蒼海のアルティリア   作:山本ゴリラ

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最終話 蒼海の女神

 日がすっかり沈み、夜になった。ギルメン共はキャンプファイアーを囲んで、大量の料理に舌鼓を打っている。

 我がギルドに所属するのは、全員が釣りや料理に長けた海洋民だ。こと海鮮料理に関しては、料理人専門のギルドをも上回る。そんな彼らが自らの手で釣った魚を調理して作った料理はどれも、文句のつけようが無い絶品ばかりだ。まあ、勿論この俺が作ったやつが一番美味いけどな……と、対抗意識を燃やしてみる。

 

 そんな豪勢な宴も、やがて終わり……そして遂に、別れの時がやって来る。

 

「では、名残惜しいが地球に帰る時だ。しかしその前に、アルティリア。お前の答えを聞いておこう。さあ、お前はどちらの世界を選び、どう生きるのか。この場で聞かせてもらおうか」

 

 その質問に、俺は迷う事なくこう答えた。

 

「ああ。俺は……この世界に残る!」

 

「そうか……。きっとそう言うだろうと思っていたが……それで良いのだな? 未練は無いのか?」

 

「あるさ。平凡で、大した事の無い人生だったかもしれないが、それでも今にして思えば、向こうにだって好きな物や、大事な物は確かにあった。例えば……異世界にまでわざわざ助けに来てくれた友達(こいつら)とかな」

 

 本人達を目の前にして口にするのは照れくさいが、あえて言葉にする。彼らと会えるのは、これが最後だからな……。

 

「けどそれ以上に、俺にはこの世界に大切なものが出来た。もちろん未練はある。あるが……だからこそ、大好きだったと気付けた。それに、二度と会えないと思っていたのがこうやって最後に会う事が出来た。だから、もうこれで十分だ」

 

 俺の言葉を聞き、マナナンは頷き……最後に一つだけ質問をする。

 

「門が閉じれば、今度こそ宮田洋介という男が存在していた全ての記憶と記録は地球上から消滅し、この場に居る者達以外がお前を思い出す事は二度とないだろう。その覚悟は出来ているな?」

 

 その言葉を聞いて……俺は思わず吹き出してしまった。

 

「なぜ笑う?」

 

「いや……な。そういえば『俺』は、そんな名前だったな……と思ったら、なんだか可笑しくてな」

 

 元の人間だった頃の名前を、呼ばれるまですっかり忘れていたくらいに、俺の中では「自分はアルティリアである」という意識が根付いていたのだろう。

 それに気付いた時に……ほんの僅かに残っていた、身体と精神の間にあった僅かなズレが無くなり、ぴったりと嵌った感覚がした。

 

「ああ。それでいい。今の『私』はアルティリアだ。それでいいんだ」

 

 笑顔でそう言い切る事が出来た。心の中にあった『(宮田洋介)』に別れを告げる事で、アルティリアとしての自分をしっかりと認識し、確立する。

 

「わかった。お前の決断に最大の敬意を。では、転移門を開こう」

 

 マナナンが立ち上がり、そう宣言すると、彼の後ろに侍っていた妖精の男女……妖精王オベロンと王妃ティターニア、そしてもう一人……スナイパーおじさんこと魔眼の神バロールが、マナナンの隣に並び立つ。

 彼らの補助を受けて、マナナンは世界を超える為の転移門を、その場に開いた。空間に開いた大きな穴の向こう側は、もやがかかっていてよく見えない。

 

「では、お別れだ。皆、来た時と同じように転移門を潜り、地球へと帰還するといい」

 

 マナナンの言葉に全員が立ち上がり、そして俺の方を向いた。そしてその中の一人、赤毛の巨人族(ジャイアント)が口を開く。

 

「おう、アルティリア。最後にハイタッチしようぜ、ハイタッチ。ゲートの前で待ち構えて、全員と順番にな。ほらお前ら一列に並べ」

 

 バルバロッサの提案で、全員とハイタッチをして別れる事になった。最初は先頭に立つバルバロッサだ。

 

「つーかお前、背が高すぎてハイタッチになんねーよ」

 

 私も身長は177cmと、女性にしてはかなり高いほうだが、それでも巨人族の中でも最大級のゴリマッチョ野郎と比べると、まるで大人と子供だ。

 

「しゃーねぇな、俺が合わせてやんよ。ほら、ハイターッチ」

 

 バルバロッサが私に合わせて手を下に下げて、俺はそれを迎えるように手を上に上げて……

 

「イェーイ!」

 

 バルバロッサの右手が、私の左乳を鷲掴みにした。

 

「ってオイィィィィィィ!! 馬鹿! これじゃあハイタッチじゃなくてパイタッチじゃねーか!!」

 

 アイドルゲームのプロデューサーか、お前は!

