5秒の間も穏やかに   作:全智一皆

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第8話

■  ■

 啓と優利が家を出て、適当に過ごしていれば、何時の間にか時間は12時を回っていた。

 もう寝なければならないというその時間帯に、天は外出をしていた。

 威と桃が死んでしまったという悲しい事実、真達が生きているという喜び、楸和樂という人間への憎悪が入り交じって、眠ることすら出来ない。

 ふらふらと放浪するように歩いていれば、昼は子供達が遊ぶ公園に辿り着いた。

 子供は居ない。大人も居ない。

 だが、それでも―――心が休まる事はなかった。はぁ、とため息を吐いて天を仰ぎ、夜空を眺めてしまう。

 もう既に気付いてる。

 もう―――第4rdプログラムは、既に始まっている。

「―――見つけたぞ、基山天」

「…」

 真夜中の公園。街灯の明かりのみが頼りで、それが無ければ暗闇にも等しくなる深夜。子供一人居ない静かな公園に、天は一人の少女と対峙した。

 剣道着姿の少女。その左手には、竹刀でも木刀でもなく―――鞘に納められている一本の日本刀が、握られている。

 右手ではなく、左手に握られているという事は即ち―――“私は貴方に斬り掛かります”という明確な戦意の表れだ。

 天はこのプログラムのルールを再確認する。

 6人だけが生き残る事の出来るバトルロワイヤル。

 味方チームのプレイヤーを殺せば24時間能力が使えなくなるという縛りがあるが、しかし敵チームのプレイヤーを殺せば殺す程に能力が強化される。

 最終的に生き残ることが出来るのは6人。

 『物体の存在を無いものにする能力』が強化されるとすれば…殺す意味はある。

 楸和樂という人間を殺す為にも、能力の強化は欠かせない。何としても殺さなければならない相手の為にも、強くならなければ。

「…」

 腕を水平に上げて、軽く閉じていた手のひらを開き、剣道着姿の少女を捉える。

 この能力の発動条件は、今になっても多くのプレイヤーに誤った事実で認識されている。

 能力の発動条件は『手で物体に触れる』か『半径10m以内に物体がある』かのどちらかであるが、しかし他のプレイヤーからすれば、発動条件は『手で物体に触れる』か、『手のひらの内に物体が入っているか』の二つになっている。

 この仕草はあくまでもブラフであり、能力発動に必要な仕草ではない。

 だが、それを知っているのはあくまでも天自身だけ。

 少女は抜刀し、回り込むように駆け出す。

「覚悟!」

「…」

 動きは普通。目で追えない訳ではない。

 だが、そうとなれば能力は絞られる。動きが普通、という事は身体能力強化系の能力ではない事が確定されたも同然だ。

 武器が日本刀であるならば、霧崎や明日香のような『木の棒を剣に変える能力』の可能性もあるし、ただの日本刀の可能性もある。

 『木の棒を剣に変える能力』である場合、何かしらの特徴がある筈だ。

 霧崎の場合は『何でも切れる剣』、明日香の場合は『重さを自由に変えられる剣』。

 ただの日本刀である場合は、能力は別のもの。実際に体験した事態から考えられるのは『斬撃系』。

「フッ!」

「……」

 普通の速度で振るわれる日本刀を、ひらりと躱して距離を取る。

 躱してすぐに能力を発動すれば勝てたのだろうが、まだ相手は能力を見せていない。

 相手の能力が何であるのかを知ってから殺せば良い。能力の情報はチームに大きな貢献となるだろうし、自分としても利益となる。

 彼女の攻撃から、彼女の能力が篠木刃のような、『自分の間合いに入ったもの全てに斬撃を与える』というチート能力ではないことが確認出来た。

 他の系統の能力なのか、それともただのブラフなのか。

 

 

