蒼海のアルティリア   作:山本ゴリラ

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第16話 ロイドの霊圧が……消えた……?

 地獄の道化師と名乗ったモンスターが呪文を唱えると、奴の手元に五つの火の玉が生成された。火属性魔法『火球(ファイアボール)』による物だろう。

 初級魔法とはいえ、なかなかの大きさと威力のものを五つ同時に操れるとは、それなりに魔法に長けているようだ。

 地獄の道化師はそれを、器用にくるくるとジャグリングする。流石に道化師を名乗るだけあって、お手玉は得意なようだ。

 

「では、参ります」

 

 そう言って、地獄の道化師が五つの火球を連続でこちらに放ってくる。見た感じ、なかなかの速度と威力のようだが、

 

「『水の弾丸(アクアバレット)拡散(マルチプル)』」

 

 俺はそれを、拡散形態の水弾で迎撃する。

 合計60発の水の弾丸(アクアバレット)の内、半分の30発を使用し、敵が放った魔力球ひとつにつき、6発の水弾で迎撃・相殺し、それと同時に残りの半分を使って、敵本体に対して波状攻撃を仕掛ける。

 

「おおっと。流石でございます」

 

 地獄の道化師は全包囲から次々と襲いかかる三十発の水の弾丸を、魔力障壁を張って防御した。奴の張った障壁によって、俺の水弾は全て弾かれてしまい、ダメージが通った様子は無い。地獄の道化師はニヤニヤと余裕の笑みを浮かべている。

 低級魔法で、しかも威力の弱い拡散形態とはいえど、俺の魔法を無傷で防ぐとは、なかなか大した魔力の持ち主のようだが、しかし……

 

「その余裕が命取りだ。『氷槍(アイススピア)貫通(ペネトレイト)』!」

 

 俺は巨大な氷の槍を生み出し、高速で敵にぶつける魔法『氷槍(アイススピア)』の、防御貫通に特化させた形態を発動させた。

 回避がほぼ不可能な拡散形態の水の弾丸で防御(ガード)を強要し、貫通形態の氷槍でその防御を崩す。LAOでは水魔法使いの定番コンボの一つだ。

 広く知れ渡っている為、対人ではなかなか決まるような物じゃないが、初見の相手や防御技持ちのモンスター相手には有効打となる。

 

「――ッ!!『短距離転移(ショートテレポート)』!」

 

 地獄の道化師が、短い距離を瞬間移動する魔法『短距離転移』を使って、その攻撃を回避した。

 この魔法はごく僅かな時間だが転移中は無敵状態になり、危険な攻撃を安全に回避できるため、防御が薄い魔法使いにとっては便利な回避手段である。

 また魔法戦士にとっては、安全に敵との距離を詰めたり、背後や側面に回り込む攻撃手段としても使用可能だ。今まさに、地獄の道化師がやろうとしているように。

 

「はい、読み通り」

 

「ぬおっ!?」

 

 短距離転移で氷槍を回避しつつ、俺の背後に回り込んで爪による攻撃を仕掛けようとしていた地獄の道化師だったが、そんな安直な反撃は予想の範疇である。

 先程のドラゴンを追い払う際に召喚していた8体の水精霊を、俺は水中に潜ませていた。そのうちの一体が水中から飛び出し、背後から俺を攻撃しようとしていた地獄の道化師の背中にドロップキックをお見舞いしたのだ。

 そして、体勢が崩れて隙だらけになった所を見逃してやるほど、俺は甘くない。

 

「こいつは痛いぞ。歯ぁ食いしばれ」

 

 俺は水属性魔法『水鞭(アクア・ウィップ)』を使い、水を幾つもの鞭の形に変化させ、それらを操って連続でブッ叩く。

 

「ぐぬ……おおおおおっ……!」

 

 数発叩いてやったところで、奴はたまらず再び『短距離転移』を唱えて、俺から距離を取った。

 

「ふふ……ふ……いやはや素晴らしい、まさかこれほどお強いとは」

 

 鞭で叩かれるのは流石に痛かったようで、ちょっと辛そうな感じではあるが、まだまだ元気いっぱいだとアピールするかのように作り笑いを浮かべて、奴は拍手をして俺を称賛する。

 それに対して、俺は嫌悪感を隠す素振りすら見せずに答える。

 

「そいつはどうも。それで、もう茶番は終わりでいいのか、三下」

 