 

「おーっといけねぇ、手が滑った!」

 

「嘘つけぇ! 絶対わざとだろ!」

 

「ばれたか! だが勝負は俺の勝ちだ! あばよ!」

 

 何の勝負だ! と突っ込む間もなく、バルバロッサはそのまま転移門の中に飛び込んでいった。

 あいつめ……最後だっていうのに湿っぽさの欠片もなく、人をおちょくって去っていきやがった。

 まあ、それも奴らしいのだが……

 

「よし、じゃあ次は俺だな! パイタッチ!」

 

「ちょっ……こらー!」

 

 そして次から次へと、ギルメン共が揃いも揃って胸を触ってきやがった。ったくこいつらは、ここぞとばかりに……おい今両手でガチ揉みしたの誰だ!?

 

 そんな変態共が全員、私のおっぱいを弄んでから去った後に、最後に残ったのは銀髪の、甲冑姿の少年……クロノだった。

 

「アルさん」

 

「クロノ……」

 

 クロノ。ある一件からリアルでも度々会うようになった友人で、休日に一緒に遊びに行ったり、復学や大学受験の為に勉強を教えたりしていた。リアルの彼女は女性で、本名は白崎乃亜。

 友人達の中でも、彼女は私にとって、特別な存在だった。

 過去の出来事でたくさん傷ついて、それでも人に優しくあろうとする彼女の事を、宮田洋介はきっと、愛していた。

 彼女とはもう二度と会う事はなく、私は宮田洋介としての自分よりも、アルティリアとして生きる事を選んだ。だからこの想いを伝える事はしないでおこう。そう思った。

 

「さようなら、クロノ。いつでも君の幸せを祈ってるよ」

 

「アルさんも、どうかいつまでも元気で」

 

 握手を交わす。言いたい事は沢山あったけど、それだけで十分だった。

 

「やれやれ、いかんな。最後の最後で湿っぽくなってしまった」

 

 私がそう呟くと、クロノは悪戯っぽい笑みを浮かべた。

 

「じゃあ折角(クロノ)の身体になってる事ですし、俺も最後に揉ませて貰いますね」

 

 そう言って、クロノは先に帰ったメンバーと同じように私の胸を揉んできた。

 

「うわっ、でっか……分かってたけどこんなに重いんだ……」

 

「ちょっ、おまっ……! お前だって十分でかいんだから帰ってから自分の揉めばいいだろ……!」

 

「あっ、やっぱりリアルで会った時、私の事そういう目で見てたんですね。さいてーです」

 

「んなっ、てめっ、ざけんな! くそっ、こ、こっちだけ揉まれるのは不公平だろ! 揉み返してやりたいところだが、今は男でそれは出来ないので仕方ねえ! オラッ、代わりにチンポを出せ! 挟んでやるからチンポ出せっ!」

 

「お断りしますっ!! 相変わらずアルさんはテンパると勢い任せで馬鹿な事言い出すの、変わってないですね!」

 

 そのままギャーギャー騒ぎながら追いかけっこをした後に、クロノは転移門を通って地球に帰っていった。

 最後までグダグダで無駄に疲れたが……まあ、これも俺達らしいと言えるのではないだろうか。

 

 開いていた転移門が閉じる。これで、私とあちらの世界との繋がりは完全に断たれた。

 仲間達との別れを済ませ、その帰還を見届けた。

 ならば後は、私も帰るべき場所に帰る時だ。

 

「行くのか」

 

「ああ。私も家に帰るよ。待っている者達が居るからな」

 

「そうだな。では、またな。いずれ俺の方から、グランディーノに会いに行こう」

 

「その時は住民総出で歓迎してやるよ。じゃあ、またな。キング」

 

 この地に残った最後の友人に別れを告げて、俺は神殿への帰還を使おうとするが……上手く発動しない。

 

「恐らく、お前の神力が先の戦いで底を突きかけているのと、距離が遠すぎるせいで転移が出来ないのではないか?」

 

 残念! FP(Faith Point)が足りない!

 

「……なあキング、私の船は?」

 

「修理中だ。俺の船で送っていくか?」

 

「いや、いい。泳いで帰る」

 

「……かなり遠いが大丈夫か?」

 

「水泳全一なめんな。ここからグランディーノまで泳ぐくらいヨユーよ」

 

 そう言い残して、私は海へと飛び込んだ。ここからまっすぐ南に向かって泳げば、グランディーノに辿り着くだろう。

 月と星の光に照らされた真夜中の海は暗く、神秘的だ。魔神将ウェパルによって汚染されていた海は、すっかり元の姿を取り戻していた。

 

 潮の香りと波の音に包まれながら、家路を辿る。そうしている内に、次第に夜が明けてきた。

 水平線から朝日が顔を出す。朝焼けに照らし出された一面の大海原の、なんと美しい事か。

 その光景に心を奪われながら泳ぎ続けて、太陽が中天に昇った頃、私は海に浮かぶ、ある小さな孤島へと辿り着いていた。そこは、私にとっては見覚えのある場所だった。

 

 この島は、この世界に来て、初めて目を覚ました場所だ。

 始まりの場所に立ち、改めて視界一面に広がる美しい蒼海を見て、思いを馳せる。

 

 世界を、そしてこの綺麗な海を、護る事が出来て良かった。

 これからも私は、この世界で強く生きていこうと思う。

 どこまでも蒼い海と、愛する者達と共に。

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