蒼海のアルティリア   作:山本ゴリラ

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第158話 ただ、今できる事を※

 王国が誇る絢爛な王宮が無残に吹き飛ばされ、山のように巨大な怪物が現れたのを見て、王都の民は恐怖した。

 それも無理のない事だろう。空は黒い雲に覆われて稲光が走り、大地からはおぞましい不死者の群れが湧き出る、この世の終わりのような光景を目の当たりにして、正気を保っていられる者は少ない。

 しかし、絶望する者ばかりではない。中には希望を失わず、立ち向かう者達も確かにいた。

 

「僕だって、見習いだけどアルティリア様に仕える騎士なんだ! 皆を護らないと!」

 

「オラオラァ! 戦えねぇ奴は邪魔だから後ろに下がりやがれぇ!」

 

 海神騎士団に所属する見習い騎士、ケイとイザークの二人だ。彼らは街中に出現した大量のアンデッドモンスターに対して勇敢に立ち向かい、戦えない市民を逃がしていた。

 

「団長達はあのデカブツと戦ってる頃だってのに、俺らはここで雑魚の相手かよ」

 

 スケルトンの群れを斬り払いながら、イザークがぼやく。

 

「僕達が行っても足手纏いにしかならないよ……。それでも、今の僕達にできる事を精一杯やらないと!」

 

「ケッ、良い子ちゃんが。てめーに言われなくたって分かってらぁ! 見てろよ……この戦いで更に成長して、いつかは団長達に並び……そして超えてみせらぁ! オラッ、ゾンビ共! 未来のアルティリア様の一の騎士、イザークが相手をしてやる! かかって来やがれぇ!」

 

 彼らの活躍は、全体から見れば微々たるものでしかないかもしれない。それでも若い少年騎士達が、おぞましい不死の魔物達を退ける勇姿は、それを見た人々の心に勇気と希望を灯していた。

 

「見事な心意気! 我ら神殿騎士も遅れを取るな!」

 

「あの若者達を死なせてはならん! 全員、突撃じゃあ!」

 

 大聖堂の神殿騎士や、王都守備隊の者達も、その姿に胸を打たれて意気揚々と魔物の群れに向かって突っ込んでいった。

 

 また、剣を取って戦うのは騎士や軍人だけではなかった。この国で最も高貴な身分にある王子達も、自ら最前線に立って民を鼓舞し続けていた。

 

「皆、希望を捨ててはならぬ! 我らの手でこの国の未来を勝ち取るのだ!」

 

 業物の長剣を振るい、市民を襲おうとする魔物を斬り捨てながら、セシル王子が叫ぶ。

 

「あ、あの方は……王太子殿下!?」

 

「で、殿下! お逃げください! 私達などの為に貴方様の身を危険に晒すわけには……」

 

「案ずるな。私は大丈夫だ。何故なら私には……信頼する兄弟がついている」

 

 次の瞬間、セシル王子を殺そうと殺到した魔物達が、一撃で纏めて吹き飛ばされて宙を舞った。

 

「ガハハハ! セシルよ、貴様も少しは総大将の心得という物が分かってきたようだな! やはり大将たる者、自ら先頭に立って敵を殲滅して勇を示さねばなぁ!」

 

 言いつつ、幅広直剣(ブロードソード)の二刀流で魔物を薙ぎ倒しながら笑う筋骨隆々の大男は、第一王子アンドリューだ。とても王子とは思えない、粗野で下品な男ではあるが一人の戦士や軍人としては天賦の才を持ち、見た目や普段の言動に反して、優れた戦略眼の持ち主だ。ゆえに、この鉄火場でやるべき事はしっかりと弁えている。

 

「私もこの国難にあって、王族も国や民を護る為に強くあらねばならぬと心から実感しました。兄上、今後ともご指導をよろしくお願いいたします」

 

「ガハハハ! よかろう、この偉大な兄の背に、しっかり付いてくるがいい!」

 

 持ち上げられて上機嫌になったアンドリューは、そのまま敵陣に向かって単騎突撃を開始するが、そこで側面から敵の増援が現れた。

 

「かかったな猪武者め! 貴様ら、たっぷりと矢を浴びせてやれ!」

 

「かかったのは貴様らだ馬鹿め! この俺様がその程度の伏兵に気付かんとでも思ったかマヌケがぁーッ!」

 

