

 しかし、優利はすぐに扱いこなした。それは優利の天性の運動センスによるものである。

 直感と本能によってなせる業を巧みに扱えるのもまた、優利のセンスの賜なのだ。

 唯一の幼馴染の事を第一に考えるのは、天からすれば当たり前である。

 様々な事を考えていると、空になった天のコップにバニーガールとなった香椎が茶を注いだ。

「ペナルティがこんなので良かったわ〜。君は…ソラくんだったかしら」

「…あぁ。」

「君の能力にも、そして君のその思考にも、興味が湧いたわ」

「…そうか。」

「冷たいわね〜」

 香椎鈴―――その能力は、未だ不明。

 対戦し、見たままで能力の予測を立てるならば『空間から刃物を生み出す能力』。しかし、天はそれが正解だとは思っていない。

 何故なら、その能力はあくまでも『空間から刃物を生み出す』というだけであって、刃物を射出する事が出来るという訳ではないから。

 それに、空間から生み出す能力であるならば、どうして天自身に発動しなかったのか。

 距離も可怪しかった。あれは明らか、香椎が喋ったその瞬間に、彼女から少し離れた空間から発生していた。

 敵対していて、それでいて最初から殺すつもりしか無かったのならば、天が立っているその『空間』に刃物を出現させれば、それで終わったのだ。

 しかし彼女はそれをしなかった。それはつまり、彼女の能力が『空間に刃物を生み出す能力』ではなく、別の能力であるという事を示している。

 そこから予測を立てるなら―――恐らくは、『飛沫』。つまりは、『唾』。

 唾を刃物に変えたのであれば、刃物が飛んでくるという事象の発生にも頷ける。

 だが、これはあくまでも予測であり憶測。確定ではない。

 故に油断はしない。例え自分の能力が効くものであろうと、油断すれば殺される。

 …と、深く考え込んでいれば、「休憩は終わりでーす」と魅音が休憩の終わりを告げる。

 

 黒服達に連れられたは道が五つに分かれた場所。

「ここからは一人ずつ別の道を選び、その先で指示を従うように」

 黒服はそう言って、その場から去っていった。

 つまり、ここでチームは解散。次に会う時は、敵同士か。はたまた、また味方となるのか。

「今度は、敵同士かもしれねぇな」

 ハッ、と霧崎は笑う。

 好戦的で結構。実に相手にしやすい、と天は内心で霧崎を嘲笑う。

 好戦的である程に良い。その方が、能力の検証などもしやすいというものだ。

 それに、ここで別れるのは天にとっても都合が良い。

 別れた方が、“優利を巻き込まずに済む”。

 次の能力の検証は、被害があまりにも大きすぎるものとなる筈だ。

 故に、別れた方が都合が良い。

「…白柳」

「…なんだ?」

 半ば警戒しながら、啓は答える。

 能力の強さ、更には思考云々を含めて、彼が天を警戒するのは当然であると言える。仕方の無い事なのだ。

 だが、天は気にしない。そんな事よりも、彼に頼まなければならないから。

「優利を頼む。あれは、お前にとっても良い『切り札』となる。大切に扱ってくれ」

「…何が目的だ。何が理由で、ユーリを俺に預ける」

「お前の方がアイツを上手く扱ってくれるから、だ。幼馴染であろうと、俺はアイツの足を引っ張るだけで切り札には出来ない。このゲームの為にも、上手く扱ってくれるだろうお前に預ける。…勝手ではあるが、頼むよ。じゃあ」またいつか会おう―――そう言って、天は道の一つへと歩いていく。