 俺がそう言ってやると、地獄の道化師は眉をピクリと動かした。俺は思いっきり馬鹿にするように笑顔を作り、続けざまに言う。

 

「何だ、まさか気付いていないとか、今まで本気で戦っていたとでも思っていたか?お目出たいのは見た目だけにしておけよ。今までのは手加減して、軽く遊んでやっていただけの事だ。そちらもやっていた事だ、文句は言うまいな?」

 

 俺はこいつが、俺の力を測るために舐めプをしていた事になど、とっくに気が付いていた。

 何故かというと、俺は『敵情報解析(アナライズ)』という技能(アビリティ)によって、指定した敵の能力値や職業、使える技や魔法といった情報を知る事が出来るからだ。

 『敵情報解析』はLAOのプレイヤーならば、誰でも使える代物だ。相手が自分よりも格下ならば、短時間の観察でほぼ全ての情報が筒抜けになり、逆に格上相手だと、何度も戦わないと全ての情報を抜く事は難しい。

 そしてこの地獄の道化師の情報は、俺の目には全て丸見えである。その強さは……この間倒したイカや、先程のドラゴンに比べるとだいぶマシではあるが、それでも俺からすれば余裕で倒せる程度の相手だ。

 さっきまで初級魔法だけで戦っていたのは、そんなクソ雑魚が大物ヅラしてこっちの力を試そうとしてきやがったので、少しからかってやったまでの事だ。

 

 力を測るつもりが、自分が遊ばれていた事にようやく気付き、地獄の道化師の作り笑いが初めて歪む。

 

「理解したなら、さっさと雇い主の所に帰って泣きつくがいい。ああ……それと、次はもう少しマシな奴を送ってこいと伝えておいてくれ」

 

「ク……ククク……!この屈辱、忘れませんよ……!」

 

 歪んだ笑いを浮かべながら、捨て台詞を吐いて逃げ帰ろうとする地獄の道化師だったが、その去り際に、

 

「む……?」

 

 と、何か電波でも受信したかのように、体の動きと表情が止まった。

 しばらくそうやって固まっていた地獄の道化師は、やがてニタァァ……と、気色悪い満面の笑みをこちらに向けてきた。

 

「そういえば、失礼ながらひとつ、お伝えし忘れていた事がございました」

 

 心底可笑しそうな様子で、地獄の道化師は言う。

 

「実はつい先程まで、ワタクシの同輩が、貴女様の信者の所にお邪魔していたのですが……」

 

 信者……というと、ロイド達の事だろうか。

 

「……ほう。それでどうなった?」

 

 嫌な予感がしつつ、それを表情に出さないようにしながら、俺はそう訊ねる。

 仮にこいつと同格のモンスターが相手となると、ロイド達が相手をするにはだいぶ厳しい……いや、はっきり言って絶望的だ。

 

「ククク……それがあの男、人間相手にボロ負けして逃げ帰ったようで!いやはや全くもってザマぁ無いですな!おめでとうございます女神様、貴女様の信者は見事に大勝利いたしましたとも!」

 

 ……そうか、ロイド達は勝ったか。

 仮に相手がこいつと同格だったとして、よく勝てたものだと感心するが……まあ、他にも仲間がいて、上手くやったという事だろうか。

 

 ……だが、そこで俺は違和感に気が付いた。

 何故こいつはそんな、俺にとってのグッドニュースを嬉々として語っている?

 

 俺がそれに気が付いた時、奴は三日月形の口を耳まで裂けるくらいに広げて、

 

「しかしながらその代償に、彼らのリーダーの方が瀕死の重傷を負ってしまったようで!いやはや誠にご愁傷様でございますッ!ですが人間の身でA級魔物(モンスター)を撃退した偉業の前では、実に些細な犠牲と言えるでしょうなあ!クッ、クハハハハハハ!」

 

 そう告げて、ゲラゲラと笑うゲス野郎を前に、俺はEX職業『小神(マイナー・ゴッド)』の技能、『信者の状態把握』を発動させた。

 それによって、俺は信者の名前や大体の居場所、状態を知る事ができるのだが……それによって表示されたリストの一番上に、その名前はあった。

 

 

 名前:ロイド=アストレア

 居場所:港町グランディーノ近郊

 状態:瀕死

 

 

 奴の言った事は事実だった。

 ロイドの命の火は、もう間もなく消えようとしている。

 それを見た俺は、道具袋からあるアイテムを取り出した。

 

「良い事を教えてくれた礼に、私からもお前に教えておきたい事が二つある」

 

