蒼海のアルティリア   作:山本ゴリラ

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第23話 スタイリッシュ尻尾切断は上級テク。素人にはお勧めできない

 神殿の内部へと転移した俺は、すぐに外から聞こえる音から戦闘が行われている事に気が付いた。

 すぐさま道具袋から愛用の神器『海神の三叉槍』を取り出して神殿の出入口から飛び出すと、見覚えのある男達の姿が見えた。ロイドとその仲間達だ。

 ロイド達の前方には見覚えのあるデカいトカゲが居た。少し前に、俺を襲撃してきたので追い返したドラゴンだ。そいつが、ロイド達に向かって炎の吐息(ファイアブレス)を吐こうとしていた。

 それに対し、ロイド達は『水の防護壁(アクア・プロテクション)』で防御をしながら正面から突っ込んでいったが……あ、こりゃ無理だわ。このままだと出力不足でギリギリ防ぎ切れずにやられそうな感じだ。もうちょっと鍛えれば防ぎきれそうだが、まだまだ鍛え方が甘い。

 

 ま、ここは俺が助けてやるとしますか。

 俺はドラゴンとロイド達の間に割って入ると、手に持った槍を片手で高速回転させて壁を作り、炎の吐息をかき消した。

 

「アルティリア様……!」

 

「おお、あの御方が……!」

 

「ドラゴンの吐息をあっさりと……あれが神の力……」

 

 ロイドが真っ先に俺に気が付くと、他の連中――ロイドの仲間や、この場に集まっている兵士や一般人が歓声を上げる。

 

「ロイド、直接会うのは久しぶりですね。しかし再会を祝う前に、邪魔者を片付けるとしましょうか」

 

 わざわざ集まって歓迎してくれるのは有難いが、モンスターはお呼びじゃない。招かれざる客には、さっさと退場願うとしよう。

 俺は槍を構えて、ドラゴンと対峙した。

 

「ここは私に任せなさい」

 

「アルティリア様!我々も一緒に……」

 

「下がっていなさいロイド。見る事もまた戦いです」

 

 俺はLAOで慣れているが、ドラゴンは独特な動きが多くて初見だと対処が難しいんだよな。

 下手に動かれて事故られても困るので、対ドラゴン用の動きをしっかり見て学んでもらおうと思った。

 

「さあ、かかって来るがいい」

 

「GAOOOOOOOOO!!」

 

 俺の挑発に応えるように、ドラゴンが吼える。そして前足を上げると、それを左、右と連続で、俺に向かって叩きつけてくる。

 このワンツーパンチは、下手に一発目を防御(ガード)するとそのまま二発目でガードを崩される危険性があるので、防御ではなく弾き(パリィ)で一発目を受け流す。

 俺は振り降ろされる左手を槍で横から叩き、攻撃を逸らした。そのまま間髪入れずに右手の攻撃が襲い掛かってくるが、それに対してはパリィキャンセル(パリキャン)――ジャストタイミングで弾きに成功した時、弾きモーションを途中でキャンセルしてそのまま技を出せる事だ――を使い、FG(フロントガード)付きの槍技『チャージドスピア』を放つ。

 FG(フロントガード)付きというのはその名の通り、発動中に前方ガード判定が発生する技の事だ。敵の攻撃を防ぎつつ技を出せて相打ちに強いのが特徴だが、側面や背面は無防備なので、囲まれている状況などでは過信は禁物だ。

 

「遅い!」

 

 振り下ろされる右腕に対して、俺は退くのではなく逆に、前に踏み込みながら槍を突き出してカウンターを入れる。俺の槍はドラゴンの腕を貫通し、そのまま手首から先を切り落とした。

 

「GUOAAAAAA!!」

 

 ドラゴンは一瞬怯んだが、今度は後ろ足に力を篭めると、その巨体を大きく旋回させる。これは、尻尾による薙ぎ払い攻撃だ。

 広範囲かつ、それなりに高い威力の物理攻撃だが、初見ならともかく慣れている人間にとっては隙だらけの攻撃である。

 

「ほいっと」

 

 ドラゴンが横に一回転して尻尾を振り回してくるが、俺は技能『ハイジャンプ』を使用し、高く跳躍してそれを回避した。

 で、こうやってジャンプ回避すると、次にドラゴンは『サマーソルトテイル』、バク宙しつつ尻尾を強烈に叩き付ける大技を繰り出してくる。

 LAOにおいてドラゴンを相手にする時、下手にジャンプ回避をするとこの技が来るので、ドラゴンを相手にする時はジャンプをしない事が推奨されている。しかし慣れている人間にとっては、次に来る技が事前にわかる状況というのはカウンターを入れる大チャンスである。

 

「流・星・槍!」

 

 ドラゴンがサマソを放つタイミングに合わせて、俺は上空から真下に向かって高速で垂直落下しながら槍を突き下ろす技を放った。

 タイミングはドンピシャだ。振り上げられた尻尾に向かって俺の槍が突き刺さり、それを根本から切断した。

 それによってドラゴンは宙返りをした状態でバランスを崩し、そのまま頭から地面に落下した。

 

「おおっ!流石は女神様!あの飛竜の尾をいとも容易く!」

 

「なんという槍捌きだ!」

 

 俺のスタイリッシュ尻尾切断を目にしたギャラリーが喝采を上げた。この尻尾サマソに落下攻撃を合わせるカウンター尻尾切断はタイミングを測るのに慣れが必要だが、安定して出来るようになればドラゴンを狩る時に便利なテクニックだ。

