とある呪術の禁書目録   作:エゴイヒト

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プロローグ
魔術廻戦


 『とある魔術の禁書目録』という作品をご存知だろうか。

 この作品の詳細については、敢えて語るまい。ただ、超能力や魔術が登場する作品ということだけ理解してくれればよい。

 さて、まずはこの作品のメインヒロイン『インデックス』について語りたい。

 禁書目録(インデックス)とは、イギリス清教第零聖堂区必要悪の教会(ネセサリウス)所属の魔術師にしてシスター。10万3000冊の魔道書を記憶する魔道書図書館。魔法名は『献身的な子羊は強者の知恵を守る(dedicatus545)』。

 いきなり言われても何が何やらというのは分かるが、これは必要な前置きなのだ。

 

 私は転生者である。どういう経緯で転生したのかは知らないし、前世の記憶は『とある魔術の禁書目録』に関することを除いてとんと忘れた。

 問題なのは、私がインデックスになっていたということである。腰まで届く長い銀髪とエメラルドのような緑色の瞳、白い肌に小柄で華奢な体格の少女。キャラがキャラだけに、前世にまつわる記憶消去が作為的なもの――つまり『首輪』の存在を疑ってしまう。

 問題と言ったが、インデックスとして転生した事は私にとってはそう頭を悩ませることでは無い。容姿がインデックスであるなら、作中の魔術を行使することもできるのではと考えるのは自然な流れ。『とある魔術の禁書目録』のファンであることを抜きにしても、単に『魔術』という超常現象への憧れの前では些事は気にならない。

 

 しかし、こういった現状への考察は転生してから暫く経って落ち着いた今だからできることで。

 サブカルチャーにどっぷりと浸っている者は、いざ自分が転生という超常現象を体験しても驚かないものなのだろうか。

 私はというと、転生に驚く暇を与えられなかった。断っておくと、戦火の真っ只中で生まれたとかいうわけではない。ちゃんとイギリスの一般的な家庭に生まれた。

 転生に驚かなかったのは、それが気にならない程のもっと奇怪な事が起きていたからである。

 

 ――自我が目覚めた時、私の頭の中には10万3000冊の魔道書の知識が入っていた。

 

 想像してみて欲しい。寝て起きたら知らない本の内容が一言一句漏らさず頭に入っているのだ。しかもそれが10万3000冊。

 人間が一生の内に読む本は平均2000冊もいかないと言われている。仮に一日一冊読んだとしても10万3000冊を読み切るのには282年と70日かかる計算になる。

 インデックスの作中年齢を15才と仮定し、生まれた時から読書を始めたとしても、15年で読み切るには日平均で約19冊読まなくてはならない。

 どういう方法で記憶したのかは定かではないが、実際に読んで記憶したのであれば、それを可能にしたのは途轍もない速読力ではなく、見聞きした事柄を瞬時に覚え絶対に忘れない『完全記憶能力』の賜物なのだろう。

 何らかの魔術的な方法で一瞬で記憶したのだとしたら、その記憶効率はもはや睡眠学習なんてレベルではない。例えるならそう、電脳化してデータを直接インプットしたような。

 私は、SF作品や未来予想で語られるようなことを実体験したのである。

 幸いだったのは、原作のインデックス同様に魔道書の汚染への防御機構を備えていたことだ。10万3000冊の魔道書の原典は、手に入れた者が魔神になれる程の価値があるが、常人が一目見ただけで発狂するほど危険な毒を持つ。

 頭が爆発するとか発狂して死ぬなんてことは起きなかったが、それでも錯乱は免れなかった。

 

 数日経って現状を分析し冷静さを取り戻すまでの間に、私は教会に預けられていた。というのも、両親は熱心な十字教徒であったようで、私に悪魔が憑いているのではないかと疑ったらしい。

 例え悪魔憑きが本当だとしても、今時教会が子供を預かるなんてことはしない。思えば、この時点で既に異常だった。

 正気を取り戻したからには両親の元へ返されるのかと思ったのだが、私は聖ジョージ大聖堂へと移されることになった。

 最初に預けられた教会の司祭曰く、私には正の力が溢れているらしい。反転術式の天性の才能とか何とか。反転術式とやらが何かは分からないが、私の体に漲る力に関しては心当たりがある。

 

 これは『天使の力(テレズマ)』だ。私の10万3000冊の魔道書の知識がそう言っている。

 テレズマは『天使』や『天界』を構成するエネルギーである。偶像の理論などによって集められたテレズマは、魔術行使や霊装に込めるなどして利用される。魔力と違って融通が利かず、そのテレズマが最初から持つ属性に応じた用途でしか使えない。