 こつこつ、と歩く音が響く。

 それなりに長い何も無い質素な道を、それなりに長い時間歩いていれば、遂には鉄の壁で出来た部屋に辿り着く。

 中央にはスマホらしきものが置かれている。

 罠の可能性も考えられるが…見ている側の視点で考えれば、ここで罠を仕掛ける意味は無い。

 そう考え、天は躊躇なくそのスマホを取ろうと踏み出した。

 その瞬間、スピーカーから無機質に似せている声が発せられた。

 恐らくは魅音だろう。中々に上手い。

『手錠のロックを外します。《端末》をお取りください』

 ガシャンッ、と手錠のロックが外れ、両腕が自由となる。

 『端末』と呼ばれたスマホらしきものが置かれている所まで歩き、それを手に取る。

 すると、また説明が行われる。

『貴方は現在100ポイント持っています。1000ポイント集めてください』

 …訂正。ラウンドの説明ではなく、そのラウンドの目的のみを話した。

 あの女、随分と説明を省くな…考える姿を楽しんでいるのか? と、内心で魅音に対する疑問を募らせる。

 ゴゴゴッ―――と、鉄の扉が自動で、横へと開いていく。

 ヒュウ…と、風が吹いているのを、肌で感じ取る。

 扉から光が差し込む。久々の眩しい日の光に、険しい顔となる。

 徐々に慣れていき、目を開けば―――そこには、森林の景色が広がっていた。

「…森林か。」

『只今の時刻は13時18分です。これより30分の間、A地区にて一人気絶につき「10ポイント」です。では、始め♪』

「…楽しんでいるな」

 辺りを見回す。周囲に何があるのか、周囲に誰か居るのか。まずはそれを確認する。

 木には親切にも、大きく『A』という一文字が刻まれた白い看板。

 先程の放送で、『A地区にて一人気絶により10ポイント』というクエストのような報告があった。

 つまり―――この区域が、戦場となる。

 そうと分かれば、やる事は決まっている。やらなければ、此方が殺られる。

 ふぅ…と、小さく息を吐き、天は駆け出した。

 乱戦の場となる前に、この区域から抜け出さねば面倒な事になる。

 未だデメリットがあるのかが正確には分からない自分の能力を乱発する事になる可能性が高い乱戦は避けたいのだ。

 何より、こうして走っている途中で先程のチームと再会出来るかもしれないという可能性もある。

 少ない可能性ではあるが、しかし有り得る可能性だ。信じる価値はある。

 だが―――やはり、そう簡単にはいかなかった。

 一人の人間が、立ち塞がった。

「…」

「…悪いが、アンタには気絶してもらうよ」

「…断るよ」

「アンタの意思は―――関係ないんでね!」

 目が合って―――5秒。

 相手は突っ込んでくる。その右手には、日本刀が握られている。

 日本刀を消そうと、能力を発動しようとしたその瞬間―――鮮血が、飛んだ。

 突如の出来事。あまりにも距離が空いていたというのにも関わらず、日本刀の攻撃が当たった。

 叩き付けるように振るわれた日本刀。日本刀が伸びたのか、それとも斬撃を飛ばしたか。

 予測を建てるならば、恐らくは斬撃系の能力。

 日本刀を伸ばす能力ではない筈だ。直視した限り、日本刀は伸びてなどいなかった。

 斬撃を飛ばす能力―――今の所は、それが打倒だろう。

「っ…気絶で済ませるんじゃ、無かったのか…」

「問題無い。すぐに医療の能力を持つ仲間が向かいに来るからな。そのまま連れて帰るさ」

「…そうかい。それは随分と」ご苦労な事だな―――そう、言おうとした瞬間。

 

 パチン、と指を鳴らし―――敵の日本刀を、消し去った。

 敵が驚愕する。だが、そのま唖然とする事はなく、すぐに距離を取り警戒を高めた。

 日本刀が無ければ斬撃は与えられないだろう、と予測を建て、天は日本刀を消し去ったのだ。

 このデメリットの一つ―――二つの物体を同時に消す事は出来ない。

 物体が二つ以上有る場合、削る対象はランダムとなり、必ずどちらかに縛られてしまう。

 クールタイムは無いが、しかしこの時点で相手に能力を悟られてしまう。

 相手の視点で考えるなら…『指を鳴らせば物を消せる能力』、デメリットは同時に消す事は出来ない。そんな所だろう。

 既に種は明かしたも同然―――なら、逃げる…!

 肩を抑えながら、天は木々の中に突っ込み、走り出す。

 はぁ、はぁ、と呼吸を荒げながら、木々の中を駆けていく。

 ドンッ! ドンッ! と木々が次々と倒れていく音が響いていか。

 あの男が、木々を斬り倒している。それ以外に有り得ないと、天は走りながらも、逃げながらも考える。

 日本刀を消せばどうにかなると思っていたが、しかしそれは間違いだった…!

 あの男の間合いに入った木々が、次々と斬り倒されていく。

 そもそもが違った…! あの男の能力は、『斬撃を飛ばす能力』では無かった…!

 あの男の能力は恐らく、『自分の間合いに入ったもの全てに斬撃を与える』という、チートにも程があるスキル…!

 言うなれば自動攻撃。自分の間合いに入ったその瞬間から、攻撃を食らう事が確定しているのだ。

 あまりにも強い…否、強過ぎる…!

 優利の『身体能力を5倍にするスキル』よりも、自分の『物体の存在を無いものにするスキル』よりも、強い。

 優利の身体能力が如何に優れていようとも、動かれる前に殺されてしまえば意味が無い。

 物体を消せるとしても、そのデメリットの所為で本人を確実に消せる訳ではない事が知られた今、天の能力はあまりにも弱いものとなった。

 あまりにも、規格外の能力…!

「っあ、」

 ドサッ、と、倒れ込んでしまった。

 木の根に引っ掛かり、転んでしまったのだ。

 だが…天は、恐怖していなかった。

 ただ心の中で―――これが、絶望か。と、自分が絶望した事を理解しているだけだった。

 木々が有るこの場所では、能力を使ったとしても対象が男になるとは限らない。

 即ち、最弱になったという事も同然。

 この場所では、自分は最弱。もう―――どうにも、ならない。

 

「はぁ、はぁ…ようやくか。とりあえず、まずは、その両足を斬る―――!」

 そう言って、一歩踏み出そうとした―――その、瞬間。

 

 バギッッッ!!!!!! と、現実であれば絶対に鳴らぬであろう骨が折れる音が、大きく響き渡った。

 天は思った。あ、あいつ死んだな…と。

 男の胸元に、吸い込まれるように食い込んでいる拳によって、男の体全体の骨が木っ端微塵に粉砕されてしまった。

「…ふぅ。キミ、大丈夫?」

 肩まで伸びた黒色の髪、吹く風によって靡かれる、肘の中央まで伸びているスカート。

 一人の青年は、一人の少女に助けられたのだった。

 

 「絶対斬」。

 篠木刃さん。

 あなたの能力は「自分の間合いに入ったものに斬撃を与える能力」です。

 

 「怪物」。

 地這禮さん。

 あなたの能力は「あなたの思う怪物になる能力」です。

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