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《厄災》の主催者、《解纜王》レオンハルト。
その能力は毒であることしか分からない。
だが、能力がどんなものであろうとも、もしも相手が楸和樂であるならば、それは何の意味の無い。
星野王子は、そう断言した。
「…どういう、ことだ? あいつの能力は、『化物』ってだけだろ?」
王子の言葉に、優利は疑問を呈した。
どんな能力であろうと、楸和樂という人間が相手ならば何の意味も無い。
楸和樂―――赤チームに所属していた男であり、壱岐威と佐薙桃を殺した張本人。
優利の幼馴染である天が殺すと決めた相手。
優利は楸和樂の能力を知っている。楸和樂の能力は『化物』。地這禮と同じく「自分の思う怪物になれる能力」だった筈だ。
「優利ちゃん、違うんだよ。楸さんの能力は、そんな優しいものじゃない。あの人の能力は―――『全人生』は」
“見て聞いた能力を扱える能力”なんだよ―――星野は、そう言った。
「見た能力が噓のものであろうと、聞いた能力の話しが噓であろうと、実際に能力を見たのなら、能力の話しを聞いたのなら、それだけでその能力を扱える能力。それが、楸さんの能力なんだ」
「な、な、なんだよそのチート能力!」
「そう。楸さんはチートだ。だからこそ、誰も彼の相手をしようとしない。それはレオンハルトだって例外じゃなく、魅音ちゃんも敵対しようとはしない。逆に、彼もまた敵対しようとはしない。彼はヤンさんの護衛だからね」
「ヤン…あのチャイナドレスを着ていた女か」
「うん。彼女の護衛が、楸さん。と言っても、彼は元々監視人ではなかったけど」
「彼は元々一般人だった。ただ、生まれたその時から『全人生』という能力を持って生まれた、『恵まれし子』なんだよ。」
場所と時間は変わり、公安庁。
白柳啓の父親である白柳燈夜が率いる第一チームの拠点となる公安庁。
もはやそこの下層は―――殺戮の場と化していた。
「全ては一時の出来事。大して深く考える必要も無いものだとばかり思っていたが…レオンハルトも魅音も、自由にやり過ぎるから俺にも仕事が回ってくる。まぁ、それはそれとして。…はじめましてだな、白柳燈夜。それと、十束天那と九龍だったか。《第零監視人》チームのリーダー、楸和樂だ」
《第零監視人チーム》リーダー、楸和樂。能力名『全人生』。
もはや説明は不要だ。
完全なる敵対。何をどうしようと何を言おうとも、もはや敵対関係は完全に確立した。
白柳燈夜達にとって楸和樂は倒すべき敵となり、楸和樂にとって白柳燈夜達は邪魔すべき敵となった。
袖から刃物を取り出して構える九龍。
針金を腕に纏い、巨腕の形として構えを取る天那。
鋭い眼光で、楸を釘指す燈夜。
そして、太刀を逆手に持ち、敵意を示す和樂。
話し合いの空気など最初から無かった。彼らが和樂の元へ向かおうとしたその瞬間から、敵対は定められていた。
「『真剣師』、『鬼神』」
『真剣師』。木の棒を何でも切れる剣にする能力。
『鬼神』。身体能力を5倍にする能力。
能力の同時発動。身を屈め、万物万象すら斬り捨てる鋭利を手に入れた太刀を構えながら5倍に引き上げられたその脚力で床を蹴り―――天那の方へと、直進する。
十束天那の能力『経津主』。それは、針金を操る能力である。
殺傷力は高く、扱い方によっては殺戮など容易いものだ。
だが―――相手が、あまりにも悪かった。
「手練の剣を相手に、その巨腕は悪手だろ」
スッ―――と、まるで豆腐に包丁を入れるかのように。そんな、簡単に、太刀は天那の巨腕を切り裂いた。
それもその筈。『何でも切れる剣にする能力』と『身体能力を5倍にする能力』の二つが組み合わせられたその一振りは、まさしく剣聖が放つ一閃と同等だ。
剣を相手にするならば、素速い身のこなしを為す実力者を相手にするならば、巨腕はあまりにも悪手。針金蜘の方が、最善の手だった。
だが、天那はこのプログラムにおいて最多数のKIRRを誇る能力者であり、その能力もまた無敵と言っても過言ではない。
戦闘経験は豊富。天那は太刀が自分の腕に届く寸前に能力を解いて腕を引き抜き、後ろへと下がって距離を取る。
和樂の背後には―――袖から双剣を取り出し、その首を狩ろうとする九龍が、居る。
太刀を振るおうと、針金で形作られた巨腕から引き抜こうとしたが―――それは、出来なかった。
地面に縫い付けられ、伸びている針金が刀の側面を固定していたのだ。
「貰ったぞ!」
「『時空間支配』、『怪物』」
太刀が消え去り、空となった手のひらを閉じ―――親指と中指を、合わせて。
パチンッ―――と、指を鳴らしたその瞬間に、九龍は空中という『空間』に『固定』された。
左足を軸に回転し、回転の勢いと『自分の思う怪物になる能力』によって得た『無茶苦茶な力』が込められた右足が、見事に九龍の顔面を捉えた。
グギッ!!!! と、鈍い音が殺戮の場に鳴り響く。
あらゆる理不尽を突破する力を持つ強烈な勢いで吹き飛ばされ、九龍は強風にも似た衝撃と共に壁を打ち破り、外へと投げ出された。
「真剣師」。
楸和樂さん。
あなたの能力は「木の棒を何でも切れる剣に変える能力」です。
「鬼神」。
楸和樂さん。
あなたの能力は「身体能力を5倍にする能力」です。
「時空間支配」。
楸和樂さん。
あなたの能力は「時間と空間を支配する能力」です。
「怪物」。
楸和樂さん。
あなたの能力は「自分が思う怪物になる能力」です。
これこそが、「全人生」。『実際に見た』、もしくは『話しを聴いた』能力を扱うことが出来る能力。
和樂は無表情のまま、燈夜へと問う。
「さぁ、次はどうする?」