蒼海のアルティリア   作:山本ゴリラ

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第15話 覗きは犯罪だぞ

 ツイートの送信とログボ配布を終えた俺は、いつものようにサバイバル生活を送っていた。

 今日は、海に潜って貝を採っているところだ。

 

「うおっ、このアワビでっっか」

 

 広範囲の海中を探索すれば、ホタテやアワビ、牡蠣といった美味しい貝がいっぱい採れる。

 俺が居るあたりの海域は陸から遠く離れているため、人が来る事は滅多に無いようで、海中の資源も手つかずのままで非常に豊富だ。食べるのに困る事はないだろう。

 

「おっと、海苔も採っておこう」

 

 採集した海苔は陸地に戻ったら、板海苔に加工するのだ。少々手間はかかるが、加工方法はアルティリアが持っている知識の中にあるので問題ない。

 

 とりあえず、今日の食事は牡蠣にしようと思った。

 食べ方はどうしようか……生で食べるのも勿論良いし、カキフライにしても美味い。いやしかし網で焼いて食べるのも最高だよなぁ。これは悩みどころだ。

 

 ちなみに牡蠣といえば、生で食べると食中毒の危険性があるのは広く知られているところだが、俺の場合は『毒治療キュア・ポイズン』や『病気治療キュア・ディズィーズ』であらかじめ病原菌を排除できるので何も問題はない。魔法万歳。

 

「ククク……メス牡蠣(ガキ)め、わからせてやるぜ」

 

 そんな邪悪な台詞を口にし、さてどうやって食べてやろうかと考えながら、海から島へと戻った時だった。

 

「GYAOOOOOOOOOOOOOO!!」

 

 突然、そんなクソデカ咆哮と共に、上空から炎の塊が降ってきた。

 

「うっぜ。何だいきなり」

 

 俺はそれを無詠唱『水鏡反射(リフレクトミラー)』で跳ね返しつつ、下手人の姿を見てやろうと視線を上空に向けた。

 

 すると、そこに居たのは赤茶色のドラゴンだった。俺が打ち返した、自分の口から放たれた火球が、その顔面に直撃している。

 

 しかしながら、ドラゴンは火属性に対して非常に高い耐性を持っているため、大してダメージを受けた様子はなく、バサバサと翼を羽ばたかせながら、忌々しそうにこちらを見下ろしている。

 

「なんだ……ドラゴンか」

 

 初めて見るリアルドラゴンは中々の迫力だが、ドラゴンなんぞLAO時代に山ほど狩ったし見飽きているので、大して感動するわけでもない。

 

「これから飯の時間なんでな、お前の相手をするほど暇じゃあないんだ。さっき採ったワカメやるから、大人しく巣に帰れ。ハウス!」

 

 シッシッと追い払う仕草をしながらそう言うと、ドラゴンは怒った様子で、口から火の玉を連続で吐き出してきた。

 

 俺はそれを『水の壁(アクアウォール)』という、文字通り水で出来た壁を生成する魔法で阻む。

 水属性魔法に特化したアルティリアが使うこの魔法の耐久力は相当のもので、生半可な遠距離攻撃ならば、これ一つで防ぎきる事ができる。

 

「『水精霊召喚(サモン・ウンディーネ)』」

 

 続いて、俺は魔法で水精霊(ウンディーネ)を召喚する。召喚されたのは、体が水で形成された、幼い少女の姿をした精霊だ。

 全く同じ容姿の精霊が、俺の目の前に8体同時に召喚される。呼び出された精霊達は一斉に、俺に向かって跪いた。

 

「『攻撃命令(アタックオーダー)氷鴉形態(アイスレイヴンフォーム)』」

 

 命令を待つ精霊達に対して、技能を使って攻撃の指示を出す。すると少女の姿をした精霊達は、氷で出来た鴉の姿をとった。

 

 鴉と化した精霊達が一斉に飛び立ち、上空のドラゴンを包囲する。

 