 作中では十字教徒が象徴武器(シンボリックウェポン)で呼び出したりしていたが、人の身に宿すこともあり、その最たる例が『聖人』である。

 

 つまり、テレズマを先天的に体に宿した私は聖人ということになる。

 

 聖人とは、生まれた時から神の子に似た身体的特徴・魔術的記号を持つ人間のことを言う。

 原作のインデックスが聖人であるという描写はない。これは私自身の特性だろう。

 理由は何となく察しがつく。『転生者』という記号が原因だろう。

 十字教には『転生』という概念は存在しない。正確には、大多数の宗派は個人の生まれ変わりを信じていない。

 そういう関係で、私という存在を十字教の世界観で強引に解釈するなら『蘇生』が妥当であり、これが神の子の記号として働いたのだろう。

 ……完全なる知性主義(グノーシズム)めいた考察なので、十字教徒の人間には口が裂けても言えない。墓まで持っていこう。

 

 ところで、ここで一つ重大な疑義が生じる。テレズマを感知できているということはあの司祭は魔術師で確定。魔術師なら、私に漲る正の力がテレズマであることは容易に察しがつくはず。しかし彼はこの力を指してテレズマとは呼ばなかった。

 いや、そういえばテレズマは一般的な呼称であるものの、元を正せば『黄金夜明(S∴M∴)』による呼称で、十字教では神の祝福(ゴッドブレス)と呼ぶ設定だった気がする。

 でもフィアンマはテレズマと呼んでいたような気が……。まあ、この際呼び方などどちらでもいい。

 

「『聖人』だ……」

 

 聖ジョージ大聖堂へと移送されてきた私を見て、聖職者達の誰かが私を『聖人』と呼んだことで、私の頭は余計に混乱した。

 

 

 


 

 

 

 教会に所属する聖職者には、ロンドン市内に自分の部屋が与えられる。寮生活のようなものか。

 聖ジョージ大聖堂はロンドンの聖職者達の本拠地であるが、実際の勤務というか活動地はロンドン中に散らばっている。

 その一つに治療院がある。どこで怪我をしてくるのか、ここには軽傷、重傷、瀕死の患者が運ばれてくる。特に夜に多いらしい。いつから教会が救急病棟になったのか。挙句の果てには死体が運ばれてくることさえある。遺体安置所もやるとは手広いことだ。

 教会が私に与えた役目は、反転術式とやらで治癒をすること。今日が晴れて私の勤務初日である。

 問題は、肝心の反転術式というのが何なのかさっぱり分からないことだ。そんな魔術聞いたことがない。治療と言うからには回復魔術の一種なのだろうが。

 治療院の一室に並べられた十余りのベッドの内、私が割り当てられたのは一人。熊にでも襲われたのかというくらい裂傷が酷い患者だった。これでもこの中では軽傷の部類。

 止血など応急処置はされているようだが、現代の医療技術では完全回復させることは不可能だろう。跡が残る。

 ベッドを前にして、私は反転術式とやらが何なのか考え込む。

 私と同じく治癒士として働く先輩を観察してみる。患者に触れているが、何をしているのか。

 直接方法を尋ねると、

 

「ぎゅっとしてぱーんって感じ」

 

 他の先輩に聞いても、各々要領を得ない事を言って具体的な方法を教えてくれない。

 

 ――あ、だめだこれ。こいつら感覚派しかいない。

 

 それでも何とか嚙み砕いて理解したところによると、正の力を生成するのは出来ているから、あとは患者に流し込むだけのようだ。

 いやいや、テレズマを人体に流し込んだら不味いでしょ。

 テレズマには治癒の力なんてない。寧ろある程度集まるとエネルギー自体が破壊力を持つ。テレズマを利用して何らかの術式を発動させて治癒するというならできるだろうが、そのまま流し込んでも患者の体が爆散するだけだ。

 聖人が体にテレズマを宿しておけるのは、生まれた時からテレズマを制御する術を防衛本能で身に着けているからで、適正の無い人間はとても耐えきれない。

 

「インデックスちゃんはアウトプットはできないのかしら。才能があるのに、勿体ない」

「心配しなくても、居場所がなくなるなんてことは無いわ。アシスタントはいくらでも欲しいし」

 

 私が患者を前にしてフリーズしていると、先輩シスター達に慰められる。

 そうそう。今世の名前は知らないが、教会に引き取られた時にそれとなく神父に名前を変えるよう諭された。

 洗礼名というやつだろうか。いや、イギリス清教は元ネタ的にあまり付けないのか。第一、偽名なら魔法名があるし。

 取り敢えずIndex-Librorum-Prohibitorumと名乗っておいた。ふざけているのではなく、原作インデックスの本名だ。意味はもちろん『禁書目録』。やはり名乗るならこれだろう。

