蒼海のアルティリア   作:山本ゴリラ

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第169話 突きつけられた選択肢

 目を覚ました時、聞こえたのは波の音だった。それと同時に、潮の香りを感じる。海がすぐ近くにある。

 瞼を開くと、俺の身体はどうやら砂浜に横になっていたようだった。

 ひどく疲れているせいか、いつも以上に胸の重さで上体を起こすのが辛いが、それに耐えて起床する。

 

「目が覚めたか」

 

 俺が起きると、隣に居た男が声をかけてきた。マナナン=マク=リールだ。

 

「ここは……エリュシオン島か。そういえば、あの後どうなった?」

 

「うむ。お前も見届けた通り、魔神将ウェパルは消滅した。その直後にお前が意識を失ったので、治療の為に俺の船に乗せてこの島まで連れてきた。それから丸一日、お前は眠っていた訳だが……ずっとベッドに寝ているだけでは身体が固くなってしまうだろうと海に連れてきた途端に起きるとは、流石は俺が認めた海洋民だと感心していたところだ」

 

「丸一日……まあ、前回のフラウロスと戦った時に比べると、だいぶ早起き出来たほうか……。他の皆はどうなった?」

 

「現地の民、お前の信者達は全員無事だ。既にグランディーノに帰還している頃だろう。彼らは意識の無いお前を連れ帰ろうとしたが、外傷は治癒したが中身は瘴気に侵されていたお前を完治させる為には、聖域に連れていく必要があると説得して先に帰らせた」

 

 そうか、全員無事か。ならば良かった。

 それと、もう一つ気になる事がある。

 

「ところで、まさかギルメン全員にスナおじまで連れてくるとは思わなかったが……あいつらは何処に?」

 

「奴等なら、今はリアル妖精郷探索と銘打って、全員揃って妖精郷(ティル・ナ・ノーグ)へと出向いている」

 

「は? あいつら何で俺が起きるまで待たねーんだよ……」

 

 俺も行きたいわそんなもん。今ので奴等に感謝する気持ちが半減した。

 

「おっと、丁度戻ってきたようだぞ」

 

 キングが俺の後方へと視線を向けてそう言ったので、俺は振り返った。すると、森のほうからぞろぞろと見慣れた顔が歩いてくるのが見えた。

 

「おっ、アルさん起きてんじゃーん!」

 

「アルティリア、もう起きて大丈夫なのか!?」

 

 俺が目覚めたのに気付いた彼らが駆け寄って、声をかけてくる。だがそんな彼らに応えるよりも先に、俺は気になるものを見つけた。

 

「なあ、何でバルバロッサは檻に入れられてるんだ?」

 

 俺の視線の先では、バルバロッサが木で出来た檻に入れられた状態で、バナナを貪り食っていた。

 

「ああ……あのキングコングはデカくてゴツい上に声もデカくてうるさいから、奴を見た妖精ちゃん達がビビり散らかしてたせいで檻に監禁された」

 

「ああ……そりゃ残当だわ」

 

 つーかアイツ、こうして檻に入れられてると本当に猛獣か類人猿にしか見えんな。

 

「ウホッホウホッホ」

 

 俺と目が合ったバルバロッサが、ゴリラ語で何かを訴えてくる。

 

「遂に脳味噌まで猿に退化したのか……」

 

「実はあれはバルバロッサではなく、この島に居る新種の類人猿かもしれん。学名はガトリング・ゴリラ・ゴリラ」

 

 そんな言葉を好き勝手に言っているギルメン共を放置して、俺はマナナンと一緒に、彼がよく居る場所、大洋を一望できる岬の方に向かって歩き出した。

 そうしながら、隣を歩くマナナンに話しかける。

 

「あいつらは、いつまでここに?」

 

「こちら側に居られるのは、今日いっぱいが限度だろう。夜には門を開き、向こう側に帰す予定だ」

 

「そうか……。まあ、そりゃそうなるよな。キングはどうするんだ?」

 

「俺とバロールはこちら側に残る。元々、あちらの世界に渡った事自体がイレギュラーな事態だったからな。再びこの世界に戻って来た以上は、神としての本分を果たすさ……。だが門を開いて大人数をこっちに転移させた事で、僅かに残っていた神としての力を使い果たした為、当分の間、大した仕事は出来そうにないが」

 

 マナナンはそう言ったが、元々、妖精達や小人族のような熱烈な信者が居るし、俺の信者達にも彼の事を(俺なんかとは格が違うレベルの最古参の海神で、俺達の纏め役だった偉大なリーダーであると)紹介するつもりの為、信仰によって彼が往年の力を取り戻すのには、さほど時間はかからないだろうと俺は読んでいる。

 という訳で、お前だけは逃がさんぞ。俺に対してやや過剰に向けられている信仰を分散して受け持つのに役立って貰おう。

 

 そう考えてニヤリと笑みを浮かべた時だった。マナナンは俺の方を向いて、改まった口調で問いかけた。

 

「ところで、お前はどうする。今ならば、あいつらと一緒にお前を向こう側……地球に送る事が出来るが」

 

「………………は?」

 

 突然突きつけられた想定外の選択肢に、頭が真っ白になる。

 

「ふざけんなよお前……! 今更になって、そんな事を……!」

 

 俺に胸倉を掴まれ、マナナンは申し訳なさそうな目を俺に向けながら、しかし毅然とした態度で告げる。

 

「断っておくが、向こうに戻るならばこれが正真正銘、最後のチャンスだと思え。そして魔神将による大規模侵攻を退けた事で、神としてあれらからこの世界を守護し、人々を導くというお前の使命は、ほぼ終わったと言っていいだろう。ゆえに、後はお前がどうしたいか……という、それだけの問題だ。よく考えて答えを出すといい」

 

 そう言い残して、マナナンは去っていった。

 

「………………俺が、どうしたいか」

 

 岬の先端に座り、眼下に広がる海を見下ろしながら、俺は考える。

 神としてこの地に残るのか、それとも……人として、元の世界に帰るのか。

 

 元の世界に帰りたいと思った事が、無いと言ったら嘘になる。特にこの世界に来たばかりの頃は、そちらの感情のほうが強かっただろう。ただ単に戻る方法が分からず、帰る事は不可能なのだろうと思っていた為、意識して考えないようにしていただけだ。

 しかしそんな感情も、この世界の人々と関わり、向き合っていく中で少しずつ消えていき、今となってはアルティリアとして、この世界の住人として生きるのが、俺の中では当たり前のようになっていた。その筈だった。

 しかし先程、唐突に新たな選択肢を突きつけられた事で、俺は揺らいでいる。

 

「……さて、どうしたものか」

 

 最後は俺の意志次第。ならば目の前にある問題から目を逸らさずに、考え続けるしかないだろう。

 俺は目を閉じて、自分の心に問いかけ続ける。

 

 じっと静止したまま考え続けて数時間。やがて日が沈み、空と海が夕焼けに赤く染まりだした頃、俺はようやく答えを出して、立ち上がり、その場を後にしたのだった。

 

 

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