 水は決まった形を持たず、どんな形にも変化する事ができる。その特性は水精霊も持ち合わせており、水精霊使いは使役する水精霊を様々な形態に変化させて戦う事が可能だ。

 

 この汎用性・多様性こそが、水精霊使いの真骨頂である。

 

「やれ」

 

 鴉たちが全包囲から、ドラゴンに向かって無数の羽を飛ばした。

 その羽も当然、氷で出来ており、無数の小さな氷片がドラゴンの体に突き刺さる。

 

 大半のドラゴンは火に対しては高い耐性を持つが、その反面、氷に弱い個体が多い。このドラゴンも例に漏れず氷に弱いようで、効果は抜群だ。

 

 その攻撃でドラゴンをある程度弱らせたところで、俺は精霊達に攻撃を停止するように命令した。その上で、

 

「力の差はわかっただろう。見逃してやるからさっさと帰れ」

 

 そう告げると、ドラゴンは数秒間、こちらをじっと観察していたが、これ以上戦えば次は殺されると悟ったのか、こちらに背を向けて飛び去っていった。

 

 これにて危機――と呼べるほど大したものではないが――は去り、海に平和が戻った……と、言いたいところだが……

 

 生憎、本番はまだ始まってすらいない。

 

「そこの覗き見野郎、出てこい!」

 

 俺は振り向きざまに、無詠唱で『水の弾丸(アクアバレット)』を放った。俺が水弾を放った場所は、一見して何もない空間のように見えるが……

 

「おやおや……流石でございます。見抜かれていましたか」

 

 水の弾丸が、何かに命中して弾け飛ぶと、そこに一体の魔物が現れた。

 それは人型の魔物であり、道化師(ピエロ)のような恰好をした、長身の男だ。ただし肌は青白く、髪や目の色は妖しげな紫色で、山羊のような二本の巻き角や、細長い尻尾が生えているあたり、どう見ても人間ではない。

 

 そいつは右手で魔力の盾を生成し、俺が放った水弾を受け止めていた。

 

 この男が、先程からずっと『透明化(インビジヴィリティ)』の魔法か何かを使って、隠れて俺を覗き見していた者の正体だ。

 だが、エルフの目は魔力の流れを視る事に長けており、聴覚も人間より優れている為、透明化した程度でバレないと思う浅はかさは愚かしい。

 こいつが観察している事に気付いていたからこそ、俺は先程のドラゴンとの戦いで、思いっきり手を抜いていたのだ。

 

「ワタクシ、地獄の道化師(ヘルズ・クラウン)と申します。どうぞお見知りおき下さいませ、美しき女神よ」

 

 道化師はそう言って、うさんくさい笑みを浮かべながら、慇懃に礼をした。

 

「アルティリアだ。それで地獄の覗き魔(ヘルズ・ピーピングトム)とやら、一体何のつもりで私を見ていた?」

 

 相手の名前を改変しながら、挑発的にそう問いかけると、薄ら笑いが僅かに引きつるが、すぐに取り繕って、作り笑いを継続する。

 

「フフ……突然現れた女神様に興味が湧きましてね。ぜひ、その力をこの目で確認させていただこうと思った次第でございます。不快に思われたならば申し訳ございません」

 

 そう言って頭を下げてくるが、全く罪悪感など感じておらず、口先だけの謝罪である事は、その慇懃無礼な態度から明白だ。

 

「さっきのトカゲはお前の差し金か。あの程度の相手で測れると思われていたとは、随分と甘く見られたものだ」

 

「いやはや、B級魔物の火竜を歯牙にもかけないとは、素晴らしい力でございます。退屈させてしまったお詫びといっては何ですが……次はこのワタクシとひとつ、ダンスでもいかがですかな?」

 

 ふざけた態度の中に殺気を隠しながら、地獄の道化師が邪悪な笑みを浮かべる。

 どうやら、さっきのドラゴンよりは面倒な敵のようだ。少しばかり本気を出す必要があるかもしれない。

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