ぶっちゃけこの作品書いたのもこのくだりがやりたかっただけ。
前回投稿から1日で書いたので短い。
「なんかちょっと嫌な感じが……」
乙骨君が不穏な事を言いだした。誰も取り合わなかったが、その予感は当たっていた。
ヤツは、巨大なペリカンに乗ってやってきた。
「仏教徒なのにペリカンに乗ってやってくるんだね。それとも挑発のつもりなのかな?」
ペリカンは嘴を胸の羽毛に入れて休む習性がある。恐らくこれを起源として、ペリカンは自らの胸に穴を開け血を与えて子を育てるという伝説がある。
この自己犠牲から、ペリカンは十字架に身を捧げた神の子の象徴であるとされる。
嘴の中からぞろぞろと何人かの仲間が吐き出される。
「初めまして乙骨君、私は夏油傑。そして――また会ったね『宇宙人』」
前の話の続きをしに来た。そう切り出して、夏油は演説を始める。
「君たちは素晴らしい力を持っている。大いなる力は大いなる目的のために使うべきだ。呪術師が呪霊から一般人を守るこの世界、おかしいと思わないか?」
特に私と乙骨君に聞かせるように。いつの間にかジリジリと距離を詰めて、乙骨君と肩まで組んでいる。これが詐欺師の手口か。
「強者が弱者に適応する矛盾が成立してしまっているんだ。なんて嘆かわしい!!」
いつまでも詐欺師のペースに乗せられるわけにはいかない。
「『多く与えられた者からは多く求められ、多く任せられた者からは更に多く要求される』」
「何?」
「『ルカによる福音書』第12章第48節、だよ」
「Noblesse obligeとでも言いたいのか」
夏油は乙骨君と体を離して、私の方へ意識を向けた。反論が来るとは思っていなかったのか、目つきを変える。
「……呪霊がどうやって生まれると思う?」
呟くように出たその言葉は、声のトーンを一つ落としていた。
「呪霊とは、人間から漏れ出す呪力が澱のように積み重なって形を成したものだ。呪力をコントロールできる呪術師から呪霊は生まれない。なら話は早い。非術師を皆殺しにすればいい。危機感を煽られた幾らかの非術師は術師に進化するだろう。私としては猿に期待はしないがね」
「てめぇ……」
夏油から語られたのは、選民思想だった。
ようやくヤバい奴だと気づいたのか、真希が臨戦態勢になる。
「そう、君のような猿は私の世界には要らない」
「『あなたがたの中で罪のない者が、まずこの女に石を投げつけるがよい』」
睨み合う両者の間に割って入る。
「また説法か?」
「『ヨハネによる福音書』第8章第7節、だよ」
思想に共感はできない。しかし彼の本気は伝わった。ならば私も本心で語るのが誠意というもの。とことんまで言葉を尽くそう。
「『火花』って知ってる?」
『位相』というものがある。
十字教・イスラム教・仏教・カバラ・日本神話・北欧神話・ケルト神話……世界中の宗教・神話に語られる天国や地獄といった神、天使や悪魔などの超越存在が住まう異世界・宗教概念のことを指す。
魔術はその法則の元となる幾重にも重なった位相に干渉しており、それが位相同士の接触・軋轢を誘発してしまう。こうした軋轢によって生じるもの、それこそが『火花』である。
魔術は等価交換の原理を騙し、一の出費で十の成果を得る素晴らしい技術だ。
だが、ここで疑問が生じる。
本当に等価交換の原理を超越できているのか?
実は私達の目の届かないところで帳尻合わせが起きているのではないか?
果たして、それはあった。その正体が『火花』である。
『火花』は人々の運命に干渉する。
人の出会い・別れ・生死・コイントスの表裏まで。幸・不幸問わずあらゆる運命が『火花』と『位相』の影響を受けている。
「はっ。君の言うことが本当だとしたら、それを知っていてなお『魔術』とやらを使う君はやはり猿、いいや悪魔じゃないか」
私の口から語られた『火花』についての真実に、夏油は嫌悪感を示す。
だからこそ、突きつけてやらねばならない。
「話はさっきの言葉に戻る。『あなたがたの中で罪のない者が、まずこの女に石を投げつけるがよい』」
「何が言いたい?」
「
考えてみればおかしいのだ。呪術だって等価交換を騙しているとしか思えない物理法則に反した現象を起こす。まして私がこれまで見てきた限り、呪術は日本神話や仏教を元にしているものばかりだ。
であれば、呪術もまた『位相』に関与していると考えるのが自然であり。
「呪術もまた『火花』を生む」
さて、問題です。
罪人は呪術師か? 非術師か?