 変な顔をされたが、こちらの意志が固いのを見るとそのまま受理された。

 

「休憩してていいよ。後は私達がやっておくから」

「いえ、大丈夫です」

 

 交代しようとした先輩を制止して、施術に取り掛かる。

 なにぶん、親に捨てられたあるいは教会に連れ去られた身。役に立つところを見せないといよいよ居場所が無くなる。

 反転術式とやらは扱えないが、私には10万3000冊の魔道書の知識がある。

 テレズマを感じ取って操作している間に気付いたが、この体は魔力を精製できる。つまり魔術を使える。

 原作のインデックスは『首輪』やらの影響で魔力を練れずほとんどの魔術を使えなかったが、私には『首輪』は無いようだ。魔道書の毒への防衛機構と同様に『自動書記(ヨハネのペン)』は健在のようだが。

 

「少し待っていて下さい」

 

 部屋を見渡して必要な物を特定した私は、そう言って娯楽室から儀式のための道具を持ってきた。

 意識のある患者や先輩シスター達から、気が狂った者を見るかのような目を向けられる。

 回復魔術は魔術師の適性で千差万別、まして今から行うのは10万3000冊の知識に基づいた魔術。知らなくて当然であり、逆の立場なら私も奇異の視線を向けていただろう。

 

 準備は整った。彼女達の仕事を奪うようだが、一片に終わるのならその方がいいだろう。

 

「まとめて全員治します。これから、何があってもその場で動かないでください」

「ぜ、全員?」

 

 現在位置がロンドンであること、窓の外に見える月と星の角度から日付と時刻を割り出す。7月20日の午後8時30分くらいか。

 

蟹座の終り、8時から12時の夜半

 

 黄道十二宮の巨蟹宮は6月21日の夏至から7月23日の大暑まで。

 

方位は西方、ウィンディーネの守護、天使の役はヘルワイム

 

 巨蟹宮は四大属性で水を示す。対応する方角は西、力を借りる精霊はウィンディーネで――

 

 条件を唱えながら、指を噛んで出た血で魔法陣を構築する。テーブル上に六芒星を描き、その上に本、箱、チェスの駒を配置し、この部屋を模したミニチュアを作り上げる。

 10万3000冊の魔道書の知識が、最適な手法を教えてくれる。これが初めての魔術にも拘らず、私の動きに迷いは無かった。失敗すれば死ぬと分かっていても、機械のように凍りついていく心に恐怖は無い。

 

「~~♪」

 

 言葉は無く、音色だけで歌う。異変はすぐに起きた。

 

「地震!?」

 

 部屋全体が……、否、空間が揺れる。

 テーブル上のチェスの駒、白のビショップからも歌声が発せられる。

 しばらくして、揺れが収まる。

 今、テーブルの上はこの部屋とリンクしている。偶像崇拝の理論によって、この部屋で起きた事はテーブル上でも起き、テーブル上で起きた事はこの部屋でも起きる。

 続けて歌いながら、天使を思い浮べる。

 すると頭上に子供の体格の二枚の金色の羽根を持つ美しい天使が現れる。

 

「天使……」

 

 机上に患者の数だけ並べられたポーンから、煙が噴き出す。

 次の瞬間には、天使は消えていた。

 

「術式に成功しました」

 

 患者達の見るも無残な姿も、衣服やシーツに染み付いた血痕も、何もかもが幻であったかのように綺麗になっている。

 私の意識も、温もりを取り戻す。

 

 目を瞠る先輩シスター達。

 経験も何もない自分がここまでできるインデックススペックは凄い。与えられたというか生えてきた力だが、自分のことのように誇らしい。

 

 とあるのヒロインはインデックスで始まりました。御坂美琴じゃありません。禁書が原作(オリジナル)です。

 しばし遅れを取りましたが、今や巻き返しの時です。

 シスターがお好き? 結構。ではますます好きになりますよ。

 さあさどうぞ。腹ペコ噛みつき魔(545)のニューモデルです。

 可憐でしょう?修道服がツギハギ。でも短髪なんて見かけだけで、夏は(エアコンが壊れて)暑いし、よく勝負吹っ掛けるわ、すぐビリビリするわ、ろくなことはない。

 エンゲル係数もたっぷりありますよ。どんな小食の方でも大丈夫。どうぞ餌をやってみてください。

 ……いい音でしょう? 余裕の音だ、食欲が違いますよ。

 

 ヒロインでありながら原作では存在感の薄いインデックスも、魔術の知識に関しては誰にも負けないのだ。

 オティヌス? 黄金? 知らんな。

 

 私が微笑みかけると、彼女達は互いを見合って頷いた。

 そして私は聖ジョージ大聖堂へ連行された。

 

 ……解せぬ。

 

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