5秒の間も穏やかに   作:全智一皆

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第6話

■  ■

 端末にて、魅音から朝九時にD地区にて『大規模クエスト』を行うという報告が来た。

 組織が用意した「敵」を狩る討伐クエスト。このクエストで、多くのポイントを得る事が出来る。

 ついでに能力の検証と仲間となったチームメンバーの能力の確認、そして啓や優利の現状確認が行えるこのクエストは、天にとって喜ばしいものだった。

 昨日と変わらぬ格好で、天はメンバーと共にD地区へと向かった。

 時間は8時50分。クエストが始まるまで、あと10分。

「シン、今回はどうするの?」

「桃が敵の弱点を作って、禮と香が特攻しやすいように俺と威が援護。禮と香は、遠慮なく特攻すれば良い。怪我をしたらショウが回復。ショウの回復が邪魔されないよう、ソラと惟が護衛する」

「了解。皆、分かった?」

「了解した」

「りょーかい!」

「分かったわ」

「…了解」

「…了解した。」

 作戦は簡単。しかしだからこそ、動きやすい。

 このチームの中で最もフィジカルが高いのは禮と香。『自分が思う怪物になる能力』と、『■■と■■と■■を■■倍にする能力』による特攻が最善。

 だが、この二人が特攻するだけでは意味が無いし、二人の特攻が破られない確証が無い。何せ開催者はあの魅音だ。恐らく、何らかの仕掛けをしているだろう。

 二人の特攻が破られない為に、『相手を■■■する能力』を持つ真と『■■と■■を■■する能力』を持つ威が、二人が安心して特攻出来るように援護をする。

 だが、それでも特攻が破られ、怪我を負った場合には翔の『傷を完治する能力』で回復する。

 しかし、傷を回復している内は隙が出来てしまう。だからこそ、『物体の存在を無いものにする能力』を持つ天と『■■を■■にする能力』を持つ惟が護衛する。

 まだこのメンバーでの実戦を経験した訳ではないが―――しかし、天は確信した。

 このメンバーは、最強と言っても過言ではない、と。

「着いたぞ。って、もう始まってら」

「チッ。魅音の奴め…相変わらず自分勝手だな。…文句を垂れても仕方ない。行くぞ、禮、香」

「うん」

「…了」

 パチンと、威が指を鳴らしたその瞬間―――『ぐ〜る』と呼ばれる存在が群がっているその遺跡の中央へと、7人全員が転移した。

 眼の前には多く群がる知能が無いにも等しい鈍間なぐ〜ると呼ばれる死体的存在。

 ついに―――実戦。

「行こっか、香」

「…うん」

 二人が共に言葉を交わした、その一瞬の内に。

 眼前には既に、大量のぐ〜るが近付いていた。

 天が能力を発動しようとした、その一瞬。

 

