5秒の間も穏やかに   作:全智一皆

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仲間

 突如として現れ、窮地を救ってくれた少女、地這禮に背中で担がれ(つまりはおんぶ)ながら、天は彼女が所属する少数人チーム『紫』のアジトへと向かっていた。

「へぇ、物体の存在を無いものに出来るんだ。凄く強い能力だね、それ」

「…そうだな。だが、地這の能力よりは弱いと思うぞ」

「そうかな? 私のよりも、基山の能力の方が強いと思うけど。」

「…そうか?」

「うん、強いと思うよ。後、禮で良いよ。多分、同い年でしょ。私は高2」

「…俺も、高2だ。確かに、同い年だな。」

「だね。だから、禮で良いよ。私も天って呼ぶから。短いか長いかは分からないけど、よろしくね」

「…そうか。よろしく、禮」

「うん、よろしく。…あ、着いたよ」

 着いた場所は、アジトと呼ぶに相応しいと言える場所だった。

 あくまでも少人数のアジト。大きなテントが三つ有り、三人の女子と二人の男子、合計で5人の人間が食事を摂っていた。

 確かに、少人数。禮を含めれば、合計で6人。赤チーム、緑チーム、青チームという3派閥が出来上がっている中で、よく生き延びれたな、と天は内心で彼女達を称賛した。

 すると、食べ終えた一人の少女が、禮と天に気付き、声を掛けた。

「禮お帰りー。で、えっと…背中におぶってるその人は?」

「篠木に追われてて、殺されそうだったから助けた。新しく此処に来たんだって。」

「へぇー、新しいプレイヤー! もうそんな経ったんだねー。あ、はじめまして、新人くん。私は稲川惟。禮の親友で、『紫』の副リーダーを担っています!」

「一応が付くけどな」

「そこー! 一応とか言うなー!」

「“シン”の言う通りだけどな」

 眼鏡を掛けている男子…シンと呼ばれた男に、オールバックの男子が同意する。

 男子二人がそう言い、女子二人が笑い、惟が頬を膨らませて怒る。

 まるで、学校の休み時間での出来事のように感じた。

 しかし、禮が「あ、そうだ。“ショウ”、天の回復、お願いできる?」と思い出したように、ショウという女子に呼びかける。

 …忘れていたのか。目的を。

「あ、うん。…えっと、天くん、だったよね。ちょっと待っててね、すぐに治すから」

「…ありがとう。」

「良いよ、気にしないで」

 小さな光が、天を包み込む。

 …温かい。そして、心地良い。春の日差しのようにも感じられる。

 閉じていた目を開いて、肩を確認してみれば、篠木の能力によって刻まれた斬り傷が完全に無くなっていた。

 これが、回復系の能力か―――天は、その治癒力に驚愕していた。

 この短い時間、一分にも満たない時間で、あの大きな傷を完全に回復するとは。

「えっと、ボクは伊湯翔(いとう かける)。翔なんだけど、皆はショウって呼んでるんだ。翔でもショウでも、どっちでも良いよ。よろしくね」

「…あぁ、よろしく。」

 笑う翔に対し、天はいつもと変わらず無表情でよろしくと答えた。

 だが、その中でまた自分の能力について思考していた。

 篠木という男との戦闘で、自分の能力のデメリットを確立させる事が出来たのは成果と言える。

 『二つ以上のものを同時に消す事は出来ない』―――これは、確かな弱点である。

 だが、この弱点は何の問題も無い弱点。謂わば、『直すことが出来る弱点』である。

 この弱点は『二つ同時に消そうとする』から引き起こるものであり、つまり元から『一つのものを消そうとする』ようにすれば、この弱点は消えるのだ。

 一つのもの、すなわち『篠木刃という物体の存在』のみを意識して能力を発動すれば、それでリベンジを果たす事が出来る。

 何より相手は、『指を鳴らせば物を消せる能力』だと勘違いをしている。

 …まぁ、あくまでも生きているならばの話しではあるけれど。

 そうしていると、シンと呼ばれた男と、その隣に座っていた男が話しかけてきた。

「どうだ、ショウの『傷を完治させる能力』は。スゲェだろ?」

「…あぁ。確かに、凄い能力だ。」

「だろ? あ、俺は壱岐真(かずき まこと)だ。で、隣のコイツは弟の壱岐威(かずき たける)。マコトってのが本当の名前の読みなんだけど、俺はシンの方が気に入ってるから、シンって呼んでくれ。よろしくな、ソラ」