「あなたは私を悪魔と呼んだ。ならばあなた自身もまた悪魔なんだ」
流石にこれには夏油も動揺を隠せない。薄い目を大きく見開いて後退る。
「お前、夏油様に文句付けるとか何様のつもりなんだよ! 私らより年下のくせに!」
自分達の大将の様子が変わったことが気に触れたのか、制服姿の少女が話に割って入ろうとする。
「黙れ、今大事な話をしているんだ」
「夏油様……?」
連れの少女を制したのは、夏油だった。
不都合な真実。それは自分が正義だと信じる者にとって一番目にしたくないものだろう。
だからこそいざ突きつけられた時どうするかで、その者の器と真価が問われる。
私はそもそも自分を正義だとは思っていない。この世を自分だけの箱庭と思って、迷惑など一切考えない傍若無人な振る舞いをしているわけではない。しかし、善悪など省みず自分勝手に生きているつもりだ。
「私が『火花』の存在があってなお魔術を使う理由はね、夏油。環境汚染を指摘されてなお文明の産物に縋るのをやめない現代人の思考と何ら変わりないよ」
先進国で暮らす者は、暮らしの中で無自覚に、間接的に、後進国に害をもたらす。
富める者は、ただ富めるというだけで貧者を生み出す。
それを罪と呼ぶなら、誰も罪から逃れることはできない。
選民思想や共産主義の矛盾。それは他者の行為を罪と呼んでおきながら、自分達の罪からは目を背ける所だ。
都合の悪い現実から逃げ、都合の良い理想を盲信しているだけ。
挙句彼らは目を逸らしたくなる現実を突きつける者を糾弾し、聞こえの良い幻想で人心を惑わすのだ。
人の創る治世は天衣無縫ではない。そこに完璧などありえないというのに。
ここに、先の言葉を引用した意味がある。
神の子の真意はともかく、『人が人を裁くことなんてできない』というのも解釈の一つなのだ。
「そもそもの疑問なんだけどさ、何故呪術師だけ救おうとするの? やればいいじゃない、全人類を救う
思想は神の視点なのに、実力が伴ってないから手段が人並みになる。
すると今度は手段に合わせようとして思想も歪む。これぞ正に本末転倒。
『魔神』が創った『しあわせな世界』でさえ歪なのに、そんな歪み切った世界のどこに正当性があるというのか。
「君なら、できるのか……?」
「できてもやらないよ」
「自分にはできることを他人には『できやしない』と言い聞かせるのか!?」
「そうだよ」
肯定で返されるとは思っていなかったのか、夏油は息を呑む。
「……それは『傲慢』だ」
「ならあなたは『身の程知らず』だね」
理想に見合わない彼自身の実力不足と、彼の私情が思想を捻じ曲げたのだろう。自覚がないというのが彼の滑稽で性質の悪いところだ。
「そんな大層な理想はあなたには分不相応だよ。せめて
ハッキリと告げる。
言いたいことは言いつくしたのか、夏油は沈黙する。
「ハハハハハ、意気揚々とやってきて中学生に論破されてやんのー!」
「悟か」
途中から聞いていたのか、五条は腹を抱えて爆笑している。
「分かっただろ、傑。その子は僕たちとは異なる世界に生きてる。異なる価値観の持ち主だ」
五条は言外に、もう諦めろと期待を込める。
「ああ、どうやらそうみたいだよ」
憑き物が落ちたかのように、五条に笑い返す。
五条は意思が通じたものと思って、また微笑み返す。だが残念ながら、夏油のそれは決意の表れであった。
皮肉なことに、夏油は私をこう呼んだ。
「だからこそ、彼女は『
まだ諦めないのか、自らの理想の実現を以てして反論とするつもりだ。あるいは、もう引き返せないのか。
「来る12月24日、日没と同時に我々は百鬼夜行を行う!!」
そして夏油は、宣戦布告した。