 ゴォッッッ!!!!! と、空気の壁を突き破り、莫大な衝撃波を発生させた禮の拳と香の蹴りによって、ぐ〜るの大群は文字通り―――『蹂躙』されてしまった。

 遺跡の壊れた壁、柱諸々が音をも越える速度で空中へと吹き飛ばされる。

 あまりにも強過ぎる衝撃によって、台風が突如として現れたのではないかと錯覚させられるような暴風が吹き荒れる。

 だが、天は、否。『その場に存在している人間全員は、服も髪も一切靡くことなく、立っていた』。

 瓦礫が、木々が吹き飛ばされたその暴風の中で、緑チームも、それを観戦していた赤チームも、魅音も、誰一人としてその場からは吹き飛ばされなかった。

 いや、正確に言えば―――『吹き飛ばされないようにされた』というのが、正しい。

 本当ならば、紫チーム以外の全ての人間が、このD地区から音速以上の速度で吹き飛ばされ、地面に落下するか果ての壁にぶつかってグチャ、と潰れてしまっていた。

 だが、そうはならなかった。威の『能力』によって、それが防がれたのだ。

 威の能力によって、“誰もその場から動けなくなった”。まるで、その場に固定されたかの様に。

 威がまた、パチン…と、指を鳴らした直後、暴風が、静かに止んだ。

「全く…必要以上の力を込めるな。俺たちも危うい」

「でも、大丈夫だったでしょ?」

「それは、あくまでも結果論だろうに…まぁ良い。まだ『ぐ〜る』は残っている。さっさとやろう」

「…」

 禮の能力に限らず、香の能力も凄まじいものだった。だが…それに負けず、寧ろ勝るかもしれない能力を、威は持っていた。

 何と素晴らしいチームだ、この紫チーム。

 どんなミスであろうとも上書き出来る能力が二つもある上に、一切合切を破壊することすら可能であろう能力が“三つ”もあるなんて。

 あらゆる傷を完全に治癒する能力もある。

 こんなにまで―――都合が良いチームが有るとは。

 これで目的はほぼほぼ達成だ。

 まず、チームメンバーの能力の事実確認。可能性はあまりにも低かったが、自分の能力の為に騙すという線も無い訳ではなかった。

 だがこの実戦を見て、それは消えた。威の能力も、真の能力も、メンバーの能力は全て確かなものだった。

 次に啓と優利の現状確認。到着した時に一度。そして、今現在、再びぐ〜るを狩っている最中の時。

 優利と啓は互いに『最高』のパートナーとして確立している。良い状況だった。

 そして、最後。まだ達成出来ていない目的。もとい、検証だ。

 それは―――『能力の連射が可能か否か』。

 昨日の出来事―――篠木刃との戦闘。それを得て、天は自分の能力の欠点の一つである『二つ以上のものを同時に消す事は出来ない』というデメリットを『二つのものの内、一つのものに意識を向けて消す』という方法を用いて補う事で、デメリットをデメリット足り得ないものにした。

 だが、それだけでは検証は終わらない。まだまだ、能力の検証は続いている。

 最後に検証する事は決まっている。だが、それを行うよりも、気になる小さな事から検証していくのが、天のスタイルだ。

 『能力の連射が可能か否か』―――これは、天にとって大変重要な検証なのである。

 二つのものを同時に消す事は出来ない。これは『二つのものの内の一つのものに意識を向けて消す』という方法で補う事が出来るようになった。

 だが、それはあくまでも『補った』というだけであり、その弱点を無くす事が出来た訳ではないのだ。

 補うだけでは意味が無い。その弱点を『無くす』ことが出来る程の強さを見せ付けなければならない。

 それが、『能力の連射』。つまりは、『物体の存在を無いものにする能力』の連続使用である。

 二つ以上のものの内の一つを消したその瞬間に、次のものに意識を向けて消すことが出来るのかどうか。

 この能力にはクールタイムが無い。それは実に良い点ではあるのだ。

 だが、欠点は幾つもある。

 『二つ以上のものを同時には消せない』

 『半径10m以内の範囲に物体が無ければ発動出来ない』

 『人間という物体かどうか危うい存在は物体として認識しなければ無いものには出来ない』等、様々な欠点がまだまだ有る。

 それらを治す事が出来るかどうか。それらを含めての検証だ。

 一時とは言えど、香椎鈴という物体の存在を無いものにした時のように。

 腕を水平にまで上げ、群れて迫りくる『ぐ〜る』を握り潰すように、グッと、何も無い空を掴む。

 フッ、と『ぐ〜る』が消え去ったその次の瞬間、その隣に居た『ぐ〜る』へと意識を移す。

 一体のぐ〜るを消したその瞬間に、もう一体のぐ〜るへと意識を向ける。

 そうすると―――四人のぐ〜るが、消え失せた。

 出来たは良いが―――これは、あまりにも、難しい…!

「凄くない!? ソラ何したの!?」

「一体を消した瞬間に次の一体へと意識を移し能力を発動することによる能力の連射…クールタイムの無い能力と、本人の卓越した技術力が無ければ出来ない業だな。」

 解説をありがとう威。そして良いリアクションをありがとう惟。

 そうして対処をしていると、緑チームが撤退して行く。

 今、赤チームと戦うことになれば勝ち目が無いと考えて撤退することにしたのだろう。

 実に懸命な判断だ。何より、赤チームは直接手を出す事が出来ない。

 …だが、赤チームのリーダーの一人、黒岩マサヤは、彼らを引き止める、最善でいて、人として最悪な行動に出た。

 能力によって無能と称した人間達を奴隷にし、ぐ〜るへと突撃させたのだ。

 『緑チームを襲え』ではなく、あくまでも『ぐ〜るを襲え』という命令であれば、『クエスト中の他人への攻撃禁止』というルールには当てはまらない…!