 俺は尻尾を切断した勢いのまま降下し、地面に槍を突き立てて着地し、油断する事なくドラゴンに向かって槍を構える。

 ドラゴンはすぐに起き上がり、俺を睨みつけながら唸り声を上げている。その様子を見て、俺は何か違和感を感じた。

 

 このドラゴン、前回は俺に近付く事なく遠くから様子を見ながら攻撃してきて、軽く痛めつけてやったら敵わないと悟って逃げていった慎重な、悪く言えば憶病な性格のようだった。しかし今回は全くビビった様子も見せずに、ずっと攻撃的な態度を取り続けている。

 俺の事を忘れているのかとも思ったが、前回来た時は俺との戦力差を察知して慎重に立ち回る程度の知能はあった筈だし、それも考えにくい。

 行動パターンが正反対だし、何より目の前のこいつの目からは理性や知性といったものが一切感じ取れない。

 妙だと思いながら、俺はドラゴンを観察して『敵情報解析(アナライズ)』の技能を使い、その情報を読み取ってみる。

 するとドラゴンのレベルや各種ステータス値、使用する技などの情報が読み取れた。それらの情報は、通常のドラゴンの枠を超える物ではなかったが……一点だけ、おかしな所があった。それは……

 

 『状態異常:狂化(バーサーク)

 

 狂化は精神系状態異常の一種だ。破壊衝動に脳が支配され、攻撃力が大きく上昇するが、代償に回避率や防御力が著しく低下する。攻撃力上昇のメリットこそあるが、防御面はガタガタになるので基本的にはデメリットのほうがデカい。

 ただしLAOには狂戦士(バーサーカー)のような、この状態異常を自分にかけて、そのメリットを最大限に活かす立ち回りをする攻撃特化型の職業も存在するが。

 メイン斧サブ狂戦士みたいな一撃特化とか、メイン銃サブ狂戦士の火力とクリティカル率盛り盛りのロマン砲といった、火力に脳を焼かれたアホ共がサブクラスによく使っていたりする。

 

 話を戻そう。このドラゴンは何者かによって狂化状態を付与されている。目的は……俺を相手にした時に、また逃げ出さないように首輪を付けたという事なのだろう。胸糞の悪い話だ。

 

「はぁ……『状態異常治療(リフレッシュ)』」

 

 俺は状態異常を治療する魔法を唱えて、ドラゴンの狂化を解除してやった。

 すると、殺意でギラついていたドラゴンの瞳が、こころなしか穏やかな物になっていき……そのドラゴンと、俺の目が合った。

 

「GYAAAAAAAA!!」

 

 その瞬間、ドラゴンが悲鳴を上げて物凄い勢いで後ずさった。

 

「……おいィ?」

 

 本来は臆病な性格のドラゴンなのではないかと予想はしていたが、幾らなんでもビビり過ぎではないだろうか。

 正気に戻ったようで大変結構だが、そこまで怯えられると多少は傷付くんだが。

 

「あー……そこのドラゴン。まだ戦うつもりはあるか?」

 

 俺がそう問いかけると、ドラゴンは首を千切れるくらいの勢いで大きく横に振りながら、弱々しい鳴き声を上げた。

 どうやら完全に降伏したようで、その憐れみを誘う姿を見た俺は『上位治癒(グレーター・ヒール)』の魔法でドラゴンの傷を治療してやった。さっき切断した尻尾も、元通りに生えてきている。

 

「立ち去りなさい。二度と人を襲わないように」

 

 俺はそう言って、ドラゴンにここから去るように促した。

 だが、ドラゴンは立ち去る気配を見せずに、俺に向かってゆっくりと歩み寄ってきて……俺の目の前まで来ると、俺に向かって平伏するように頭を下げた。

 

 何だこいつ、いったい何がしたいんだ。

 俺がそう思った瞬間、目の前に例のシステムメッセージのような物が表示された。

 

『ドラゴンが貴方の下僕(しもべ)になりました』

 

「……うん?」

 

 どういう事だ?俺はテイマーもドラゴンライダーも取ってないので、それ系のモンスターを仲間にする技能は持っていない筈なのだが。

 

「おおっ、女神様がドラゴンを手なずけたぞ!」

 

「あの凶暴なドラゴンが、あんなに従順に!」

 

「神の威光の前には、凶悪な飛竜さえ頭を垂れる……なんという……」

 

「アルティリア様万歳!」

 

「万歳!」

 

 混乱する俺をよそに、周りの連中は大喝采のお祭り騒ぎだ。

 さて……この状況、どう収拾をつけたものかと思った、その時だった。

 

 パチパチパチ……と、拍手の音が鳴り響く。

 それはこの喧騒の中にあっても、俺の耳にはっきりとした存在感をもって届いた。

 その拍手の音は、上の方から鳴っていた。俺はその音の出所……上空へと目を向ける。すると、そこには空中に浮かんでいる、一人の男の姿があった。

 

「いやはや、貴女様が来れば狂化した飛竜でも、あっさりと蹴散らされるとは思っていましたが……まさか従えてしまうとは。人知を超えた力ゆえか、それとも女神の威によるものか。はたまた敵対者にも慈悲をかける、その大いなる慈愛の成せる業か。いずれにしても、ワタクシの予想を超えた光景を見せてくださった事に感動を禁じえませんな。実にスバラシイッッ!!」

 

 その奇抜な恰好と胡散臭い声、芝居がかった口調に無駄に大袈裟なモーションは、見覚えのあるものだった。

 その男の名は……

 

「……地獄の道化師(ヘルズ・クラウン)か」

 

「Yes I amッ!どうか拍手でお出迎え下さい。ワタクシ地獄の道化師、海の底より華麗に復ッ活ッ!」

 

 そう言って、地獄の道化師は大仰な礼をするのだった。


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