「シンの弟の壱岐威だ。よろしく、天」

「…あぁ、よろしく。」

 コミュ力が高い人間は、初対面の人間であろうと名前で呼ぶものなのか? と疑問を抱いたが、それはすぐに消え去った。

 何故なら、彼らが自分の事を天と呼ぶのは、名字を知らないからだと、すぐに理解したから。

 禮には基山天とフルネームを教えているが、しかし彼らには教えていない。

 禮が自分のことを天と読んだから、皆もそう呼んでいるというだけだな、と天は納得した。

 そして、真と威が自己紹介をしたのを切掛に、残り二人の女子もまた自己紹介を始めた。

「私は佐薙桃(さなぎ もも)。よろしくね、天くん」

「…高梨香(たかなし かおり)。よろしく、ソラ」

 では、ここで身体的特徴を挙げて紹介しよう。

 まず一人。眼鏡を掛けている事が特徴で、緩めたネクタイと白シャツ、青色のブレザーという高校の制服を着ている男子高校生、壱岐真。

 次。オールバックにした黒髪、天のような仏頂面が特徴で、前を閉めている深緑色のナイロン質のジャケット、オリーブ色のカーゴパンツを着ている少年、壱岐威。

 コーン色のパーカーに黒色のジーンズを着こなすクールな少女、佐薙桃。

 前を閉めている白色のロングパーカーに、白色のショートパンツを着こなす無口な少女、高梨香。

 これが、『紫』チーム。

「じゃ、こっからが本題だ。まずはソラ。お前、自分の能力は言えるか?」

 真剣な目をして、真が天に問うてくる。

 あまりにも直球ではあるが、しかしそれは無駄に凝った問い掛けをして、天を警戒させたくないが故の直球だった。

 天は思考する。

 このまま素直に答えて良いのか。それとも能力を明かさないか。

 正直な所、教えなかったとしても禮に能力を教えているので意味は無い。ならば、自分が言った方が特に変な印象を付けられずに済む。

 だから、そこに関しては正直どうでも良い。

 問題なのは、能力を教えた後の事なのだ。

 この3rdは、完全なチーム戦。チームに入った方が、今後有利になるのは確実である。

 では、どのチームに入るのか。

 最初こそ青チームに入ろうとしていたが…しかし、翔という最強の回復系能力者の存在に加え、禮という正真正銘の怪物の存在が居るこの紫チームの存在を知った。

 なれば、このチームに入った方が有利となる事の確定予測は建てられた。

 強力な能力を持つ者が二人、それに加えて少人数。

 大人数よりも、少人数の方が天としても大変都合が良い。

 能力を教えた後―――ポイントを集めながら自由に能力を検証するには、どうすれば良いのか。

 それを考えながら、脳内で様々な会話を試しながら、天は―――教える事を選んだ。

「…俺の能力は、『物体の存在を無いものにする能力』だ」

「めっちゃ強ぇじゃねぇか…」

「使い用と範囲によっては、今の所チームで最強の禮すら凌駕しうるな…」

 基山天という存在とその能力の有用性が高い事は確立した。

 次の問題は、チームに入れるかどうか。

 …は、大して問題にならなかった。

「…皆が良ければ、俺はこのチームに入りたいんだが…」

「え、全然歓迎だぞ。寧ろありがたいまである」

「あぁ。歓迎するよ、天。」

「仲間が増えたー!」

「やったね」

「嬉しいわね、香ちゃん」

「……うん」

 悩まれるどころか、寧ろその逆で歓迎された。

 では次に。

 このチームの方針について、だ。

 天からして、このチームの方針が何よりも重要である。

 『無差別に人を襲わない』、『出来るなら平和に解決する』などのものであるならば、能力の検証なども碌に出来ないし、検証のついでに敵チームの排除も出来ない。

「…このチームの方針は?」

「方針? 特に無いぞ。まぁ、自分でやった事は自分でケリを着けるっていうルールみたいなのはあるけどな。基本的に巻き込まれなければそれで良いって感じだ。まぁ巻き込まれても、巻き込まれて味方が死んだとしても、責めたてたりはしねぇけどな」

「…何故だ?」

 その方針が無いという方針は都合が良い方針ではある。だが、天は『自分の引き起こした騒動に巻き込まれても、巻き込まれて味方が死んでも責め立てたりはしない』という行動には疑問を抱いた。

 禮を見ても、翔を見ても、真を見ても、威を見ても、桃を見ても、香を見ても、全員が仲間を大切に思うような人間ばかりだというのに。

 何故、巻き込まれても、巻き込まれて仲間が死んでも文句を言わないのか。その犯人を責め立てないのか。

「なんでって言われてもな…こんな世界だし、巻き込まれるなんて日常みたいなもんだからってしか言えないんだよ」

「うん。赤チームの騒動に巻き込まれるなんてほぼ日常みたいなものだし、私達って殆どその騒動で巡り合った関係だからね」

 真の言葉に、禮が同意すると同時に、紫チームの関係を明かした。

 紫チームはほぼ全員、誰が引き起こした騒動などの巻き込みで巡り合う事が出来た関係性なのだと。

 だから…巻き込まれても、巻き込まれて死んだとしても、文句は言わないというのか。

 仲間が死んでも、文句は言わないと。

「それに、巻き込まれても俺らならどうにかなるって確信がある。」

「…そうなのか…余程、実力に自信があるんだな」

「まぁな。大神や禮みたいにフィジカルが強い訳じゃないが、それなりにな。」

 意外と出来るんだぜ? と自信を持って笑う真。

 まだ彼らの戦いを見ていないが故に何とも言えないが、しかしこのチームが強いというのは確かな事だな、と天は真の言葉が嘘ではない確かなものである事を理解する。

 『自分が思う怪物になる能力』を持つ禮、『傷を完治する能力』を持つ翔。

 禮や翔を抜きにしても、恐らくは真や威達もかなり強い能力を持っているか、洗練された能力の使い方が出来る強者なのだろう。

 そうでなければ、ここまで自信を持って断言する事は出来ないだろう。何よりも、赤チームの騒動から何度も生き残っているのが良い理由だ。

「ま、方針云々はそんなもんさ。実力が見たいなら、明日見せてやるよ。ソラも驚くくらいの連携、見せてやるから」

「大規模なクエストがあれば、の話しだがな」

「もしくは襲撃?」

「それは対処が面倒だね…」

 こんな雑談を交わせるくらいに、彼らは強い。

 こんなチームでなら―――自分の目的も達成出来る。

 そう思い、天は改めて禮との出会いに感謝した。

 

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