蒼海のアルティリア   作:山本ゴリラ

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第143話 地獄のショータイム!※

「さぁお子様達、愉しい愉しい、地獄のサーカスの開幕でございます。どうぞ最期まで味わって下さいな」

 

 地獄の道化師はそう言うと、闇属性の魔力を球状にしたものを幾つも生成し、その場でジャグリングを始めた。

 

「Show Must Go On!」

 

 掛け声と共に、地獄の道化師が一斉に、ジャグリングしていた魔力球を放つ。アレックスとニーナはそれを横っ飛びして回避しながら、左右から地獄の道化師を挟撃しようと接近した。

 しかしそこで、地獄の道化師はどこからともなく一輪車を取り出すと、それに乗って高速で移動し、距離を取った。その一輪車はフレームが生物の骨で出来ており、サドルの下には髑髏が飾られており、タイヤにはびっしりと棘が生えている悪趣味なデザインだ。そんな物に乗って部屋中を縦横無尽に走り回るので、当然のように床や高級な絨毯がズタズタに傷つけられているが、地獄の道化師はお構いなしに、好き勝手にスカル一輪車を乗り回している。

 

「水氣弾!」

 

氷槍(アイス・スピア)!」

 

 アレックスとニーナが氣弾や魔法で遠距離攻撃を仕掛けるが、地獄の道化師は一輪車に乗ったまま、器用に宙返りをして回避した。

 

「次の演目は火の輪潜りでございます! 猛獣はお前!」

 

 地獄の道化師が大きな炎の輪を、アレックスに放った。

 

「お断りだ!」

 

 アレックスはそれを、闘気を纏った右足で地獄の道化師に向かって蹴り返した。

 

「おやおや、なんて躾のなってないワンちゃんなんでしょう。仕方がないのでワタクシが手本を見せてさしあげましょう」

 

 返ってきた炎の輪を、地獄の道化師は一輪車に跨ったまま、空中で潜り抜ける。そして今度は、袖口からトランプの束を取り出して素早くリフル・シャッフルをした。

 

「はぁーっ!」

 

 地獄の道化師はトランプの束を二つに分けて両手に持つと、それらを連続で投擲した。アレックスとニーナは素早く動き回ってそれを回避するが、完全に躱しきれなかったものが彼らの髪や衣服を切断したり、肌に浅い切り傷を付けたりしながら、壁や床に鋭く突き刺さった。

 地獄の道化師が投擲したトランプのカードは、その全てが危険極まりない、鋭利な刃物であった。

 

「隙ありでございます!」

 

 妹のニーナを庇いながら無数のトランプを回避、あるいは闘気を纏った拳で弾き飛ばしていたアレックスだったが、そのうちの一つを迎撃し損ねてしまい、肩へと突き刺さった。

 地獄の道化師はその隙を見逃さず、アレックスの頭上へと短距離転移(ショートテレポート)で移動しながら、一枚のカードをアレックスの首筋めがけて素早く振るった。その手に握られていたのは、トランプの中で最強のカードであるスペードのエース。

 

「波濤刃!」

 

 右手に集めた水属性の闘気を刃状にして、アレックスがそれを迎え撃つ。アレックスの波濤刃と、地獄の道化師のカードがぶつかり合って、鍔迫り合いの形になった。

 

「よく受け止めました。しかぁーしッ!」

 

 すかさず、地獄の道化師はアレックスの右脇腹に向かって蹴りを放った。右手は防御に使って上げられている為、ガラ空きの脇腹に強烈な蹴りが突き刺さる。

 

「チッ、自分から跳んで衝撃を逃がしやがったか。ガキの癖に中々可愛くない真似をしますが、中々やるじゃあないですか」

 

 蹴った際の感触から、地獄の道化師はアレックスが行なった行動を正確に察知し、彼を称賛した。

 それと同時に、彼の背後に回り込んで攻撃を仕掛けようとしていたニーナを、ノールック裏拳で吹き飛ばす。咄嗟の防御の上からでも、十分な衝撃とダメージを与えられる強烈な拳だ。

 

「チミはそっちのお兄ちゃんと比べると、まだまだ未熟ですねェ。以前攫った時に比べると見違えるくらいに成長していますが、それでも全然、ワタクシと戦うには不足しています。さて……」

 

 吹き飛ばされて床に転がったニーナに向かってそう言うと、地獄の道化師は再びアレックスへと向き直った。

 

「ここはやはり、まずは目障りな坊やから先に始末するとしましょうかね」

 

 地獄の道化師が、被っていたシルクハットを左手に取って掲げた。続いて、虚空からステッキを取り出して、くるくると回して見せる。

 そして、シルクハットの中にステッキの先端を入れると、明らかにシルクハットよりも長い筈のステッキが、全てシルクハットの中に飲み込まれていった。

 

「さあ皆様ご注目。今からこのシルクハットに入れたステッキが、3つ数えると大変身! 何に変身するのかは見てのお楽しみッ! スリー、ツー、ワン……」

 

 マジックショーを始める道化師の姿に、不吉なものを感じたアレックスは、そこで特徴的な構えを取った。腰を深く落として重心を低くし、掌を広げて両腕を体の前に真っ直ぐに突き出した、中国拳法でいう馬歩の構えに似た構えだ。