 正しく切れ者―――中々に、厄介な、敵。

 崖の上に立っている黒岩が、見下しながら挑発するように、言葉を放つ。

「どうする? 緑チーム。見捨てても構わねぇぜ、どうせ役立たずの

 

クズだからな」

 断言、した。ぐ〜るに襲い掛かっている彼らは、役立たずのクズである、と。

 …ぐ〜るという存在への意識が、外された。

 跪くようにして、地面に手のひらを置く。

 ―――能力の発動条件は、『半径10m以内に物体がある』事か、『物体に手で触れている』事のどちらか二つ。

 今この時点で、発動条件の『物体に手で触れている』は達成する事が出来た。

 そして次に、『物体を物体と認識すること』。

 今、手で触れているのは“遺跡の地面”。地面を構成しているのは、煉瓦で作られたであろう床。

 即ち、『物体』。人間が認識し理解することが出来る『物』の一つ。

 D地区全体が、遺跡で出来ているという訳ではない。緑チームの人間達は全員、遺跡の外。つまり、森の方へと移動する事が出来ている。

 『無いものにする』判定は――――――遺跡の地面、“全域”。

 あの大きな遺跡も―――結局所は、『地面』という『物体』によって、支えられているのだ。

「威! 俺たちが立っている『床』だけを残して、『空間』を『固定』させてくれ!

「構わないが、何をするつもりだ!」

「―――一気に、“落とす”…!」

「っ、てめぇ等、退くぞ!」

 大神と黒岩達が、すぐさま下がる。

 天達が存在している『空間』が、『床』のような形となって『固定』される。

 そして、次の瞬間

 フッ、と。遺跡の『地面』が、無くなった。

 黒岩達が立っていた崖は崩れなかった。

 だが、遺跡が会ったであろう筈の場所は、完全な空洞が出来上がっており、もはや遺跡など欠片として存在していなかった。

 その空洞の上、空間に立っているのは、四人の少女と三人の青年。

 青年と少女が、“空間の上に立っていた”のだ。

「やっべぇ…ソラ、やべぇ…」

「俺の能力が無かったらどうなっていた事か…想像もしたくないな」

「すごいね、天」

「え、えぇ…? こんなの、アリなの…?」

「…途轍もないわね、ソラくん」

「…うん。ソラ、すごい」

 絶句する他無いその所業に、誰もが驚愕していた中で、声も出なかったその現状で。魅音すらもが、情けなく小さな口を開けて目を見開いた中で。

 一切の緊張もなく、天に賞賛を与えることが出来たのは、紫チームのメンバーだけだった。

 

 

□  □

「どうせなら、もっと派手なゲームをしましょう―――赤チームと緑チーム、そして…異例の紫チームとの、戦って犯って殺りまくりの戦争ゲーム『王様狩り』♡」

 魅音の言葉が始まりとなり開催された戦争ゲーム『王様狩り』。

 赤チームと緑チーム、そして紫チームによる何でもありの殺し合い。

 天は、後悔した。あんな派手な事は、しなければ良かったと。

 あんな派手なことをしてしまったから、本来ならば無関係であった筈の紫チームの誰かが、死ななければならなくなってしまった。

 其々の陣営で、『王様』の役割りを持つプレイヤーを殺せばその陣営の勝利となる。

 赤チームと緑チームと紫チームの三つ巴。赤チームのリーダーを殺しても、緑チームと対決しなければならなくなる。

 もしそうなったとして―――緑チームには、啓と優利が居る。

 此処に来て…初めての、“都合が悪い事態”となってしまった…!

(どうする…どうすれば良い…!)