 様々な予測が脳内で交差する。

 少女の攻撃を躱しながら、少女の能力を警戒しながら、動きながら頭の中で予測を幾つも立てる。

 そんな中―――ようやく。

「っ、基山天、どうして攻撃してこない?」

 喋らなかった少女が、口を開き、天に問う。

 さっきから攻撃を避けるばかりで、全く攻撃してこない天に、少女は疑問を抱いたのだろう。

 カウンター一つしてこない。戦いであるというのに、攻撃をしてこないのだから、疑問を抱くのは当然と言えるだろう。

 そんな少女の問いに、天は答えなかった。

 ただただ無言で、目線を刺すだけだった。

「余裕だと言うことか…ならば!」

 ついに、能力を扱うのか。

 突きの構えを取り、少女は愚かにも叫ぶ。

「私の能力―――『刀剣を操る能力』で、貴様を斃」す。

 そう言おうとした、その瞬間。

 フッ、と。彼女が握っていた日本刀が、無くなった。

 天は呆れてしまった。今まで警戒していた自分が馬鹿馬鹿しいと思えてしまった。

 まさか、警戒していた能力が『刀剣を操る能力』だったとは。

 能力自体は考えようや強化によっては霧崎や明日香をも越えるものになるのだろうけれど、しかし使い手の剣技の才がこれでは…宝の持ち腐れだ。

 『刀剣を操る能力』。しかしそれは、つまる所“操る刀剣が無ければ何も出来ない”という事だ。

 彼女は刀剣が無ければ、ただの少女にしかならないのだ。

「っ、な」

「……」

 もはや言葉は無かった。

 パチン―――と、指を鳴らして能力を発動すれば。

 少女がフッ、と消え去った。

 ピロン、と《端末》から可愛らしい音が鳴り、ポケットから《端末》を取り出して内容を確認してみれば―――

『あなたの能力が強化されました。あなたの能力の弱点である「二つ以上のものを同時に無いものに出来ない」が改善され、「二つ以上のものを同時に無いものにすることが出来る」ようになりました』

 という、歓喜出来る内容が来ていた。

 弱点の改善。範囲が広がったなどではなく、二つ以上のものを同時に消すことが出来るようになった。

 

 

 一人を殺しただけで、更に便利な能力へと強化された。実に素晴らしい成果だ。

 これで、一歩近付けた。敵討ちの為に、歩むことが出来た。

 敵を、楸和樂を殺すことが出来れば、それで目的は達成だ。

 後はリタイアして、能力も記憶も消して生活しても良し。自殺して威達の方へと向かうも良し。

 次には進まない。次に進むのは、啓達だけで十分なのだ。自分は、要らない。

「良かったね、基山くん。能力が強化されて」

 歓喜に浸っていた中、突如として後ろから声を掛けられる。

 バッと振り返り、身構える。するとその声の主は「おっと、驚かせちゃったね。ごめんごめん」と、両腕を上げて自分は無害です、と言わんばかりのアピールをしてきた。

 …敵意は、無い。だが、このプログラムにおいて、味方以外はあまり信用が出来ない。

 警戒は解かないまま、天は身構えるのを止めた。

「あー…やっぱ警戒は解いてくれないか。まぁ、仕方ないことではあるけど」

「…お前は誰だ。何が目的で、俺に話しかけた」

「んー…ただ単純に、協力関係を結びたいってだけさ。」

 銀髪に緑眼。小柄な体格。中性的な顔面。低いと高いの中間のような声。

 (体を見て)恐らくは…少年。容姿から見て、『10人殺しのX』の可能性も無くは無い。

 だが、情報が幾つか合わない。そうなると、眼の前に居る彼、もしくは彼女は『10人殺しのX』ではない可能性の方が高くなってくる。

 そうだとしても…警戒は解けないが。

「勿論、タダでって訳じゃない。君が知りたい情報―――もとい、“楸和樂”についての情報を、おれは渡す。」

「…! お前、楸和樂を知っているのか」

「まぁね。おれもアイツにちょっとやられちゃってさ。万年青みたいな感じになっちゃってるんだよね」

「……協力関係の理由は、楸和樂に対する復讐か?」

「うん、それで合ってる。君はおれの復讐に協力して、おれも君の復讐に協力する。おれは、誰かがあいつを殺してくれればそれで良いからさ。君がトドメを刺してくれるなら、それで良いよ」

 噓を吐いている、という訳でもない。

 楸和樂という名前を出したその瞬間から、その小柄な体から少しばかりの怒気が放たれている。

 楸和樂という人間に対する復讐。それが目的である。

 

