5秒の間も穏やかに   作:全智一皆

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第9話

■  ■

《厄災》の主催者、《解纜王》レオンハルト。

 その能力は毒であることしか分からない。

 だが、能力がどんなものであろうとも、もしも相手が楸和樂であるならば、それは何の意味の無い。

 星野王子は、そう断言した。

「…どういう、ことだ? あいつの能力は、『化物』ってだけだろ?」

 王子の言葉に、優利は疑問を呈した。

 どんな能力であろうと、楸和樂という人間が相手ならば何の意味も無い。

 楸和樂―――赤チームに所属していた男であり、壱岐威と佐薙桃を殺した張本人。

 優利の幼馴染である天が殺すと決めた相手。

 優利は楸和樂の能力を知っている。楸和樂の能力は『化物』。地這禮と同じく「自分の思う怪物になれる能力」だった筈だ。

「優利ちゃん、違うんだよ。楸さんの能力は、そんな優しいものじゃない。あの人の能力は―――『全人生』は」

 “見て聞いた能力を扱える能力”なんだよ―――星野は、そう言った。

「見た能力が噓のものであろうと、聞いた能力の話しが噓であろうと、実際に能力を見たのなら、能力の話しを聞いたのなら、それだけでその能力を扱える能力。それが、楸さんの能力なんだ」

「な、な、なんだよそのチート能力!」

「そう。楸さんはチートだ。だからこそ、誰も彼の相手をしようとしない。それはレオンハルトだって例外じゃなく、魅音ちゃんも敵対しようとはしない。逆に、彼もまた敵対しようとはしない。彼はヤンさんの護衛だからね」

「ヤン…あのチャイナドレスを着ていた女か」

「うん。彼女の護衛が、楸さん。と言っても、彼は元々監視人ではなかったけど」

 

 

「彼は元々一般人だった。ただ、生まれたその時から『全人生』という能力を持って生まれた、『恵まれし子』なんだよ。」

 

 

 場所と時間は変わり、公安庁。

 白柳啓の父親である白柳燈夜が率いる第一チームの拠点となる公安庁。

 もはやそこの下層は―――殺戮の場と化していた。

「全ては一時の出来事。大して深く考える必要も無いものだとばかり思っていたが…レオンハルトも魅音も、自由にやり過ぎるから俺にも仕事が回ってくる。まぁ、それはそれとして。…はじめましてだな、白柳燈夜。それと、十束天那と九龍だったか。《第零監視人》チームのリーダー、楸和樂だ」

 《第零監視人チーム》リーダー、楸和樂。能力名『全人生』。

 もはや説明は不要だ。

 完全なる敵対。何をどうしようと何を言おうとも、もはや敵対関係は完全に確立した。

 白柳燈夜達にとって楸和樂は倒すべき敵となり、楸和樂にとって白柳燈夜達は邪魔すべき敵となった。

 袖から刃物を取り出して構える九龍。

 針金を腕に纏い、巨腕の形として構えを取る天那。

 鋭い眼光で、楸を釘指す燈夜。

 そして、太刀を逆手に持ち、敵意を示す和樂。

 話し合いの空気など最初から無かった。彼らが和樂の元へ向かおうとしたその瞬間から、敵対は定められていた。

「『真剣師』、『鬼神』」

 『真剣師』。木の棒を何でも切れる剣にする能力。

 『鬼神』。身体能力を5倍にする能力。

 能力の同時発動。身を屈め、万物万象すら斬り捨てる鋭利を手に入れた太刀を構えながら5倍に引き上げられたその脚力で床を蹴り―――天那の方へと、直進する。

 十束天那の能力『経津主』。それは、針金を操る能力である。

 殺傷力は高く、扱い方によっては殺戮など容易いものだ。

 だが―――相手が、あまりにも悪かった。

「手練の剣を相手に、その巨腕は悪手だろ」

 スッ―――と、まるで豆腐に包丁を入れるかのように。そんな、簡単に、太刀は天那の巨腕を切り裂いた。

 それもその筈。『何でも切れる剣にする能力』と『身体能力を5倍にする能力』の二つが組み合わせられたその一振りは、まさしく剣聖が放つ一閃と同等だ。

 剣を相手にするならば、素速い身のこなしを為す実力者を相手にするならば、巨腕はあまりにも悪手。針金蜘の方が、最善の手だった。

 だが、天那はこのプログラムにおいて最多数のKIRRを誇る能力者であり、その能力もまた無敵と言っても過言ではない。

 戦闘経験は豊富。天那は太刀が自分の腕に届く寸前に能力を解いて腕を引き抜き、後ろへと下がって距離を取る。

 和樂の背後には―――袖から双剣を取り出し、その首を狩ろうとする九龍が、居る。

 太刀を振るおうと、針金で形作られた巨腕から引き抜こうとしたが―――それは、出来なかった。

 地面に縫い付けられ、伸びている針金が刀の側面を固定していたのだ。

「貰ったぞ!」

「『時空間支配』、『怪物』」

 太刀が消え去り、空となった手のひらを閉じ―――親指と中指を、合わせて。

 パチンッ―――と、指を鳴らしたその瞬間に、九龍は空中という『空間』に『固定』された。

 左足を軸に回転し、回転の勢いと『自分の思う怪物になる能力』によって得た『無茶苦茶な力』が込められた右足が、見事に九龍の顔面を捉えた。

 グギッ!!!! と、鈍い音が殺戮の場に鳴り響く。

 あらゆる理不尽を突破する力を持つ強烈な勢いで吹き飛ばされ、九龍は強風にも似た衝撃と共に壁を打ち破り、外へと投げ出された。

 

 

 「真剣師」。

 楸和樂さん。

 あなたの能力は「木の棒を何でも切れる剣に変える能力」です。

 「鬼神」。

 楸和樂さん。

 あなたの能力は「身体能力を5倍にする能力」です。

 「時空間支配」。

 楸和樂さん。

 あなたの能力は「時間と空間を支配する能力」です。

 「怪物」。

 楸和樂さん。

 あなたの能力は「自分が思う怪物になる能力」です。

 

 これこそが、「全人生」。『実際に見た』、もしくは『話しを聴いた』能力を扱うことが出来る能力。

 和樂は無表情のまま、燈夜へと問う。

「さぁ、次はどうする?」

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