 

「イッツ! ショウタイムッ!」

 

 次の瞬間、地獄の道化師が掲げたシルクハットから飛び出したものは、一羽の鳥だった。しかしそれは、普通のマジシャンがシルクハットから出す鳩のような、平和的で可愛いものではない。それは紫電の雷を纏う巨鳥……雷鳥(サンダーバード)という魔物の上位種、轟雷鳥(ローリング・サンダーバード)だった。

 召喚された轟雷鳥が、真っ直ぐにアレックスに向かって突進する。

 

「『玄武水氣壁』ッ!」

 

 アレックスがその技を発動させると、彼の背後に四聖獣の一つ、黒い蛇が巻き付いた亀の姿が現れる。それと同時に、アレックスの正面に堅牢な水の障壁が生成された。

 それによって、轟雷鳥の突撃は受け止められた。それと同時に轟雷鳥に水属性の反射ダメージが与えられて、その生命力を大きく削る。しかし……

 

「無駄ァーッ! 『爆炎槍(バースト・ジャベリン)』ッ!」

 

 地獄の道化師が呪文を唱え、炎の槍を放つ。それが、彼自身が召喚した轟雷鳥の体を貫通しながら、アレックスが展開した障壁へと突き刺さった。

 どうして地獄の道化師は、わざわざ自分が召喚した魔物ごと攻撃したのか? その答えは、すぐに明かされた。炎の槍に貫かれた轟雷鳥の身体が痙攣しながら風船のように膨れ上がり、その身に纏う電気がバチバチと音を立てながら増大していったのだ。

 

 次の瞬間、地獄の道化師が放った炎槍が爆発を起こした。それと同時に、膨れ上がった轟雷鳥の身体が爆ぜて、強烈な電撃が撒き散らされた。

 雷鳥やその上位種が持つ自爆能力。しかもその威力は、火属性の爆発系魔法と組み合わされる事によって、より危険で強力な物になる。

 その威力は、アレックスが使用した護りの奥義をブチ破って、彼に重傷を負わせるのに十分なものだった。

 

 爆発が収まると、アレックスは仰向けに倒れていた。息はあるようだが、かなりの深手を負って気を失っているようだ。

 

「わああああああああーっ!」

 

 倒れた兄の姿を見て、激昂したニーナが地獄の道化師に襲いかかるが、その拳はあっさりと地獄の道化師によって受け止められてしまった。

 

「そんな感情に任せた雑な攻撃が通用するとでも? 怒ったところで実力差は埋まりゃあしねぇんだよォ!」

 

 そのままニーナを掴み上げて、床に叩き付ける。彼女が気絶したのを確認した地獄の道化師は、そこで巨大なギロチンアックスを取り出した。

 

「それではいよいよ最後の演目、人体切断マジックのお時間でございます。しかし残念ながらワタクシは未熟者でして、このマジックは成功した事が無いんですよねぇ。いつもいつも、ついうっかり本当に切断してブッ殺しちゃうんですが、果たして今回は無事に成功するのでしょうか!? さあ皆様ご注目ゥ!」

 

「待つがいい。次は私が相手だ」

 

 しかしその前に、地獄の道化師を止める為に戦いを挑む者がいた。それは、この部屋の主であり、この国の王太子であるセシル王子であった。

 長剣を手に、まっすぐに地獄の道化師を睨みつける彼の姿を見て、道化師が嗤う。

 

「おや? アナタ、まだ居たんですか? ガキ共が戦ってる間に、大人しく逃げていればよかったものを。そもそも、アナタ程度でワタクシに勝てるとお思いで?」

 

「勝てぬであろうな。だが、それがどうした。私を護る為に傷つき、倒れた子供達を見殺しになど出来るものか。それに……この子達は我が国民、我が国の未来そのものだ! 貴様如きに奪わせはせんぞ!」

 

「良い度胸です。ならば今度こそ、褒美に死をくれてやりましょう!」

 

 地獄の道化師が腕を振るい、セシル王子を鋭い爪で刺し貫こうとした。その瞬間。

 

「待ちたまえ」

 

 部屋の外から一瞬で目の前に現れた兎先輩が、セシル王子の前に立ち塞がって、その攻撃を止めた。

 

「来やがったかウサ公! 最初からてめえが出てくれば、ガキ共も無駄に傷つく事は無かっただろうになぁ! 丁度いい、ここで以前の雪辱を果たしてやるぜ!」

 

「何を勘違いしているのかね君達は。まだ彼らの戦いは終わっていないのだが?」

 

 兎先輩が指差した先では、アレックスとニーナが起き上がっていた。二人はダメージを負ってふらついているが、それでも両足でしっかりと立ち上がり、拳を握って構えを取ろうとしていた。

 

「なっ……! もう止めるんだ! それ以上戦ったら、君達の身体がもたない!」

 

「気持ちはありがたいけど、引っ込んでてくれ。これは、おれ達の戦いだ」

 

「だいじょうぶ。わたし達、負けないから」

 

 セシル王子は二人の身を案じて止めようとするが、当の本人達がそれを突っぱねる。そして二人は並んで、アレックスは右拳を、ニーナは左拳を突き出した対称の構えを取るのだった。

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