 

 目的は同じ、何より協力関係を結ぶというのも自分にとって都合が良いものだ。

 警戒は解かないが、しかし協力関係を結ぶのは悪くない。

 天は考えた結果―――その提案を、飲んだ。

「…分かった。協力関係を結ぼう」

「――そっか。ありがとう、基山くん。」

 《端末》に情報を登録し、天はその情報を確認する。

【『梧桐倭』。チーム《無所属》・能力名《道楽妖女》】

 …少年ではなく、少女だったようだ。何とも分かりにくい体だな、と天は失礼にもそう思ってしまった。

 すると梧桐が「まぁそりゃ、こんな貧相な体だし一人称がおれだから仕方ないかもだけどさぁ、女の子に向かってそりゃないじゃんか」と、ぶーぶーと言いながら心を読んだかの如く反論してくる。

 能力名は、《道楽妖女》。

 道楽とは、好きな事にふけること。そういう好み。妖女とは、妖婦。魔法使いの女を意味する。

 恐らく元となった言葉は『放蕩息子』だろう。

 意味から予測を立てるなら―――『相手があなたの能力だと思った能力』か、『見た能力を使える能力』だろうか。

「あ、やっぱり能力が気になる?」

「…まぁ、そうだな。協力関係を結んだ以上、奴に復讐をする以上、互いに必要な情報は開示した方が良い。」

「…確かに、そうだね。なら、おれの能力は―――」

 そこに居る人達との戦闘が終わったら教えるよ。

 

 

 暗闇の奥から、三人の人間が現れる。

 スキンヘッドの人間。囚人服に身を包み、殺意を隠さず放っている明らか敵対者の人間。

「恐らくは楸和樂のチーム…もとい、《第零監視人チーム》の人間だよ。」

「…第零、監視人」

「そう。楸和樂は、本来なら存在しない筈の第零の監視人…まぁ、魅音ちゃんのストッパー役であるヤンちゃんの護衛みたいなのが本職っぽいけどね。けど、そんなことはどうでもいいことかな」

 その三人の方を向いて―――梧桐は、動き出した。

 ガッッ、と地面が“抉れてしまう程の力”を込めて地面を蹴り、音速にも近しい速度で三人に接近する。

 “基山天は、その能力を知っている”。

 三人の囚人が、その人間が本来出せる筈ではない尋常ならざる速さで動き出した梧桐に一切恐れる事なく散開する。

 一人は空間から特徴的な形をした銃を取り出して梧桐に構えた。

 一人は手刀を形作り、腕に風を纏い、梧桐に襲い掛かった。

 一人は砂場の砂を操り、砂の波を作り出して、梧桐へと向かわせる。

 1方向からの遠距離攻撃。2方向からの近距離攻撃。合わせて、3方向からの攻撃。

 どれをとっても、直撃すれば即死は免れない。躱さなければ―――死ぬ。

「癪なんだけど、おれの能力と楸の能力は似てるんだよね。嫌いな奴と似た能力を持つなんて、本当に最悪ってものだ」

 ピタッ、と。その場に居る、天と梧桐以外の全員が、停止した。

 否、それともう一つ―――その『空間』に『固定』された。

 

 

 “基山天は、その能力を知っている”。

 パンッ、と手を叩いた瞬間に、三人の体から力が徐々に抜けていく。

 正確に言うならば、力が抜けているのではなく、力が“無くなっている”というのが正しい表現だ。

 一人の力が無くなっていき、構えていた超電磁砲を地面へと手放した。

 一人の力が無くなっていき、だらんと腕が下がり、風が無くなる。

 一人の力が無くなっていき、浮かんでいた砂の波が崩れてただの砂へと戻っていく。

 “基山天は、この能力を知っている”。

 梧桐倭という少女が扱う能力全てが、基山天にとって見覚えがある能力ばかりだった。

「……お前の、能力は」

「こうして自分で言うのすら嫌なんだけど…おれの能力は」

 

 

 




「道楽妖女」
 梧桐倭さん。
 あなたの能力は「関わりのない他人の能力を使える能力」です。
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