 指揮官のリッチの号令の下、骸骨弓兵が弓に矢を番えて、一斉にアンドリューに狙いをつける。しかし……

 

「『雷の嵐(サンダーストーム)!!』

 

 矢が放たれる寸前、天から無数の雷が降り注ぎ、骸骨弓兵を一掃した。それをしたのは右手に杖を、左手に魔導書を持った、眼鏡をかけた怜悧な男性……第二王子サイラスであった。

 

「ガハハ! ナイスタイミングだ愚弟、褒めてつかわす!」

 

「お褒めにあずかり光栄ですよ愚兄。ほら、さっさと戻ってきなさいよ」

 

「馬鹿な! 誘導されたというのか! あんな頭の悪い原始人のような奴に! ぐわっ!」

 

 その事実が認められず、取り乱すリッチの額に、クロスボウの矢が突き刺さった。

 

「悪いね。生憎とうちの長兄は、戦に関してだけは頭の回る原始人なんでね!」

 

 シニカルな笑みを浮かべながら、精密なヘッドショットで指揮官を撃ち抜いたのは、第四王子ジュリアンだった。

 

「おおっ……! 我が国の王子様たちが力を合わせ、魔物を打ち破ったぞ!」

 

「王家は健在! 我が国にはまだ希望が残っている!」

 

「俺達も王子と共に戦おう! 俺達の手で王国の希望を護るのだ!」

 

 市民達もまた、武器を手に彼らに続いた。

 

「おお……不仲だった息子達が、あのように一致団結する姿を見れるとは……。あの光景を見れただけで、我が人生に悔いは無い……」

 

 遠目から、目に涙を浮かべながらその光景を見て、老いた国王は呟いた。老いによる衰えに加えて、紺碧の女王の手で一度殺害された後に復活したばかりの為、生命力を失っており、左右から御付の騎士に支えられながら立っているのがやっとの様子だ。

 

「陛下、お体に障ります。どうかご自愛を……」

 

「いや……息子達があのように活躍しているというのに、動けぬ我が身が口惜しいが、戦う事は出来ずとも、兵を鼓舞するくらいの事はしなければならん。余も己の出来る限りの事はしなければ、死んでいった者達に申し訳が立たぬわ」

 

 崩れ落ちそうになる体に鞭を打ち、老王は腹の底から声を張り上げて、兵士達を激励するのだった。

 誰もが、生きる為に自分が出来る最大限の事をしようと足掻いていた。

 

 

     ※

 

 

 そしてその頃、地上から遠く離れた月面では……

 

「新しい着ぐるみ、ヨシ。先輩玉のエネルギー充填、ヨシ。消耗品の補充、ヨシ。お届け物、ヨシ」

 

 兎先輩が、指差し呼称をしながら持ち物チェックを行なっていた。先の戦いでは地獄の道化師の自爆によって着ぐるみを破損してしまった兎先輩だが、既に新品の着ぐるみに着替え終えている。

 

帝釈天の金剛杵(ヴァジュラ・オブ・インドラ)、ヨシ」

 

 その手には、黄金色に輝く金剛杵が握られていた。兎先輩が敬愛する帝釈天(インドラ)によって授けられた神器であり、滅多に使われる事はない、兎先輩の切り札である。

 しかし、地上に数多の魔神将が襲撃してきた今、その封印は解かれた。

 

「兎先輩、行かれるのですか」

 

「お気をつけて。月の事は我らにお任せください」

 

 そんな兎先輩を見送るのは、一組の男女であった。首元に勾玉を付け、和装をした中性的な見た目の男性と、弓を持ったスレンダーな体型の、髪の長い美女だ。

 

「うむ。この月面都市にも魔神将や、その配下が襲ってくる可能性は十分にある。ここは任せたよ、月詠(ツクヨミ)君、アルテミス君」

 

 彼らはかつて魔神戦争の後、地上を離れて月に移り住んだ神々であった。彼らが司る天体である月に拠点を作ろうとしていたところで、先に月に住み着いていた兎先輩を発見し、なんだ兎かと侮って高圧的に接した事で兎先輩の怒りを買い、軽くボコられてそのまま舎弟と化した過去を持つ。

 

「「いってらっしゃいませ、兎先輩」」

 

「うむ。行ってきます」

 

 そして兎先輩は、人参型ロケットに乗って地上に向かってダイブした。

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