 天は焦りながら考え込む。人生で初めて、頭を抱えて悩んでいる。

 赤チームを潰すのは良い。それは別に構わない。多々良りんごもだって緑チームに引き抜かれた。潰してはならない理由が無くなった。

 だが、問題なのは緑チームとの対決だ。もし仮に緑チームと対決した場合、天の情報を知っている啓と優利が恐らく天の所へと向かってくる。

 頭がキレる啓が居るのだ。絶対と言って良い程に、『物体の存在を無いものにする能力』の対策がされているだろう。これは間違いない。

 そして、これを突破して王様を消す事が出来たとする。これは、『最悪なシナリオ』だ。

 啓と優利と完全に敵対する。これ程までに最悪なシナリオは無い。

 敵対など全く以て望ましくない。正真正銘、最悪なシナリオに他ならない。

 そうならない為には、どうするべきか。

 …否、違う。何を悩んでいる。何を悩む必要がある。

 答えは簡単だ。何よりも簡単だ。そもそも、これは自分が蒔いた種だ。自分が引き起こした事件だ。

 ならば、自分で終わらせなければならない。

 “基山天が王様となり、緑チームの下に向って殺される”。

 これで万事解決だ。紫チームのメンバーが無駄死にする事も無ければ、啓と優利と敵対する事もなくなる。

 自分の手を汚さずにゲームをクリアする。これが、天の目的だった。

 今回で、目的はある意味達成されたようなものになる。

 “他人に手を汚させて、自分は死んで他の仲間達が生き残る”。これで、ゲームはクリアだ。啓と優利、それに熊切や霧崎なども生き残れる。

 …短かった筈なのに、随分と長く感じる事が出来た。

「…どうする? ソラ。こうなっちまった以上、俺たちもゲームをしなきゃならない。」

「…俺が、王様の役目を担おう。元はと言えば、俺が派手な行動を起こしたのが原因だ。あのまま逃げていれば、参加は免れたかもしれない」

「……天の意見も分かる。だが、俺たちがあのまま逃げていたとしても、強制的に参加されていたかもしれないだろ。提案者は魅音だし、赤チームの黒岩は邪魔な奴を徹底的に排除する奴だ。」

 そうなのかもしれない。

 だが、そうであったとしても、巻き込んだ事に変わりはないのだ。

 巻き込んだのは事実。もう巻き戻す事の出来ない過去の事となってしまった。

 自分でケジメを着けなければ、ならないのだ。

「…そうであっても、俺が王様の役目を担う。そして―――殺されに、行ってくる」

 天のその発言に、惟と禮、翔と桃が目を見開く。

 真と威、そして香は特に表情は変えてはいなかった。怒気すらも孕んではいなかった。

「ソラ、それは」

「禮。ソラの判断は、“正しい判断”だ。俺たち紫チームのメンバーが無駄死にする事なく済む最善策だ。その事を理解して、言ったんだろ? ソラ」

「…あぁ。」

「俺はソラの意見を止めやしねぇよ。自分で自分のケジメを着けるって決めたんなら、それがお前の覚悟なら、何も言わねぇ」

「俺もシンに同意だ。」

「……私も」

「そ、そんな…」

「…ソラは、本当にそれで良いの…?」

 禮が問うてくる。しかし、天はただ頷いて答えるだけだった。

 どんな事を言われようとも、どんなに殴られようと、もう決めた事だから、絶対に曲げない。

 これが選択。これが、答えだ。

「…そう、なんだ…変えるつもりは、無いんだ…」

「…あぁ。」

「…分かった。でも、私も一緒に行かせて。……せめて、最期くらいは、見届けたいから」

「…分かった。」

「それなら、俺も行く。威も来るだろ?」

「無論だ。たった一日だったとは言え、仲間だからな。最期を見届けよう」

「…そう、ね。私も、一緒に行くわ」

「ボクも、行くよ。」

「……私も、行く」

 全員が、行くと決めた。

 たった一日。それでも、仲間だと言ってくれた。

 …とても優しい友人が出来た。これも、人生で初めてのことだった。

 

 時間が、経った。

 場所は緑チームの入口の前。

 天の前には、弓を構えてくれている斉藤克也。

「…本当に、ええんやな?」

「…あぁ。これも、チームと…優利達の為だ。」

「……そうかい。同じチームだったら、俺もアンタと仲間になれた気がするわ」

「…それは、ありがたいな」

 

 弦から放たれた矢が―――天の心臓を、穿った。

 




「無力漢」
 壱岐真さん。
 あなたの能力は「相手を無力化させる能力」です。

 「時空間支配」
 壱岐威さん。
 あなたの能力は「時間と空間を支配する能力」です。

 「改造人間」
 高梨香さん。
 あなたの能力は「火力と耐久と速度を10倍にする能力」です。

 「■言■?」・「■■」
 稲川惟さん。
 あなたの能力は「■■と引き換えに■■を■■■■■能力」です。
 あなたは「■■と引き換えに■■を■に■■■■■能力」によって「■■を■■にする能力」を手に入れました。
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