「ほう……?ご拝聴いたしましょう」

 

「まず一つ目だが……この宝玉には、とある魔法が篭められていてな。使い捨てだが、誰でも中に篭められた魔法を使う事ができる優れモノだ」

 

 アイテム袋から取り出した物は、消耗品の魔法のオーブだ。効果はたった今述べた通りで、使う事で魔法が発動する便利アイテムである。

 

「何と、そのような物があったとは驚きでございます。それも女神様が作られた秘宝という事ですか」

 

「いいや、ただの課金アイテムだが……まあそんな事はどうでもいい。本題はこの宝玉に篭められた魔法についてだ」

 

 LAOの課金アイテムの中には、特定の最上級魔法を発動するオーブも存在する。これはその中の一つだ。

 

「これに篭められた魔法は、『上位完全蘇生(グレーター・フルリザレクション)』。対象一人を死から復活させ、更にデスペナルティ……死から復活する際に受ける、能力の低下なども完全に無効化する事ができる」

 

 デスペナ無しでHP全快の状態で復活させる上位完全蘇生の宝玉は、LAOではよく使われる人気のアイテムだ。

 1個50円で購入可能で、11個500円のセット販売もされている他、ログインボーナスで配布されたり、ガチャの外れ枠に紛れ込んでいたりする為、ワールドボス戦などでは湯水のように使われる。

 俺はそれを、水精霊の内の一体に投げ渡した。

 

「それを使ってロイドを蘇生(リザ)してきてくれ。頼んだぞ」

 

 宝玉を受け取った水精霊は、各形態の中で最も移動速度が速い天馬(ペガサス)形態(フォーム)に変身すると、宝玉を口に咥えて南の方角に向かって飛んでいった。

 地獄の道化師は、それを呆気に取られた様子で見送っていたが、すぐに正気に戻り、『転移(テレポート)』の魔法を発動させようとする。

 ロイド達のところに転移で先回りをしようとしたのか、それとも俺がそんな便利アイテムを持っていた事を上司に報告しようとしたのか……それは俺には知りようがないし、どうでも良い事だ。

 俺は即座に『魔法妨害(マジック・ジャマー)』の魔法を使い、転移の詠唱を強制的に中断させて、言った。

 

「なっ……」

 

「どこに行こうというのだね。教える事は二つあると言っただろう?」

 

 圧を込めてそう言いながら、俺は魔法を発動させる。

 先程まで手加減していた初級魔法ではなく、本気のヤツをだ。

 

「二つ目、お前の死因を教えてやろう。私を本気で怒らせた事だ」

 

 まず最初に発動したのは、『水の牢獄(アクア・ジェイル)』。

 対象を包み込むように水の塊を出現させ、その中に相手を強制的に閉じ込める魔法だ。

 それによって地獄の道化師が水の塊の中に閉じ込められる。空中に浮かんでいた筈が、いきなり水の中に放り込まれて驚愕の表情を浮かべている。

 

 『水の牢獄』の持続時間は短く、水属性魔法に特化した俺が使っても、せいぜい15秒ほどだ。それでも厄介な敵を15秒間も強制的に水に閉じ込め、足止めできる便利な魔法ではあるのだが……この魔法の真価は、他の魔法との組み合わせにある。

 何しろ、15秒間も水中でろくに身動きができないのだ。その間に他の魔法でボコボコにしたり、大技の準備をしたりとやりたい放題なのだから。

 しかし今回は、そんな面倒な事はしない。

 

「『氷の棺(アイス・コフィン)』」

 

 俺は相手を氷の塊に閉じ込め、凍結させる魔法を『水の牢獄』の上に重ねて発動させた。これによって、地獄の道化師を完全に閉じ込めた俺は、さっきロイドを蘇生させるために向かわせた子を除く、七体の水精霊に命令した。

 

「このゴミを海底に捨ててきてくれ。なるべく深いところにな」

 

 水精霊たちは頷き、力を合わせて俺が凍らせた塊を持ち、海中に潜っていった。

 

「これで良し……と。しかし、あんなのが出てくるとはな……」

 

 俺にとっては大した事のない相手だったが、A級魔物(モンスター)とか言っていたし、ロイド達のようなこの世界の人間にとっては脅威的な相手なのだろう。

 何故いきなり出てきたのかは不明だが、どうやら俺の事を知っていた様子だったし、どうやら他にも似たような奴が居るようだ。

 警戒し、備える必要があるのかもしれない。

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